チャットGPTのように、ユーザーと「会話」する生成AIを作成できる。「miibo」は一言で表せばそんなプラットフォームだ。
miiboでは、OpenAI社が提供する最先端LLM(大規模言語モデル/解説記事)「GPT-4」など複数のモデルを用途によって使い分け、特定の専門知識を持つチャットボットや芸能人を模したキャラクターなどを作成できる。
生成AIに興味はあるが具体的に活用できていない「ビギナー」から、AIプロダクトを開発する「デベロッパー」まで応用でき、ユーザーは20,000人を超えている。
miiboは10年以上にわたり「会話型AI」の研究を続けてきた功刀(くぬぎ)雅士・代表取締役CEOが立ち上げた。このほど、民間VC(ベンチャーキャピタル)や個人投資家からあわせて6,000万円を調達した。
功刀氏を中心に、神奈川県横須賀市のAIアドバイザーも務める深津貴之氏、グロース投資ファンドの創業パートナーである村島健介氏、そしてmiiboに投資するディー・エヌ・エックス・ベンチャーズの倉林陽・日本代表が対談を実施。OpenAIを筆頭に世界のメガITが開発競争を繰り広げるなか、「日本勢・生成AIスタートアップ」の勝ち筋について語り合った。
功刀雅士・miibo代表取締役CEO:
miiboのプロダクトを開発を続けるなかで、最初に出会ったのは深津さんでした。当時miiboまだ未完成でしたが、どんな点に可能性を感じてくださったのでしょうか。
深津貴之氏:
言語モデルのとある実験的なプロジェクトで、プロンプト(指示入力)のプロとして呼ばれたのが私、実装のプロとして呼ばれたのが功刀さんでしたね。
そこでmiiboを見て、言語モデルとルールベース(編注:人間が定めたルールに基づいて応答するAI)を組み合わせることが可能な点が面白いと感じました。功刀さんと話し合った初期の構想では、miiboを単なる言語モデルの応用ではなく、独自のミドルウェアとしての機能を持たせることを共有しました(「ミドルウェア」の概念については下部画像を参照)。
実際に私は、投資支援やメンタリングなど様々な用途のチャットボットを10個以上作成し、miiboの汎用性と可能性を実感しました。
功刀:
その後、深津さんから村島さんをご紹介いただきました。生成AIの急速な進化や日本のAIスタートアップの立ち位置に課題を感じていたのが今も印象的です。
村島健介氏:
海外ではOpenAIやStability AIなど、オープンソースを含む生成AI言語モデルが次々に登場し、GoogleやFacebook(Meta Platforms)、Amazonなどがその動きに追従していきました。新しい技術を持つスタートアップが大規模な投資を受けていく。まるでバブルのような状況です。
これらが日本にどんどん入ってくるのを目の当たりにして、「このままだと日本はやばい」と思いましたね。資本力では勝ち目がない今、日本がどのように生成AI市場に参入していくのかは私にとって大きなテーマでした。
深津さんからmiiboの話を聞いて、インフラや言語モデルはすでにグローバルスタンダードが出来つつあるなかで、ミドルウェア的なポジションを取る「ハブ(中心)」や「ジョイントピース(接続)」的な立ち位置を打ち出す戦略だと知りました。これはひとつの答えかもしれないとピンと来ました。
功刀:
村島さんはmiiboの調達を個人投資家としてリードしてくださいました。そこまでの期待をかけてくださったのはなぜでしょう?
村島:
GPTをはじめ生成AIの企業向け利用の新しい形が日本で生まれる。その黎明期に立ち会えるのならば凄いことだと思いました。
功刀さんが大学時代から一貫して会話型AIを研究し、個人でプロダクトとして具現化してきたことにも惹かれましたね。これまで手弁当で開発してきたmiiboが人々に使われるようになり、GPTを起爆剤に生成AIが注目され始めた流れを受け、自ら退路を絶って起業した。そんな肝の据わった「会話型AIの進化系を作れる稀有な創業者」であることに期待を寄せました。
功刀:
倉林さんは、VCの観点からmiiboをどのように見ていましたか?
