ベンチャーキャピタル(以下、VC)がスタートアップに与える影響は、資金面や経営面において大きい。昨年マザーズに上場した「メルカリ」や「ラクスル」においては、上場時に約50%の株式をVCが保有しているほどだ。それほどの保有率になると経営陣に対し自分たちの意見を提言することができ、企業経営に影響を与える可能性もある。ところが、VCの存在や名前を知っていることは多くても、ビジネスモデルを深く理解したり、その全容などを知る機会は少ない。そこで本記事ではSTARTUP DB MEDIA読者のみなさんに向けて、VCのビジネスモデルを紐解いていきたい。VCのビジネスモデルを理解することは、これから企業を見る上で視野を広げてくれる。どのような企業の経営チームやビジネスモデルが他者からの支援を受けやすく、成長するのかを見極められるのかなど、多くの気付きを与えてくれるだろう。
VCとは、成長が見込めるスタートアップに対して、出資を行い、イグジットの際にリターンを得る投資会社である。莫大な資金はリミテッドパートナー(有限責任組合員。以下、LP)と呼ばれる投資者を募ることで生まれ、集まった資金を元にスタートアップへ出資を行う。LPは主に「事業会社」「機関投資家」「大学系投資機関」「政府系投資機関」「個人/Family Office」に分類することができる。
VCの役割は「LP」と「スタートアップ」への2方向に存在する。LPには預かっている資金を運用し、超過収益を生み出すことでリターンを返す役割がある。そのため、VCにはLPへの資金の返還義務が生じる。一方、スタートアップには集めた資金を基にした出資が行われ、VCへの返還義務は生まれない。しかし、スタートアップは資金を受け取る代わりに、VCに対する株式の配当や、経営権の一部譲渡などを行なっている。日本にも多く存在するVCは、いくつかのカテゴリー分けができる。それぞれ目的が異なるのため以下のカオスマップを参考にしていただきたい。
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VCのビジネスモデルは、株式の価値の差額分を利益として受け取る形態である。VCはスタートアップへの出資を行う代わりに、出資先企業から株式の一部を受け取る。その後、出資されたスタートアップが上場したり、M&Aされた際に価値の上がった株式を売却、買った当初の株価の差額分をキャピタルゲイン(利益)として受け取る。たとえば、VCがとあるスタートアップへ出資を行い、その企業の100株を100万円で取得したとする。その後スタートアップが上場し、100株の株価が1,000万円になった場合、VCは保有株式を売却してキャピタルゲインを得る。
※ただし、20万円以上の利益を出した場合は「譲渡益税」が税率20.315%かかる。そのため今回の例では、717万1,650円が手元に残る。
キャピタルゲインの成功例としては、日本初の本格的ハンズオン型独立系VCとして創立されたグロービス・キャピタル・パートナーズが代表的だ。2018年にIPOしたメルカリ、ビープラッツへ投資をおこない456億円のキャピタルゲインを得ている。また、同じく独立系VCであるグローバル・ブレインもメルカリ、ラクスル、ログリーの3社から総額430億円のキャピタルゲインを得た。このように、スタートアップの株価は上場やM&Aを果たすと一気に上昇する。VCはイグジットのタイミングで株式を売却できるよう出資を行い、上場前に株式を所有して上場後に売却することで多くのリターンを得るのだ。
VCはどのような企業でも出資するわけではない。資金提供者のLPに返還義務がある以上、出資先のスタートアップにどれだけ成長が見込めるかによってVCの判断は大きく左右されるからだ。ここでは実際に成長を見込む視点を参考として4点挙げたい(必ずしもこの視点がすべてではないので、あくまでも参考としていただきたい)。
・市場規模・ポジション・経営チーム・財務戦略の明確さ
出資後にスタートアップの事業がどこまで伸びるかは市場規模で予想が可能である。なぜなら、市場規模が大きい事業であれば顧客が増え、事業の認知度と相関して企業の市場価値が上がるためだ。結果として、上場後の株価が大きく上昇することが予想でき、キャピタルゲインが見込めるので出資されやすい。
参入市場がどれほど大きくても既存のプレイヤーが独占している場合は、顧客を獲得するのは容易ではない。そのため競合優位性が明確になっていることはVCにとって良い判断材料になる。
売り上げに直接的に関わる外部環境は成長性においては大切な要素だが、どれほど素晴らしいサービスを提供していても、人を巻きこめない経営陣であれば長期的にサービスの成長を見込むことは難しい。VCは出資検討時に、経営するチームがどれほど連携が取れているのかを見る傾向がある。また、VCで出資を行なっているキャピタリストも人間だ。出資を検討するスタートアップの経営者が自分のビジョンを持ち、周囲を巻き込みながら、常に謙虚な姿勢を持つような人材でなければ、VCの目に魅力的に映ることは難しいかもしれない。
財務戦略が明確になっていることは、長期的な目で見た事業の成長性と持続性を鑑みていることの現れだ。VCが出資する際にリスクが伴う。そのためスタートアップが事業を進めた際に、失敗し出資金の回収が不可能になる場合のリスクと、成功し回収が可能になった場合のリターンの兼ね合いが取れているか考える必要がある。このバランスを視野に入れることで、VCとしての出資成功例を重ね、信用を勝ち得ることが次の出資先の開拓にもつながる。そのためスタートアップも財務的な戦略が明確になっていると、出資を受けられる可能性もより高くなるだろう。
VCのビジネスモデルは、中にいるキャピタリストたちの「成長する企業を見極める力」に支えられている。投資先とLP、双方のステークホルダーの満足を同時に満たさなければならないからだ。判断を誤ると、LPへのリターンを返せないことも起こりうる。常に市場を分析し、スタートアップがどのような活動をしており、どのような人たちなのかを見極め続ける力。それこそが、VCには求められている。本記事を通じて、VCと同じ視点を持ちながら、みなさまが出会うスタートアップの魅力をこれまで以上に感じていただけたら幸いだ。