2021年上半期は、新型コロナウイルス感染症の収束の見通しが立たない中、新たな働き方の推進や、時勢にマッチした事業展開を行い、環境に順応しながら成長を続けていくスタートアップも多くみられた。
スタートアップの合計調達金額は、2020年上半期では3,887億円だったのに対し、2021年上半期では3,835億円とわずかに減少。調達社数でも、2020上半期の1,012社と比べ、2021年上半期では841社と減少している。
一方、資金調達1件あたりの平均値と中央値はともに継続的な上昇傾向にある。SmartHRのLight Street Capitalをリード投資家とした156億円の資金調達や、TBMが発表したSK Japan Investmentとの間の135億円の資本提携などの大型調達も注目を集めた。
また、評価額が1,000億円を突破した企業数は、2021年年始の7社から12社に増加している。新規上場したスタートアップ数は22社にのぼり、初値時価総額が2,000億円を超える企業も2社確認できた。
本記事では、スタートアップ・投資家・新規組成ファンド・新規IPO企業などの視点から、2019年・2020年との比較も交えながら、2021年度上半期のスタートアップ投資の概況と動向を分析していく。
合計調達金額を各年で比較すると、2019年上半期は3,719億3,400万円、2020年上半期は3,887億5,200万円に対し、2021年上半期では3,835億3,823万円であった。2019年に比べて増加、昨年と比較して微減している。
一方、2021年6月における合計調達金額は1,156億円と、過去2年間の同時期と比べ、2倍以上の金額に上る。同時期では、カカオジャパンが542億円、SmartHRが156億円、TBMが135億円の資金調達を伴うSK Japan Investmentとの資本提携、Heartseedとユニファのそれぞれの40億円など、大型調達が相次いで発表されている。
資金調達実施企業数をみると、2019年上半期では合計1,088社、2020年上半期は1,012社、2021年上半期では841社と減少している。また、資金調達1件ごとの調達金額の内訳に着目すると、2021年上半期における1億円未満の資金調達件数が以前2年間と比べ、目立って少ない様に見受けられる。
一方、10億円以上の調達件数が全調達に占める割合は、2019年では3.86%、2020年では4.61%であるのに対し、2021年には8.28%に上昇している。
このデータから、スタートアップによる大型調達の増加、全体的な調達金額の上昇がうかがえる。
2021年上半期における資金調達1件あたりの平均値と調達金額の中央値は、直近3年で最高の水準に達している。
2019年上半期では中央値が9,000万円、平均値が3億7,380万円。2020年上半期の中央値は 1億500万円、平均値は4億2,281万円であるのに対し、2021年上半期における中央値は1億5,000万円、平均値が5億7,999万円という結果になった。
2021年は前年と比べ、資金調達実施企業数、合計調達金額では減少をみせたものの、資金調達1件あたりの調達金額は上昇傾向にあるといえる。
評価額が1,000億円を突破した企業数は、2021年1月時点の7社から12社に増加。また、ランクイン企業全てが評価額500億円以上という結果になった。1位はPreferred Networksで不変だが、2位以下の顔ぶれに変化が生じている。
2021年1月時点では320億円だったSmartHRの評価額は1,731億円に上昇し、3位に浮上。スマートニュース、TRIPLE-1、Paidy、GVE、HIROTSUバイオサイエンス、ヘイは、2021年1月から評価額を500億円以上伸ばしていることがわかる。
また、2020年1月時点と比べた際の新規ランクイン企業は、SmartHR、HIROTSUバイオサイエンス、ネットプロテクションズホールディングス、ヘイ、スリーダム、atama plusの6社だ。
SmartHRは2021年3月から6月にかけて、Light Street Capitalをリード投資家とした総額156億4,400万円の資金調達を実施。企業評価額は2021年1月と比較して5.4倍以上となる1,731億円に上昇し、ユニコーン企業になった。
