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電力会社出身「ハエ」一筋。ムスカ串間会長と暫定CEOの想い

2019-03-07
STARTUPS JOURNAL編集部
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STARTUPS JOURNAL編集部
「ハエの力を誰よりも信じているんです」 そう語る男性の姿がある。株式会社ムスカ(以下、ムスカ)の代表取締役会長を務める串間充崇氏だ。 ムスカでは、イエバエと呼ばれるハエの研究を軸に、農業、畜産業、漁業などに用いられる有機肥料や飼料などの通称「MUSCAプロダクト(*1)」の製造を行なっている。 強い興味に誘われて23歳で異世界に飛び込んだという串間氏。もともとは大企業に勤めるごく普通の会社員だったが、そこでハエに出会った。そして、さまざまな苦難を経て、ムスカの創業に至ったという。 それでは、彼の決断の背景には一体どんな思いがあったのだろうか。詳しく話を聞いてきた。

「ハエの力を誰よりも信じているんです」そう語る男性の姿がある。

株式会社ムスカの代表取締役会長を務める串間充崇氏だ。ムスカでは、イエバエと呼ばれるハエの研究を軸に、農業、畜産業、漁業などに用いられる有機肥料や飼料などの通称「MUSCAプロダクト(*1)」の製造を行なっている。

強い興味に誘われて23歳で異世界に飛び込んだという串間氏。もともとは大企業に勤めるごく普通の会社員だったが、そこでハエに出会った。そして、さまざまな苦難を経て、ムスカの創業に至ったという。彼の決断の背景には、どんな思いがあったのか。

当時23歳、ふとしたきっかけでハエに飛びついた

■串間充崇(くしま・みつたか) ー1976年宮崎市生まれ。国立都城工業高等専門学校電気情報課卒業後、中部電力に就職。 その後、恩師である小林一年と出会い、株式会社フィールドに転職。ロシアの特殊な技術案件や商品開発に従事。様々な分野の知識を吸収し、経験を積み、アビオス株式会社を設立。フィールドの案件を継承し追加の研究開発を継続し開発を完了し、事業展開のために株式会社ムスカを設立。 世界規模での食料安全保障問題の解決に取り組んでいる。
串間充崇(くしま・みつたか)ー1976年宮崎市生まれ。国立都城工業高等専門学校電気情報課卒業後、中部電力に就職。 その後、恩師である小林一年と出会い、株式会社フィールドに転職。ロシアの特殊な技術案件や商品開発に従事。様々な分野の知識を吸収し、経験を積み、アビオス株式会社を設立。フィールドの案件を継承し追加の研究開発を継続し開発を完了し、事業展開のために株式会社ムスカを設立。 世界規模での食料安全保障問題の解決に取り組んでいる。

串間氏とハエとの出会いは、20年以上前のこと。串間氏は、当時中部電力で働く会社員だった。同じように繰り返される毎日に少し物足りなさを感じる若者だったという。

串間 「電力会社での生活は、とても平凡でした。大企業の中にいると、僕はあくまでの歯車のひとつですから。給料は安定しているし、休暇もきちんと取れる。特段不満はありませんでしたが、その代わりやりがいがあったわけでもなかったんですよね」

出身は宮崎県。田舎のコンプレックスが強かったこともあり、就職先は都会、と決めていた。九州電力に勤めていた祖父の影響で、漠然と電力会社への憧れが染み付いていたそうだ。

電力会社への最短ルートをと考えて、高専に進学。卒業後は、計画通り都会の電力会社に就職した。宮崎県へ帰るつもりは、さらさらなかった。……はずだった。転機は、23歳のときに訪れた。休日にたまたま放映されていたテレビ番組が、串間氏の人生を変えた。

串間 「当時住んでいた社宅でテレビを付けたら、たまたま宮崎県のとある企業の取り組みを特集する番組を放送していたんです。地元の企業だからと安易な気持ちで観ていたら、番組の内容に衝撃を受けてしまって」

それこそが、ムスカの今の事業につながるイエバエの研究を行う様子だった。宮崎県に拠点を構える株式会社フィールド(以下、フィールド)が、ロシアから技術を輸入。旧ソ連時代に培った技術を基に、さまざまな研究開発に取り組んでいた。

