分かりやすい用語解説

スタートアップとベンチャーの違いは?具体的な事例を交えて解説【ゼロから分かる用語解説】

2023-05-16
高橋史弥 / STARTUP DBアナリスト・編集者
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高橋史弥 / STARTUP DBアナリスト・編集者

「ゼロから分かる スタートアップ用語解説」では、これからスタートアップについて詳しく知りたい人たちを対象に、基礎的な内容を分かりやすくお伝えします。今回は、そもそも「スタートアップ企業とは何か」について、ベンチャー企業との違いにも触れながら解説していきます。

この記事で分かること
・スタートアップとは
・具体的にはどんな企業がある?ベンチャー企業との違いは?
・重要なイベントは「イグジット」

スタートアップとは 具体的にはどんな企業がある?

STARTUP DBでは、スタートアップを「上場、未上場を問わず新しい技術やビジネスモデルを通じてイノベーションを起こそうとしている企業」と定義しています。

startupという英単語は元々、「開始、起動、創業したばかり」などという意味です。このことから「創業して間もない企業」とされることもありますが、STARTUP DBでは年数を定義に含めていません。

スタートアップといえば「小規模な組織」というイメージもあるかもしれません。しかし、証券取引所の審査基準を満たし上場を果たした企業も含まれます。例えば東証プライム市場の上場企業で、数百人の従業員が働くメルカリエムスリーも、STARTUP DBではスタートアップとしています。

ポイントは「イノベーション(革新)」を起こそうとしているかどうかです。まだ誰も開発、もしくは社会実装したことのない技術を事業化しようとする企業が当てはまります。

例えば、山形県鶴岡市に拠点を置くSpiberは植物由来の糖類を原材料とした「ブリュード・プロテイン」というタンパク質素材を開発しています。この素材はアパレル領域での応用が始まっていて、化石燃料などの「枯渇資源」を消費せずに済む選択肢として注目されています。

革新的な技術がなければスタートアップとは呼べない、ということではありません。これまで実践されてこなかったビジネスモデルに挑戦するのもスタートアップの特徴です。

印刷会社の保有する印刷機械が稼働していない「空き時間」に、ネットを介して顧客の注文を受け付けられるようにしたラクスルなどがこれにあたります。2022年と23年には、モーションキャプチャーを使ってアニメ調のキャラクターに扮する「VTuber」のプロダクションを運営を手がけるANYCOLORカバーの2社が上場を果たしました。こちらも、これまでにはなかったビジネスモデルと言えるかもしれません。

記事執筆時点で、STARTUP DBには18,000社のスタートアップが登録されています。新たな企業の設立などに伴い、今後も増加していきます。

ベンチャー企業との違いは

よくある疑問が「スタートアップとベンチャーの違いは?」というものです。この2つは明確に区別されないこともありました。

例えば、2014年の経済産業省「ベンチャー有識者会議」では、ベンチャーについて「産業における新成長分野を切り拓く存在であり、雇用とイノベーションを社会にもたらす、経済活力のエンジン」と紹介しています。同じ資料ではアメリカを代表するスタートアップであるGoogleやAmazon、それにFacebook(現・Meta Platforms)も「ベンチャー」と表現しています。今でいうスタートアップが、当時はベンチャーの括りだったことが窺えます。

直近でも、2023年4月に民間企業として世界初の月面着陸に挑んだispaceの例があります。ispaceは、月着陸船や月面探査車を開発している企業です。月面まで顧客の荷物を運んだり、月面で取得したデータを販売したりして利益を得る方針を示しています。革新的なビジネスモデルを実現しようとしていることから、STARTUP DBでは「スタートアップ」に分類しています。一方で、テレビや新聞など一部の報道機関は「宇宙ベンチャー」と表現しています。報じる側にとっても判断の分かれるところです。

では、両者の違いはどこにあるのでしょうか。

STARTUP DBの定義に沿って「新しい技術やビジネスモデルを通じてイノベーションを起こす」企業がスタートアップであるならば、ベンチャーはここに当てはまらない事例と言えます。例えば、すでにある程度市場が存在し、ビジネスとしても成立することが分かっている領域に対して、比較的小規模な組織で効率化・差別化を図っていく企業はベンチャーに区分されます。

スタートアップとベンチャーの違いは成長モデルやスピードにもあります。

スタートアップは創業間もない時期から上場を見据えた段階まで、各フェーズごとに、投資家や金融機関など外部から資金を調達して成長していくのが一般的です。創業後は技術実証や商品開発などに時間や金を費やしますが、自分たちの商品やサービスが市場に受け入れられることが分かった状態(「PMF」と言います)に至ると、広告宣伝や人材採用などに多額の費用をかけ、急速な成長を目指していきます。

この時、外部から調達した多額の資金を投資するため、損益計算書のうえでは大幅な赤字になることもあります。この投資が効果的に行われると、売り上げや顧客数などが大きく伸長していきます。一度は赤字になりますが、数年後には大きな利益を上げるのです。赤字から黒字へ変わっていく様をグラフにするとアルファベットの「J」に見えることから、この成長モデルを「Jカーブ」と呼びます。スタートアップの特徴的な成長パターンの一つと言えます。

これに対し、一般的にベンチャーは比較的早期の黒字化や安定した利益の確保を目指す傾向が強いと言われています。

重要なイベントは「イグジット」

スタートアップにとって重要なイベントは「イグジット」です。IPO(新規株式公開)やM&A(合併・買収)などが代表的です。

スタートアップが外部から資金調達する場合、多いのは新たに株式を発行して投資家に買い取ってもらう手法です。「エクイティ・ファイナンス」と呼ばれています。投資家は、スタートアップが上場するときなど、株式の価値が上がったタイミングで売却します。こうして得る利益が「キャピタル・ゲイン」です。

投資家だけでなく、株主である創業者、それにストックオプション(新株予約権。あらかじめ決められた値段で株式を購入できる権利)を持つ従業員にとっても、イグジットは利益を得られる機会になります。

一方で、上場後に株式市場が期待する成長を実現できなかった企業は「上場ゴール」と揶揄(やゆ)されることもあります。上場はスタートアップにとって一つの節目ではありますが、継続的な成長ストーリーを描けるかどうかが市場からも注目されています。

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