ワイヤレス給電によって配線のない“デジタル”世界の実現を目指すエイターリンク株式会社。立ち上げたのは岩佐凌・CEOだ。岩佐氏は「テクノロジーを活かして新たな事業を展開し、社会の富を増やせるような取り組みを行いたいと考えていた」と語る。
同社の事業戦略について、詳しく聞いた。
岩佐凌氏プロフィール
学習院大学を卒業後、岡谷鋼機株式会社へ入社。トヨタ自動車、アイシン精機、アイシンAWなど向けに自動運転や電気自動車向けのプロジェクトに従事。年間売上約120億円を達成。2020年8月にエイターリンク株式会社を田邉と設立。ICCサミットKYOTO 2022「REALTECH CATAPULT」優勝、GRIC PITCH2冠受賞。
「CTOの田邉がスタンフォード大学工学部にて研究員としてマイクロ波技術を応用したバイオメディカル研究プロジェクトに参画しており、その中で体内に埋め込んだデバイス(例えばペースメーカー)に体外から送電する研究・開発を行っていました。2017年にスタンフォードで田邉と出会い、この技術を他の何かに活用できるのではと考え共に起業に至りました。過去にもビジネス化したいと50人以上が声をかけてきたそうですが、実際のところ事業化には至らなかったそうです。
ワイヤレス給電技術を用いた事業化になぜ成功できたかといえば、過去の商社での勤務経験があったことが大きいと感じてます。事業化の1つに工場内でのワイヤレス給電の活用がありますが、これは『工場の中で機械がよく断線する』という明確な課題を知らなければ提案できません。前職で携わった技術シーズを量産まで持っていく経験が、現在の事業において大いに役立っています。」
エイターリンクはアカデミアで活用されていた技術を実用化した長距離ワイヤレス給電技術「AirPlug™」を発表している。特筆すべき点は給電だけに止まらず、データの送受信を可能とするところにあるという。
「AirPlug™はあらゆる空間情報を無制限にリアル空間をデジタル化する無線給電ソリューションの総称です。ワイヤレス給電というコンセプトには、送電機からの電波を利用して電気エネルギーに変換するだけでなく、その電気を使用してセンサーやカメラを動かしデータを送り返すことも含まれています。
よくある『ドリルと穴』の例でいうと、お客様は穴が欲しいのであってドリルが欲しいのではありません。ワイヤレス給電はドリルであって穴ではないので、穴となりえる必要なソリューションをいくつかのプロダクトに落とし込んで提供しています。」
エイターリンクのワイヤレス給電を実証実験としてビルの空調システムに導入したところ、年間で約26%もの節電に繋がったという。
「従来の空調システムでは設定温度に基づいて温度を制御していました。しかし、センサーが空調機の中にしかなく温度情報が実際とは異なることが問題とされていました。例えば、オフィスの天井に設置されたセンサーでは、座席近くの温度と差が発生しており、効率的でなかったのです。
新しいアプローチとしてワイヤレス給電で席付近にセンサーを配置し、実際の温度に合わせた空調制御を行うようにしました。従来のような幅の大きい温度変動がなくなり、一定の快適な環境を維持することが可能になりました。」
「現在はキャッシュを稼いで行くことを第一に、国内外での事業展開を進めています。最初からグローバル市場を視野に入れ、国内市場だけに焦点を当てるようなスタートアップにはしたくないと考えていました。グローバルで成功できない事業は手がけず、そのようなプロダクトを開発することもありません。
FA(ファクトリー・オートメーション)事業においては、2024年からは米国、カナダ、中国、韓国への輸出が始まり、その後も欧州、中南米、アジアへの拡大を予定しています。主にセンサーメーカーに我々の製品を販売し、そのチャネルを使って世界中の工場に届けていく想定です。
BM(ビルマネジメント)事業は2024年から米国でのPoCを開始し、2025年から売上を立て、27年には200億円程の規模に持っていきたいと考えています。ディベロッパーやゼネコンなどが多くの物件を所有しているので、そこを中心に直接販売するモデルを採用する方針です。国内外での市場拡大と売上向上を狙っています。」
様々な分野で需要が見込まれるワイヤレス給電だが、事業展開においてネックとなる部分はないのだろうか。
「新しい概念であり、規制などもまだ存在しないため、我々は標準化活動にも取り組んでいます。例えば国内では、総務省と協力し、ワイヤレス給電デバイスに関する法律や規制を整備しました。標準化活動は、国内だけでなくグローバルにも展開しています。
ドバイで開催されたWRC-23(世界無線通信会議)では、ワイヤレス給電に関するルールの改正を提案しました。世界200ヶ国・3500人ほどが参加している中で、ワイヤレス給電のルールを作りたいという人は我々以外に誰1人もいませんでした。50ヶ国ほどの政府とその場で直接会話し、ワイヤレス給電のメリットを伝え、粘り強く交渉した結果、国際標準規格を制定するための議論が進められることが決まりました。
必要なルールがなければルールから作ってしまう。賛同者がいなくても賛同者を作ってしまう。目指している世界の実現向けて会社全体で進んでいく動きは、エイターリンクならではのカルチャーだと感じてます。」
「我々は、この世界を本当に変えていかなければならないという使命感を持っています。グローバルで活躍している企業は極めて挑戦的であり、ただなだらかに進むだけではダメで、勝ち抜くことが世の中を変える唯一の手段なんです。約15年前、設立当初のUberも、米国内で受け入れられた事業とはいえず、タクシー業界から訴訟があるほどでした。しかし、今ではグローバルで理解を得ることに成功しています。」
ワイヤレス給電が当たり前になった世界ではどのような変化があるのか。スマホをただ持ち歩いているだけで充電されるような仕組みになるのか。
「スマホにワイヤレス給電をすることは技術的にもレギュレーション的にも難しい側面があります。そこに注力するのではなく、次なるデバイスのエネルギーソースとして新しい市場を切り拓くべきだと考えています。すでに試作も行っておりますが、我々が2035年から着手を予定しているプロジェクトの1つが、スマートコンタクトレンズです。
スマートコンタクトレンズ上で、視神経、もしくは網膜上に直接映像を投影できれば、スマホの代替となるデバイスになると思いますし、屋内・屋外でも利用できるようにするには、そのエネルギー供給が必要です。給電の規模を担保するために宇宙からのワイヤレス給電も視野に入れています。」
技術面、ビジネス面ともに多角的な動きを見せるエイターリンクには、様々な経歴と実績を持つメンバーが60名ほどいるという。今後、事業展開にあわせさらに採用を拡大していくにあたって「新しい未来を共に作っていきたい」と岩佐氏は語った。
「採用計画として、2024年7月までにプラスで約50人の新規採用を目標としており、そのうち約22人がビジネスチーム、約25人が技術チーム、残り約3人がコーポレートという分布を想定しています。技術を駆使して世界を変えていくことにワクワク感を持っている方々を迎え入れ、共に事業を拡大していくことを期待してます。
制度が整った環境を第一優先にする方は現在のエイターリンクのステージとは合わないかもしれません。それよりも、エンジニア・ビジネス・コーポレートすべてで共に新しい未来を作り上げることに楽しみや挑戦したい想いを抱いてくれる方と一緒に働きたいですね。」