ハエ研究はその中のひとつとして紹介されたものだが、「この企業に関わりたい」と串間氏はすぐさま決断。中部電力に退職届を出して、宮崎県へと帰ったのだ。フィールドの扉をノックする、そのためだけに。

事業に関わることで、改めてハエの能力に魅了された

宮崎の地に戻った串間氏の目的はただひとつ。フィールドへの入社を認めてもらうことだ。まずは面接の相談を、とフィールドに電話をかけてみたが、受話器の向こうから聞こえたのは衝撃的な一言だった。 串間 「24歳以下の応募は受け付けていないんです、と断られたんですよ(笑)。働く場所のあてもなく、社内結婚だった妻と一緒に仕事を辞めて宮崎に戻ってきたのに、そんな理由で引き下がるわけにはいかないと思って。テレビ番組の影響で事業に関わりたいと感じたことを熱く語りました」 なんとか面談にこぎつけて内定を獲得。串間氏の並々ならぬ覚悟が届いた瞬間だった。 ところで、23歳にして大きな決断に踏み切った串間氏だが、迷いや不安などはなかったのだろうか。 串間 「まったくありませんでした。昔から、直感が働いたら迷うことなく突き進むタイプなんですよね。本能を信じる、といいますか。地元である宮崎で先進的な研究開発にチャレンジする企業があることがうれしかったし、その技術もとても魅力的なものでした。あのテレビを観た日から、ハエのことばかり考えるようになったんですよ。もう、飛び込むしかないと思いました。……まあ、若気の至りもあったのでしょうけれど(笑)」 フィールドに入社後は、イエバエの研究事業とは別事業として行っていたベジ・フルーツ(品種改良によって栄養価を凝縮した野菜)の研究栽培事業に従事。栽培のためのマニュアル制作に勤しんだ。その後、社内の体制変更によって、イエバエの研究にも携わるように。関われば関わるほど、その魅力に惚れ込んだ。 串間 「どんどんハエがかわいくなったんですよね(笑)。まず成長速度が尋常じゃない。1週間もあればすくすく育つので、肥料化までもスムーズです。どんどん選別交配によって種が向上していくハエのすごさに、ただただ圧倒されていました」

宮崎の地に戻った串間氏の目的はただひとつ。フィールドへの入社を認めてもらうことだ。まずは面接の相談を、とフィールドに電話をかけてみたが、受話器の向こうから聞こえたのは衝撃的な一言だった。

串間 「24歳以下の応募は受け付けていないんです、と断られたんですよ(笑)。働く場所のあてもなく、社内結婚だった妻と一緒に仕事を辞めて宮崎に戻ってきたのに、そんな理由で引き下がるわけにはいかないと思って。テレビ番組の影響で事業に関わりたいと感じたことを熱く語りました」

なんとか面談にこぎつけて内定を獲得。串間氏の並々ならぬ覚悟が届いた瞬間だった。ところで、23歳にして大きな決断に踏み切った串間氏だが、迷いや不安などはなかったのだろうか。

串間 「まったくありませんでした。昔から、直感が働いたら迷うことなく突き進むタイプなんですよね。本能を信じる、といいますか。地元である宮崎で先進的な研究開発にチャレンジする企業があることがうれしかったし、その技術もとても魅力的なものでした。あのテレビを観た日から、ハエのことばかり考えるようになったんですよ。もう、飛び込むしかないと思いました。……まあ、若気の至りもあったのでしょうけれど(笑)」

フィールドに入社後は、イエバエの研究事業とは別事業として行っていたベジ・フルーツ(品種改良によって栄養価を凝縮した野菜)の研究栽培事業に従事。栽培のためのマニュアル制作に勤しんだ。

その後、社内の体制変更でイエバエの研究にも携わるように。関われば関わるほど、その魅力に惚れ込んだ。

串間 「どんどんハエがかわいくなったんですよね(笑)。まず成長速度が尋常じゃない。1週間もあればすくすく育つので、肥料化までもスムーズです。どんどん選別交配によって種が向上していくハエのすごさに、ただただ圧倒されていました」

漠然と抱いた自信と共に、独立を決意

ムスカは、フィールドの事業を受け継ぐ形で独立した企業だ。先代の後を継ぐのではなく、独立してゼロからスタートを切った。研究開発における莫大な負債を串間氏に渡すのではなく、リセットした状態で事業を始めてほしい。そんな先代の意図を汲んでいた。

