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グローバル視点で捉えるインパクト投資のトレンド➖企業価値向上へと繋がるインパクトの真価とは

2024-09-06
STARTUPS JOURNAL編集部
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STARTUPS JOURNAL編集部

グローバル視点で捉えるインパクト投資のトレンド➖企業価値向上へと繋がるインパクトの真価とは

経済的リターンと並行して、測定可能な社会的・環境的インパクトを意図的に創出することを目指す投資手法である「インパクト投資」は、近年急速に注目を集めている分野であり、その重要性と複雑性が増している。2024年4月よりインパクト投資を開始したSMBCグループは、投資活動と合わせ、インパクト投資に関心のあるスタートアップに向けたワークショップの開催やインパクト評価支援といった非資金的支援にも力を入れている。

7月24日、SMBCグループの運営するシェアラウンジ「hoops link tokyo」において、ワークショップを終えたスタートアップを交え、インパクト投資の最新トレンドについて、SMBC 社会的価値創造推進部 上席部長代理・花岡 隼人氏と株式会社環境エネルギー投資 インパクト・オフィサー/キャピタリスト・石田ともみ氏によるトークセッションが行われた。


(左)SMBC 社会的価値創造推進部 上席部長代理・花岡 隼人氏、(右)株式会社環境エネルギー投資 インパクト・オフィサー/キャピタリスト・石田ともみ氏

目的ではなく手段としてのインパクト評価

インパクト評価とは、社会的・環境的課題の解決を目指す事業や投資が、実際にどれほどの変化や効果をもたらしているかを、定性的・定量的に測定・分析し、その結果を評価するプロセスだ。単なる活動の記録やインパクトの測定にとどまらず、長期的かつ広範囲にわたる環境的・社会的環境を包括的に捉え、事業の成長や投資判断、さらには社会的価値の最大化に向けた戦略立案に活用することを目的とした実践的アプローチだ。

花岡氏は始めにインパクト投資が積極的に行われている欧州でのトレンドについて尋ねた。

花岡「インパクト評価やロジックモデルの重要性について最近よく言われますが、そもそもインパクト評価は何のために行うのでしょうか。石田さんから見たインパクト評価の位置づけや、欧州の最新トレンドについて教えていただけますか。」

石田「インパクト投資に関してはグローバルで統一された基準はありませんが、経済的リターンと並行したインパクトの創出にあたって、主に3つの要素が重視されています。1つ目は“インテンショナリティ”、つまり社会や環境に対して何を変えたいかという明確な意思を持つこと。2つ目は、“アディショナリティ”、つまりインパクト投資がなければ達成されない要素があること。3つ目は“メジャラビリティ”、つまり事業によるインパクト創出に対するKPIを設定・測定し、達成に向けて活動することです。」

これらの要素は、インパクト投資の基本的な枠組みを形成している。インテンショナリティは事業の目的と方向性を明確にし、メジャラビリティはその成果を具体的に評価する手段を提供している。インパクト投資が単なる善意の投資ではなく、計画的かつ測定可能な社会的・環境的変化を目指す投資であることを示している。しかし、石田氏は同時にインパク投資における評価自体が目的化してしまう可能性を指摘した。

石田「特に欧州では、グリーンウォッシングやインパクトウォッシングへの懸念から、計測することがより求められています。様々な開示やインパクト評価自体が目的化するのではなく、インパクト創出のためにシステムレベルで課題やステークホルダーを理解し、KPIを設定することが、本質的にはビジネスの成功やより大きなインパクト創出につながる手段であると捉えています。

グローバルでも、まだみんな試行錯誤している段階です。やりながら考えていくという姿勢が重要です。インパクト投資の各種ガイダンスに沿って実践とラーニングを重ねていくことが大切ですね。」

花岡「日本は最初から完璧じゃないとダメみたいなところで、完璧を目指すが故に、手法論に走ってしまう傾向があるかもしれませんね。」

インパクト評価の実践においてはロジックモデルが活用されるケースがあるが、ある参加者から「ロジックモデル作成に難しさを感じている」という意見に対し、石田氏は以下のようにアドバイスした。

