分かりやすい用語解説

希薄化(ダイリューション)とは?具体例とともに解説。希薄化を防ぎながら資金調達する方法は【ゼロから分かる用語解説】

2023-08-01
高橋史弥 / STARTUP DBアナリスト・編集者
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高橋史弥 / STARTUP DBアナリスト・編集者

「ゼロから分かる スタートアップ用語解説」は、これからスタートアップについて詳しく知りたい人たちを対象に、基礎的な内容を分かりやすくお伝えします。今回は、スタートアップの資金調達を知る上で欠かせない概念である「希薄化(ダイリューション)」について解説します。

この記事でわかること:
・希薄化とは
・具体的とともに紹介どんな時に
・希薄化が発生するのか希薄化を防ぐ方法は

希薄化(ダイリューション)とは  具体例とともに紹介

希薄化とは、スタートアップの内部、つまり創業者らが持つ株式の割合が減少することを指します。英語で「dilution(ダイリューション)」と呼ぶこともあります。

第三者割当増資などのエクイティファイナンス(用語解説)の実行や、従業員向けのストックオプション(新株予約権)の発行などはいずれも希薄化を伴うイベントです。

スタートアップは一般的に外部からの資金調達を繰り返しながら成長していきますが、同時に希薄化も発生しているのです。

具体的に例を挙げながら、希薄化の過程を見ていきましょう。

Aさん、Bさんは職場の同僚。ふたりは一念発起して独立し、スタートアップを設立します。

この時、設立出資としてAさんは800万円、Bさんは200万円をそれぞれ拠出しました。

事業を始める前ですから、企業価値は資本金と全く同じで1,000万円です。発行株数を10万株とした時、Aさんは8万株(80%)、Bさんは2万株(20%)を持っている計算になりますね。株価は1株100円です。

ふたりは、創業まもない企業への投資を専門とする「エンジェル投資家」から2,000万円の出資を受けることになりました。この時、事業の将来性が高く評価され、1株あたりの価格を投資実行直前で1,000円と評価されたとします。新たに2万株を発行すれば2,000万円の調達ができます(1株1,000円×2万株=2,000万円)。

この時の持分比率は以下のように変化します。

Aさんの持株...8万株=66.7%
Bさんの持株...2万株=16.7%
エンジェル投資家...2万株=16.7%
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
全体の発行済み株式総数..12万株

Aさん、Bさんともに握っていた株式の割合が減っていますね。創業者二人で合わせて10万株(100%)だったのが、外部の出資者に株を渡したため83%あまりになっています。これが希薄化です。

資金調達繰り返し 希薄化を重ねていく

冒頭で書いたように、スタートアップは資金調達と希薄化を繰り返します。

Aさん・Bさんの会社は狙い通りに成長し、新たな資金調達を実施しようと考えます。

次はVC(ベンチャーキャピタル)との交渉がまとまりました。調達目標額は1億5,000万円。1株あたりの値段(評価額)は3倍の3,000円と仮定しましょう。株価×新規発行株式数=調達額ですから、以下の式が成り立ちます。

3,000円×5万株=1億5,000万

新たに5万株を発行することで目標額に届きそうです。これで発行済み株式数は12万+5万=17万株に。

持分比率は以下のようになります。

Aさんの持株...8万株=47%
Bさんの持株...2万株=11.8%
エンジェル投資家...2万株=11.8%
VC…5万株=29.4%
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
全体の発行済み株式総数..17万株

このスタートアップは一度の調達で3割近い株式を放出したことになります。設立直後には8割だったAさんの比率はついに過半数を割ってしまいました。共同創業者であるBさんとの合計で6割近くを保っています。

ストックオプションも希薄化を伴う

外部からの調達だけでなく、従業員などを対象としたストックオプション(新株予約権)の発行にも希薄化はつきものです。

ストックオプションとは、スタートアップ企業の間で広く活用されている役員・従業員向けの金銭インセンティブです。予め決められた価格で自社株式を購入する権利を付与し、従業員は上場後などに株式を売却することで、差額分の利益を得られるという仕組みになっています。

ストックオプションは潜在株式(普通株式を取得する権利)の増加を意味しますから、希薄化が発生するのです。

希薄化はどう防ぐ?

スタートアップは外部、例えばVCなどから出資を受けることにより、経営のアドバイスをもらえたり、採用やPRなどの支援を受けたりすることができます。事業会社からの出資を受け入れ資本業務提携を結べば、顧客を紹介してもらうなどの効果も期待できます。資金調達で希薄化したといっても、一概に悪いこととは言えないのです。

一方で、持分比率が薄まれば、自由な経営判断ができなくなる恐れもあるでしょう。希薄化率をなるべく抑えながら調達したい、と考える経営者も多いはずです。

希薄化を抑えるためには、以下のような手法があります。

・ダウンラウンドを避ける

評価額を下げて調達することを「ダウンラウンド」と呼びます(詳しくはこちら)。

Aさん・Bさんの会社で言えば、1株100円(設立時)⇨1,000円(エンジェル投資家の出資)⇨3,000円(VCの出資)と階段をのぼるように評価額を上げていきましたが、次の資金調達で「1株2,500円」と評価され、調達をすればダウンラウンドです。

ダウンラウンドで目標額を集めようとする場合、新たに発行すべき株式数は当然増えます。その分希薄化率も高くなりますし、既存投資家の利益保護のための条項によってさらに経営者らの持分が低下するケースもあります。

ダウンラウンドを避けるため、適正な評価額(バリュエーション)で調達するなどの工夫が求められます。

・デットファイナンスの活用

融資・社債など、返済義務のある資金を調達することをデットファイナンスと呼びます(詳しくはこちら)。

デットファイナンスでは新株を発行しませんから、希薄化せずに資金調達できます。ただし、返済義務が生じることには要注意です。また、銀行などから資金を借り入れるわけですから、元本回収が不能になるリスクなどについてはシビアに審査されます。そのため、赤字を許容しながら急成長を目指すスタートアップとは、必ずしも好相性とは言えないでしょう。

・ベンチャーデットの活用

赤字状態のスタートアップも含め、より広い対象に融資機会などを提供できるように作られたのが「ベンチャーデット」です。原則的に返済義務を伴う点ではデットファイナンスと同じですが、新株予約権の発行などを加えることで貸し手側のリターンを大きくしている点に特徴があります。

スタートアップからすれば、エクイティと比べて希薄化を抑えながらデット調達ができるということになります。

実際にこの手法で調達した事例として、コネクテッドロボティクスをご紹介します。同社の資金調達担当者は筆者の取材に対し、ベンチャーデットについて「アクセスのしやすさが1番のメリット。ダイリューションも、フルエクイティ(エクイティのみの調達)と比べると割合としては少ない」と振り返っていました(詳しくはこちらからどうぞ)。

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