「スタートアップで働く」という選択肢は、どれほど一般化しているのだろうか。
国が2022年12月に公表したスタートアップ育成5か年計画には「円滑な労働移動」という項目があり、終身雇用や副業・兼業禁止といったこれまでの雇用慣行を見直す必要があるとしている。2023年版「骨太の方針」にも「成長分野への労働移動の円滑化」が盛り込まれていて、人材のスタートアップ流入が進みそうだ。
では、現在スタートアップで働く人はどの程度いるのか。労働力調査などの総務省の統計とSTARTUP DBの独自データを掛け合わせ、調べてみた。
STARTUP DBによると、2023年1月6日時点で日本全国のスタートアップで働く従業員(※1)の合計は74万8,572人。この数字には、いわゆる業務委託契約で働く人などが含まれないこともあるため、実態よりもある程度低い数字となっている可能性がある。
これに対し、日本全国の就業者はどの程度存在するのか。総務省統計局の「労働力調査(基本集計)都道府県別結果」によると、就業者数の合計は2022年の平均値で6,747万人。単純計算で、日本の就業者のうち1.1%がスタートアップで働いていることになる。
ちなみに、総務省統計局によると2021年6月時点で日本全国の企業等(※2)は368万。STARTUP DBに登録されているスタートアップ企業はおよそ20,000社だから、企業数で見てもスタートアップはまだまだ少数派ということが分かる。
※1...STARTUP DBの定義に基づき登録されているスタートアップ企業の従業員を対象とした。
※2...総務省の「企業等」の定義は「会社企業、会社以外の法人及び個人経営で本所と支所を含めた全体」
スタートアップで働く人の割合が突出して高いのは東京都。全体の就業者833万2,000人(総務省統計局)に対し、スタートアップ従業員は57万3,819人。割合にして6.89%だ。
2位は大阪府の4万1,637人で、府内の労働人口に占める割合は0.9%。2位ですでに1%を割り込んでいて、東京と他の地域では大きな差があることが分かる。
背景には、スタートアップの立地が東京に集中していることがある。STARTUP DBの調査によると、東京に本社を置くスタートアップは2022年末時点で10,395社あり、日本全体の66.17%を占めている。これに対し立地企業数2位の大阪府は810社にとどまるなど大きな差があり、これが従業員数の違いにも反映されている。
3位は京都府。スタートアップ従業員数は7,436人と神奈川県(2万4,199人)や福岡県(1万1,510人)などに及ばないが、労働人口に占める割合は0.55%と3番目の高さだった。
大阪や京都には有力な研究シーズを持つ大学が複数立地していて、研究成果の事業化を目的としたスタートアップが集まりつつある。大阪大学発のマイクロ波化学(大阪府吹田市)や、京都大学発のリージョナルフィッシュ(京都府京都市)などが当てはまる。こうした企業が集積・成長していくことでこの地域のスタートアップ人口も増えていきそうだ。
逆に最も割合が低かったのは島根県で、スタートアップで働く人は70人。労働人口は36万8,000人だから、割合は0.02%だ。
割合が低いとはいえ、島根県にも活発なスタートアップは存在する。松江市のミライエは食品廃棄物や下水の汚泥、それに家畜のフンなどを堆肥に変える技術を持つ。2023年1月にはゼネコン大手の西松建設(東京港区)から資金調達を実施。西松建設と協業し、食品廃棄物の再資源化事業に乗り出すとしている。
定額乗合タクシー「TAKUZO」を展開するバイタルリード(出雲市)も2023年6月、とっとりキャピタルと環境エネルギー投資がそれぞれ運営するファンドなどから出資を受けている。従業員は公表ベースで49人だ。
スタートアップで働く人が増加するためには、何よりも雇用の受け皿である企業そのものの規模拡大が欠かせない。
今や巨大企業となった海外スタートアップは多くの従業員を雇い入れている。「GAFA」と呼ばれるアメリカのメガITの決算資料を見ると、Amazonで146万5,000人(2023年4月時点)、グーグルの持株会社・アルファベットで18万1,798人(2023年7月時点)と桁違いだ。Appleは16万4,000人(2022年9月時点)、フェイスブックのMetaも前年比でマイナス14%となったものの7万1,469人(2023年7月時点)という規模だ。
政府によるIT規制のあおりを受け従業員数の減少が進むものの、中国メガITも一定の規模を保っている。EC大手・アリババグループは23万5,216人(2023年5月時点)、SNSやモバイルゲームなどのテンセントは10万6,200人(2023年5月時点)だ。