石田「ロジックモデルを考えるうえでのポイントは、アウトプットとアウトカム、実際に何が起こったか、何がインパクトかの関係性やステークホルダーを理解する部分です。一方で、インプットとアクティビティの部分は、企業の独自性やユニークなソリューションを反映する重要な要素です。それが自社の独自の強みなのか、といった点を明確にする機会になります。」

アウトプットとアウトカムは直接的な結果と中長期的な影響を示し、インパクトは最終的に社会や環境にもたらされる変化を表す。一方、インプットとアクティビティは企業の独自性を示す重要な要素であり、これら関係性を理解することで、課題や市場への理解の深化、さらには市場機会の発見につながるということだ。

石田「事業の成長具合によってはインパクトKPIを変えていくこともあります。アーリーステージだとまだプロダクトがない場合もあるので、仮にロジックモデルを描いて、プロダクトができたらもう少し精緻化していくという方法もあります。」

花岡「欧州のスタートアップと日本のスタートアップでは、インパクトの語り方や見せ方に違いがありますか?」

石田「欧州のインパクト投資をしているVCやスタートアップと話していると “インテンショナリティ”を明確に持っている印象があります。ロジックモデルなどは裏で構築していても、ビジョンとして起こしたい社会・環境変化(インパクト)を掲げ、事業がどのように『CO2削減に貢献している』といった具体的な話をする方を多く見受けます。つまり、インパクト創出と事業成長が目的となり、インパクト評価は事業戦略のための手段として位置づけられています。」

事業環境が急速に変化するスタートアップのような企業にとって、インパクト評価は固定的なものではなく事業の成長や変化に応じて柔軟に調整すべきだという。具体的には、初期段階で仮説的なKPIを設定し、事業の進展に応じて精緻化していく手法が、現実的かつ効果的なアプローチであり、戦略策定や価値創造に貢献すると石田氏は考えているようだ。

本質的な企業価値の評価とインパクトIPOの道

花岡「インパクトが企業価値に繋がることが重要だと思います。しかし、多くのスタートアップが『インパクト投資家でなければインパクトを理解してもらえない』と感じ、うまく説明できていないようです。スタートアップがインパクトを企業価値に織り込む工夫や、IPOやエグジット戦略にインパクトを組み込むには、どうすればいいでしょうか?」

石田「『インパクトIPO』という言葉自体は、比較的日本特有のものだと思います。欧米の視点から見ると、IPOよりも、M&AによるExitが成長の選択肢です。IPO時にインパクトがプレミアムとして織り込まれているという認識は低いものの、エクイティーストーリーに盛り込まれるケースはあると理解しています。」

現状ではインパクトがIPOの際のプレミアムとして十分に評価されていないという点は、日本市場におけるインパクト評価の難しさや関連付けがまだ十分に確立されていない状況を反映している。しかし花岡氏は、インパクトが企業価値に与える影響は無視できないものになりつつあると主張した。

花岡「逆に、インパクトがないことでネガティブな評価やディスカウントにつながる時代も来ていると感じます。」

石田「その通りですね。欧州では、例えばESG(Environment・Social・Governance)ポリシーがなければ公共入札に参加できないなど、社会・環境への配慮がベースラインになってきています。一方で、規制の変化により、“サステナブル”を名乗るためのハードルが上がっているのも事実です。本当に取り組んでいる企業が逆に主張しづらくなっているケースもあります。日本より欧米の方が、こうしたグリーンウォッシングへのプレッシャーは強いですね。」

この規制の変化は、インパクト投資やESG投資の分野で重要な転換点を示しており、単なる自己申告ではなく、具体的な基準やデータに基づいて“サステナブル”や“インパクト”を示すことが求められるようになっている。これは、インパクトウォッシングの防止と、真に持続可能な事業モデルの促進に繋がるものであると考えられそうだ。

インパクト投資への関心が高まる中、これから日本が欧米のような形に近づいていくうえで、インパクト志向のスタートアップはどのような準備をしておくべきかについて質問があった。

石田「欧州では規制主導でマーケットが形成されつつあります。例えば欧州にある、SFDR(Sustainable Finance Disclosure Regulation)という規制により、インパクト投資家から投資を受けるアーリーステージの企業でも、CO2排出量のスコープ3まで開示を求められるケースがあります。これは小規模な企業にとっては負担が大きいのですが、VC側がサポートする動きも出ています。

