コラム

スタートアップ向け「グロースマーケティング」基礎講座。初期プロダクトにおけるデータ活用と「OODAループ」の重要性

2024-03-20
小嶋利典(DearOne シニアコンサルタント)
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小嶋利典(DearOne シニアコンサルタント)

志は高い。しかし人材も資金も限られているのがスタートアップ創業初期の常です。プロダクトを世に送り出す段階ではマーケティングの知識や視点が必要になりますが、適切な改善サイクルを回すためのリソースが揃っているとは限りません。

「グロースマーケティングにしっかりと取り組めている企業は少ない」。NTTドコモグループで、デジタルマーケティング戦略策定などを支援するDearOneの小嶋利典・シニアコンサルタントはそう指摘します。

今回は、小嶋氏の寄稿をお届けします。スタートアップ企業向けに、グロースマーケティングの基礎から実践までを網羅的に学べる内容になっています。

目次:

グロースマーケティングは「持続的成長」を目指す
失敗から誕生した「Instagram」
グロースマーケティングの初手はユーザー理解
次の打ち手がわかるマジックナンバー分析
グロースマーケティングはOODAループで継続
最後に

グロースマーケティングは「持続的成長」を目指す

DearOneグロースマーケティング部の小嶋利典と申します。私は2012年から10年以上、50以上のアプリの立ち上げやWebサイト等のグロースハックに携わってきましたが、グロースマーケティングは現代の企業全てに必要な手法だと考えています。

グロースマーケティングは2010年頃からアメリカで取り入れられている、事業の「成長」に重きをおいたマーケティング手法であり、製品やサービスの利用者数を増やすだけでなく、顧客満足度を高め、顧客リテンション(継続利用)を図るものです。

この寄稿では、これまでの経験・事例を基に、読者の皆様のサービスグロースに関する日々のマーケティングのヒントになるようなお話ができたらと思います。

小嶋利典/DearOne シニアコンサルタント
2012年DearOne参画。企業アプリ黎明期からアプリ開発に携わり50以上のアプリ立ち上げ・グロースプロジェクトに参加。その後、自社アプリ開発サービス「ModuleApps」のプロダクトマネージャーとSaaSサービス成長を牽引。現在はそのノウハウをもとに、UI/UXの改善・エンゲートメントツールを使ったアプリのグロース支援・コンサルティングを実施。

近年、サブスクなど手軽なサービスの増加により、顧客が容易にサービス乗り換えができるようになったことから、新たな顧客を獲得するだけでなく、既存の顧客を維持する必要性が問われています。

こうした背景から注目されているのがグロースマーケティングで、具体的に以下3つの取り組みを行います。

1. 顧客体験を向上させる
2. データをもとに施策・改善を行う
3. 顧客と継続的に関係構築をする

簡潔にまとめれば、グロースマーケティングとは「顧客にファンになってもらいサービスをたくさん利用してもらう」ことで持続的成長を目指すということです。LTV(顧客生涯価値)や継続率など顧客目線の指標を設定し、データに基づいて施策を行い、分析・改善を通じてより良い顧客体験の提供を目指すのです。

失敗から誕生した「Instagram」

グロースマーケティングが広く注目されるようになった事例をご紹介しましょう。

今では多くの人が利用しているInstagramですが、元々は位置情報共有が主な機能である「Burbn」というアプリでした。

位置情報機能を利用し写真とともにチェックイン情報を投稿する。

これがアプリの主な使い道としてリリースされましたが、ユーザー数が伸びないことに加え、定着率が低いことが課題として挙げられていました。

ユーザーがアプリをどのように使っているのか、定着ユーザーを対象に行動分析を行ったところ、主に「写真投稿」と「投稿された写真へのコメント」のためにアプリを利用していることが判明しました。そこで「写真機能のある位置情報アプリ」から「位置情報機能のある写真投稿アプリ」へとサービス方針を転換させます。

2010年10月、わずか8週間の開発期間でアプリストアに登場したこの新アプリはまたたく間に評判となり、2カ月後には100万人ユーザーを獲得。その後、リリースから1年を待たずしてユーザー数は1,000万人に到達します。

