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落合陽一さん率いるピクシーダストテクノロジーズ、ナスダック上場の理由を明かす。「挑戦者に対する懐が深い」

2023-10-19
高橋史弥 / STARTUP DBアナリスト・編集者
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高橋史弥 / STARTUP DBアナリスト・編集者

光や音など「波動」を制御する技術を活かした製品開発などに取り組む筑波大学発スタートアップのピクシーダストテクノロジーズが10月19日、都内で記者会見を開き、落合陽一・代表取締役CEOらが8月に実施したアメリカ・ナスダック市場への上場について狙いを明かした。

落合陽一CEO(左)と村上泰一郎COO(右)

ピクシーダストテクノロジーズは2017年設立の筑波大学発スタートアップ。筑波大学や東北大学、それに事業会社などとの研究開発の成果を製品として社会実装している。

光や音などを「波動」と捉え制御する「波動制御技術」に強みを持ち、超音波による振動で頭皮を刺激する家庭用スカルプケアデバイス「SonoRepro」や、ガラスに貼り付ける吸音材「iwasemi」などをこれまでに発売している。

ピクシーダストは8月1日(現地時間)にアメリカ・ナスダック市場に上場。同社によると、日本のディープテックスタートアップとしては初の事例だったという。

19日に東京千代田区の同社で開かれた記者会見には、メディアアーティストとしても知られる落合陽一・代表取締役CEOと村上泰一郎・代表取締役COOが出席し、ナスダック上場の狙いなどについて明かした。

落合CEOはまず、上場先として東証ではなくナスダックを選んだ理由について、「我々のように(研究開発に)大きく投資をしたい挑戦者であるスタートアップに対する懐が深い市場という認識がある」と説明。そのうえで、「言語依存性のあるプロダクトは作っておらず、物理現象は世界共通。グローバルを最初から見据えた成長を描くためにアメリカの市場に上場することは重要だ」と指摘した。

村上COOも「例えばiwasemiのように、透明でガラスに貼れる吸音パネルを作っている企業は世界でも極めてユニークだ。ナスダック上場をテコにして世界にビジネスを拡大させる」と展望を示した。

開発中の遮音材の性能を説明する村上COO

また、上場後の株価の推移について落合CEOは「堅調な動きをしていて、好意的に受け取られているのではないか」と言及。村上COOは「より多くの方(投資家)に知って頂けるよう頑張っていきたい」と応じた。

「研究開発を止める選択肢」が岐路

上場先としなかった東証に課題があるかを報道陣から問われると落合CEOは、自社の上場検討当時の状況だと前置きした上で、東証を選んだ場合、上場後に黒字転換する必要があったとした。

そして「研究開発企業である我々が上場翌期に投資を止めるのかという議論があった」と明かしたうえで、「アメリカ市場の慣例としては、資金調達をして会社が回っていれば研究開発をやめる選択肢はない」と指摘した。

ピクシーダストは2023年4月期決算を開示していない。これについて質問が上がると、同社の担当者は「アメリカの監査法人の内部で承認が降りていない。決算の内容自体に問題があるわけではない」と説明した。また24年4月期の業績予想については開示を控えるとした。

落合陽一・代表取締役CEOに研究シーズの社会実装や国内のエコシステムの課題などについて聞いた記事を後日掲載します。

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