分かりやすい用語解説

エクイティファイナンスとは?メリットとデメリットを解説。年間の調達額はどれくらい?【ゼロから分かる用語解説】

2023-05-23
高橋史弥 / STARTUP DBアナリスト・編集者
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高橋史弥 / STARTUP DBアナリスト・編集者

「ゼロから分かる スタートアップ用語解説」は、これからスタートアップについて詳しく知りたい人たちを対象に、基礎的な内容を分かりやすくお伝えします。今回は、スタートアップの資金調達として一般的な「エクイティファイナンス」について、メリットやデメリットについて解説していきます。

この記事で分かること:
・エクイティファイナンスとは
・メリットとデメリットは
・1年間でどれくらい活用されているのか

エクイティファイナンスとは

スタートアップ企業などが、新しく株式を発行することにより資金を調達することを「エクイティ・ファイナンス」と言います。エクイティとは「株主資本」のことです。

エクイティファイナンスにはいくつか種類があります。

第三者割当増資・・・VC(ベンチャーキャピタル)やエンジェル投資家(創業間もない企業に出資する個人投資家)など特定の第三者を対象に株式を発行し、対価として資金を調達すること。
株主割当増資・・・既存の株主に対して、持株数に応じて新株を引き受ける権利を割り当てること。
転換社債型新株予約権付社債・・・株式に転換できる権利のついた社債。出資者は、株価が上がれば株式に変えることでリターンを狙うことができる。株式に転換せず、社債として利払いと償還を受けることも可能。
公募増資・・・上場している企業が、不特定多数の投資家を対象に株式を発行すること。

スタートアップにとって最も一般的な調達手法は「第三者割当増資」と言えます。VCや事業会社などを対象に新株を発行し、成長資金や運転資金に充てるのです。エクイティと異なる調達手段として、金融機関からの借入などがあります。こちらは「デットファイナンス」と呼びます。

メリットとデメリットは

最大のメリットは、原則として返済義務が無いことにあります。通常、銀行などからお金を借りた場合、利子をつけて返さなければいけません。しかしエクイティファイナンスは新株を発行した対価として資金を調達しているため、事業が計画通り成長しなかったとしてもお金を返す必要はありません。

このように、エクイティファイナンスで得た資金は「借金」ではないため、企業のバランスシート(貸借対照表)では「資産の部」として扱われます。財務体質を強化できることもメリットの一つと言えるでしょう。

スタートアップへの投資を専門とする組織に「VC(ベンチャーキャピタル)」があります。VCからエクイティで調達した場合、その後の成長に向けて手厚いサポートを受けられることもあります。例えば販路開拓や人材獲得、それに経営戦略のアドバイスや上場に向けた支援などです。これらを「ハンズオン支援」と呼びます。VCにとってみれば、出資先が成長し、上場などの「イグジット」にたどり着けば大きなリターンを得るチャンスになります。自分たちの利益を大きくするという意味でも、ハンズオン支援は重要なのです。

また、事業会社を引受先とした第三者割当増資で調達すると同時に、業務面でも提携する「資本業務提携」を締結するケースも多くあります。

エクイティファイナンスによる調達で必要になるのが、バリュエーション(企業価値評価)の算定です。上場企業の時価総額は株式市場によって決められますが、未上場企業は複数の指標を参考に、投資家との交渉などを経て決められます。スタートアップにとっては、一株当たりの価格が高ければ高いほど、必要な金額を集めるために発行する株式が少なくて済みます。

借金と違い、返済義務のない資金調達であるエクイティファイナンス。一方で、デメリットも存在する点には注意が必要です。新たに株式を発行し投資家に引受先になってもらう以上、当然、創業者や既存株主が持つ株式の価値は薄まります。

そのため、既存株主がいる状態でさらにエクイティファイナンスを実施しようとする場合、経営陣は調整などに労力をかけざるを得ないケースが起こり得ます。また、外部の出資者に多くの株式を握られてしまうと、自由な経営ができるだけの裁量が失われる可能性もあります。

2022年には8,847億円ものエクイティ調達が実施

国内ではエクイティファイナンスによる調達は増加傾向にあります。

STARTUP DBの調査では、2018年は7390億5,000万円だったのに対し、2022年には8,847億5,000万円と1.2倍程度になっています。

VCはもちろん、事業会社など、スタートアップを投資対象とするプレイヤーに厚みが増してきたことが背景にあります。また、岸田政権はスタートアップ育成を重点政策に位置付けていて、2022年11月にはスタートアップ育成5か年計画を発表しました。この計画に盛り込まれた施策はすでに国の予算や税制に段階的に反映されていて、スタートアップにとって追い風と言えるでしょう。

一方で、懸念すべき材料もあります。アメリカを中心とする世界の中央銀行が、物の値段が上がる「インフレ」対策として利上げを実施したことです。市場にお金が出回りにくくなり、スタートアップへの投資は減退しています。その影響は日本にも及び、資金調達環境は厳しくなってきているとされています。

スタートアップ育成5か年計画は、スタートアップへの投資額を2027年度に10兆円規模に引き上げることを目標として掲げています。目標達成には、5年で10倍程度の成長が必要となります。こうしたマクロ経済の影響がどの程度顕在化するか、引き続き注視していく必要があります。

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