Retty、Five、WealthNavi、Kakehashi、KaizenPlatformなどへの出資実績で知られるGREE Venturesの堤達生氏が、3本めとなる150億円規模の新ファンド組成を2019年5月14日に発表、新ブランド「STRIVE」として活動を開始した。STRIVEは日本のVCファンド規模の大型化や機関投資家からの出資が始まった2019年の日本のスタートアップエコシステムの変節点を象徴するようなファンドの1つだ。いったんは20代でVC修行をするものの、自ら事業に取り組みたいと30代はサイバー・エージェントやリクルートで事業立ち上げを中心に活動。そんな堤氏は37歳の2011年にGREEにジョインして0号ファンドとしてCVC、GREE Venturesを立ち上げる。その後、1号、2号、3号と組成してきたファンドは、事業シナジーを求めるCVCというよりも、リターン最大化を求めるVCに近いという。外部投資家からの資金調達の拡大によって、3号ファンドでは、ますますその傾向を強めている。長年、日本のスタートアップやネット業界を、事業家とVCという2つの立ち場から見てきた堤氏に、現在変節点にある日本のスタートアップエコシステムの現状や、CVCの存在意義、自身のキャリア観についてお話いただいた。
(聞き手・編集:ITジャーナリスト 西村賢)
西村:まずは、150億円の新ファンドの組成とリブランディング、おめでとうございます。3号ファンドということでいいのですよね?堤:はい、GREE Venturesとして数えると3つ目の3号です。今回ファンド名・ブランド名になった「STRIVE」(ストライブ)は戦うとか、勝つとか、それぐらい強いインパクトの言葉です。ブランド名は変わりますが、ファンド自体は、もともとAT-I、AT-IIという名称で組成してきましたし、そういう連続性はあるのですけどね。
西村:2018年末、2019年に入ってからグローバル・ブレインとグロービス・キャピタル・パートナーズが、それぞれ400億円近いファンド組成を発表していましたが、大きなVCファンドが目立ちますね。堤:そうですね。僕らも1号が約60億円、2号が約70億円で、いきなり150億円にまで上がります。これまで投資してきて、この規模ぐらいであればコンスタントにパフォーマンスが出せるかなという自信があるということですけどね。西村:ほんの少し前までの議論として、ファンド資金は集まり易いものの、それだけ投資をしてリターンを出せるほどには起業家やスタートアップの数がないということがありました。リターンを出すことを考えると30〜50億円が良いとも。
堤:いまの日本のVCファンドの大型化は、アメリカのVCの歴史を完全になぞらえているなと思っています。アメリカでは、大型化するか、専門特化の小さめのファンドに分かれていったんですけど、10年くらい遅れて日本もそうなってきました。
西村:10年遅れと言っても、そもそものスタートが全然違いますよね。半導体やPCという一大産業ができて大きなリターンが1980〜90年台に出た結果、アメリカのVCへの資金提供者として機関投資家が入って来たわけですよね。日本でもそうした動きが始まったのですね。
堤:日本のスタートアップ投資の世界に機関投資家が最初に入ったのは、グロービス・キャピタル・パートナーズが組成したファンドで、PFA(企業年金連合会)からの出資が最初だったと思います。そこを皮切りに、日本郵政グループ等も、積極的にベンチャーキャピタルファンドへの出資を開始しており、2018年あたりから少しずつロットの大きい投資家が出てきたという感じですね。それまでは大口投資家といえば、中小機構(中小企業基盤整備機構)とか産業革新機構くらいしかなかったのが、だんだん増えてきた。こうした機関投資家が関与できるようなVCファンドができあがってくると、ファンドサイドも必然的に大きくなる。逆に大きくないと、機関投資家は資金を入れられないんですよ。そういう循環が、ようやく日本でも始まったのかなと思います。
西村:機関投資家は運用資金の金額が桁違いですもんね。日本の公的年金基金を運用するGPIFもスタートアップのVCに資金提供を始めるという話も聞こえてきます。GPIFは全体では160兆円の運用資金規模で、これは世界的に見ても最大規模ですよね。もし、0.5%でもベンチャー投資に割り当てたら、一気に日本のリスクマネーの量が2倍以上に増えるという感じでしょうか。
堤:そうですね。プライベートエクイティ投資といえば、バイアウトとVCの2つがありますが、これまでは、機関投資家の多くが、バイアウトファンドや海外VCへの出資がほとんどだったのですが、ようやく少しずつ国内VCにも資金を割り当てよういう感じになってきています。今年は、日本のベンチャーキャピタルのファンドレイジング(資金を集めてVCファンドを組成すること)に関しては、エポックになる可能性はあるかなとは思います。単に金額が全体で上がったとかではなくて、質が変わるということですね。
西村:今までだとネット系企業とか、かつてCVCをやっていたような金融系の人たちが主にVCファンドに資金を提供していましたよね。そこに機関投資家が入ってVCに対する出資者の顔ぶれが変わってきたと。
堤:ようやくアセットクラスとして認められてきた証左かなと思いますね。もう1つ、世界的に運用先がないという全体的な話もありますよね。運用するお金はたくさん集まってるんですけど、今さら伝統的な株や債券ばかりを買ってもしようがないよね、ということです。それよりももう少しオルタナティブとしてのプライベートエクイティ投資をやってもいいんじゃないか、というのが空気感として出てきています。
西村:地の利のある日本のゆうちょとかGPIFは当然として、例えばノルウェーとか、シンガポールとか、国単位で機関投資家が活発に投資していて、ポートフォーリオを組んでいるところが日本のVCに目を向けるという可能性はありますか?
