スタートアップインサイト

「社会課題解決」と「経済的リターン」のはざまで、私が考えていること。【社会課題解決型スタートアップの実像を知って / taliki・中村多伽】

2023-09-06
中村多伽(taliki 代表取締役CEO)
Editor
中村多伽(taliki 代表取締役CEO)

「社会課題の解決」を目的に生まれるスタートアップ。

売上アップなど営利企業の「当たり前」が、起業の目的である「課題解決」とバッティングすることもある。VC(ベンチャーキャピタル)として社会起業家に対し出資・事業開発・広報支援などを実施するtalikiの中村多伽・代表取締役CEOはそう指摘します。

前編では、時として経済合理性よりも優先すべきものが生まれる社会課題解決型スタートアップの現実について中村さんに語って頂きました。

中村さんは、社会課題解決型スタートアップに投資するファンドの運営者も務めています。急成長を志向できないこともある一方で、ファンド運営にはLP(ファンドへの出資者)へ金銭的なリターンを出すという責任も伴います。

資本主義と理想の間で、中村さんはどのように折り合いをつけているのか。

社会課題解決型スタートアップについて語って頂く特集の後編です。

(前編はこちらから)

(聞き手・編集=高橋史弥 / STARTUPS JOURNAL編集長)

課題の深さと市場規模の大きさは比例しない

私は、社会課題解決型の事業は必ずしもIPOやM&Aのイグジットを目指す必要はないと考えています。

例えば、高齢化や地域の過疎化に対するソリューションならば、汎用性が高くビジネスとしても拡大余地がありそうです。ただ、地域の特産品を生かしたビジネスや、地域に雇用を生むのが目的ならば、全国展開も、ましてや60億人が買うサービスになる必要もない。起業の目的が達成されるならば拡大しなくても良いのです。

「社会課題の深さ」と「市場規模の大きさ」が比例すると考える方もいるかもしれません。スタートアップの世界には「皆が欲しがる良いものは絶対に大きくなる」という力学もあると感じます。

ですが、そんなことは全くありません。市場規模と比例するのは課題に対するソリューションの汎用性の高さであって、課題そのものの深さとイコールではないのです。

talikiでは社会課題解決型スタートアップに投資するファンドを運営していますが、(IPOやM&Aなどの)出口戦略が見えなくても投資できるスキームは絶対にあった方がいいと思っています。

ファンドの運営者として

ファンド運営には事業創造と資産運用の2つの側面があると考えています。

talikiファンドのLP(ファンドへの出資者)は幸いにも事業創造のため、つまり「何でもいいからファイナンシャル・リターンを出してほしい」というよりは事業シナジーや社会起業家との出会いにプライオリティ(優先順位)を置いてくれています。

もちろん出資者にはリターンをお返しします。投資先のスタートアップも(企業価値を)1,000倍にするつもりで頑張っていますし、そうなるのがベストです。

一方で、仮に1,000倍にならなくても資産運用者として失格にならないリスクヘッジはしています。リターンがたくさん出るけれど不確実性が高いところよりも、確実性を求めて、確信できるところに投資する場合もあります。

では確実性とは何かといえば、私たちはシード投資のため、ビジネスモデルよりも経営者を見ています。「会社を大きくしないと課題解決にならない」と思えるタフネスがあるがどうかや、周りから応援され、しんどくても企業として死なずに済むかどうかなどを見極めます。

ファンドには、株式を一切取得せず利益と連動する形でリターンを算出する「プロフィットシェア」というスキームも導入しました。これで、ホームランのようなリターンは望めない一方でリスクも小さい事業へ投資できるようになりました。急成長してIPOなどを目指すのが社会課題解決において正しい戦略ではないケースは、むしろこちらの方が適しています。

ただ、この出資方法はほとんどワークしていないのが現実。社会起業家もIPOを志向するケースが多いことに加え、スキームに対する認知や解釈が難しいことなどが原因でした。今は、出口戦略のない社会課題解決型事業がもっと使いやすい方法を用意せねばと思っています。

しんどいけれど、難しいパズルにワクワクする

社会課題に対して、ビジネスソリューションが届ききっている実感はまだありません。

「ビジネスになるかどうか」で言えば、受益者負担が成り立つがどうかが大事です。ただ社会課題の中にはそれが成り立たないものが圧倒的に多い。ではどうするかといえば、その課題が解決されることで二次的に喜ぶ人を探すわけです。

いわゆる第二の受益者を探す活動になりますが、これが凄く難しい。飢えに苦しむ人たちに食糧を届けることで二次的に喜ぶ人は誰か。既存の手段ではビジネスにできない領域があからさまに残っています。そこに対しては、資本主義の力学ではないところのお金が流れ込むようにしたい。例えば、寄付だからこそむしろ解決できる課題もあると思っています。社会課題によって適した事業スタイルがあり、役割分担をしていくのが良い。

スタートアップで解決できるところは、スタートアップで。talikiファンドの投資先は皆、めちゃくちゃ頑張っています。大輪の花が咲くには時間がかかるかもしれないけれど、トライアンドエラーを繰り返すと起業家はこんなにも成長するのか、と感動しています。

私自身、ファンドを立ち上げた頃は、無力感に苛まれていました。周囲からの期待と、何も成し遂げていない自分とのギャップに苦しんでいたんです。

今も、何も出来ていないことに変わりはありません。ですが、「出来ていないこと」への解像度が上がりました。火事が問題ならば、ホースを増やすのか、ホースを流れる水の量を増やすのか、ホースだけでなくドローンで水を撒いたらいいのか…一つ一つがどれくらい進んでいて、何が課題なのかを考えられるようになってきたんです。

しんどいこともあります。でも面白さの方が勝っているから社会起業家を応援し続けられる。器用な人だったら誰でも儲けられる、みたいなことは面白くない。社会課題という難しいパズルをどうやって解くのか。私はそこにワクワクするタイプなんです。

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