直近およそ3年間の大学発・研究開発型スタートアップの上場実績を調べたところ、上場に辿り着くまでに、他領域のスタートアップの2倍近い資金を必要としていたことが分かった。
大学発・研究開発型スタートアップは資金調達環境が冷え込むなかでも成長しているが、研究開発投資を続けながら事業も伸ばすという高いハードルが存在する。研究開発投資に対する捉え方の違いからアメリカ・ナスダック市場を選ぶケースも生まれていて、課題も残されている。
独自データ分析とスタートアップ・投資家への取材を通じて大学発・研究開発型スタートアップに現状に迫った最新レポート。以下のリンクからダウンロード頂けます。
STARTUP DBは2020年から2023年9月末までに上場した大学発・研究開発型スタートアップ10社を対象に、上場までにかかった資金調達額などを調べた。
10社が上場するまでに調達した資金の平均は29億2,400万円。同期間のSaaS(ソフトウェア・アズ・ア・サービス)スタートアップの平均は16億2,000万円で、倍近い資金を必要としていたことになる。
この金額には、新株を発行するエクイティファイナンス(用語解説)だけでなく、借入などのデットファイナンス(用語解説)や公的機関からの助成金なども含まれている。
最高額は、音や光などを「波動」と捉え社会実装に取り組む筑波大学発のピクシーダストテクノロジーズで、77億8,000万円。最も少なかったのはAI関連のオンライン教育などを手がける東京大学発スタートアップ・アイデミーの11億3,000万円だった。
大学発・研究開発型スタートアップは研究開発投資を続けながら事業成長を目指すケースが多く、必要とする外部資金も増えていく。スタートアップがステージに応じたトラクション(実績)を出し、投資家が資金需要に応えていくことが求められる。また、上場実績の積み重ねや、いわゆる「上場ゴール」と揶揄されない継続的な成長も必要とされる。
上場後の研究開発投資の捉え方から、アメリカ・ナスダック市場を選ぶ事例も生まれている。
ピクシーダストテクノロジーズは2023年、国内のディープテック・スタートアップとしては初めてナスダックに上場。同社の落合陽一・代表取締役CEOは記者会見で、アメリカを選んだ理由について、上場後も研究開発投資を続ける方針を維持したかったと説明。「アメリカ市場の慣例としては、資金調達をして会社が回っていれば研究開発をやめる選択肢はない」と利点について言及していた。
STARTUP DBでは、市況が冷え込むなかにおいても成長を続ける「大学発・研究開発型スタートアップ」に徹底的にフォーカスした分析レポートを配信しました。
大学発・研究開発型スタートアップの資金調達環境はもちろん、「公的資本の獲得」や「直近の資金調達ランキング」などを通じて注目企業をピックアップ。データ分析・最新の政策動向のみならず、スタートアップ経営者、投資家らのインタビューで語られた、現場ならではの視点も網羅しています。
この先、国内エコシステムの主役になると期待される「大学発・研究開発型スタートアップ」。現状を知り、未来を考え、ビジネスに活かすためにぜひご覧ください。
※大学発・研究開発型スタートアップの定義:
経済産業省「大学発ベンチャーデータベース」のうち、「研究成果ベンチャー」(大学で達成された研究成果に基づく特許や新たな技術・ビジネス手法を事業化する目的で新規に設立されたベンチャー)と「共同研究ベンチャー」(創業者の持つ技術やノウハウを事業化するために、設立5年以内に大学と共同研究等を行ったベンチャー。設立時点では大学と特段の関係がなかったものも含む)のいずれかに当てはまる896社を抽出。そのうち、スタートアップ企業としてSTARTUP DBに収録されている865社を「大学発研究開発スタートアップ」と定義した。データは2023年10月17日時点。