堤:可能性はあります。ただ、税金の問題も大きいので、そこをどう改善するかですね。日本では、ほとんどのVCが投資事業有限責任組合という枠組みでファンドを組成・運用していると思うんですけれども、その枠組みだと外国の方々は投資しづらいんです。たぶん国によって違うと思うんですけど、リターンに対する税金が二重にかかってしまう可能性もあります。
西村:まだ実例がないので、誰もよく分からないという感じでしょうか。
堤:そうですね。税金の問題があるから、ちょっと難しい。それから、出資を受け入れる側のVCからしても資料を全部を日本語と英語でダブルで一緒に作っていかないといけないので、結構そこはコストがかますよね。
西村:まだ、そこまでやるほどじゃない?
堤:ある程度まとまった金額が入ってくるのであれば、ありかなという感じはしますけど。
西村:そもそも日本ってマクロでいうと、どこまで投資リターンを生む成長余地があるんでしょうか。人口が減る以上、GDPは生産性を上げれば維持できるかもしれませんが、新興国とは違います。そういうときにVCマネーが年間3,000億円あってリターンを出せますか?
堤:それは結構難しい質問です。日本の3,000~4,000億円ぐらいのベンチャー投資資金というのは、いわゆるCVC的なものも結構含まれている金額だからです。ここは事業還元ができていれば、そこまで大きなリターンはいらないよという層なんですね。そこの資金が結構なボリュームあるのです。
西村:今はもう、VCマネー全体の半分以上ですかね。
堤:感覚的にはそういう感じですね。となると、独立したいわゆるリスクマネーの供給量って、そのうちのどれぐらいあるんだっけと考えると、恐らく最大でも、今だと2,000億円ぐらい。これは全然吸収できるなと思います。
西村:2,000億円ならリターンが出せると。ちょっと同じ質問を逆向きからしてもいいですか。この程度ならリターンが出るという発想ではなく、資金を突っ込んだ分、それだけエコシステムが発達して結果としてリターンが増えるというような。鶏と卵のような関係ですね。というのも、隣の中国ってシリコンバレー並みの年間10兆円規模に一気に資金が膨れ上がったわけですが、資金が先でエコシステムが後からついてきたという印象もあります。
堤:ですね。日本でも資金量が増えることで、そういう質的転換が図られてくる可能性があるというのは、テーマとしては大きいですね。
西村:150億円の3号ファンドには機関投資家も入ってくるということで、もともとのGREEの比率が下がっているのですか?
堤:ええ、外部投資家からのお金がメジャーになっています。既に1号ファンド(約60億円)2016年の2号ファンド(約70億円)から、外部投資家比率の方が高かったのですが、今回の3号ファンド(150億円ターゲット)になりますと、出資比率としては20%以下になっていく可能性はありますね。
西村:20%を切る可能性もあるのですね。そうなるとGREE系のCVCという感じはだいぶ薄まりますね堤:そうですね。ファンドをパブリックなものにしていきたいということもあります。特に機関投資家の資金というのは皆さんの税金なり、保険なり、年金だったりするわけなので、そういったものを預かることによって、よりパブリックな位置付けになれるんじゃないかなと。極端な話をすると、今まではお金を持っている人たちのお金をさらに増やすための仕事だったんですよね。事業会社や個人の富裕層の方の資金ということなので。年金などの機関投資家が入ってくることで一般の人たちのお金もお預かりできるようになったというのが、すごく違います。ファンドとしての次のステップに上がったなという感じはしますね。
西村:新しいニュースなのでファンド組成と、それを取り巻くマクロなエコシステムの変化という話と順におうかがいしてきましたが、堤さんの個人的なキャリアのお話も聞かせていただけますか。そもそもVCになろうと思ったきっかけは何ですか?
