2018年は「バーチャルYouTuber(以下、VTuber)」が波及した年だった。ガジェット通信が開催する「ネット流行語大賞」の受賞を始め、ネット業界での注目度は非常に高い。また、グリーがVTuber特化型のライブエンターテイメント事業を開始し、100億円規模の投資を行なった。そこで今回は、事業のトレンドして今注目を集めているVTuberの市場について解説していく。
動画を中心としたサービスの発達に伴い「VTuber」というワードをよく耳にするようになった。ところが、言葉の意味や広まった背景を知る機会が少ないのではないだろうか。まずは「VTuber」の概要を説明する。
「VTuber」とは、「バーチャルYouTuber」を省略した言葉だ。動画クリエイターによって制作された2Dまたは3Dのアバターによる、動画投稿・配信活動を指す。動画投稿者を広く指す「YouTuber」の中でも、実在しない(バーチャルな)存在を活用することからその名が付いた。VTuberが広まった背景としては、動画に関する技術が進化したことで、モーションキャプチャーを始めとした難易度の高い技術を簡易的に扱えるクリエイターが増えていることが挙げられる。VTuberの火付け役となったのは、2016年12月に活動を開始した「キズナアイ」だ。「バーチャルYouTuber」というフレーズを初めて使用した存在でもある。チャンネル開設から1年後には、登録者数が100万人を突破し、若者を中心に人気を集めている。まさに「VTuber」の創始者といっても過言ではないだろう。
「VTuber」の核となるアバターには、リアルな人間の体の動きや表情を反映させることができる。ビデオカメラやスマートフォンなどを利用して動画を撮影するYouTuberとは異なり、撮影方法は実に多岐に渡る。スマートフォンを基本として、Webカメラ、VR機器、モーションキャプチャーなど、さまざまだ。機器や技術を専門的に勉強したことがなくとも、独学で簡単にVTuberのクリエイターとして活動できる。
VTuberとYouTuberとでは、スキャンダルリスクの大きさに違いがある昨年夏に日本経済新聞が発表した記事によると、国内でのYouTube利用者数は6,200万人に上る。動画を視聴する文化が根付いたことによって得られた結果だ。そのため、企業がクリエイターに対して、自社商品やサービスの宣伝を依頼する事例が増えている。つまり、マーケティング施策の目線から、YouTuberの宣伝効果に期待を寄せているのだ。その中でも、VTuberがマーケティング施策として起用される事例には特徴がある。それは、地方自治体や大企業からの依頼がほとんどである、という点だ。国や自治体で起用されている例もある。たとえば「キズナアイ」が日本政府観光局が定める訪日促進アンバサダーに就任。また、茨城県の広報を担うVTuber「茨ひより」は、県の職員として公認されているという。企業が採用している事例としては、サントリーがVTuber「燦鳥ノム(さんとりのむ)」を起用。同社製品のレビューに加え、動画やゲーム実況などの活動も行なっている。ほかにも、花王は人気VTuber「月ノ美兎(つきのみと)」とタイアップを行なっているという。自治体や企業などがVTuberとのタイアップに踏み切る背景には、実在しない存在だからこそスキャンダルリスクが少ないこと、アニメキャラクターとは異なってイメージが先行しないことなどが挙げられる。
次に、数字から分かるVTuber領域の成長状況を紹介する。まずは、動画の再生回数についてだ。 CyberVによる2018年の調査結果を参考にした、VTuber動画の再生回数の推移図は以下である。
※CyberVによる2018年調査結果を参考にSTARTUP DB編集部にて作成
2018年1月から2018年7月までの7ヶ月間で再生回数が約3.4倍伸びている。このデータからもVTuberの注目度が高まってきていることは一目瞭然だ。ひとりで数十億回を超える再生回数を有するYouTuberが存在する。そのため、YouTuberと比較すると、まだ少ないと感じられるものの、VTuberも徐々に知名度や人気を獲得できている。次にチャンネル登録者数上位YouTuberとファン数上位VTuberの比較を行なった。
チャンネル登録者数では、YouTuber1位のはじめしゃちょーが約761万人、ファン数VTuber1位のキズナアイが246万人となっている。最初に示した、総再生回数が今後も順調に伸びていけば、更なる成長が見込めそうだ。
ここからは、VTuberをビジネスの観点から見ていこう。VTuberを、動画制作、マネジメント、配信などの事業ごとに分類し、代表的なプレイヤーを紹介する。ひとつ目は、VTuberの動画制作に関する事業だ。クリエイターの発掘や動画の制作支援などを手がけている。キズナアイが所属するActiv8が開始した、VTuber活動の支援を行うプロジェクト「upd8」がこの事業にあたるだろう。ふたつ目は、VTuberのマネジメント事業だ。主にVTuber事務所のような役割を背負っており、関連グッズの制作やメディア対応などを行う。「キズナアイ」の所属するActiv8以外にも、「ミライアカリ」の運営を行うDUOが開設した事務所「ENTAM」が代表例だ。そして最後は、VTuberが活躍の幅を広げるためのプラットフォームの開発や運営だ。VTuberが利用するライブ配信システムの構築を行う。代表的なものとしては、グリーがリリースしたライブ配信プラットフォーム「REALITY」が挙げられる。
https://upd8.jp/virtual_talent/kizunaai.html
それでは、ここからVTuber事業に取り組んでいる注目の企業をご紹介する。初めは、上場企業がVTuberビジネスに参入した事例から見ていこう。
・グリー40億円規模の投資会社を立ち上げ、第一弾としてライブ配信プラットフォームを提供するアメリカスタートアップのオムニプレゼンスに出資。VTuber事業の子会社Wright Flyer LiveEntertainmentを設立。
・gumiVRなどに特化したインキュベーションを行うTokyo VR Startupsを設立。Activ8に6億円の出資。Activ8が手がける「upd8」と連携して、バーチャルタレントの育成プログラムの新設を行う。
・サイバーエージェント傘下のCyberZが、VTuberビジネスに特化したマネジメント会社「CyberV」を設立。
以上がVTuberビジネスを手がける上場企業の主な動向である。子会社の設立やVTuberビジネス特化のファンドの設立などの動きが多い。上場企業特有の資金や情報量の優位性を利用した戦略といえそうだ。上場企業以外で、VTuberビジネスを手掛ける注目スタートアップは以下だ。とくに資金調達金額が多いスタートアップを記載した。
・ミラティブスマホの画面を共有しながらライブ配信を行うプラットフォーム「Mirrativ」を運営。「Mirrativ」上でVTuberのようにアバターで配信が行える機能「エモモ」を提供している。DeNAの社内スタートアップとして運営されていたが、MBOを経て設立。2018年4月、グロービス・キャピタル・パートナーズなどから総額10億円を調達した。
・Active8キズナアイを開発。また個人・企業を問わずタレントを支援するプロジェクト「upd8」を運営する。2018年8月には、MakersFund、gumiから総額6億円を調達。
・クラスター VRイベントルーム「cluster.」を運営。バーチャルキャラクターによるイベント開催の場として注目を集める。2018年9月にはXTech Ventures、グローバル・ブレイン、KDDIを引受先とした第三者割当増資による約4億円の資金調達を実施。
発展途上にあるVTuber市場は、まだまだユーザーを増やしていく可能性を秘めている。YouTuber市場と比較すると収益性は低いが、今後の数年で人気はさらに上昇することが予想される。また、今後は商品や企業のプロモーションといった宣伝広告、テレビ番組・動画サービスへの出演、ライブコマースの活用など、VTuberビジネスの拡張が進んでいくと考えられている。成長途上にあるVTuber市場の今後の発展に期待したい。