分かりやすい用語解説

優先株式とは?M&Aなど株式売却益の分配に影響。「シリーズA」などに紐づく場合も【ゼロから分かる用語解説】

2023-10-19
高橋史弥 / STARTUP DBアナリスト・編集者
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高橋史弥 / STARTUP DBアナリスト・編集者

「ゼロから分かる スタートアップ用語解説」は、これからスタートアップについて詳しく知りたい人たちを対象に、基礎的な内容を分かりやすくお伝えします。

今回は「優先株式」について解説します。スタートアップがM&Aされた場合、株式を売却して得た利益が発生しますが、その分配に大きく関わってきます。

また、スタートアップ関連のニュースで頻繁に見かける「シリーズAで〜」といった言葉にも密接に関わってくる内容でもあります。

この記事で分かること:

・優先株式とは一体何か

・M&Aを例に考える 優先株式の使いどころ

・「シリーズA」「シリーズB」にも優先株式

優先株式とは 株主の権利を優先させた種類株式

私たちが通常耳にする株式とは、だいたい「普通株式」のことを指します。普通株式には、配当を受ける権利や株主総会の議決権が含まれています。

一株あたりの価値や権利は同じです。これに対し、会社法108条は以下の内容について株主の権利を優先、または劣後させることができると定めています。

1.優先配当(劣後も可) / 剰余金の配当において、配当額や配当順序を差別化できる。
2. 優先残余財産分配(劣後も可) / 残余財産の分配において、分配額や分配順序を差別化できる。
3. 議決権の制限 / 株主総会で議決権を行使することができる事項を制限できる。
4. 譲渡制限 / 株式を譲渡する際、会社の承認を要件とすることができる。
5. 取得請求権 / 株主が会社に対して種類株式の取得(転換)を請求することができる。
6. 取得条項 / 一定の事由の発生を条件に、会社が株主から種類株式を取得することができる。
7. 全部取得条項 / 会社が株主総会の決議により当該種類株式全てを取得することができる。
8. 拒否権 / 株主総会や取締役会で決議すべき事項について、種類株主総会の決議を要件とすることができる。
9. 役員選任権 / 種類株主総会で取締役・監査役を選任できる。
引用:経済産業省
https://www.chusho.meti.go.jp/kinyu/shikinguri/equityfinance/download/003.pdf

普通株式が持つ権利をカスタマイズしたものを種類株式と呼びます。

種類株式のうち、普通株主よりも優先して権利を行使できる内容を定めたものを「優先株式」と呼ぶのです。

M&Aを例に考える 優先株式の使いどころ

株式を発行して資金調達をする「エクイティファイナンス」(用語解説)を重ねていくスタートアップにとっても、株式を引き受けることで出資する投資家にとっても、優先株式は有用なものと言えます。

特に重要なのは、上に示した9つのうちの2番目「優先残余財産分配」です。

資本金100万円で創業者が設立し、のちに評価額10億円(投資実行後)で投資家から1億円の資金調達を実施したスタートアップがあったとします。この時、株式の保有割合は創業者が90%、投資家が10%ということになります。

この会社、事業はある程度成長したものの、強力な競合他社が出現し、徐々にシェアが奪われていきます。そんな折、ある事業会社から「あなたの会社の株式100%を5億円で買い取りたい」というM&Aオファーがありました。

この時、創業者が90%、投資家が10%の比率となっている株式が、いずれも普通株式だったら分け前はどうなるでしょうか。

創業者は5億円の90%=4億5,000万円を得られます。元は100万円で設立した会社です。「頑張りが報われたなあ」と感慨に浸ってもおかしくはありません。

かたや、投資家は5億円の10%=5,000万円です。1億円を投資し、経営者と伴走してきたのに戻ってきたのは半分、ということになってしまいます。

優先株式はこうしたケースに対応することができます。投資家の持つ10%の株式に「優先分配」の権利を設定するのです。

優先分配には複数のやり方があります。

例えば「出資した1億円分は優先的に分配を受けられる」というものです。

すると、M&Aの5億円の分け前は次のように変わります。

5億円-1億円(投資家へ優先分配)=4億円

出資した金額と同額(1倍)の優先分配を受けましたが、これを例えば2倍(1億円×2倍=2億円)に設定しておくことも可能です。

「1倍・参加型」のように優先分配後の分け方も変わる

さて、優先分配(1倍)を設定したことで、投資家が1億円を回収できたと仮定しましょう。

5億円から1億円が投資家に分配され、残ったのは4億円です。これをどうするか。2つの考え方があります。

1つは「出資時の1億円を回収できたから十分」というもの。4億円は創業者に分配されます。

もう1つは「1億円の優先分配を受けた後、持株比率に応じた分配を実施する」です。この場合、投資家が得られる分配は次のようになります。

1億円(優先分配)+4,000万円(残った4億円の10%)=1億4,000万円

1億円の投資に対してリターンが発生した状態になります。創業者は残りの3億6,000万円を得られます。

このように、優先分配のみを得るスキームを「非参加型」と呼びます。優先分配を受け、なおかつ持分比率に応じた分配に参加するケースは「参加型」です。

優先分配で得られる金額の割合と、持分比率に応じた分配に参加するか否か。優先株式は、この2つを並べて呼称することがあります。

例えば「出資と同額の優先分配を受ける」+「持分比率に応じた分配にも参加」ならば「1倍・参加型」と呼びます。

「出資した2倍の優先分配を受ける」けれども「持分比率に応じた分配は参加しない」ならば「2倍・非参加型」ですね。

弁護士法人ZeLoによると、国内スタートアップの間では「1倍・参加型」が標準とされているようです。これに対し自らが「1倍・非参加型」で調達したスマートラウンドは、アメリカではスタートアップがより多くの恩恵を受けられる非参加型が「常識」だとし、国内の状況を「ガラパゴス的」と指摘しています。

シリーズ○○にも関連 通常は上場前に普通株式へ

これまでみたように、優先株式はM&A時の投資家の利益保護として大きな効力を発揮します。もちろん「残余財産分配」ですから会社清算時も同様の計算ができますが、スタートアップの場合は債権者に対して支払いを終えた後、目ぼしい財産が残っていないケースも想定できます。

一方で、経営者にとってもメリットがあります。優先株式は普通株式とは異なる権利が付与されていますから、価値も高くなるはずです。株式の価値が上がれば、発行株式をより少なくして資金調達ができます。発行株式が少なければ、それだけ持分比率の低下を抑えられます(参考:ダイリューション)。

また、優先株式は複数種類発行することができます。「A種優先株式」「B種優先株式」などとそれぞれ呼称が分けられます。スタートアップ関連のニュースで「シリーズAで○○億円資金調達」「シリーズCラウンドで〜」といった文言をよく見かけないでしょうか。

このシリーズ「A」や「B」といったアルファベットは、優先株式の種類と紐づいていることが多いのです。

こうした優先株式はそれぞれ権利の優先(または制限)事項が定められているため、複雑さを伴います。そのため、通常、上場のタイミングで普通株式に転換されます。

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