「ゼロから分かる スタートアップ用語解説」は、これからスタートアップについて詳しく知りたい人たちを対象に、基礎的な内容を分かりやすくお伝えします。今回はスタートアップの間でも活用が広がってきた「デットファイナンス」について解説していきます。
この記事で分かること:
・デットファイナンスとは メリットとデメリット
・スタートアップの活用広がる 2022年は活用倍増か
「デット」は英語の「debt」、つまり負債や借金のことです。その名の通り、返済義務のあるお金を借り入れる調達手法をデットファイナンスと呼びます。銀行からの借入や融資、それに社債発行などがあります。
複数のスキームがありますが、共通しているのは利子などを上乗せして返済する必要があるということです。これに対し、株式を発行して資金を得る「エクイティファイナンス」(用語解説)は原則的に返済義務は生じません。
同じ資金調達ならば、返す必要がないエクイティファイナンスの方が良いように見えます。しかしそれぞれにメリットとデメリットがあります。
デットファイナンスのメリットは、株式の希薄化を伴わないことです。エクイティファイナンスでは、発行株式数が増加するため、創業者や既存株主らが持つ株式の価値が薄まります。企業にとっては、新たな株主が増えたり、既存の株主がより多くの株式を持ったりすることになります。場合によっては、自由な経営判断ができなくなるおそれもあります。
一方でデットファイナンスでは、金融機関などとの間に生じる関係は「貸し手・借り手」に止まります。借りたお金を利率など所定の条件に従って返済すれば良く、お金を返せば経営に口出しをされる心配もありません。
また、債権者(貸し手)に支払う利払分が法人税の対象にならないことから、結果として税引後の企業価値が高くなることがあります。これを「負債の節税効果」と言います。
営業活動で全く同じ利益を確保した企業が2社あったとします。このうち1社はデットファイナンスを実施していて、もう1社はしていません。前者は利払いをしなければなりませんから、その分利益額が減ります。負債のない後者はそのままです。
両者には法人税がかかります。しかし、法人税は利払い分には課税されないため、利払いをして利益が減った企業は課税額が少なくなります。企業に対する資金提供者、つまり債権者と株主にとっての利益(利払い+税引後利益)を比べた時に、法人税の課税が少なかった前者の方が多くなることがあるのです(参考:みずほ証券・一橋大学大学院)。
一方で、デットファイナンスにはデメリットもあります。まずは当然、返済義務が生じることです。期限までに返済ができない場合債務不履行となったり、会社としての信頼に大きな傷がついたりしかねません。
また、デットファイナンスは平たく言えば借金ですから、「他人資本」として貸借対照表の負債の部に組み入れられます。これに対しエクイティファイナンスは「自己資本」ですから、財務体質の強化につながります。
スタートアップの間ではデットファイナンスの活用が広がっています。
2022年の1年間にスタートアップが調達した資金は約1兆1,386億4,800万円。これを「エクイティ」と「その他」に分けてみます。すると、エクイティによる調達は3,288件で約8,847億5,800万円。これは前の年と比べて大きな違いはありません(子会社への大型出資を除いた場合)。
対照的なのが「その他」の数字です。21年が約1,137億6,400万円だったのに対し、22年は約2,538億9,000万円。このうち大半がデットファイナンスによるものとみられています。
背景には、エクイティによる資金調達環境が冷え込んできたことにあるとされています。アメリカなどの中央銀行の相次ぐ利上げにより、国内のスタートアップも、これまでのように資金を調達するのが難しくなってきたと言われています。
環境が変わったとはいえ、スタートアップは成長に向けた投資資金などを確保しなければなりません。そこで、株式を希薄化させずに調達できるデットファイナンスに注目が集まっているのです。数十億円、あるいは100億円を超える大型の調達を実施する場合に、エクイティとデットを組み合わせるパターンも目立ってきました。
金融機関側の姿勢の変化もあります。例えば、三菱UFJ銀行・三井住友銀行・みずほ銀行のメガバンク3行がスタートアップ向け融資の体制を強化しています。また、株式の希薄化を一定程度伴う「新株予約権付融資」や「転換社債」などを手がける「ベンチャーデット」というスキームも広がっています。「ベンチャーデット」の具体的な活用事例を知りたい方は、こちらの取材記事をご覧ください。
記事にもあった「エクイティファイナンス」と「その他」の調達金額の変化など、2022年の国内の投資動向を網羅したレポートです。資金調達金額の上位スタートアップや積極的な投資活動を展開した投資家リストなども収録。