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成長産業領域の企業が、自社に優秀な人材を導くためには?

2019-09-19
STARTUPS JOURNAL編集部
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STARTUPS JOURNAL編集部

2019年8月30日、日本マイクロソフト株式会社が主催する「Microsoft Innovation Lab 2019」が開催された。会場であったザ・プリンスタワー東京では、スタートアップやVCなどに関わる人材を対象とした数多くのセッションが一日中行われていた。

Innovation Lab内で開催されたセッションのひとつ「成長産業で起きる人材流動と企業に求められる"ヒト"との適切なコミュニケーションとは」のイベントレポートをお届けする。スタートアップの課題感としてよく挙げられる「人」の流動性や優秀な人材の確保について、登壇者4名が語った。

スタートアップすらも、差別化はミッション・バリューによって図られる

■村上臣(むらかみ・しん)ーリンクトイン・ジャパン株式会社 日本代表
唐澤俊輔(からさわ・しゅんすけ)株式会社メルカリ 執行役員 Head of COO Office
■小林正忠(こばやし・まさただ)ー楽天株式会社 Co-Founder and Chief People Officer
清水和彦(しみず・かずひこ)フォースタートアップス株式会社 取締役 CHRO 兼アクセラレーション本部長

村上「最近、経団連の会長からも『終身雇用の存続は難しい』と声明が発表されている通り、企業で働く人材の流動性はますますなめらかになっています。そんなとき、企業側は給料や福利厚生などの面で、魅力をアピールしていますよね。各企業では、どのように人材を集め採用しているのか伺ってみたいです」

唐澤メルカリでは現在1,800人の社員が働いています。僕らは、創業時からミッションやバリューを採用の際の軸と決めているんですよね。ですから、すべての社員が『Go Bold』『All for One』『Be a Pro』の3つのバリューを体現する人材であることを求められています」

村上「どうして創業時からそれを意識していたのでしょう。組織が小さいときはわざわざ定めず、いわば暗黙知で採用することも多いと思うのですが。バリューに合う人材のみに限定すると、スキルだけを持つ人は採用できません。勇気がいる選択でもありますよね」

唐澤「そうですね。うちの場合、創業メンバーにシリアルアントレプレナーが多いので、一度目の反省を活かしているようです。スキルありきで採用しても、組織の強さは生まれないようで」

村上「なるほど。僕自身、ウノウの頃から(山田)進太郎さんを見ていたので、すごく納得感があります。創業者がいるときは、彼らの作ったカルチャーが強く根付いて伝わっていきますよね。楽天はいかがですか?」

小林「創業当初はミッションもバリューもありませんでした。というのも、楽天って1997年に創業したインターネット普及前のネットの会社なんですね。だから、そもそも世の中をインターネットの力で元気にしたいと思っている人しか、うちには集まらなくて。明文化していないものの、必然的にビジョンやミッションに共感している人が集まっていました」

清水「今の時代に限定すると、スタートアップにおいてもミッションやバリューをしっかりと発信できる企業が採用にも成功している印象があります。そもそも、スタートアップ自体、昔は条件面で厳しいとされていましたが、現在は給料面も福利厚生も一様に整っていますからね。企業の存在意義や創業者のビジョンが差別化ポイントになっているのだと思います。企業内にカルチャーが浸透している企業の方が採用にも苦労していないかなと」

村上「あと、リファラルで入社した社員のほうが、オンボーディングがうまくいくケースが多いですね。リンクトインも、入社する社員のほとんどが『LinkedIn』経由のリファラル採用です(笑)」

清水「リファラルが増えているのも、転職意思が強い状態で転職活動を行うという人が少ないことの表れですよね。少しの興味で話を聴いていただけのはずが、気がついたら転職していた、みたいなケースが増えていると思います」

村上「その点で、社員全員にミッションが浸透している場合には、社員全員がリクルーターになり得るから採用しやすいのは当然ですよね。現場で働いている社員の口から直接話を聞くと興味を持ちやすくもなるでしょうし。今の環境に不満足ではないものの、マンネリ化していると感じる場合には、そんな何気ない話ですら魅力的に映るはずです」

村上メルカリも、そういったミッションやバリューの浸透には力を入れている印象です。それどころか、コアバリューの『Go Bold』に関しては、社員でなくとも業界人なら誰でも知っているわけで(笑)」

