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スタートアップの理想実現のために考えるべき「ビジネス」と「リーガル」との関係性

2019-09-25
STARTUPS JOURNAL編集部
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STARTUPS JOURNAL編集部

昨今、リーガルのバックグラウンドを持つベンチャー社員が増えている。かつては、「社外」の弁護士とスタートアップという社内外の関係にならざるを得なかったが、今では社員のひとりとして自社のプロダクトを「安全に」「適切に」社会に生み出すためのキーパーソンとして活躍している。

2019年8月30日に開催された「Microsoft Innovation Lab 2019」のセッションでは彼らの目線から見た、リーガルがスタートアップに与える影響とその役割、そして理想的な二者の関係性についてが語られた。

ガーディアンであり、パートナーでもある「リーガルプレイヤー」

■尾西祥平(おにし・しょうへい)三浦法律事務所 弁護士
草原敦夫(くさはら・あつお)READYFOR株式会社 執行役員 CLO
■野本遼平(のもと・りょうへい)株式会社グロービス・キャピタル・パートナーズ シニアアソシエイト
■下平将人(しもだいら・まさと)株式会社ドリームインキュベータ ビジネスプロデューサー

尾西「皆さんが想像される法務というと、「ガーディアンとしての機能(法務リスク管理の観点から会社の権利や財産、評判を守るなど)」が強いと思いますが、最近、特に若い弁護士や先進的な企業の法務部長の口からよく聞くのは、「パートナーとしての側面(法的支援を提供することによって、会社の事業や業務を適正且つ戦略的に実施するなど)」から、どのようにスタートアップでリーガル的な価値を発揮していくかという点です。実際に、スタートアップの社内にいる立場からすると、どのようにお考えでしょう」

草原「そうですね。ガーディアンとパートナーという表現は分かりやすい一方で、表裏一体だなと思っています。法務がいわゆるガーディアンとして最終防衛線を提示する役割を果たすことでこそ、前線の人がアクセルを踏んで多様なアイディアを出しやすくなるのではないかと。アクセルとブレーキの両軸なくして事業は成立しませんし、アクセルを踏むべきプレイヤーがブレーキをかける役割も兼任するのは、安易なことではありません。そうしたことから、ガーディアンというのはパートナーの右腕であるようにも思いますので、結果的にパートナー機能にも収斂していくというのが個人的な感覚です」

野本「ガーディアンの機能面からすると、実際のところ、ブレーキはかけようと思えばいくらでもできます。教科書通りの法務機能を提示すればミスは発生しませんし、法務としても怒られません。ですが、事業は前に進みません。そうしたときに法務がどれだけ視座や視点を高めて、事業開発の部分にまで目配せできるのかがポイントになるかと思います」

社内外問わず、リーガル関係者をエコシステムに入れる理想のタイミング

尾西「近頃面白いのは、スタートアップ1社あたりで3、4社の弁護士事務所をうまく使い分けている点です。それぞれの専門分野に特化して依頼を分けているようですが、スタートアップはいつごろからリーガルの専門家に事業を相談するべきなのでしょう?」

草原「難しいですよね。早ければ早い方がいいと言いたいところですが、相談する内容にもよります。例えば、ITサービスでスケールさせる場合、弁護士事務所の目を一度入れて、個人情報の取り方や利用目的を明示するポリシーの作成やサービスの利用規約の整理といったことは、早めに相談するべき事項です。コンプライアンスに関しても同様です。つまりは、想定している事業モデルが適法であるか違法であるかがよくわからないサービスは、早めに弁護士を頼って情報を整理するべきかと。事業が走り出した後に刺されると痛手が大きいですので」

