「大きな事業成長に挑むスタートアップと世界の架け橋になること」を目指すピッチコンテスト「DIVERS」が12月14日、成長産業カンファレンス『FUSE』vol.3内で実施された。全体の最優秀賞にあたるDIVERS賞には、途上国の中小零細事業向けの小口金融サービスを提供する「五常・アンド・カンパニー」が選ばれた。テーマごとの賞に輝いた企業や、ピッチの内容などを紹介する。
DIVERSに参加したのはスタートアップ31社。「Uprising Digital」「Hardware, Material & Frontier」「Health, Bio & Wellness」「Ecology & Energy」の4つのテーマに分かれ、事業に込めた理念や成長可能性をアピールした。全68名が審査員を務め、各テーマごとの受賞企業を選出。その中からさらに最優秀賞にあたるDIVERS賞を決定した。
対象分野:SaaS、DX、5G、ビッグデータ、カスタムデータ、セキュリティ、ブロックチェーン、VR、AR、メタバース、アドテク、D2C、EC、Edtech、Fintech、リテール
【DIVERS賞】【テーマ賞】五常・アンド・カンパニー株式会社|中小零細事業向けマイクロファイナンス
Uprising Digital部門では、「民間セクターの世界銀行を作る」というスローガンの紹介からピッチを始めた五常・アンド・カンパニーが、テーマ賞とDIVERS賞(全体の最優秀賞)に輝いた。
世界中に金融包摂を届けるために設立された五常・アンド・カンパニー。2030年までに50カ国、1億人を対象に、低価格かつ良質な金融サービスを届けることを目指している。登壇した堅田航平・CFOによると、ユーザーの95%は途上国で働く母親たち。所得が向上することで、家族の食費や、子供の教育費に充てることができるようになるという。現在はインドを筆頭に、ミャンマー、カンボジア、スリランカ、タジキスタンなどで事業を展開し、140万世帯に1千億円を融資している。
堅田氏は同社について「まだまだアーリーステージだ」と説明。「マイクロファイナンスの潜在市場は40億人。不足している融資額は100兆円と考えると、まだ0.1%しか提供できていない」と指摘した。さらに、既存のマイクロファイナンス機関では現金や紙でのやりとりがまだ多いとして、「テクノロジーで利便性と生産性を改善できる余地は大きい」とも話した。
Uprising Digital部門のスポンサー賞および登壇企業は以下の通り。
【博報堂DYメディアパートナーズ賞】PIVOT|ビジネス映像メディア「PIVOT」
【ネットプロテクションズ賞】株式会社RevComm|音声解析AI電話「MiiTel」
【AGSコンサルティング賞】
株式会社TRUSTDOCK|デジタル身分証アプリ「TRUSTDOCK」
株式会社フェズ|小売業界向けの逆算型OMOプラットフォーム「Urumo」
Bunzz pte ltd|web3 Development Platform
iYell株式会社|住宅ローンアプリ「いえーる ダンドリ」
対象分野:AI、IoT、自動運転、モビリティ、ロボティクス、フロンティア、宇宙、半導体、量子技術、新素材、核技術
【テーマ賞】【Woven Capital賞】エレファンテック株式会社|
水・資源・エネルギーを大幅に削減するプリント基板製造Hardware, Material & Frontier部門でテーマ賞とスポンサー賞をW受賞したのは、環境負荷の少ない方法で電子回路基板を製造するエレファンテック株式会社だ。
あらゆるエレクトロニクス製品に組み込まれている「基盤」。清水信哉・CEO兼CTOによると、これまでは金属を塗ってから不要な部分を削る方法で製造されていたが、同社は「必要な部分にだけ金属を印刷して成長させる」(清水氏)技術を持つ。このため、必要な材料が少なくなり、二酸化炭素排出量や水消費を大幅に減らすことができる。
2014年に創業したエレファンテックは6年間を基礎研究に費やし、2020年には量産化に成功。現在市販されているディスプレイにも使われるほか、ヨーロッパから大型の受注もしており、グローバルに戦う体制を整えているとアピールした。
Hardware, Material & Frontier部門の登壇企業は以下の通り。
株式会社QunaSys|量子コンピュータ向けアルゴリズム・ソフトウェア開発
インターステラテクノロジズ株式会社|超小型人工衛星打上げロケット「ZERO」
TopoLogic株式会社|トポロジカル物質の社会実装
ugo株式会社|業務DXロボット「ugo」
株式会社eve autonomy|工場の工程間搬送のための自動運転技術
Empath Inc|音声感情解析AI「Empath」
株式会社センシンロボティクス|ドローンをはじめとするロボティクス技術で社会インフラをDX