堤:いま45歳なんですけど、もともと、VCという仕事を知ったのは21歳ぐらいのときです。大学にいたときに、たまたまあるベンチャーキャピタリストの人が、なぜか小さな勉強会みたいなのを開いてくれたことがあって。イギリスの老舗資産運用企業で知られるシュローダー系のVCで、松木伸男さんという方です。松木さんは、その後、MKSパートナーズというバイアウトファンドを作られていますね。そこで初めてVCという仕事があるんだということを21歳の若者は知って、なんておもしろいんだろうと思ったんです。いろいろ調べてみたらアメリカにクライナー・パーキンス(KPCB)という、すごいファンドがあるらしい、そこにジョン・ドーアという人がいるらしいと分かった。当時、1995年ぐらいです。
西村:インターネットが民主化して商用ウェブブラウザのNetscapeが急成長した頃ですよね。KPCBはNetscapeにも出資していましたね。後にAmazonやGoogleにも出資することになる。シリコンバレーのトップティアVCですね。
堤:そうです。それで「めちゃおもしろいな。こんな仕事があるなら、この仕事やりたいな」と思ったというのが、最初のきっかけだったんですね。ただ、松木さんに聞いたら「(ベンチャーキャピタリストというのは)若者がすぐやるような仕事じゃないから、お前もいろんなこと経験してから来い」といわれて、そうだなと思いました。大学のときは哲学を勉強をしていたんですけど、哲学だけをやっていてもあまりしょうがないなと思って、大学院に行って金融工学に転向したんですよ。そこからファイナンスの基礎的なものを身につけ、卒業してから最初に入ったのがシンクタンクの三和総合研究所です。いろんな業界を見たほうがいいよねというので、経営コンサルの仕事を3年半ほどやっていました。たまたまなんですけど、そこで今はグロービス・キャピタル・パートナーズでマネジングパートーナーの仮屋薗聡一さんとか、B Dash Venturesを立ち上げた渡辺洋行さんも同じ会社だったんですよね。仮屋薗さんはちょっと先輩。僕が新卒で入社するタイミングで、丁度入れ違いで彼は辞めたのですけどね。
西村:仮屋薗さんが初期グロービス・キャピタル・パートナーズでファンドレイズをしに行った背中を見たという感じですね。
堤:ええ、そうです。B Dashの渡辺さんは部署は違ったんですけど、同じ屋根の下で仕事していたような関係がありました。それで三和総合研究所で3年半仕事をしたあとに、そろそろVCに行ってみようかなと思って、できたばかりの頃のグローバル・ブレインに移って、百合本さんの下で2年ほどVCアソシエイトとして修行しました。今でこそグローバル・ブレインは巨大なファンドをいくつも作られていますけど、その当時は10億円という規模でした。
堤:グローバル・ブレインには27歳から29歳までの2年間いたんですけども、自分で事業をやったことがない人間が起業家の人にああだこうだ言うのって、なんかピンと来ないというのもあったし、やっぱり自分自身も事業をやってみたいなというのもあって、30歳のタイミングでサイバーエージェントに移りました。サイバーエージェントに移ったきっかけは、今スタートアップスタジオのXTechをやられている西條さんとの偶然の出会いです。西條さんはその当時、サイバーエージェントの新規事業の責任者ということもあって金融セクターの新規事業を立ち上げをしようとしていました。2003年~2004年ぐらいです。FXの外国為替の規制緩和があったので、FX関連事業を立ち上げようとしていました。僕は事業責任者として、このFX関連事業の立ち上げを行ったり、ほかの金融サービスや投資顧問、金融メディアを作ったりしていたんですね。そのうちの1つにサイバーエージェント・ベンチャーズ(現サイバーエージェント・キャピタル)があります。サイバーエージェントにとって、初めてのベンチャーキャピタルファンドですね。
西村:サイバーエージェントのCVCというのは、最初どんな感じだったのですか?
堤:そうですね……、まずCVCという言葉の定義がすごく難しいなと思っています。サイバーエージェントと名前は付いていますが、CVCという感じではなかったんです。あくまでも最初から外部のお金を集めたんですね。18億円ぐらいの小さなファンドだったんですけども。当時のサイバーエージェントって、まだ今みたいに儲かっていなくて、最初から外部資金を中心に集めたんです。かつ、もともとリターンを目的とするファンドだったので、それってCVCと呼ぶんだっけという感じです。西村:事業シナジーよりもフィナンシャルリターン目的というと、CVCぽくないですね。
堤:それがサイバーエージェントの事業に資するかどうかはあまり関係なく、普通に明るくいろんなことをしていました。
西村:明るく(笑) それで、そのファンドはうまくいったんですか?
