国内スタートアップの資金調達環境が冷え込むなか、大学の研究成果などの事業化に挑むスタートアップに限っては調達金額が増加傾向にあることが、STARTUP DBの調査で分かった。
大学発・研究開発型スタートアップをめぐっては、言語や国境を問わずに事業展開しやすいことや、独自性が高く模倣されにくいといった特徴がある。成長後の大きなリターンを求めて投資が集中している可能性もありそうだ。
独自データ分析とスタートアップ・投資家への取材を通じて大学発・研究開発型スタートアップに現状に迫った最新レポート。以下のリンクからダウンロード頂けます。
国内スタートアップの資金調達環境は世界的な利上げの影響などを受け冷え込んでいる。STARTUP DBの調査によると、23年上半期の資金調達金額は4,485億7,000万円と、調達が活況だった21年上半期と比べて35%程度のマイナスとなっている。調達実施社数も1,884社と2割減だ。
これに対し、STARTUP DBが独自に定義した「大学発・研究開発型スタートアップ」865社に絞ってみると、資金調達額は緩やかな上昇カーブを描いている。
2019年・20年は年間で400億円程度だったが、2021年下半期を境に上昇し始め、2023年は上半期だけで400億円を突破した。
大学発・研究開発型スタートアップは脱炭素領域や革新的な医療技術の実現などに取り組む。言語や国境を問わずサービスを展開できるポテンシャルがあるため見据える市場規模が大きく、なおかつ独自の技術や研究成果を起点としているため模倣されにくいとされる。
国内では資金調達環境の冷え込みを受け、投資先の厳選が進んでいるとの指摘もある。また、2023年はIPO市場も活況とは言い難く、大きな事業スケールを期待できる大学発・研究開発型スタートアップに投資家の注目が集まっている可能性がある。
投資家からは「地方の研究開発型スタートアップに資金を振り向ける動きが起きている」といった声も聞かれた。
では、どのようなスタートアップに投資マネーが集まっているのか。
STARTUP DBでは、創業から2023年9月末までの累計資金調達金額が大きいスタートアップをランキング形式で整理した。
全体として脱炭素関連分野(6社)と医療・創薬分野(12社)に大別される。
1位は核融合炉の周辺装置やプラントエンジニアリングを手がける京都フュージョニアリングで123億2,600万円だ。同社は23年5月に105億円の資金調達を発表している。政府系ファンドのJIC・ベンチャー・グロース・インベストメンツをリード投資家とし、独立系VC、金融系VC、CVC、事業会社と多様な顔ぶれが参加している。
2位は次世代有機EL材料の開発に取り組む九州大学発スタートアップ・Kyulux。累計調達額は120億7,500万円だった。2023年3月にJST(国立研究開発法人科学技術振興機構)の「A-STEP 実装支援 (返済型)」に採択されたと発表したほか、9月には香港を本拠地とする投資運用グループの運営する「九州発ジャパン・エボリューション・ファンド」から2億円を調達している。
3位は京都大学と東京大学で開発された技術の臨床応用を目指し設立されたメガカリオン。 血小板製剤の大量生産を目標に掲げている。2020年2月のシリーズD(28億円)が公表ベースでは最後の調達となっている。
STARTUP DBでは、市況が冷え込むなかにおいても成長を続ける「大学発・研究開発型スタートアップ」に徹底的にフォーカスした分析レポートを配信しました。
大学発・研究開発型スタートアップの資金調達環境はもちろん、「公的資本の獲得」や「直近の資金調達ランキング」などを通じて注目企業をピックアップ。データ分析・最新の政策動向のみならず、スタートアップ経営者、投資家らのインタビューで語られた、現場ならではの視点も網羅しています。
この先、国内エコシステムの主役になると期待される「大学発・研究開発型スタートアップ」。現状を知り、未来を考え、ビジネスに活かすためにぜひご覧ください。
※大学発・研究開発型スタートアップの定義:
経済産業省「大学発ベンチャーデータベース」のうち、「研究成果ベンチャー」(大学で達成された研究成果に基づく特許や新たな技術・ビジネス手法を事業化する目的で新規に設立されたベンチャー)と「共同研究ベンチャー」(創業者の持つ技術やノウハウを事業化するために、設立5年以内に大学と共同研究等を行ったベンチャー。設立時点では大学と特段の関係がなかったものも含む)のいずれかに当てはまる896社を抽出。そのうち、スタートアップ企業としてSTARTUP DBに収録されている865社を「大学発研究開発スタートアップ」と定義した。データは2023年10月17日時点。