スマートニュースは、2021年1月4日時点より順位をひとつ上げ、評価額1,916億円で2位に浮上。登記簿から確認できた2021年5月における142億円の資金調達が、今回の評価額上昇に繋がった要因だ。また、同社の累計調達金額は332億9,300万円に達した。
Paidyは2021年3月に、複数の海外機関投資家を引受先とする総額131億3,200万円(1億2,000万米ドル)の資金調達を発表。企業評価額は2021年1月4日時点の2倍以上に成長し、1,450億円で5位にランクインした。
また、2020年1月時点と比べた際の新規ランクイン企業は、SmartHR、HIROTSUバイオサイエンス、ネットプロテクションズホールディングス、ヘイ、スリーダム、atama plusの6社だ。
HIROTSUバイオサイエンスは1,000億円の大台を突破し、12位にランクイン。同社は2021年3月以降、フューチャーベンチャーキャピタル、SBIインベストメント、菱熱などから総額6億6,000万円以上を調達しているほか、三井住友海上あいおい生命保険と資本業務提携を締結している。
13位にランクインしたネットプロテクションズホールディングスは2021年2月以降、合計で69億7,200万円を調達。引受先にはジェーシービー、インフキュリオン、Pavilion Capitalが参画しており、ジェーシービーとの資本業務提携も発表している。
atama plusは2021年7月に、既存投資家のDCMベンチャーズとジャフコグループに加え、新規投資家のシンガポール政府系ファンドPavilion Capitalと米運用会社大手のT. Rowe Priceなどを引受先とした、総額51億円の資金調達を実施。2021年1月時点より評価額を400億円以上伸ばしている。
2021年上半期資金調達ランキングでは、合計調達金額100億以上の企業はTBM、Mobility Technologies、ヘイ、SmartHR、スマートニュース、Paidyの6社となった。
2020年上半期では、期間内における合計調達金額が100億円を突破した企業はVPP Japanの1社のみであったことから、2021年上半期はスタートアップによる大型調達が目立ったといえる。
また、期間内における合計調達金額のトップは、2020年上半期は上述のVPP Japanの100億円であるのに対し、2021年上半期ではTBMの188億2,000万円となっている。
2021年7月にSK Japan Investmentとの135億円の資金調達を伴う資本提携に合意したことを発表。累計調達金額は327億8,300万円に達した。2021年3月には、南都銀行をアレンジャーとした全10行によるシンジケートローンと、商工組合中央金庫と日本政策金融公庫からの資本性ローンによる協調融資も行っている。その総額は36億2,000万円にのぼる。
2021年4月における約100億円、同年6月における75億5,700万円の資金調達を登記簿から確認。詳細は発表されていないものの、2021年4月の調達は、Mobility Technologiesのキャピタルコール行使等によるもので、NTTドコモの2020年7月における100億円の出資に対する追加出資だと推測される。
また、2021年6月には、あいおいニッセイ同和損害保険との資本業務提携も締結しており、累計調達金額は470億8,200万円に達した。
2021年7月における2回の資金調達を登記簿から確認し、その合計額は162億円を超える。同社は2020年8月にベインキャピタルやゴールドマン・サックス、PayPal、YJキャピタル(現Z Venture Capital)などを引受先とする第三者割当増資を実施しており、ベインキャピタル単体で70億円に及ぶ出資が実行されている。設立以来の累計調達金額は321億7,400万円に及ぶ。
総額約131億3,200万円(1億2,000万米ドル)の資金調達を2021年3月に完了している。同時に、2020年末におけるゴールドマン・サックスとのウェアハウス・ファシリティの増枠、三井住友銀行との借入枠の新規設立、みずほ銀行をアレンジャーとする複数の金融機関のシンジケートによるウェアハウス・ファシリティ設立による追加借入枠の設営を完了したことも発表。同社の累計調達金額は636億8,500万円に達した。
上記の表は、2021年上半期において、国内スタートアップへの投資を実行した投資家の投資件数ランキングである。2020年上半期では大手銀行系VCであるみずほキャピタル、SMBCベンチャーキャピタル、三菱UFJキャピタルの3社が上位を占めていた。
