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三井不動産が「脱炭素特化」の海外VCファンドと組む理由。「一歩目はまず、水先案内人と…」

2023-01-24
STARTUPS JOURNAL編集部
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STARTUPS JOURNAL編集部

三井不動産は2022年11月、脱炭素領域に強みを持つ3つの海外VCファンドへの出資を決めたと発表した。2050年度までに温室効果ガス排出量の実質ゼロを目指すことなどを盛り込んだ同社の行動計画に基づくもので、脱炭素技術に関する動向把握や、スタートアップとの連携などを狙う。国内の不動産デベロッパーが脱炭素領域に強みを持つ海外VCファンドへ出資するのは初めて。出資の目的やグループとして目指す姿などについて、担当するベンチャー共創事業部(31VENTURES)の塩山裕介氏、中野舜一郎氏、江尻修平氏の3人に話を聞いた。(※所属は取材当時)Sponsored by 三井不動産「我々が取り組む意義は非常に大きいと思います」三井不動産が脱炭素社会の実現に向けて動く意味合いについて聞くと、塩山氏はそう切り出した。ビルの建築に用いられる鉄やセメントなどの素材は製造時に多くの二酸化炭素を排出する。ビルが完成した後も、商業施設やホテル、オフィスビルでは日々膨大な電気やガスを使用し、発電の過程で石油や石炭などが使われれば同じく環境負荷が生じる。「それ以外にも、商業施設で使われている食器類やホテルのアメニティなどにもプラスチック製品があります」と塩山氏は指摘する。

プリンシパル 塩山裕介氏大手監査法人での会計監査、コンサルティングファームでの新規事業開発支援、コワーキングサービス会社でのスタートアップ投資・アライアンス支援やイベント企画等を経験。 現在は、CVCを通じた出資やスタートアップとの協業を担当。

こうした背景から、三井不動産は2021年11月にグループ全体の行動計画を策定。再生可能エネルギーの活用やメガソーラー事業の拡大などを通じて、グループ全体の温室効果ガス排出量を2030年度までに40%削減させるとした(2019年度比)。30年度までの削減量は累計約175万トンに上る計算で、一般家庭の電力由来の年間排出量で換算するとおよそ100万世帯分に相当するという。さらにその先の目標として、2050年度までの排出量実質ゼロを掲げる。実現に向けた重要な取り組みの一つとして位置付けられるのが、スタートアップへの出資などを通じたオープンイノベーション構想だ。スタートアップに注目する理由について、中野氏は次のように話す。

主事 中野舜一郎氏都心での高級賃貸マンション開発・営業企画業務を経験したのち、ラグジュアリーホテルの用地取得・開発・運営・分譲業務に従事。現在は、CVCファンド、LP出資、スタートアップとの協業、新規事業開発等を担当。

「エネルギーマネジメントや新しくビルを作る際の施工上の工夫など足元から取り組むのと同時に、少し先も見据えています。例えば2030年・50年の社会を想像した時に、脱炭素化はどう進むべきか、そのために必要な技術は何か、という考え方です。スタートアップが先端技術を追い求め、大企業にはできない一点突破によるイノベーションを目指すのだとしたら、脱炭素社会の実現のためには彼らとの協業を真剣に考えないといけません。そうでないと達成できないくらい難しい課題だと捉えています」脱炭素社会の実現を見据え、三井不動産がスタートアップとの協業の第一歩として選んだのが、脱炭素領域に強みをもつVCファンドへの出資だった。出資先はスイスの「Emerald Technology Ventures」、アメリカとイギリスの「Energy Impact Partners」、アメリカの「G2 Venture Partners」がそれぞれ組成するファンドだ。脱炭素関連のVCファンドへの出資は今後も続けていく方針だという。なぜスタートアップへの直接の出資ではなく、VCファンドを経由することにしたのか。中野氏が説明する。「脱炭素領域は2050年という非常に長い時間軸で考える必要があるうえ、再生エネルギー、蓄電池、水素、資源循環など様々な分野に及ぶため、我々としては、長期目線のロードマップを考えていきたいと思っています。現段階では直接CVCから脱炭素領域の特定分野のスタートアップに出資するより、脱炭素領域に強みを持つVCの目利き力を共有していただいて、注力すべき分野を探り、そこにどんなスタートアップがいて、どういう技術を持っているのかを理解したいのです」塩山氏は、情報収集を進めることで共創に繋がっていく可能性があると強調する。「例えば、CCUS(高濃度の二酸化炭素を固定化、または有効活用する技術)やEV(電気自動車)、発電・蓄電技術といったエネルギーなどの様々な技術や市場に対して、十分な知見や仮説がないまま『こんにちは』と出ていくのは難しい。一歩目としてやるべきことは、水先案内人として、目利きができるVCと関係を深めることだと思っています。良い情報を得られれば、社内の各部門に『こんなことが起きているから、こういうことをやった方がいい』と共有できるかもしれませんし、そこから新たな共創が生まれるかもしれない。そんな仮説に基づいてVCファンドへの出資をやっています」単なるフィナンシャルリターンだけではなく、出資先VCとのコミュニケーションに期待しての出資だが、対象はいずれも国内ではなく海外VCのファンド。中野氏によると、脱炭素にこだわった結果だという。「脱炭素に特化したVCやスタートアップの数や投資額はアメリカやヨーロッパが多くなっています。そのため海外ファンドを中心とした出資を検討してきました。インターネットなどのリサーチで約130社をリストアップしたあと、オンライン面談や現地出張などを経て今回の3社に絞りました。過去の実績のほか、しっかり対話ができるかどうかなど、知見を得られるような相手であることを重視しました。一方で、日本のVCやスタートアップとは、これから共に成長し、連携をしていきたいと考えています」出資先を選定する過程で、大企業への期待値の高さも肌で感じたという。「海外のVCやスタートアップと会ってみると、フレンドリーな方が多かったです。脱炭素領域のスタートアップは、社会実装にあたって一定の資金も必要ですし、大企業と協業しなければ商用化や社会実装化に至ることができないものも多いと思います。我々は大企業側の立場から、スタートアップと大企業が手を携えて一緒に脱炭素社会を実現していく世界を創っていきたいと考えています」目指すのはお互いの強みを「Give」し合える関係性だ。江尻氏は、三井不動産には独自の価値提供ができると指摘する。「一番は我々のアセット(資産)を使って実証実験を行えることです。例えば、ヒラソル・エナジーという企業は、柏の葉エリア(千葉県柏市)にある我々の物件で太陽光発電設備のモニタリングに関する実証実験を行ったあと、出資に至りました」

プリンシパル 江尻修平氏通信キャリアの法人営業部門に従事した後、自動運転関連事業を行う社内ベンチャーに出向。実証実験のプロジェクトマネジメント業務などを経て、三井不動産にてCVC業務にあたる。

大企業とスタートアップの協業による脱炭素に向けた取り組みは始まったばかりだ。30年以内に温室効果ガス排出量の実質ゼロを実現するという難題に立ち向かうことになるが、中野氏は「数値目標が全てだとは思っていません」と言い切る。「数値目標を達成するだけでなく、少し先の技術を見ている以上、やはりその技術を使って何ができるのか、大きなビジネスにつなげていける種はないのかを探したいです。脱炭素は目的ではありますが、新しい価値創造のための手段にしていきたいですね」(取材:株式会社ソレナ 撮影:加藤秀麻 編集:高橋史弥)

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