フィンテック領域で注目を集めるサービスがある。ワンファイナンシャル株式会社(以下 、ワンファイナンシャル)が提供するカード決済アプリ「ONEPAYMENT(ワンペイメント)」だ。注目の理由には、サービスの利便性に加え、“天才”と呼ばれる17歳起業家・山内氏の姿がある。ワンファイナンシャルCEOの彼が、世界と戦い続けるために日々考えていることとはいったいどのようなことだろうか。
6歳のときに初めてパソコンに触れた山内氏。10歳で独学でプロミングを習得し、中学生の頃にはスタートアップでの就業経験を積む。すでに業界内では“天才プログラマー”の異名を勝ち取っていた。そんな山内氏が、フィンテックに目を付けたのには、あるきっかけがあった。
山内 「以前手伝っていたスタートアップで、さまざまな業界研究を行うリサーチ業務に携わっていたんです。その中で海外のフィンテックに興味が湧いて。スタートアップが、プロダクトの力だけで金融という大きな業界をどんどん変えていく姿が、すごく興味深かったんです。僕自身はエンジニアなので金融のノウハウはありませんでしたが、プロダクトでなら自分も業界を変えることができるのではないかと考えて、フィンテック領域でサービスを立ち上げることにしました」
当時、山内氏の興味を掻き立てたのは、オンラインバンクとして注目を集めたイギリスの「Monzo」、ドイツの「Simple」など、日本の一歩も二歩も先をいくスマホ完結型のプロダクトだったという。
山内 「プロダクト力によって、人間の生活インフラを新たに整えられることに感動を覚えたんです。人間の生活に組み込まれている決済というアクションを、デザインできるのですから」
金融業界の中でも、資産運用や投資などのように日常からはすこし遠い位置にある“アクション”ではなく、誰しもが日常的に行う“アクション”に関わりたい。それが、起業時から変わらず根底にある山内氏の考えだ。そうして起業に至った2016年、ビットコインのウォレットとして事業を開始した。「誰しもが日常的に行う“アクション”に関わること」を軸に、幾度か事業内容の見定め、現在の「ONEPAYMENT」の事業へと転換することとなる。
「ONEPAYMENT」は、これからの世界が向かうであろう複数通貨時代に向けた、インフラ整備の役割を担っている。
山内 「これからの世界は、ひとりの人間が“円”“ポイント”“ビットコイン”などのさまざまな通貨を合わせ持つような『複数通貨時代』になっていくと考えています。働き方も変わってきているように、人によってそれぞれ中心となる通貨も変わるはずです。アメリカに住んでいる日本人と、日本に住んでいるアメリカ人とでは通貨の感覚が違うのは当然の話ですし、生活の軸になる通貨も異なるのですから。各種ポイントカードのポイントが誰かにとっての通貨の中心になるかもしれませんし、それが仮想通貨の可能性もある。これからの世界は、きっと変わっていきます。でも、今の日本では来たる未来を受け入れるための整備ができていません。複数通貨時代ではお金を受け取る(支払われる)側が一番困るのに、そのためのサービスが発達していないんです」
そこで立ち上がったのが、「ONEPAYMENT」。アプリをダウンロードするだけで、複数の通貨をひとつ(ONE)に変換して、まとめて受け取れるようになったのだ。ただ、ここでひとつ疑問が湧く。そもそも、日本ではなかなか広まりにくいキャッシュレスの文化。一方で欧米ではむしろキャッシュレスの生活が一般的になりつつある。これらの違いはどのような点にあるのだろうか。この疑問に対し、山内氏はこう語る。
山内 「欧米では、現金を扱うほうがコストがかかるという考え方が強いんです。偽造紙幣の対策だったり、各所で発生する小銭の準備だったり。現金の支払いにしか対応していないと、販売する側にとっては機会損失になることもあります。でも、日本はあちこちにATMが設置されているので、現金が手元から無くなったら駆け込むことができてしまう。キャッシュレスを目指すにしては、現金文化が近くにありすぎるんです」
プロダクトを生み出す上での喜びとして、“使ってもらっている瞬間”を挙げる山内氏。では、一方で金融業界で生きる魅力にはいったいどのような点が挙げられるのだろうか。
山内 「決済に関わるサービスを提供しているので、購買のデータが取れる点ですね。人が興味を持ってから購買まで行き着くためには複数の過程がありますが、最終の出口となるのが購買です。誰が・どこで・いくら使ったのかというデータを集めていくと、その先では需要と供給の予測ができるようになります。そうすれば、モノの最適価格をレコメンドするような事業にも繋げられるかもしれませんよね」
金融業界をプロダクトの力で変えると決意し、創業してから早2年。今も変わらずひたむきにまっすぐプロダクトと向き合っているのは、山内氏が心の底から感じている“プロダクトが好き”の想いが大きい。