一方、2021年上半期のランキングを見ると、独立系VCであるグローバル・ブレインとANRIが順位を上げ、上位2社にランクイン。11社のうち6社が独立系VCという結果になった。
また、20件以上の投資を実行した投資家数は、2020年上半期が4社であったのに対し、2021年上半期では6社に増加している。
2020年上半期は10件だった投資件数が2021年上半期では36件となった。1998年に設立され、徹底したHands-on支援や、グローバルなエコシステムの構築、ベンチャー企業と大企業とのオープンイノベーションのノウハウをアセットとして活用。様々な課題解決やイノベーション創出に取り組むスタートアップを支援している。
2012年に1号ファンドを設立した独立系VC。3号ファンドまでの累計で約100億円を運用し、110社以上へ出資している。2021年4月には、2019年に組成した4号ファンドが250億円でファイナルクローズしたことを発表。同ファンドにおいて2021年3月末時点で、53社に投資を実行している。
また、Withコロナ時代に向けたオンライン完結型の投資の開始や、全投資先のうち女性が代表を務める企業の比率を最低でも20%に引き上げる投資方針など、時代に即しダイバーシティやインクルージョンの推進にも取り組んでいる。
2005年に設立された、SMBCグループのベンチャーキャピタル。成長性の高い未上場企業に投資する基幹ファンド、産学連携ファンド、領域特化型ファンドなどを運用。アーリーステージのスタートアップを積極的に支援しており、累計で700社超、500億円超の投資を行っている。投資先企業の累計上場社数は、2021年8月時点で427社となっている。
2021年上半期において、50弱に及ぶファンドの新規組成が公開された。中でも、SBIインベストメントの「SBI 4+5ファンド」は1,000億円規模に上り、金額において他ファンドより目立つ存在だ。
このうち、組成額順に上位10位までを表にまとめた。上位ファンドのGPには、金融系VCや大学系VCの他、CVCも名を連ねている。
2021年4月に、SBIインベストメントによって設立された運用総額1,000億円の巨大ファンド。フィンテックやAI、ブロックチェーン、ヘルスケアやインフラなどのDX関連を中心として、革新的な技術やサービスを有する幅広い企業を投資対象としている。
国内最大規模のサイエンス・テクノロジー領域を対象とするファンドであり、2021年5月に東京大学エッジキャピタルパートナーズをGPとして組成された。ファンド運用額は300億円にのぼり、グローバルな市場や人類的な課題に挑戦するスタートアップへ出資している。
大学系VCである京都大学イノベーションキャピタルが立ち上げ。京都大学の研究成果を活用するベンチャー企業を主な投資対象とするファンド。2021年1月に組成され、運用額は181億円にのぼる。
2021年上半期に確認された、スタートアップへの出資を行なっているCVCと事業会社をランキング形式にしてピックアップした。
出資件数5件を超えたのは表に記載した計15社であり、CVCの博報堂DYベンチャーズに関しては10件以上の出資が確認された。
2019年5月に設立された、博報堂DYグループのコーポレートベンチャーキャピタル。昨年の上半期と比べ出資件数は4倍となった。国内を中心としたシードからレイターまで幅広いステージでの投資を展開しており、革新的なテクノロジーを保有する企業や、新たなビジネスモデルを創出する企業を投資対象としている。
インターネット業界を投資対象とする、サイバーエージェントのベンチャーキャピタル。2006年に設立された。同社の事業創出・拡大経験をもとに、シード・アーリー期の投資のみならず、起業家のパートナーとして成長支援を行なっており、これまで350社以上への支援を行ってきた。
※21/9/14サイバーエージェント・キャピタル社より修正依頼があり、”サイバーエージェントのコーポレートベンチャーキャピタル”より“サイバーエージェントのベンチャーキャピタル”に修正。
2009年6月に立ち上げられた、デジタルガレージグループのCVC。投資対象は、世の中に大きく貢献しうる有望なスタートアップ企業であり、事業育成及び新規メディアの創出を目的としている。今後はSDGsへの貢献も念頭において活動していく方針だ。
