分かりやすい用語解説

SBIR(中小企業技術革新制度)とは?イノベーション創出のために抜本強化。具体的なスタートアップ支援策を解説【ゼロから分かる用語解説】

2023-12-06
高橋史弥 / STARTUP DBアナリスト・編集者
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高橋史弥 / STARTUP DBアナリスト・編集者

「ゼロから分かる スタートアップ用語解説」は、これからスタートアップについて詳しく知りたい人たちを対象に、基礎的な内容を分かりやすくお伝えします。

今回は、SBIR(Small Business Innovation Research)について解説します。国のスタートアップ育成5か年にも盛り込まれ、すでに宇宙分野などで大型の補助金が交付されています。

この記事で分かること:
・SBIRが今の姿になるまで。中小企業支援からイノベーションへ
・支援策を解説。「特定新技術補助金等」と「指定補助金等」とは
・採択企業の公表も。「フェーズ3」大型支援

SBIRとは 国の方針受け抜本強化

SBIRはSmall Business Innovation Researchの略で、日本語では「中小企業技術革新制度」と訳されます。アメリカでは産業力強化のきっかけになったとされ、日本では1999年、アメリカに倣って導入されました。ニュースや新聞で「日本版SBIR」と呼称されるのはそのためです。

SBIRは当初、中小企業庁が所管し、補助金を交付するなどして文字通り中小企業の技術革新を促進してきました。内閣府のサイトによると、年間の支出規模は400億円程度でした。

しかし運用のなかで、支援分野やフェーズなどの偏りや、中小企業支援に重きを置くあまりイノベーション(革新)に繋がっていないなどの課題が指摘されるようになります。

制度改革が実行されたのは2021年です。まず、SBIRそのものの根拠規定を「中小企業等経営強化法」から「科学技術・イノベーション創出の活性化に関する法律」に移管しました。司令塔も内閣府に移ります。これにより、「イノベーション」を目的としたスタートアップ支援の色彩が濃くなりました。

2022年6月にはSBIRを通じた補助金支出の目標などに関する方針が閣議決定され、同年11月に発表されたスタートアップ育成5か年計画にも「抜本見直し」が盛り込まれました。

2つの補助金 それぞれどんなもの?

では、現在のSBIRはどのような制度となっているのでしょうか。▽補助金や委託費の支出と▽事業化支援の2点に分けて解説します。

補助金などの支出から見ていきましょう。

まずは「特定新技術補助金等」です。これは内閣府や各省庁の研究開発への補助金などのうち、スタートアップなどを交付対象に含むものを指します。交付対象となるのは「特定研究開発型スタートアップ等」で、▽研究開発成果の事業化を目指す▽研究開発が革新的であると認められるなどの要件を満たす必要があります。

「特定新技術補助金等」には支出目標が定められています。例えば2022年度は546億2,000万円で、国の資料によればおよそ94%にあたる515億1,000万円が実際に支出される見込みです。

2023年度は目標額が大きく引き上げられていて、内閣府・各省庁合わせて1,066億2,000万円となっています。このうち目標額が最も大きいのは経済産業省で675億円です。

補助金にはもう一つ、「指定補助金等」があります。2021年度の法改正に伴って新しく生まれました。これは上記の「特定新技術補助金等」にも含まれていて、「政策ニーズに基づき国が研究開発課題を設定して交付」(内閣府資料)するものと説明されています。

この補助金では、研究開発の初期段階にあるスタートアップなどに対し分散的な支援を実施します。内閣府のガイドラインはその理由について「不確実性が高まる現代においては、イノベーションの起点となる技術をシードの段階で見極めることが困難」と指摘。分散・少額の支援を実施し、そのなかで芽が出たものを育成する重要性を強調しています。

「指定補助金等」の交付にあたっては、まず各省庁が政策課題に基づいたテーマを設定し、スタートアップを公募します。応募のあったスタートアップを審査し、採択された企業を支援します。

支援は3段階に分かれます。このうちフェーズ「1」は大学の研究室などを想定し、技術や研究開発に基づくアイディアの検証を支援します。「2」は法人化した企業が対象で、実用化開発段階を補助金などで後押しします。

「3」は新たに追加された支援区分で、大規模技術開発や実証、それに事業化などの実現を目指します。ここまで来ると支援メニューも多様で、資金面の支援のほか、民間企業とのマッチングや政府調達に向けたトライアル発注などが想定されています。

事業化支援 政府調達への参加機会も

SBIRには事業化支援も含まれます。

例えば、日本政策金融公庫から特別利率で融資を受けられます。上記の「特定新技術補助金等」「指定補助金等」の研究成果を活用する事業は、運転資金などが貸付対象です。

そのほか、政府調達へ参加する機会も広がります。通常、国などの事業に入札する場合は参加資格のランクや過去の納入実績などがハードルとなりますが、特例措置として入札参加が認められる場合があります。

フェーズ「3」 採択事例も

新たなSBIRによる支援はすでに始まっています。先ほどあげたフェーズ「3」でも採択企業が相次いで公表されています。

例えば文部科学省は宇宙分野で「民間ロケットの開発・実証」と「スペースデブリ低減に必要な技術開発・実証」というテーマを設定しました。このテーマでは2023年9月、採択されたスタートアップが公表されました。以下の4社です。

インターステラテクノロジズ...小型人工衛星を宇宙へ運ぶロケットの開発
SPACE WALKER…小型衛星商業打上げ事業
将来宇宙輸送システム...小型衛星打上げのための再使用型宇宙輸送システムの開発・実証
スペースワン...増強型ロケットの開発、打上げ実証及び事業化

4社に対し、最大で合計63億2,000万円が交付されます。

そのほかの省庁でも複数テーマの採択企業が発表されています。例えば、国土交通省では「港業務の生産性向上に関する技術開発・実証」「都市デジタルツインの技術開発・実証」などをテーマとして設定し、採択事例が生まれています。

研究開発型スタートアップをめぐっては、事業化の難しさや研究開発投資の負担が課題となっています。各省庁などの掲げるテーマに合致し、採択された場合、補助金や政府調達への参加などは大きな助けとなるはずです。

参考資料

・内閣府 SBIR -技術開発を支援するサイト-
・内閣府 新SBIR制度について(令和5年3月) 
・内閣府 令和4年度特定新技術補助金等の支出の目標等に関する方針について 
・内閣府 指定補助金等の運用に係る業務ガイドラインについて 
・文部科学省 中小企業イノベーション創出推進事業(SBIRフェーズ3)宇宙分野の公募選定結果について

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