日本でも、将来的にはこうした厳格な基準に対応する必要が出てくるかもしれません。ただし、完璧を目指すあまり行動が遅れるのは好ましくありません。まずは自社のビジネスがどのようなインパクトを生み出しているのか、それをどう測定・評価できるのかを考え、段階的に精度を上げていくアプローチが有効でしょう。

また、インパクト投資家だけでなく、一般の投資家にも理解されるよう、財務的リターンとインパクトの両立をどのように実現するのか、具体的なストーリーを描くことが重要です。そのためには、自社のビジネスを捉え直し、社会課題解決と事業成長の関連性を明確に示すことが求められます。」

日本のスタートアップがインパクト投資の潮流を捉え、それを成長の機会として活用していくことが、重要となってくるようだ。インパクト評価や開示の取り組みを、単なるコンプライアンスではなく、自社の強みを明確化し、事業戦略や投資家との対話を深めるツールとして活用することが、今後のスタートアップの成長戦略において重要になってくると言えるだろう。

“Born Global”の視点でのビジネス構築とは

インパクト投資の文脈における海外進出については、Born Global(創業時からグローバル展開を視野に入れる)の視点からのビジネス構築の重要性が議論された。

花岡「ワークショップに参加したスタートアップ全員に海外進出のチャンスがあると感じました。“Born Global”、つまり創業時からグローバル展開を目指すアプローチについて、欧州のスタートアップの傾向を教えてください。最初から海外市場を狙うのか、それともまずはローカル市場から始めるのでしょうか?」

石田「ビジネス領域によって大きく異なります。言語の壁や市場の地域性を考慮する必要がある一方で、気候変動対策のようなグローバルな課題に取り組む場合は、最初から世界市場を視野に入れる傾向があります。

日本は比較的大きな国内市場があるため、グローバル展開の必要性を感じにくい面もありますが、エストニアや韓国のような小国では、創業当初からグローバル志向が強いです。」

小国のスタートアップにとって、国際展開は生存戦略の一部となっており、国の市場規模がスタートアップの戦略に大きな影響を与えると石田氏は語った。

石田「気候変動課題は、地球規模課題なので出発点や見据える市場がグローバルであるケースはあると思います。また、日本は“課題先進国”と言われることがあります。高齢化や人口減少など、日本が直面している課題は今後他の先進国でも問題になるでしょう。そのため、日本発のソリューションが海外で通用する可能性は十分にあります。ただし、日本企業は海外市場を十分に見ていない傾向があるので、早い段階から海外の需要を見据えてビジネスをアジャストしていく視点が重要です。何が必要とされているかを見極めることで、新たなチャンスや事業拡大の可能性が生まれるでしょう。」

花岡「SMBCグループは海外にも多くの拠点があり、そのネットワークを活かせる可能性を感じています。メガバンクがこの分野で動き出せば大きな変化が起こると思いますが、いかがでしょうか。」

石田「メガバンクに限らず、日本の大企業全般に言えることですが、なぜスタートアップと協業するのか、特にインパクト系スタートアップと協業する意義が社内で十分に理解されていない面があります。CVCも増えていますが、投資後のシナジーや出口戦略についてはまだ模索段階というところもあるようです。

一方で、アフリカやインドネシアなど、インフラが整っていない地域では、逆に大胆なイノベーションによって、社会変革やインパクトの創出が起きやすい面もあります。

例えば、ケニアでモバイル決済『M-PESA』の普及速度が速かった理由として、銀行口座を持った人口が少なく、ATMがない・現金を保持するリスクが高い、という背景がありました。こういった環境下では、デジタルソリューションの必要性が非常に高く、イノベーションが起こりやすいのです。日本よりもはるかに切実な需要があるため、逆に学ぶべき点も多いかもしれません。変革や危機感という点では、日本の地方の方が先鋭化している可能性もあります。