2021年1月〜6月の期間内に新規上場を果たした企業数は、全市場の合計で66社、うち、スタートアップ(注1)は22社であった。2020年上半期では新規上場企業数は36社、そのうちスタートアップが13社を占めていたことから、前年と比較して今年はIPOが活発だったことが読み取れる。
また、新規上場スタートアップの中での初値時価総額トップはビジョナルで、その金額は2,545億円にのぼる。2020年通年において、新規上場スタートアップの初値時価総額の最高値がプレイド(1,178億円)であったことからも、ビジョナルのIPOの規模の大きさが伺える。
アクセスデータの解析が可能な人工知能ソリューション「AIアナリスト」を提供するWACULと、SSL/TLSサーバー証明書サービス「SureServer」を運営するサイバートラストは、初値騰落率+300%超え。WACULは1,050円の公開価格に対し、初値は4,645円で形成され、初値騰落率は+342.4%を記録している。サイバートラストも公開価格の1,660円に対して、初値はその4倍以上の6,900円となっている。
なお、2021年上半期に新規上場を果たしたスタートアップ22社の全てが、初値騰落率においてプラスの数値を記録。新規IPOに対する世間の注目度の高さが伺えるとともに、上場後の各社の躍進に期待が寄せられる。
注1:STARTUP DBでの掲載基準に基づく
2020年2月にビズリーチがグループ経営体制に移行したことにより誕生したホールディングカンパニー。2007年8月のビズリーチ創業からおよそ13年9ヶ月での上場となる。
マーケティングやセールス活動を支援するSaaS型AIサービス「AiDeal」や「AIQUA」を提供。同社の起源は2012年に台湾にて設立されたAppier, Inc.で、2018年4月に東京オフィス開設、2019年1月には組織変更し、Appier Groupが誕生。17の国と地域に子会社をもち、売上の最大シェアを占める地域が北東アジアであることから、日本における上場を決断。
同社は、自然言語処理とデータマイニングの技術を活用したテキストマイニングツール「見える化エンジン」などを提供している。2019年3月には資本政策の一環として、野村キャピタル・パートナーズへの51億円超の株式移動を実行。2021年6月30日にマザーズ市場への新規上場を果たし、初値時価総額は1,089億円にのぼった。
2021年3月30日にマザーズ市場への新規上場を果たしたスパイダープラスは、建設業に特化した図面管理・情報共有システム「SPIDERPLUS」などを提供。同社は1997年9月に熱絶縁工事を営む個人事業、伊藤工業として創業。その後、組織変更と商号変更を経験している。2006年の設立以降、7回の資金調達を実施し、累計5億9,390万円を調達している。
・スタートアップ全体の合計資金調達額は3,835億円、資金調達実施企業数は841社
・調達金額の中央値は1億5,000万円、平均値は5億7,999万円
・想定評価額1,000億円突破企業は12社
・期間内における合計調達金額が100億以上の企業は6社。1位はTBMの188億2,000万円
・20社以上のスタートアップへ投資を行った投資家は7社、トップはグローバル・ブレインで36件
・新規ファンド組成数は50弱、組成額トップはSBIインベストメント(SBI 4+5ファンド)の1,000億円
・事業会社&CVCによるスタートアップへの出資件数のトップは博報堂DYベンチャーズの12件
・期間内で新規上場を果たしたスタートアップは22社、初値時価総額のトップはビジョナルの2,545億円
2021年上半期では、以前2年と比較して資金調達実施企業数の落ち込みが見られたものの、調達額の中央値と平均値は継続的な上昇傾向を示した。評価額が1,000億円を突破した企業数は直近7ヶ月間で5社増加し、12社に達した。
期間内で合計100億円以上の資金調達を実施した企業数は6社にのぼり、スタートアップによる大型調達が話題となった。また、独立系VCや事業会社、CVCを中心としたスタートアップへの投資も活発化しており、IPO企業数も昨年と比べて増加している。
2021年下半期も、スタートアップの動きから目が離せない。
STARTUP DBは今後も、スタートアップ情報のプラットフォームとして、様々な観点からスタートアップの動向に注目していく。