堤:ええ、サイバーエージェント・ベンチャーズも含めてサイバーエージェントでの金融事業はうまくいっていました。ただ、今度は金融じゃない事業をやりたいなという事業家としての欲がだんだん芽生えてきて。もうちょっと違うことをやりたいな、と。それで、たまたま声をかけてもらっていたリクルートに移りました。リクルートの新規事業開発室みたいなところの企画の責任者をやらせていただきました。
西村:その部署は何人ぐらいいたんですか。
堤:事業開発自体は結構大きくて100とか200人ですかね、全部合わせると。すでに事業化されているものや、フィジビリティー検証が走っているようなものがいくつもあったので。
西村:大所帯ですね。
堤:それこそ昔の「R25」とかもその中に入っていたんですね。ただ、本当に純粋に新規事業の企画を考えるセクションというのは5~7名とかそんなものでしたね。
西村:そのときのリクルートの新規事業開発室って、後にKaizen Platformを創業する須藤憲司さんにお聞きしたんですけど、すごい人材が揃っていたんですよね? 後にnanapiを作ることになる、けんすう(古川健介)さんとかもいて。
堤:そうです。あと、アドテクのGeniee創業者の工藤さんとか、じげん創業者の平尾さんとかね。そんな変わった人たちが、いっぱいいました。
西村:すごい。でも、須藤さんにインタビューしたことあるんですけど、タレントは揃っているのに、とにかく失敗ばかりだったって聞きました(笑)
堤:それだけのメンバーが集まって、あれだけお金があって、何ひとつ成功しなかったという奇跡的なね(笑)。やっぱり、何か1つに集中しないとダメなんだって。
西村:やってるときはつらかったでしょうけど、散々派手に転ばせてくれたリクルートはすごい会社だって須藤さんは言っていました。
堤:それは本当に、そう思いますね。Eコマース、アドテク、デジタルコンテンツとか、いろんな事業の企画を作っていたんですけども、それとは別に、たまたまリクルートのCVCの運用もやってくれといわれて。
西村:現在のリクルートストラテジックパートナーズですね。
堤:資金は完全にリクルートのお金です。しかもフィナンシャルリターンではなくて、リクルートの将来の何かに資するネタを探してこいという。つまり、研究開発の投資なんです。サービス業系のね。西村:さすがリクルートは懐が深いですね。ちなみに、その新規事業部門がなかなかうまくいかなかったのは振り返って考えると原因は何ですか?
堤:スピード感ですね。タレントが全部分散して、それぞれ全部違うことをやっているんですよ。集中していなかった。それから承認プロセスが大規模ということもあって、あの当時は無理ですよね。
西村:大企業の承認プロセスがあって実験の手数もなかなか増やせないですよね。
堤:そうですね、今風にいうと、PDCAの数と、まわし方が遅かったんですね。それじゃ勝てないよねという。あと、PLを引こうとすると、リクルートって良くも悪くも人件費が高いんですね。そのPLを作るの大変でした。でも、リクルート流の事業のつくり方やオーディットの仕方は非常に勉強になりましたね。いわゆるKPI管理のようなところは、とても勉強になりました。
西村:いったんはVCの門を叩いて修行したものの、29、30歳を迎えるにあたって、やっぱり事業をやりたいと実際やられたわけじゃないですか。その後に何年も事業に取り組むなかで、いつかまたVCに戻るぞという考えは頭の片隅にあったんですか?
堤:それはずっと思っていました。いつかVCをやるんだ、と。でも「いろんな経験をしてから来い」という松木さん言葉を割とかたくなに守っていて、30歳で事業の世界に入って、37歳まで7年間はどっぷり事業をやっていました。投資もやっていたけど、事業が主で、7対3ぐらいで事業をやっていた。リクルートは居心地がいい会社なんですね、給料も良かったですしね。だけど37歳のときに、そろそろいい加減にVCをやろうと思ったんです。
西村:リクルートでさまざまな事業に取り組まれた後に、再びVCを始められるわけですが、そのとき起業しようという考えはなかったのですか?
堤:それは今でも思っています。ただ、それは、これからでいいかなと思ってます。もう1回、事業家というか、今度は起業も含めてやりたいと思っています。それは結構真面目に考えています。
西村:VCと起業家や事業家を行き来するというスタイルでしょうか。でも、変な質問ですけど、初期のファンドでリターンが出ていて、もう全然お金を稼ぐ必要はないですよね?
堤:お金を稼いで何だっていうのは、あまりないのですよね。それよりも自分が何をしたいのか、どういう人生を歩みたいのかですよね。仮にトップラインで働けるのが45歳から60歳までの15年間として、あと15年間で何をやるんだっけというのは、すごく考えています。僕、50歳で起業したいなと思っているんですよ。50歳で起業して、10年かけて上場まで持っていけるような会社を作ろうというね。結構、真面目に思っているんですよ。
西村:それは元気が出る話ですね。いまの僕の上司も50代半ばで、まだ起業準備中だって言っています(笑)。すでに過去に日本とアメリカで起業して苦労もしていて、いまは大企業の執行役員なんですけど、まだ自分はひよっこみたいなもんだって。
堤:最近雑誌でスタートアップ起業家のインタビューがあっておもしろかったんですけど、彼は50歳のときに30億円ぐらいの資産を持っていたんだけど、それが一夜にして全部なくなっちゃったというんですね。それでもう1回起業して、今は3兆円ぐらいの時価総額の会社を作っていて、その彼は今64歳なんですよ。
西村:とんでもないジェットコースター人生ですね。
堤:そういうのがいいなと思ったんですよね。
西村:やっぱり起業家とかVCの人のリスク感度ってちょっと違うんですかね。自信があるから、いつでも稼げるというのがあるのかな。友人の起業家が事業で成功して3、4億円ぐらい資産があるんですね。いまはそれでアプリを作りまくってる。1回バッターボックスに立ってアプリを作るのに3,000万円ぐらいかけます、と。だから10回バッターボックスに立てると言うんです。でも、最後の3打席分ぐらい、1億円ぐらいは取っておくんだよねって聞いたら、「え!? 何で? 僕は全部使いますよ。最後まで失敗しても、お金はいつでも作れますから」みたいなことを言っていて、そうなんだって(笑)堤:確かに、起業家も投資家もどこか刺激ジャンキーみたいなところがあるかも。安定性より、何かインパクトを与え続けることによって、自分自身の存在を確認するところはあるかなと思いますけどね。