また興味深い例として、北國フィナンシャルホールディングスのグループ会社がケニアに拠点を出したことが挙げられます。自社の成長を考えた時に、新しい可能性のある地域で新たなイノベーションに挑戦するという発想です。メガバンクだからこそ難しい面もあるかもしれませんが、このような新しい発想で成長と社会貢献を両立させていくアプローチは非常に興味深いと思います。」

この議論を受けて、参加者からは欧州における規制とその影響についての質問が出た。特に、インパクト投資に関する規制がもたらす影響についての具体的な事例を求める声があがった。

石田「欧州ではSFDRによって、インパクトに対するコミットメントと共に、段階によって様々なサステナビリティに関するリスクに関する開示が求められています。

また、一部のインパクトファンドでは、インパクトKPIに自社のキャリー(成功報酬)を紐づけて、事業成長だけでなくインパクト創出へのコミットメントを組織として取り入れる工夫も見られます。

一方で、インパクト投資には一定の負担も存在します。例えば、詳細な情報開示が求められたり、それに伴う体制整備にコストがかかったりします。これはスタートアップにとっても、投資側にとっても負担となる場合があります。また、規制違反に対しては訴訟リスクもあります。国によって厳しさは異なりますが、主張と実態が乖離している場合などに訴訟が起こされるケースもあります。」

さらに参加者からは、インパクト投資における経済的利益と社会的インパクトのバランスについて、定量化が難しい社会的インパクトをどのように投資判断に組み込んでいるかという点に関心が集まった。

石田「環境エネルギー投資の投資分野は、例えば、CO2削減など比較的わかりやすい指標が存在するため、環境価値や環境への貢献をコアビジネスとする企業への投資が中心となります。具体的には、サービスやビジネスによって売上が上がればCO2排出量が減るといったインパクト創出が期待できることもあります。

しかし、全てを定量化できるわけではありません。そのため、グローバルに認知されているアセスメント方法を用いて定性的な評価も行っています。例えば、顧客を理解し、どのようなメリットがあるのか、また副作用として環境・社会へのデメリットはないかなど、総合的に判断しています。

インパクト投資には、様々なアセットクラスと様々な財務/インパクトリターンを求める投資家がいます。基本的に私たちはマーケットレートリターンを目指すファンドですが、中にはインパクトを優先するインパクトファンドもあります。例えば、人口減少対策に特化したファンドであれば、その課題解決への貢献度が重要な判断基準となります。結局のところ、財務的リターンとインパクトの両立を目指しつつ、単なる事業成長だけでなく、真に社会・環境に貢献するビジネスを支援することが我々の方針です。」

インパクト投資は、単なる投資手法の一つではなく、社会・環境課題解決と経済成長を両立させる新しいパラダイムを示している。日本の投資家やスタートアップは、グローバルな視点を持ちつつ、日本固有の強みを活かした独自のアプローチを模索することが求められる。そして、この過程で生まれるイノベーションこそが、持続可能な社会の実現と新たな経済成長の原動力となるだろう。

Coming Next...【GRIC OFFICIAL SIDE EVENT】  IMPACT INVESTMENT

GRIC x SMBCグループがおくる、インパクト投資 x グローバルに皆様をいざなう公式イベント開催。
海外投資家によるスタートアップ企業に向けたインパクト投資を題材にしたパネルトーク & ネットワーキングイベント!

スタートアップ・投資家向け。日本でインパクト投資を牽引するSMBC、海外で広く取り組む IndoGen Capital、Impact Frontiers によるパネルトーク。終了後には、交流時間を通じて各企業担当者とお話できる機会をご提供いたします。

●イベント概要●

日時:2024年9月26日(木)17:20-19:30(受付開始17:00)

会場:日本総合研究所 社会価値共創スタジオ(Co-creation Studio for Social Values)

住所:東京都千代田区丸の内1-5-1 新丸の内ビル15階

規模:50名

言語:日本語/英語

主催:フォースタートアップス株式会社

会場提供:株式会社日本総合研究所

協力:株式会社三井住友銀行、株式会社日本総合研究所


●タイムテーブル●
(予定)

17:00:受付開始

17:20:イベント開始

17:30:パネルディスカッション 

18:30:懇親会

19:30:イベント終了

詳しくはこちらのURLからチェックしてください!

https://gric-impact.peatix.com/view

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