スタートアップの増加とともに、彼らを支える投資支援側もまた多様なプレイヤーが増えている。スタートアップからすると、「売り手市場」とさえ言われるほどだ。そうしたVC戦国時代において、各社それぞれに秀でた個性や、スタートアップに必要な技術をシームレスに支援するなど、その支え方はますます多角化している。
2019年8月30日に開催された「Microsoft Innovation Lab 2019」のセッションでは、昨今立ち上がった新興ファンド4社の代表が集い、それぞれの投資スタンスや目指す方向性などについて語った。
東「まず、皆さんがそれぞれにどのようなスタートアップ支援をされているか伺わせてください」
西條「私自身、起業経験があることからも、メインターゲットにしているのは、5~10年の業務経験を積んだミドル起業家と呼ばれる方々や、起業経験のあるシリアルアントレプレナーで、支援スタンスは起業家に任せています。日本では学生や20代前半の若い起業家が多いですが、起業先進国はミドル起業家が多いのです。ミドル世代は本来、社会経験を積んでいるので起業して成功する確率も高いのですが、日本の場合どういうわけか35歳を超えるとほとんど起業する方はいらっしゃいません。自分としては起業した方が絶対いいと思いますし、だからこそその層に対して厚めに応援したい気持ちが強いです」
澤山「うちも以前調べた時には、投資先の7~8割が30歳前後の方々でした。西條さんと一緒で、我々も基本的には起業家に事業を任せるスタンスです。ハンズイフというスタンスで、『なにかあったらがっつりサポートするよ』というサポート体制です。一番事業のことをわかっているのは、24時間365日事業と向き合う起業家だと思いますので。具体的なサポート体制は投資先のファウンダーと私と、もう一人のパートナーとのSNSグループをつくり、そこでフランクなやりとりから『最近採用を加速したい』、『そろそろシード準備始めなきゃ』、『PR打つんだけどサポートしてほしい』といった事業に関する要望までひろくコミュニケーションできる仕組みをつくり、必要なことがあれば手を差し伸べています。うちは社内に採用支援やPRの専任チームがあるので、シームレスな支援を可能にしています」
堤「私は典型的なハンズオンのタイプです。もともと自分がやりたい、課題を解決したいと思うことがまずあって、それを解決するパートナーと一緒に事業をしていくスタイルです。原則的にはリード投資しかしかないので、かなりフルコミット状態でやっていまして、中でも一番大事なところは戦略の設定だと考えていることから、それに伴うファイナンスまわりの支援や採用支援などもサポートします。今のご時世ですと、採用が非常に難しくなっていますので、採用の専任スタッフがぐるぐると我々の投資先を回って採用代行のような動きをすることもあります」
東「フェーズごとに異なる支援のあり方を意識されますか?」
澤山「我々がいつも投資先に口を酸っぱくして言うのはとにかくクイックであること。意思決定ひとつとってもそうですし、なにかのトライアンドエラーにしてもクイックに結果が出るやり方やアイディアを考えるようにと、特に初期フェーズでは強く言っています。シリアルアントレプレナーであれば違うかもしれませんが、初めて起業する人は自分が全速力で走っているつもりでも、他の人と比べると断然遅いということがありますのでちゃんと客観視するためのバロメーターを示します。あともう一つは、シードから脱皮するタイミングで投資家とどう戦略的にコミュニケーションをするべきかを一緒に考えるようにしていますね。それまでは熱意で乗り越えられていたかもしれませんが、シード以降はそうはいきませんから。」
東「では、支援する上で特に大切にされているポイントについてもお伺いできますか」
西條「自分が起業した時に、もし知っていれば回避できた失敗や時間を節約できたことが相当あったので、そうしたことを事前に伝えるようにしています。人事が必要なのは規模あたり何人くらいになったらなのか、インセンティブの設計はどうするのか、顕在化しない不満はこういうことがありそうだとか、といったことですね」
東「澤山さん、堤さんもすごくうなずいていらっしゃいますけどそのあたりは共通ですかね」