西村:30代はリクルートで事業に取り組んで、それでVCファンドを立ち上げられたわけですね。
堤:ええ、37歳になったときに、そろそろVCを自分でやらなきゃと思って。実はちょうどB Dash Venturesの渡辺さんも同じタイミングで2011年に独立されたんですよね。僕はリクルートに5年いました。今でこそリクルートもネットネットと言っていますけど、その当時はまだインターネットの会社というより、どちらかというと出版とかが強い紙の会社だったんですね。一方、当時はソーシャルゲームの全盛期でGREEが飛ぶ鳥を落とす勢いみたいな時代だったんですね。だから、急成長している会社でインターネットのど真ん中に入ってみるのもいいかな、というのも思っていたんですね。そうしたらたまたまGREEの田中さんが「VCを作りたがっている」という話を聞き、ご縁があってお会いすることになりました。伺ったらGREEの中でVCを作りましょうという話で、GREEに2011年にジョインしました。ただ、最初は私も普通のサラリーマンとして入って、GREEの手金で20億円規模のファンドを作った形です。内部の資金で始めたので、いま僕らは0号ファンドと呼んでいます。
西村:なるほど。そういう意味では本当の意味でのCVCとしてのGREE Venturesですね。
堤:そうですね、2年ちょいぐらいGREEの中でやらせていただいて、いろいろ投資をやって、すごくうまくいったんですね。それで2014年に新しくつくったのがAT-Iという名称のファンドです。そのタイミングで僕と今一緒にSTRIVEをやっている天野がGREEを辞めて、2人で個人としてGP(General Partner;無限責任組合員)をやっています。西村:なるほど。0号と違ってGPになったということは1号ファンドから、すでにインセンティブに関しては、いわゆるキャリード・インタレストがあったんですね。
※キャリード・インタレスト:運用資金の元本を超えるリターンが出た場合にGPに払い出す成功報酬。一般的には超過収益の20%を運用者が受け取って配分する。したがって100億円のファンドのリターンが3倍の300億円になった場合、200億円の20%、つまり40億円をGPが分けることになる。これはCVCの「会社員投資家」が受け取るボーナスなどとは全く比較にならない大きなアップサイドのあるインセンティブとなっている。
堤:そうですね。徐々に変えていますけど、キャリーの設計自体は1号ファンドから一緒です。配分をどうするかというのがポイントになっています。
西村:ところでファンドが大きくなってくると、例えばフォローオン投資がやりやすくなるとかいろいろあると思うんですけど、もうちょっと組織型にしていくという発想もあるんですか? 海外だとアンドリーセンホロウィッツ、国内だとグロービスとか、ちょっとそうなってきていますよね。預かり資産が大きいと運用報酬も比例して大きくなるので、バリューアッドチームを作るとか、アソシエイトの投資家を増やすなど、よりチーム戦になってくる。
堤:アンドリーセン型というのは理想ですけど、我々の場合で言うと、150億円ってそこまで大きなサイズのファンドではないので、そんなに大規模ではやれていませんが、バリューアップチームは作っており、現在、3名ほど専属でいます。もともと我々のスタイルが、かなりハンズオンでガッツリやるいうこともあって、それを今までは個人のキャピタリストが全部やっていたんですね。全部やるのは大変なので、それこそHRとPRの機能はそれぞれ独立した人を採用していって、今後も必要に応じて、バリューアップチームの人員は拡張してきたいと思っています。
西村:そういう意味でいうと、日本のスタートアップエコシステムがちょっと変わってきていているのでしょうか。エンジニアやUI/UXのエキスパートを雇おうとしているVCの話も耳にします。
堤:そう思いますね。「お金+アルファ」の部分をどういう形で付けていくか。VCの数も増えてきているのは事実なので、その中での競争優位性をどう作っていくのか。今まででは、個人の名前が売れてる人たちが、いい案件をいただけていたと思うんですね。逆にあまり個々のキャピタリストの顔が見えなくても、ファンドサイズが大きければ、それだけでパワーがあって、バリュエーションに関しても許容度が大きい。そもそもチケットサイズ(典型的な1回の投資額)も大きいよねというとき、やっぱりパワー負けするんですね。単純に負ける。僕らはバリュエーションについて、他のVCと比較してもかなりしょっぱいファームだと思います。よくタームシートを出しても、他社さんの評価の半分くらいです、、、なんてこともよく言われます。(苦笑)それでも、堤さんに投資してもらいたいですというのは、僕のトラックレコードやキャラクターだけではなく、サポートする部隊もチームにいます、という形にしていかないと、今後は勝てないなと、結構真面目に思っているんですよね。
西村:いい意味で競争原理が働いていますね。VC間の差別化が進み、生態系が豊かになった結果、資金量で戦うタイプとか、ハンズオン側に振っていくタイプ、しかも組織でやっていくタイプと分かれるのかもしれませんね。さらに、それより小さいところは何かに特化した、刺さるようなものとか。AIとかブロックチェーンはありますよね。
堤:そう思いますね。シード・アーリーの若手だけに投資するみたいな人もいるじゃないですか。Beyond Next Venturesの伊藤さんのように研究開発系とか、IDATEN Venturesの足立さんのようにものづくりとか、小さくても特化していくやり方というのはあるなと思いますね。
西村:なるほど。ところでCVCが数の上でも資金量の上でも半分を超えているような感じかと思うのですが、これは基本的にはいいこととお考えですか?