唐澤「たしかに(笑)。浸透はものすごく意識しましたね。社内で使う業務ツールでも、すみっこにはミッションが書いてあったり、Tシャツにも書いてあったり」

村上「以前、メルカリのオフィスの近くを歩いていたら、メルカリパーカーを着た知り合いにお会いしました。日常的にみなさん着用するし、それにパーカー自体が良い生地だからお金あるんだなあって(笑)」

唐澤「いやいや。まあ、でもどれだけの頻度で目にするのかは、浸透を目的にした際には大事な要素ですよね。あとは、会話の中でもよくバリューが登場しますよ。『どこまでいったら“Go Bold”なんだろうか?』『いや、そこまでやったら“Too Bold”だよ』みたいな(笑)」

会場「(笑)」

グローバル展開を目指すなら、いち早く施策を始めるべき

グローバル展開を目指すなら、いち早く施策を始めるべき

村上「カルチャーって、浸透すると会話の中に当たり前のように登場しますよね。僕も、前職のヤフーでは『爆速』のフレーズが浸透しすぎて、クライアントからも『爆速で確認お願いします』とか言われていましたから(笑)。あとは、企業規模が大きくなってくると外国人採用が活発になることもありますよね。言語の変化によって、カルチャーの浸透度合いが変わることってあるのでしょうか」

小林楽天は、社員の25%が外国人なので、コミュニケーション言語を英語に切り替えました。まだ施策の途中ではありますが、今のところは英語に変えて大正解だったなと思っています。僕自身、もともとはTOEIC350点ほどの大した成績が取れないほど英語は苦手でしたが、日頃から使うことによってプレゼンができるまでには上達しましたし。それに、やはり英語でコミュニケーションを取る国が世界中には多いので、採用ターゲットの幅がぐっと広がった体感があります。 たとえば、インドのエンジニアは、すごくハングリー精神が旺盛ですし優秀な人材が多いんですよ。日本のエンジニアも優秀ですが、分母が小さいから採用が難しい。そう思うと、国内外を問わずに採用できる環境は強みとなり得ますよね。本気で会社をスケールさせたいと思うなら、いち早く言語は変更したほうが良いと思います」

村上「英語で日々仕事していると、阿吽の呼吸も通じないからすべてのことを言わないといけないんですよね。各国の当たり前が違うから、必然的にコミュニケーション量が増える。そして、言語化することによって、言葉が自分にも定着していくことに気が付きます」

小林「日本企業でもよくありますよね。社員数が多いと、年齢層によって価値観が異なるから当たり前も異なる、みたいな。わかりあっているようで、実はわかりあえていない組織も目にします」

村上「リンクトインに関して言うと、気になることがあったらすぐに突っ込む、いわゆるオープンな風土を大切にしていますね。また、社員同士が仲良くするカルチャーもあるんです。人間関係が良いほうが、積極的にチャレンジできるのではと考えているためです」

村上「グローバル化の動きって、最近はすごく注目を集めていますよね。実際、グローバル化を意識しながら採用に乗り出している企業も多いのでしょうか」

清水「正直なところ、まだまだ採用まで落とし込めている企業は多くないのではと思っています。グローバル化を意識していると言いながらも、採用基準は国内にフォーカスを当てたものでは、と思ってしまうことも。その点、スマートニュースさんはグローバル化を体現した採用基準を設けていますね」

村上「ファウンダーがダイバーシティに溢れた採用を意識しているのかどうかは、すごく企業成長の上でのキーになりますよね。たとえば、現地の社長は現地の人であるって、当たり前ですがなかなかできることじゃない」

清水「大企業には海外を経験した人材も多いので、そういった方をうまくスタートアップに取り込めるといいですよね。グローバル化に対しての本気度は、組織設計の段階である程度見えるのかなとも思います」

村上「少し話の軸を変えますね。では、そうした人材が無事入社した場合、パフォーマンスを最大限に上げるために必要な環境にはどのようなものがあるのでしょうか」

小林楽天は、本社を“クリムゾンハウス”と呼んでいるんですね。ハウスと名前を付けたのは、自分の家だと思ってほしいから。また、オフィスのある二子玉川駅に対してもこだわりがあります。二子玉川駅は、少し下るとすぐに川崎市に出られるので地価が低いんですね。とくに若手は都心で賃貸物件を契約すると固定費が負担になってしまうので、できる限り通いやすい場所をと考えてオフィスを移転しました。 また、オフィス内で生活のほとんどを負担できるよう、朝〜晩ごはんまで無料、クリーニング、ヘアサロン、ネイル、マッサージなどの設備も併設しています」

唐澤メルカリでは、個々のパフォーマンスを最大化するために、あえてルールを作らないことを意識しています。最近では社員数が増えてきたので『Trust and Openness』の基本ルールのみを設定しました。誰しもが自由に考え行動するために、グローバル規模でその思想を浸透できるよう努めています」

愛されるサービスを維持するためにスタートアップが意識するべきは?