倉林陽・ディー・エヌ・エックス・ベンチャーズ日本代表:
私たちは今まで日本のAI系スタートアップには投資をしてきませんでした。
インフラになるのはアメリカの企業で、日本のスタートアップはその実装を主な事業としてしまいがちなので、VCとしては投資しづらかったのです。社内では「あるとすれば活用目線だろうな」という話をしていました。
また、BtoB(対企業)の生成AIには正確性と安定性が求められるので、そこも慎重に見ていたと思います。功刀さんは生成AIありきではなく、課題から入っているところがいい。確実な需要がある市場に対して、課題解決の手段として入っていけること、BtoBで使いやすいようプロダクトがワークフロー的に整備されていることなど、すぐBtoBでも使えるだろうという安心感を得られたのが投資の決め手となりました。
私たちはFounder Market Fit(創業者と市場の一致)も重視しています。『チャット×DX』一筋でやってきた功刀さんの誠実さにも惹かれました。
深津:
私が企業や自治体のプロジェクトをサポートし、有識者会議に参加して感じたのは、多くが同じ技術を無駄に再開発していることです。
これに対し、ミドルウェアを利用することで開発コストを大幅に削減できれば、その分をより具体的なデータベース作成やシナリオ設計など価値ある作業に振り分けることができます。
miiboが提供する会話型AIサービスを見て「チャットなんて頑張ればすぐ作れるよ」と思われる事業者さんもいるかもしれません。ですが、今後は画像や音声、ビデオとつながったり、PDFがアップロードできたりと、GPTでできることが一層増えていきます。
中長期的に考えればミドルウェアプレイヤーが出ないといけないわけです。ここを引き受ける存在としてmiiboに期待しています。
功刀:
改めてミドルウェアという発想こそ強みなのだと、自身の中でも腑に落ちました。
深津:
私は、GAFAMや競合他社がビジネスモデルの構造上入れない角度から攻めるサービスが好きなんです。
まさにLLMはそういう性質を持っていて、様々なプロダクトと結合しないとサービスにならないため、GAFAMなどは構造上、対応しづらい特徴を持ちます。例えばGoogleはOpenAIと繋げられないとか、MicrosoftのAzureはOpenAIと組んだからLlama(Meta Platformsの生成AI)は導入できないとか。
そういった複数プロダクトのインターブリッジとしてのポジションをmiiboが取れると素敵だなと思います。
功刀:
miiboは競合優位性として「LLMフラット」を掲げています。OpenAIのGPTだけでなくGoogleのPaLM 2など、用途に応じてLLMを使い分けることができるという概念です。中立的な立場で、顧客にとってベストな組み合わせを提供できればいいと思っています。
深津:
LLMは現在、チャットとして使われていますが、2~3年後にはチャット以外のインターフェースを持つようになるでしょう。そのとき重要なのは、どれだけ多くのサービスと接続できるかです。
miiboはチャットソリューションというよりも、GAFAMと異なる仕様のものをブリッジする基盤になっていくはずです。
村島:
全ての企業システムのなかにmiiboがピースとして入っていって、様々な部署や業務に浸透し使われるような世界観ですよね。
私はそこに至るまでに10年かかると思っていましたが、もしかすると5年もすればそういった時代がやってくるかもしれません。GAFAをはじめとした世界のメガITとも共存するツールとなるポテンシャルがあることがmiiboの面白さですし、そこを狙いに行く必要があるのだと思います。
功刀:
テック視点でもmiiboの技術的優位性については自信を持っています。皆さんはどのようにお考えですか。
深津:
研究を10年間積み重ねてきた泥臭さがないとmiiboが掲げる「Connect Everything」はできないのですが、10年分の泥臭さを前にすると、今さらそこを自分ではやりたくなくなる。人は泥臭いところは入りたくないものなのです。
規模や業種は異なりますが、noteやヤプリがいい例です。作る気を奪うくらいの積み重ねを経て、第三者によって勝手に広がるレベルまでいく。miiboはそのポジションを築きつつあると思いますし、ユーザーにもその価値が伝わるのではないかと思います。
倉林:
そもそもエンジニアのリソースが不足している昨今の人材市場では、実装する人材を集めること自体大変ですよね。私たちの投資先の場合、CTO自らがフルスタック(領域横断)で開発してリソースを取られているケースも見受けます。そこもmiiboを使う理由になるのではないでしょうか。
深津:
そうですね。LLMの専門家に加えてプロンプトエンジニア、データベースのプロ、クラウドの負荷を減らすプロがいて、さらに彼らをブリッジして提案できる人がいて初めて、miiboのような会話型AIを実現できると思うんです。真似しようと思うと、まずチーム編成が大変だと思います。
生成AI領域についてはグローバルな視点から見ていますが、miiboのポジションを狙って浮上してきた企業は他にはまだいない。大きな失敗をしてもいいから、世界にチャレンジしてみる。そういう大きな飛躍を期待しています。
(文・宿木屋 / 編集・上野なつみ(ディー・エヌ・エックス・ベンチャーズ)・高橋史弥 / 写真・平岩亨)