山内 「プロダクトをつくるのは本当に好きですね。これまでに会ったことのない人が使ってくれるのも、それをデータとして見れるのも嬉しいです。自分がつくったプロダクトに対して、社会からの反応を受け取ることができるのは純粋に楽しいですよね」
また、山内氏がプロダクトを生み出す上で大切にしている考え方があるという。それは、“世の中のニーズを聞かないこと”だ。
山内 「僕は新しいプロダクトを生み出すときにニーズを聞くことはしません。なぜなら、どんなプロダクトが欲しいのかとユーザーに聞いたとしても、現状の延長線の答えしか返ってきません。であれば、その想像の上を行くプロダクトのほうが嬉しいんです」
かつて、アメリカの自動車会社「フォード」を創業したヘンリー・フォードは、以下のように語っている。--“もし顧客に、彼らの望むものを聞いていたら、彼らは「もっと速い馬が欲しい」と答えていただろう。”自動車が発明される以前の時代に自動車を欲する人間はいない。つまり、今この世の中にあるプロダクト以上のものをニーズとして生み出すことは非常に困難なのだ。山内氏はこの考えをもとに開発を進めているため、ニーズを必要としないのだという。
山内 「僕たちは、目標とする世界と今との間にあるギャップをひたすら埋めていきたいと思っているだけなんです。プロダクトを改善する上ではニーズも重視しますが、初期にニーズを考えることはないですね」
現在、山内氏を含む計4名で事業を展開しているワンファイナンシャル 。経営者として山内氏が意識していることは、どのようなことなのだろうか。
山内 「従業員を増やしすぎないことですね。少数精鋭の組織で、能力の高い人を集めて熱量高くプロダクトを作るほうが高いパフォーマンスを出せるんです。社員数は“バスに乗れる人数にしよう”とチーム内でもずっと言っているので、20〜30人くらいの人数で上場できるのが理想だと思っています。あとは、経営者である僕が仕事を抱え込まないことでしょうか。言ってしまえば、僕が働かなかったとしても会社として経営が回っていく状態がもっとも目指すべき形だと考えているんです。現在もすでに僕が必ず手を動かさなければならないほどの状況ではありません。メンバーがそれぞれ事業を回してくれています」
ワンファイナンシャルは営業職を雇っていない。営業にはリソースを割く必要が無いと、山内氏は断言する。
山内 「僕は、もともとマルチタスクができない性格なんです。何にフォーカスするのか考えていく中で、プロダクトが好きなので、プロダクトだけにフォーカスすることを決めました。プロダクトをひたすら突き詰めることで、フィンテック領域最高峰のUXを提供している自信がつくまでになりました。だから、必要の無い営業にはリソースを割きません」
金融業界に参入する上でのファイナンスの知識や、組織をまとめる上での経営・採用意識など、多くの人の話を聞き、組織づくりも、トライ&エラーを繰り返しながら進み続けているという。
山内 「今のメンバーの中に、創業時のメンバーは誰もいないんです。当時は、プロダクトを磨くことやKPIの指標ばかりを追っていたので、メンバーのことを思いやる余裕がなかなか無くて。そのため、採用面ではかなりトライ&エラーを繰り返している印象があります。組織体制については、さまざまな投資家の元に行って話を聞いたことで、今のようなファンクショナルな組織を目指せるようになりました。また、採用面に関しても、メンバー一人ひとりが考えていることや感じていることを以前よりもしっかりと汲み取ろうと意識するようになりました」
キャッシュレスの進行がゆるやかな日本。そんな日本で世界と戦うために必要なことは、プロダクトを磨き続けることだと山内氏は語る。
山内 「僕らが世界と戦うためには、プロダクト力を突き詰め続けることしかありません。UIもUXも含めて、ひたすらやり続ける。ワンファイナンシャルはプロダクトの会社ですから、そこで戦わずしてほかにどこで戦うんだという想いもありますよ」
弱冠17歳ながら、世界へ向けてプロダクトを日々磨き続ける山内氏。最後に、これからスタートアップの起業や転職に悩んでいる方に向けたメッセージを伺った。
山内 「不安なことや決断しなければならない瞬間はたくさんありますが、まずは怖がらずに一歩踏み出してほしいです。また、不安なときには、最悪から最善までさまざまなシナリオを考えておくと安心です。たとえ大失敗したとしても、次はこの部分のここが活かそうとフィードバックとして受け取れるので。どうして失敗したのかさえわかれば、僕らは何度だって挑戦できるんです。だから失敗は怖くありません」
執筆:鈴木しの取材・編集:Brightlogg,inc.撮影:Nobuhiro Toya