ムスカは、フィールドの事業を受け継ぐ形で独立した企業だ。先代の後を継ぐのではなく、独立してゼロからスタートを切った。研究開発における莫大な負債を串間氏に渡すのではなく、リセットした状態で事業を始めてほしい。そんな先代の意図を汲んでいた。

串間 「アビオス(現在のムスカ)として、2006年に独立しました。フィールドで行なっていたイエバエ研究を中心に、ロシアからの技術輸入事業などもまとめてアビオスに移しました。独立後は愛媛大学や文部科学省などとの共同研究が進んでいたので、事業も順調に成長する見込みでした」

ただ、串間氏はイエバエ事業に専念しなければ、事業が成功しないのではと案じていた。生半可な状態で研究を続けることが、事業のためになるとは思えなかったのだ。

串間 「イエバエ研究は収益を生む事業ではありません。その当時、まだR&Dの必要性が強かった。中途半端にあらゆる事業を展開しながら研究を進めるだけでは、成功確度が低いと感じたんです」

串間氏の決意は揺るがなかった。収益を生まないイエバエの研究のみに事業を絞ったのだ。当時4〜5名程度だった社員に気持ちを伝えたところ、串間氏の決断なら、と賛同を得た。このときの決断も、直感と自信があったからこそできたものだという。

串間 「ブレイクスルーのタイミングがいつ訪れるのかはわからなかったですが、いずれ世界中の人々を救う技術であることは間違いないと思っていました。だから漠然と『いける』と自信を持てたんですよね。結果として、なかなか契約にはつながらなかったので2年間収益がゼロでしたが……。事業を絞るタイミングが少し早かったようです(笑)。その間もうちのハエたちは生産効率を上げていきました」

売り上げが立たない間は、これまでの貯金を崩したり、串間氏自身の車やマンションを売却したりとあらゆる手を尽くしてキャッシュを工面した。ブレイクスルーは、国や世界全体が環境問題への危機感を強く抱いたタイミングと同時に起こった。

串間 「独立直後から大企業を始めとする多くの企業からお問い合わせはいただいていました。ただ、まだ知られていない技術を利用してチャレンジする決断ができる企業は少なかった。ハエのイメージも悪いですからね。

ところが、2016年くらいから世界的にも人口増加や食糧危機の問題が可視化されてきています。みんなが危機感を抱いたからこそ、僕らの技術の必要性を実感していただけるようになりました」

変わることが当たり前。“暫定”と名の付いたCEOの存在

そんなムスカのブレイクスルーの背景には、ムスカの事業を強く伝え続けたひとりの女性の存在がある。暫定CEOの流郷氏だ。

もともとはムスカへ創業時出資を行なった株式会社ベイシズで最高広報責任者を務めていたが、ムスカのビジョンに共感し暫定CEOとしてのジョインを決めた。

■流郷綾乃(りゅうごう・あやの) ー1990年生まれ。スタートアップや中小企業の広報として活躍した後、フリーランス広報として独立。その後、株式会社ベイシズ 執行役員兼最高広報責任者としてジョイン。現在は株式会社ムスカ 暫定CEOを兼任する。
流郷綾乃(りゅうごう・あやの)ー1990年生まれ。スタートアップや中小企業の広報として活躍した後、フリーランス広報として独立。その後、株式会社ベイシズ 執行役員兼最高広報責任者としてジョイン。現在は株式会社ムスカ 暫定CEOを兼任する。

流郷 「ベイシズから立ち上がるプロジェクトのPR戦略を担うために執行役員でジョインしておりました。あるときムスカを担当することになって事業内容を詳しく聞いて驚きました。ハエって……みたいな。ただ、知れば知るほど、しっかりと伝えていかなければならないと感じたんです。とくにハエは、多くの人にとってネガティブな印象を与えますから。再定義して伝えなければなりませんでした」

国連が今掲げるSDGs(持続可能な開発目標)の17の項目の中には、世界的に問題となっている食糧危機や環境破壊などが並ぶ。ムスカが取り組む事業は、そのうちの最低でも14項目をも網羅するものなのだ。日本のみならず、世界全体が必要としている事業ともいえる。