対象分野:バイオ、ゲノム、デジタルヘルスケア、精密医療、医療機器、メディカル、ウェルネス、ウェルビーイング、フェムテック、ビューティー
【テーマ賞】株式会社ビードットメディカル|
超小型陽子線がん治療装置の開発放射線がん治療の一種である陽子線がん治療装置を開発する株式会社ビードットメディカルが、Health, Bio & Wellness部門のテーマ賞を受賞した。
ビードットメディカルは旧放射線医学総合研究所発のスタートアップ。古川卓司・代表取締役社長は同所でがん治療装置の開発にあたっていた。古川氏は「がん治療は治すだけでなく、プラスαの価値が求められる時代に突入している」と指摘。陽子線治療では、身体にメスを入れる必要がないほか、入院もしなくて済むため「QOLを保ちながら治療できる」とメリットを強調した。
一方で古川氏によると、陽子線治療機器がある施設は全国にわずか19しかない。一般的な機器は3階建てのビルほどの大きさがあり、容易に導入できないためだ。この課題に対しビードットメディカルは、従来の1/3サイズの機器の開発にあたっている。2022年5月に1号機が完成し、12月時点では医療機器承認を待っている状況だという。全国に1.4万台あるX線治療機器の置き換えが進む可能性を見込むほか、グローバル市場も見据えている。
Health, Bio & Wellness部門の登壇企業は以下の通り。
ルクサナバイオテク株式会社|人工核酸XNAを応用した核酸医薬創出
株式会社ブレイゾン・セラピューティクス|脳内への薬剤デリバリー技術の開発
ユニファ株式会社|保育施設向け総合ICTサービス「ルクミー」
株式会社カケハシ|薬局体験アシスタント「Musubi」
株式会社Yuimedi|医療データ特化型クレンジングノーコードソフトウエア「Yuicleaner」
株式会社WizWe|習慣化プラットフォーム「Smart Habit」
株式会社HIROTSUバイオサイエンス|線虫を使ったがんのリスク発見サービス「N-NOSE」
対象分野:クリーンエネルギー、カーボンニュートラル、再生可能エネルギー、新エネルギー、エネルギーマネジメント、蓄電、 廃棄物管理水、環境、フードテック、アグリテック
【テーマ賞】株式会社TBM|
石灰石原料の新素材「LIMEX」、資源循環コーディネート「MaaR for Business」石灰石を主原料とする新素材「LIMEX」、再生素材「CirculeX」、従業員参加型の資源循環コーディネートサービス「MaaR for Business」などの事業を展開する株式会社TBMが、Ecology & Energyのテーマ賞を受賞した。
LIMEXは石灰石を主な原料とする新素材。レジ袋や食品容器、それにハンガーなどに使われていて、既存製品との置き換えによって石油由来のプラスチック使用量を削減することができる。また、素材さえあれば既存の整形機で応用ができるため「ファブレスでグローバル展開ができる」(同社の坂本孝治COO)という強みを持つ。
このほか、オフィスで使用されたLIMEX製品やプラスチック製品を回収し、ごみとして焼却するのではなく資源として循環させるMaaR for businessなども手がける。2022年にはリサイクルプラントを神奈川県横須賀市に建造した。LIMEX製品とプラスチックを自動で選別し、再生利用につなげていくことができるという。
Ecology & Energy部門のスポンサー賞および登壇企業は以下の通り。【Honda Innovations賞】株式会社UPDATER|ブロックチェーンを使った「顔の見えるライフスタイル」の実現【31VENTURES(三井不動産株式会社)賞】AZUL Energy株式会社|レアメタルを代替する触媒「AZUL触媒」WASSHA株式会社|アフリカにおける未電化地域向け電力サービスbooost technologies 株式会社|カーボンマネジメントプラットフォーム「ENERGY X GREEN」株式会社 EV モーターズ・ジャパン|低電力化とバッテリーの長寿命化を実現した商用電気自動車株式会社ナイルワークス|農業用パッケージソリューション「NileBank」https://www.nileworks.co.jp/アスエネ株式会社|ESG評価プラットフォーム「ESGクラウドレーティング」
五常・アンド・カンパニーが全体の最優秀賞であるDIVERS賞に選ばれ、幕を閉じたDIVERS。授賞式に立ったCFOの堅田氏は「2014年に創業した時は機関投資家からお金がつかず、個人投資家に支えてもらった。今も140〜150名の個人投資家の応援団がいるし、多くの日本企業やベンチャーキャピタルにも支援されている。しかしまだ何も成し遂げていない。ここにいる方々も含めたオールジャパンで、日本の2000兆円という金融資産を、発展途上国にスムーズに届け、世界をよくしていきたい」と締めくくった。
(執筆:pilot boat 納富 隼平、写真:taisho、編集:高橋史弥)