堤:日本全体のリスクマネーが増えるという点においては、すごくいいことだなと思います。ただ、ちょっと怖いなと思っていることがあります。2008年以降、ずっとマーケットが上がっているじゃないですか。すると、良くも悪くも素人が増えているんですよ、はっきり言うと。この人たちはリセッションを経験したことがないんですよ。僕は3回経験しているんですね。まあ大変なんですよね。そういうのがない中で投資をやると……。
西村:バリュエーションが、どんどん上がっちゃう?
堤:そうですね、それもありますし、極端に言うと、CVCって別にファンドをやらなきゃいけない必然性はないんですよ。例えば、たまたま社長があるタイミングで代わったりすと、「これは何をやっているんだ? なぜ減損を出しているんだ、止めろ」みたいな話に割とすぐなるんですよ。景気が悪くなったときに今あるCVCが果たしてどこまで残るのだろうか、という不安感はあります。
西村:調整局面ではCVCの資金分がシュッと縮むと。
堤:その可能性はあります。だから、今は水ぶくれしていると思っています。全部が全部とは言いませんけれども、日本のベンチャー投資のリスクマネーが年間4,000億円。そのうち半分がCVCだとして2,000億円。このうち1,000億円ぐらいは水ぶくれしているんじゃないかなという感覚です。
西村:とりあえずファンドサイズを決めて、会社員として年内に10社投資しますみたいなことをKPIにされ、それで一生懸命スタートアップイベントに行って、有望そうなスタートアップを探して投資しているみたいな感じですよね。海外メディアに「唯一VCが起業家を追いかける国」と揶揄される状況があるかもしれませんね。
堤:だから、大変だろうなと思います。CVCの投資担当者でも、うまくやっている人って最初にLP投資して、VCと良い人間関係を作っておいて、そこから情報をもらってという王道なやり方をやっています。
西村:リードを取らずにマイナー出資で、ほかのVCと協調投資をやっている限りは、そんなに変なことにはならないですよね。
堤:そうですね。ほとんどリードを取らないので、そういう意味ではリスクマネーの供給が増えた、ということなので、それはいいなと思うんです。今までのようにピュアなVCしかいなかったら、途中で転ぶスタートアップはもっと多いはず。一定の目標を達成しなかったら、そこで追加投資はしないという判断になっていたのが、いまはお金の出し手の数と種類が増えたことで、継続できるケースが増えているはずです。それはスタートアップにとっては、いいことだと思います。
西村:CVCの難しさについて、以前、堤さんはイベントで話されてたことがあって、会社員だとやっぱり難しいということでした。まず人事に連続性がない。人員のローテーションがあるので、投資担当者が突然社内で異動になったりする。元NTTドコモベンチャーズの秋元さんのように、そのタイミングでVCとして独立される方もいますけど、難しいわけですよね。スタートアップ投資のファンドは通常10年が1サイクルだし、人脈やノウハウが蓄積しづらい。投資家というキャリアにコミットできないと、成果を出すのも難しい。何よりインセンティブがないですよね。この辺、CVCはどう作ればいいんですか? キャリーの設計とか?
堤:CVCを作りたいんですというご相談受けるんですけど、まさにそこがポイントです。結論を言うと、「CVCは基本やめたほうがいい派」なんですよ。目的がすごく曖昧になってしまうことがある。純投資じゃないよね、戦略投資だよねとみんな言うんですよね。でも損はしたくないよねって言う。そもそもスタートアップに「集中しろ」と言っている割には、自分たちが集中できていないじゃんという話です。
西村:リターンとシナジーの両方を目指すんだと言いがちだと。
堤:構造的に、すごく難しい。ただ、CVCでも事業シナジーを追わずに純投資化しているところは、逆にうまくいっているんですよ。会社の看板で割と自由にやらせてもらえて、それはすごく居心地がいい。VCとして独立したり、変動性の給与にしてというほど思いきれないけど、自由に投資をやれる。そういう人たちは意外と、うまくやっていますね。インセンティブ設計が全くないんですけれどもね。
西村:外資系だとCVCでも、それなりのインセンティブ設計があるところもありますね。リターンが出たら株をどかんと渡すような形とか。インセンティブ設計がないところの投資担当者は、もしかしたら独立前の経験と考えているところもあるのでしょうか?