この事例は、初期のプロダクトにおいてユーザーがサービスの何を利用し、何に満足しているのかを探り当てることが、いかに重要かということを物語っています。

Instagramの場合、「写真の共有」がエンゲージメントのポイントでした。

グロースマーケティングの初手はユーザー理解

では、Instagramのようにエンゲージメントポイントを見つけるためには何をすれば良いのでしょうか。

重要なのはユーザーを理解することです。ユーザー理解を深めるためには、定性分析と定量分析の2つがあり、それぞれ次のような手法があります。

● 定性分析:ユーザーインタビュー
● 定量分析:データを活用した分析

ユーザーインタビューは広く一般的な手法のため、ここではデータ活用を通じたユーザー理解についてご紹介していきます。

一口にデータ活用といっても、着目する指標や分析方法はさまざまです。その中で、私は「ユーザー行動分析」が重要だと考えます。

Webやアプリ上で、ユーザーがどのような機能を使っているか、離脱ポイントはどこかなど、行動を知ることで適切な施策や改善点が見えてきます。

例えば、Webサイトに訪れた人のうち、資料請求や問い合わせをしてくれるユーザーが取っている行動は何か?当社メディアの場合「記事を5本読む」という行動を取った人が、資料請求や問い合わせしているという分析結果から、サイト上で回遊を高める施策を行っています。

これは、行動分析から導き出せた示唆であり、PVやUUだけを追いかけていては気づかない盲点でした。

PMF(用語解説)を推進しているスタートアップにも、ぜひ「行動分析」を取り入れて欲しいと思います。PMFしているかどうかは、さまざまな局面で投資家に対して説明を求められるものです。

行動分析から得られた結果は仮説を裏付けるデータとなり、投資家に対して説得力を持たせてくれる材料となるのではないでしょうか。

次の打ち手がわかるマジックナンバー分析

行動分析にもさまざまな種類がありますが、面白い分析方法を一つご紹介します。

それがマジックナンバー分析です。

マジックナンバーとは、プロダクトを継続的に使ってもらうための鍵となる数字のことで、その数字を導き出す分析方法です。Facebook(現・Meta)社は継続利用しているユーザーの行動を分析したところ、ある一つの共通点を発見しました。

10日以内に7人と友だちになる

これがFacebookのマジックナンバーであり、これを基にマジックナンバーを体験してもらうためのUX改善や適切なメッセージ訴求に取り組みました。

マジックナンバー分析は、ユーザに継続してサービスを利用してもらうために何に取り組めば良いかがわかるため、当社のお客様からも好評をいただいております。実際に、お手伝いしている飲食企業様のアプリでは、ある機能を3回使ってくれた人は、アプリを使い続けてくれることがわかっています。

グロースマーケティングはOODAループで継続

グロースマーケティングは、日々データと向き合い、ユーザーのインサイトを探りながら施策を繰り返します。根気の要る作業です。その上、コストや人的リソースが限られているスタートアップでは、成果を出すために「高速で」改善活動をすることもポイントです。

PDCAサイクルを回す…とよく耳にすることもあるかもしれませんが、私は「OODAループ」をおすすめしています。

OODAループとは、短期間に何回も「Observe(状況の観察、情報収集)」「Orient(状況理解、判断)」「Decide(意思決定)」「Action(実行)」を回していくもので、意思決定から行動までを効果的に進めるためのサイクルを指します。

実際、Twitter(現・X)公式アプリの場合、OODAループに則ってテスト回数を“2週間に1回”から“週に10回”に増やしたところ、MAU(月間アクティブユーザー)が急激に伸びる結果となりました。全ての施策が「成功」に分類されるわけではありませんが、OODAループを回し続けることで、ノウハウが溜まり改善活動が最適化されていくのです。

この考え方は欧米圏では主流になりつつあり、Netflixなら年間1,000回、Googleのアプリなら年間7,000回ものループを回し、常に改善を試みています。

最後に

ここまでグロースマーケティングの重要性をお伝えしてきましたが、実は日本でしっかり取り組めている企業は少ないのが現状です。しかし、SNSの急速な普及等も含め顧客接点が多様化し、SaaSなどのサブスク型サービスが普及した現代においては、顧客の視点に立った改善活動は特に求められていくと考えます。

その上で、グロースマーケティングを実践する上で非常に重要な役割を担っているのがデータです。グロースマーケティングではデータに基づいて、仮説を立て、実践し、改善を試みます。まずは今あるデータを分析し、「行動ベースでユーザーを理解する」ことへの取り組みを始めることに大きな意義があると思っています。

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