「ゼロから分かる スタートアップ用語解説」は、これからスタートアップについて詳しく知りたい人たちを対象に、基礎的な内容を分かりやすくお伝えします。今回は、創業初期のスタートアップにとって重要の指標である「PMF」について解説します。PMFに至っているかどうかを計測するために有用な「AARRR(海賊指標)」も併せて紹介します。
この記事で分かること:
・PMFとは
・どのような状態?
・PMFはどうやって達成する?
・計測指標「AARRR(海賊指標)」とは
「お久しぶりです。サービスの調子はどうですか?」
「実は、まだPMFに至っていなくて...」
先日、ある経営者とこんな会話をしました。
学習意欲が高い学生・社会人を想定したアプリを手がけるその方にとっては、PMF達成こそが喫緊の課題。現段階では、リスクをとって事業拡大に向けアクセルを踏むことは躊躇われるようでした。
このように、PMFは創業初期のスタートアップにとって重要な到達点の一つ。この概念を世に広めるきっかけとなったのが、連続起業家・田所雅之氏の「起業の科学」(2017年,日経BP)です。
PMFとは「プロダクト・マーケット・フィット」の略。直訳すれば、プロダクト(製品やサービス)がマーケット(市場)にフィット(適合)しているか、となります。
田所氏は「起業の科学」のなかで、PMFを「顧客に熱狂的に愛される」状態であると表現しています。つまり、顧客のペイン(痛み)が存在し、自分たちが作ろうとしているサービスや製品がそれを適切に解決できていて、それが熱狂的に求められているということです。
ペインとは、その名の通り苦痛を伴うようなリスクや悩み事のこと。お金を出してでも解決したいほどの強いニーズとも理解できるでしょう。
PMFを目指すには、まずペインの存在が前提となります。
「そんなの当たり前じゃないか」と思われるかもしれませんが、実はここが難しいようです。アメリカの調査会社・CBインサイツが2021年に発表した「スタートアップの失敗原因トップ12」によると、「市場にニーズが無かった」が実に35%を占めています。あるとき、閃光のようにアイデアが降りてきて「これはいけるんじゃないか」と思って起業してみたものの、お金を出してまで欲しがる人がほぼ存在しなかった、という事態は避けたいところです。
PMFに至るまでには複数のプロセスがあります。課題が存在するかどうか、その課題はどの程度の需要を伴うか...といった確認はその初期段階で、CPF(カスタマー・プロブレム・フィット)と呼ばれています。
課題が見つかった後には、PSF(プロダクト・ソリューション・フィット)も欠かせません。これは、課題に対し、自分たちが考えている解決策が本当に適切かどうかを調べるプロセスです。
PMF達成は「熱狂的に欲しがるもの」を作れるかどうかにかかっています。しかし、熱狂的という言葉はやや主観的で、どう計測すれば良いか分かりづらいようにも思えます。
そこで用いられるのがAARRR指標です。そのまま発音すると「アー」となり、これが海賊の叫び声を思わせることから「海賊指標」の異名を持ちます。
これはアメリカのVC(ベンチャーキャピタル)「500 startups」のデーブ・マクルーア氏が考案したとされるもので、5つの段階から構成されます。
A…Acquisition(獲得)
検索エンジンやSNS、それにアプリストアなどから顧客がやってくる
A…Activation(活性化)
初めてプロダクトに触れて、良い体験をしてもらう
R…Retention(継続)
使い終わったユーザーがまた戻ってくる。複数回利用する
R…Referral…(紹介)
プロダクトを気に入り、SNSや口コミで他の人に勧める
R…Revenue(売上)
課金など、売上につながる行動に移る
参考...デーブ・マクルーア氏のTwitter
ユーザーは一番最初のA(獲得)からサービスに触れ、段階を経るごとに離脱して数を減らしながら、最終的にはR(売上)へと至ります。この各段階ごとの離脱率を割り出し、穴を埋めていく作業がPMFに向けては欠かせません。
田所氏は「起業の科学」のなかで、「活性化」「継続」「売上」の3つが特に重要だと説いています。製品に触れた顧客が「使いたい」と思うか、一度使ったら「もういいや」とならないか、お金を出すほどの価値を提供しているか...「人が欲しがる製品になっているか」を示す指標だということです。
ここまで簡単に整理しただけでも、PMFに向けた道のりは長く険しいことがわかります。課題の発見、解決策の検討、製品づくり、AARRRに即した検証...。創業期のスタートアップは限られた資金や時間をやりくりしながら、PMFを目指すのです。