堤:みたいな方もいらっしゃるかもしれないですね。でも、やっぱり仕事そのものに価値を感じていらっしゃる人はCVCの中でもいます。そういう場合、担当者も割と長くやっているケースが多いんですよ。大企業の中で、良くも悪くも「スタートアップ関連はこの人しかいないから、当然この人にやらせよう」という感じで続くケースが多いです。ただ、自由に投資をやりながらも手堅くリターンを出しているところが結局長く続いていますね。リターンを出さないと継続が難しいですね。
西村:CVCで難しいのは外部から投資家を引っ張れないことですよね。投資家としてはリターンに対するキャリーがないポジションは見劣りがします。独立系VCにパートナーとして参画するとか自分でVCを立ち上げられれば、数億円とか数十億円の収入というアップサイドがあり得るのに、CVCで投資家になると、あくまでも会社員の給与水準で全然ちがう。かといってCVCとしてキャリーを渡しちゃうと、子会社であるはずの投資会社の担当者の特定年の給料が、本社の社長の役員報酬の何十倍になってしまうみたいなことが起こりますよね。
堤:ああ、全然ありますね。
西村:投資の結果を個々人に紐付けるのは、日本企業では難しそうです。2018年には産業革新投資機構のファンドマネージャー高額報酬問題というのもありましたけど、あれと同じ話かも。
堤:でも、夢がないじゃないですか。アメリカのVCだったら、普通のプリンシパルレベルで、ベース年収が5000万円ぐらいですからね。結論としては、今の日本の大企業の中でやっている限りにおいては、インセンティブ設計自体が、かなり難しいんですよね。いろんな調整がすごく入るので。そこに労力をかけるぐらいだったら、やらないほうがいいんじゃないかな、と個人的には思います。
西村:そうはいっても、世界的にもCVCがスタートアップ投資の資金源の半分ぐらいになっていますよね。アメリカもそうです。イノベーション、あるいは新規事業開発といってもいいですが、特にデジタルトランスフォーメーションを自社でやるのは大変だという認識が背景にあるのかなと思いますが、いかがですか?堤:ええ、だからCVCのスタートアップ投資は「M&Aの先食い」だと思っています。うまくやっているのが例えばKDDIです。いい会社に投資して、自分たちが将来的に買えるのが一番のイグジットだと。これが大企業がCVCをやる唯一の意味なんじゃないかと思っています。そうするとインセンティブ設計は何も考えなくて良くて、投資担当者は業務として投資する。将来のうちの事業に資するものを探してきて投資しといてね、いつか買うからさ、という形ですね。これなら業務の1つとして成り立つんじゃないかと思うんです。
西村:なるほど、自社が欲しい事業やシナジー領域も分かるし、接続役ですね。スタートアップの成長を加速できる可能性もあるし、そういう意味では新規事業を一緒に開発しているような、オープンイノベーションですね。
堤:CVCはM&Aの先食いとしてやるか、リサーチとして割り切るかですね。そういうふうに目的をきちんと明確にせずに二兎追うみたいなことをやると、位置付けが曖昧になって失敗しがちです。
西村:最後にSTARTUP DBの読者でスタートアップ業界に来たいと迷っている人にメッセージをいただけませんか。
堤:僕は「自分でリスクをコントロールする」ということに、すごくやりがいを感じているんですよね。投資家という仕事だからかもしれないんですけど、リスクをコントロールできるかできないかって、とても大事だなと思っています。ということでいうと、大企業にいると安心というのは、本当にまやかしでしかないなと思っていて(笑)
西村:45歳でいきなり梯子を外されるとかもありますし、実はリスクを自分でコントロールしづらいと。
堤:例えば銀行の方からFintechの流れを受けて、人が多すぎるといって、ある一定の年齢の人たちをバサッと外出ししたいんですけど、なんとかいい方法ないですかっていう相談受けるんですよ。
西村:それは、すごい相談ですね……。本音なんでしょうけど、つらい。
堤:そのまま銀行にいたら安泰ですなんていう時代は、もうはるか昔に終わっているわけですよね。メガバンクの人でも、そういう危機感を持っているんですよね。だから、できるだけ若いうち、リスクが取りやすいうちに、自分でチャレンジをしていくことが大事だと思います。1本道のキャリアじゃなくて、複数のキャリアを経ることが、結果的に自分のキャリアの厚みを増すと思います。昔だったら、1つの会社の中で最適化して30年頑張って、部長か役員になりますみたいなのが最適解だったと思うんですけど、今は30年後に自分の会社がどうなっているかも分かりません。そんな時代に1つのキャリアしかなかったら、キャリアとして弱い。どこかでポキッと折れちゃうことがあるなと思うんですね。あまりジョブホッパーみたいなのは良くないと思うんですけど、とはいえ、自分の軸を1つ持った上で、いろんな会社を経験してみるというのは、キャリアとしてはすごく厚みを増すなと思います。例えば大企業にいて30歳前後ぐらいだとしましょう。