「ゼロから分かる スタートアップ用語解説」は、これからスタートアップについて詳しく知りたい人たちを対象に、基礎的な内容を分かりやすくお伝えします。
今回は「TAM」「SAM」「SOM」について、上場スタートアップの実際の事例を交えながら解説します。自社サービスの市場規模を可視化することに役立つほか、投資家ら外部ステークホルダーに事業の伸び代を示したい時にも欠かせない概念です。
この記事で分かること:
・TAM・SAM・SOM それぞれの意味と違いは
・市場規模をどう設定?上場スタートアップの事例に学ぶ
(※記事内の数字はいずれも資料公開当時のもの)
TAM(たむ)は「Total Addressable Market」の略です。理論上の最大の市場規模を指します。企業が提供する商品やサービスの総需要とも言えます。
TAMの分かりやすい事例の一つに、2021年に上場したサスメドがあります。同社は複数の治療用アプリを開発するスタートアップですが、その中に「不眠症」を対象としたものがあります(参考:同社開示資料)。
TAMは「理論上の最大の市場規模」ですから、不眠症治療アプリの場合は「日本中の不眠症患者の数」と言えます。同社は上場後に開示した資料で「治療を受けている患者」の推計として590万人、金額換算で1,000億円をTAMとして提示しています。
ちなみに同じ資料によると「日中の過度な眠気に悩んでいる人」、つまり潜在的な市場規模はもっと大きく、1,860万人・3,500億円だということです。
一方で、TAMはあくまで「理論上」の市場規模です。実際の企業活動では市場全体にアプローチできるとは限りません。競合企業の存在や自社プロダクト・サービスの提供価値・形態などの制約により、想定できる市場規模はより限られてくるはずです。そこで登場するのがSAM(さむ)=「Serviceable Available Market」です。これは自社のターゲットになり得る層の需要の総数を表しています。
サスメドはSAMを割り出すために、「既存の睡眠薬治療からの切り替えニーズ」と「不眠症の自覚症状はあるが、睡眠薬治療には抵抗がある未治療患者」をそれぞれ試算し、両者を足し合わせています。その結果、同社のSAMは400億円超とされています。
SOM(そむ)は「Serviceable Obtainable Market」です。自社が実際にアプローチ・獲得可能な市場規模を示しています。起業やプロダクトの市場投入段階では、いかに売上をSOMに近づけていくかが重要なポイントになります。
TAM・SAM・SOMの概念について説明しました。理解を深めるため、もう一つ具体例を見ていきます。
今回は、メディアプラットフォームとして知名度の高いnoteが2022年12月、東証グロース市場に上場する際に公表した「事業計画及び成長可能性に関する事項」を参照します。
「事業計画及び成長可能性に関する事項」とは、主にグロース市場に上場する企業が、自社の成長可能性や事業リスクなどについて開示する資料です。TAM・SAM・SOMは自社が取り組む領域の市場規模を示す概念ですから、事業の伸び代を説明するため頻繁に用いられるのです。
では、noteの例を見ていきます。
noteは「デジタルコンテンツ市場全体」をTAMとしていて、8兆5,000億円としています。これは総務省情報通信政策研究の調査に基づいていて、コンテンツ市場全体(11兆8,000億円)のうち、デジタルコンテンツ全体を抜き出した数字を採用しています。
SAMは4兆8,000億円。noteはオンラインプラットフォームですから、オンラインコンテンツをさらに抜粋した市場規模をSAMとして示しています。ただこれは映像や音声などを含めた市場で、当時のnoteとしてはまだ浸透しきれていなかったと思われます。
そこで、資料公開当時にアプローチしている市場=SOMとしてオンラインテキストコンテンツ市場を挙げていて、こちらは1兆5,000億円規模となっています。
同じ資料でnoteが示した2021年度のGMV(流通総額)は84億円。SOMにおいても大きな伸び代を残していることが窺えます。それだけではなく、noteは「2016〜2020年の年間平均成長率でSAMは9.8%、TAMは2.8%成長しており、今後もコンテンツのオンライン化・デジタル化が浸透していくことに伴い、市場はさらに拡大していく」という想定を示しています。市場そのものが大きくなっていくため、noteの事業にとっても追い風になることが示唆されています。
このようにTAM・SAM・SOMは、市場規模の全体感から自社の現実的な成長目標を把握するために使われます。投資家向けには、成長の余地が大きく残されていることをアピールし、資金を呼び込むためにも有用と言えるでしょう。