流郷 「世界では、人口増加に伴い、食糧危機、飢餓人口の増加が叫ばれる中、同時で起る環境問題、さまざまな世界の社会課題と地球が抱える問題に、ムスカの事業は必要なんです。そして日本は、世界的に見ても食料自給率が非常に低い国です。その上、今後は人口の減少が叫ばれている。将来的な目線で見ると、子どもや孫の世代が苦労するような世の中になってしまうかもしれません。その世界や日本で起る現状をなんとか食い止めたい。そのための武器が、ムスカにあるんです」

PRを担う流郷氏が、ムスカの存在を広く伝えるために行なったのが、自ら広告塔としてムスカを代表する人間になることだった。ハエ事業に挑戦する会社と、若手の女性社長とのギャップは、PR効果が高いと考えたからだ。

流郷 「ある意味、打算的な考えだと賛否両論あるとは思いますが、今のムスカにとって必要なのは、伝えたことが伝わることです。フェーズごとに必要なことが変わるので、そのときにまた必要な人材も変わります。CXOは、事業のフェーズによって変わるべき。暫定は、決してネガティブな意味ではないんですよ。ある意味、少し先のフェーズを支える最強チームを作るための採用広報の一貫です。同時に意志の表明です。この企業は成長するという」

ムスカは、人類の共通財産を作り出す

日本の次は、世界へ。ムスカの挑戦はとどまることを知らない。世界中の人々を救うためのムスカの取り組みは、これまでのスタートアップとは比べものにならないほどのスピード感で急速に広まっていくだろう。串間氏は、今後の展開について以下のように語る。 串間 「ムスカは、最初から世界を見据えて事業を組み立てています。食糧危機や有機廃棄物による環境汚染などは、日本以外の地でも深刻な課題として取り上げられていますから。僕らの世代だけではなく、子どもや孫の世代にも残せる事業だと思うんです。そのために、今は人類の共通財産としてムスカの技術を届けていきたいですね。ムスカは、僕のではなく、みんなのもの。そう思っています」 ハエで世界中に影響を与える。まるで夢のようにも思えるが、彼らの取り組みはいずれ、私たちの日々の生活を支えるなくてはならない存在となるはずだ。

日本の次は、世界へ。ムスカの挑戦はとどまることを知らない。世界中の人々を救うためのムスカの取り組みは、これまでのスタートアップとは比べものにならないほどのスピード感で急速に広まっていくだろう。串間氏は、今後の展開について以下のように語る。

串間 ムスカは、最初から世界を見据えて事業を組み立てています。食糧危機や有機廃棄物による環境汚染などは、日本以外の地でも深刻な課題として取り上げられていますから。僕らの世代だけではなく、子どもや孫の世代にも残せる事業だと思うんです。そのために、今は人類の共通財産としてムスカの技術を届けていきたいですね。ムスカは、僕のではなく、みんなのもの。そう思っています」

最後に、これからスタートアップに飛び込むもしくは、起業する未来の挑戦者へ向けて。

最後に、これからスタートアップに飛び込むもしくは、起業する未来の挑戦者へ向けて、串間氏と流郷氏が届けるメッセージを聞いてみた。

串間 「挑戦してみたいと感じる強い思いや、根拠はなくても確信があるのだとしたら、臆せずチャレンジしてみてほしいと思いますね。失敗はたくさんあっても、強い思いがあれば諦めずにいられます。そして、その覚悟は必ずどこかで誰かが見ていてくれますから。目的と強い意志を持って取り組んでください。そして、そんな人はぜひうちに欲しいですね」

流郷 「私からは、起業家の方に向けて。起業するなら、なるべく早いうちにPRの人材を採用するか、自らがPR戦略力に長けた人材になることが必要です。情報社会の中では、大企業ですら発信した情報が埋もれがち。スタートアップなら、なおのことです。良いものを作れば売れる、という時代は終わりました。どれだけチャレンジングに自分たちの存在を伝えていけるのか。情報に翻弄されずに情報を使うこと。そこに、資金調達や事業成長のヒントがあると思いますよ」

*1:畜産の排泄物や生ゴミ等の有機廃棄物から、高品質の有機肥料と飼料へ1週間で100%リサイクルする「MUSCAシステム」から生まれる高機能肥料・飼料。

執筆:鈴木しの 取材・編集:BrightLogg,inc. 撮影:小池大介

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