大企業の中で自分が学べることは最低限学んだなというときには、外を見ていろいろ勉強してみて、場合によってはまた戻るみたいなこともありだと思います。最近、出戻りができる会社もありますよね。先ほどの投資家と起業家の行ったり来たりするキャリアの話じゃないですけど、大企業とスタートアップを行ったり来たりするのも、徐々に日本でもケースが出てきていますよね。そのほうがテクノロジー系のメガベンチャーも含めて日本の大企業にとって良いことで、どんどん人材の厚みも変わってくるんじゃないかなと思うんですね。例えば40代でスタートアップで成功した起業家がいて、富士通に入って事業をリードするというのもありかもしれない。そういう風にしないと、たぶんもう持たない。もはや大企業で新規事業が生まれるのは完全に幻想だと思っていて、新規事業は辺境のところとか、外からしか生まれないと思っているので、そこをどう取り込んでいくかですよね。そのときに、大企業はうまく人も取り込んでいければいい。その人たちが1つの核になって、また新しいものを生み出すようにしていくという良い循環を作れないかな、というのはすごく思いますね。
西村:米国だとシスコが買収が上手だといわれていて、実際、いまの経営陣の3人に1人は、かつて買収された企業の創業者らしいんですよね。そしてシスコから給与を受け取ってる元スタートアップの創業者という人材は100人を超えていたことすらあるといいます。社内に成功した起業家だらけってすごいですよね。シスコでCVCを20年やってきた名誉会長は、M&Aは大企業にとって事業が古びていくことに対するワクチンだと言っています。
堤:すばらしいですね。やっぱり0→1が得意な人は、ずっと得意ですからね。昔、僕が投資していたFIVEというビデオのアドネットワークの会社が創業2年半でLINEに買収されたんですけど、買収後、LINEの広告部門の中でも、経営チームとしても、結構重要な役割を果たしています。LINEは伝統的な大企業ではないですけど、とはいえ大企業ですよね。そこに買収されて、その中で、創業者をはじめスタートアップの人たちが活躍しているというのは、すばらしい例だなと思います。
西村:スタートアップ企業を買収した後に、人的面も含めて有機的に事業統合する、いわゆるPMI(Post Merger Integration)は、また1つ大きなテーマだと思うんですけど、どれぐらい成功すればいいでしょうか? 例えば、大企業はもっとM&Aをしたほうがいいと考える人は増えていますが、たぶん失敗もするだろうというのもファクトとしてあると思うんですね。長い蓄積のあるシリコンバレーですら、そうです。
堤:そうですね、僕の感覚では、10分の9ぐらい失敗すると思っています。実際M&Aで成功している例って少ないと思うんですよね。サービスとして停止して、ほぼ減損というようなケースも多々あるわけです。ただ、日本でも買収を比較的よくやっているメガベンチャーに話を聞くと、いろんな経験をして、そこでPMIの手法がだいぶ確立されてきているんですよね。だから成功確率が徐々に上がってきているんだろうなとは思います。
西村:新規事業は自分たちでは作れないから会社を買って、その人たちと一緒に作るんだ、という感覚でやったほうがいいのかもしれませんね。逆にカーブアウトは、いかがでしょうか? 最近事例が増えてきている気がします。
堤:カーブアウトは絶対に増えると思いますし、結構いいなと思いますね。やっぱり事業自体はそこそこできあがっていますからね。ビジネス経験も全然ない若者が起業しました、というのではなくて、ちゃんと営業もできる。
西村:すでにP/Lを見ながら走ってきました、とか、初期からエンジニアもいてシステム開発も軌道に乗っているとか。
堤:そこにいかに起業家マインドを注入していけるかですよね。
西村:ただ、日本企業のカーブアウトってキャップテーブルがおかしいことがありませんか。創業者とは名ばかりで、株式持ち分は数%とか、下手すると出向社員で給与所得があるに過ぎないケースも聞きます。たとえスタートアップ的な急成長をしても、それによるキャピタルゲインのアップサイドがない。
堤:そこは親会社がいかに折れるか、ということに尽きるんですよね。僕が投資しているHR系スタートアップは、元の親会社がきちんと理解を示してくれていて、経営者が株式の6割を持っています。でないと、僕らも投資しません。
西村:なるほど。そういうカーブアウトも、いま始まっているということですね。
堤:そうですね。僕はなんやかんやでアソシエイト時代も含めて15年以上ベンチャー投資に関わっていますけど、今は環境的には圧倒的に良くなりましたね。これで起業しないとか、もしくは大企業の人がスタートアップに来ないほうが、むしろ不思議な感じです。自分にリスク許容度がどれぐらいあるかにもよるかと思うんですけれども、大企業だって、いきなり市況や事業が厳しくなって部門ごと閉鎖というようなこともあるわけじゃないですか。だから、チャンスしかないし、絶対やったほうが楽しいと思います。
取材・編集:西村賢撮影:小池大介