澤山「そうですね、うちの場合は、もうひとりのパートナーに起業経験があるので、その経験からアドバイスすることもありますけれど、それ以上にうちが大事にしているのはコミュニティづくりですね。結構ウェットなこともしていて、4半期に1回ファウンダーの家族ぐるみでカジュアルなBBQパーティーやハロウィンパーティーなどを行っています。どうしても起業家の悩みは投資家に話しづらいこともあるので、起業家同士が横で助け合える場を設定できればという思いから実施にいたりました。オンライン上のコミュニティも設けています」
堤「おふたりの話していることに加えて、大切にすることでもあり、目指す姿というのは、常にファーストコールを受け取る人でありたいというところですね。起業家にとって追い込まれる状況は日々いろいろとありますが、その内容に関わらずまず最初にコールしてくれる、一番信頼してくれる存在でありたいと思っていて。そのために、なにがあっても即レスを意識しています」
東「起業家と信頼関係を作ることは一見当たり前のことのようですが、実際には一筋縄ではいかないと思います。みなさんが信頼関係を築く上で大事にされていることはなんですか」
堤「僕はシンプルで、ひたすらギブ&ギブすることですね。ひたすら自分がだせるネットワークや知識を提供して「この人はうちの会社のために動いてくれる人だ」と思ってもらえるようにしています。あと、危機対応ですね。なにかトラブルがあった時に、いかに有効な解決策を適切に提示するか。それが一番信頼関係を築く上で大事なことだと考えています」
澤山「うちは必ず最初の時点でオンボーディングミーティングを実施して、ファウンダーとサポートチーム全員で期待値のすり合わせをしています。信頼関係が崩れるのは、お互いの期待値がずれることに原因があると考えますので、お互いの期待値が分かれば、あとはそれに向かってやれることはひたすらやってくっていう感じです。起業家もスタイルは様々なので、そこで『こうあってほしい』という希望はお互い最初に握るようにしています」
東「昨今、VCはその支援の形やそれぞれの特色を差別化する傾向にありますが、今後VCの形は変わるのでしょうか?みなさんの描く未来像をお伺いさせてください」
堤「ある種の社会課題を解決する企業として変貌していくだろうと思います。今、僕自身もたまたまVCという事業体で活動しているだけであって、今後は必要に応じてVC以外の事業も作っていくことになるでしょう」
澤山「そうですね。うちもVCというものにはこだわっていないですね。我々もなんでもやれることはやっていくスタンスです。我々にとってベンチャーキャピタル事業、投資事業はコア事業であり、マネタイズポイントだと思っているので、その部分を手放すことはありませんが、それ以外の部分でどんどん広げていこうとしています。それこそ今も自社で運営している、起業家やスタートアップに転職したい方に対するメディアコンテンツは今後も続けるつもりです。業界を見渡しても、専門領域や支援スタイルに特化するなど、多様性がどんどん生まれていますので、日本のVCも変革のタイミングに入ってきたんじゃないかなと思っています」
西條「VCが行なう資金調達は、必ずしも資金で支援する形に限定されません。実際に、クラウドファンディングを使って、将来自分たちが提供するサービスや商品をもとに資本を集めて開発することもできますし、いずれ、各々が贔屓にする会社へ直接投資できる安全な仕組みができれば、我々はさらに危機感をもって付加価値を出していかなくてはなりません。もはやVC間の差別化ではなく、より大局的に「ベンチャー支援」というものに視野を向けていかなくてはならないと思います」
・新興VCが注目するのは、ミドル起業家やシリアルアントレプレナーなど社会人や起業経験がある層
・「客観視」させ、「気づかせる」ことがVCの役割のひとつ
・スタートアップとVCとの信頼関係は、「与える」ことのみならず、ファウンダーのコミュニティ形成や期待値の設定などによって実利的なコミュニケーションを可能にする関係を構築することで醸成される
・VCのあり方は今後、「事業支援」を軸に新たな展開を迎える
執筆:小泉悠莉亜 編集:BrightLogg,inc. 撮影:戸谷信博