村上「ここからは、テーマを『大企業がイノベーションを起こすための人との適切なコミュニケーションとは』に移してトークを展開していきたいと思います。僕自身、オープンイノベーションに関する相談をいろいろと受けるのですが、大切なのはトップの声なのではないかと思うことが多いんですよね。ファウンダーがいることで、より変化しやすくコミュニケーションを取りやすい組織ができるように思うのですがいかがでしょう」

小林「たしかに。楽天では、毎週月曜日の朝8時から朝会を行なっているんですね。そこでは、事業の成功例や失敗例などを学んでいるんですが、会の最後にかならず“ミッキースピーチ”と呼ばれる、代表が話す時間を設けていて。イノベーションについて、ビジョンやカルチャーについてなど、そのときどきに合わせた話をするんですよ。23年間ずっと続けていると、社員にもしっかりと考え方が届くようになっていると実感しますね」

清水「帰属意識の向上にもつながりますね。あと、ブランドや企業の一番の差別化要素は、ストーリーだと思っています。見た目やビジネスモデルはいくらでもまねできるけれど、ストーリーだけは模倣できませんから。だから、過去の思い出やエピソードを発信することと共感してくれる仲間を増やすことは、組織を強くする上ですごく大切だなと思いますね」

村上「ブランドコミュニケーションの話だと、ロゴの大切さもすごく語られますますよね。楽天は、昔と今とを比較するとロゴがだいぶ異なりますが……?」

小林「昔は、“楽天市場”と、筆文字で書いてあるロゴでしたからね。上場前に、ファミレスで社名変更しようと話して、そのままロゴも変更したんですよ。当時はMDM(マジカルデジタルマーケット)が社名でしたが、EC以外にも事業を広めるために、楽天に。そして、グローバル展開を見据えて“R”の文字のみをロゴにあしらいました。サービス名とドメイン名を統一するために、さまざまな社名を検討していましたね」

唐澤メルカリも、旧社名は『コウゾウ』ですからね。まあ、サービス開始から半年後には今のルカリの名前に変更していますが、グローバル展開を考えた名前だったはずなのですが、どうやら発音はしにくいらしいです(笑)。あと、国ごとにトレンドがあるので、カラーはあえて統一せずにデザインしています。国内は赤ですが、青がメインカラーの国もあります」

清水「スタートアップの場合は、設立当初の社名から変更する、いわゆるリブランディングが多い印象がありますよね。それこそ、サービス名と社名が異なると、電話で社名を言っただけで切られるみたいな話も聞いたりします」

村上「サービスが良いけれど知名度がない場合って、スタートアップはどうしたらいいんですかね。メルカリ楽天の場合は、メディアへの露出が多いイメージがありますが」

唐澤「うちの場合は、進太郎さんとは別に代表で小泉がいるので、彼が露出することが多いですよね。露出するときも、社内での役割分担を行なっています。ひとりでこなすのが難しいから、みんなで登壇を分担しよう、みたいな。僕が登壇している今が、まさにそれです」

小林三木谷さんも、最初の頃こそは脱サラのストーリーやインターネットベンチャー論を語ることが多かったですが、本業が忙しいあまりにメディアに出ることはなくなりましたね」

村上「ソフトバンクのさんもメディアに出ないことで有名ですよね。しかも、社員がメディアで戦略や施策を話しすぎることをひどく嫌ったと聞いたことあります。まあ、とはいえ、露出の場を適度に持つのは、スタートアップの成長にとっては大切な要素となり得るのかもしれませんね」

まとめ

・企業規模に関わらず、福利厚生や給与面は大きな差がなくなっている

・ミッションやバリューが差別化ポイント

・社員が通いやすいオフィスであることが求められている。オフィス内に揃っている環境や、立地がその対象である

・大企業もスタートアップも、愛されるブランド作りが重要

・グローバル展開の有無を問わず、愛社精神や帰属意識は組織作りの上で大切な役割を担っている

執筆:鈴木しの 編集:BrightLogg,inc. 撮影:戸谷信博

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