尾西「どういった弁護士が良いか、見極める基準はありますか?」

草原「お金の見積もりがわかりやすいところとスピードがはやいところですね」

野本「僕個人の答えとしては、ビジネスに共感して、内容を理解しようと寄り添ってくれるかどうかだと思います。前職で実際にあった事例ですが、ITと国際関連の案件について質問するために専門家を訪れた際に、IT用語やビジネスモデルの説明をするだけで10分使い、実績の相談をするのに10分使い、そんなのらりくらりとした状況で1時間のチャージをされたことがありました。そうしたことからも、最近の話題にある程度ついてこれる人でないと、こちらが色々と教える立場なのに、なぜこっちが支払うんだみたいなことになりかねません」

尾西「スタートアップによる法務の内製化プロセスについても聞きたいんですが、何人くらいになったら法務チームを設けるべきか、もしくはちゃんと専門の人を雇った方がいいのかという質問をよく受けます。法務専門のスタッフがいるべきボーダーは何人規模からだと思いますか?」

下平「法務を内製化するデメリットに対して、メリットが上回るタイミングは30人程度という感覚があります。最大のメリットはスピードがめちゃくちゃあがるところかなと。且つ、その人のネットワークを取り込めるところ。デメリットは、社内弁護士のような立ち位置の法務は基本的に固定給が高いのですが、その二つを比べてメリットが大きければガンガン採用していいのではと思います」

尾西「では、社内の法務スタッフと社外のリーガル関係のプレイヤーとの役割分担はどのように切り分けていますか? 」

草原「専門性が高いところを埋めにいくか、あるいは切り出しやすいものを外注するかという判断です」

尾西「それができるのは、交通整理のできる法務スタッフが社内にいるからできるようにも思います。そもそも何を外注するべきか、何が会社にとって重要か判断できない担当者や会社もあると思いますが」

野本「法務に限らず、事業のコアに関わる部分は内製すべきで、そうでなければエンジニアリングでもリーガルでも外注していいと思っています。人材エージェントから来る契約書をいちいち中でチェックする必要はあまりなくて、それよりも規約や事業の中核にかかるテーマに関してやらないと社内にノウハウが溜まっていかないんじゃないでしょうか。そういう意味で法務ではなく、COOレベルでその仕分けるプロセスがあってもいいかなと思います」

リーガルとビジネスのあるべき共存関係

尾西「最後のテーマは、ビジネスとリーガルとの接続についてです。そもそもチーム構成の段階で法務に声がかからないことが往々にして問題視されますが、どうやれば事業側と法務が連携するのでしょうか」

草原「マネージャーやプロジェクトマネジメントにリーガルの必要性を意識していただくというのがまず最重要課題で、その上でリーガルを早い段階で入れるべきだと思います。実質的な合意がなされてしまった後に、法務に確認を回されても実情からかけ離れた状態で動くしかない、困った状況になりかねません。法務と言っても、ロジカルシンキングやクリティカルシンキングがベーススキルにありますから、法務出身者がBizDevのマネジメントをやるというのもひとつの手段かと思います。実際に、FacebookのBizDevチームにはリーガルのバックグラウンドをもつ人が多いそうです。ビジネスにおける契約情報や文言まで一気通貫にブレイクダウンして交渉していけると、スピード感も全然違いますから」

下平「1番効果があったのは、リーガルが事業側の近くに席をもらうということです。横に座って仲良くなる。これ結構いいですね。横にいるのでなんでも相談してくれますから関係性が作りやすい。リーガルというだけでそもそも人間関係を作りにいかない印象があるので、そこがキモかなと思います」

尾西「ヤフーでも事業部によっては法務の席を作ってくれるところもあって、そういうサービスは法務とビジネスの関係性が近い印象があります」

まとめ

・法務の「ガーディアン」的な役割と、事業をグロースさせるプレイヤーはそれぞれの役割を住み分けるべき

・法務を雇うメリットがデメリットを上回るとされるのは「30人」前後

・社外弁護士に依頼するときのポイントは、事業に寄り添ってくれるか、見積もりが明朗か

・リーガルの重要性をマネジメントポジションが理解する必要がある

執筆:小泉悠莉亜 編集:BrightLogg,inc. 撮影:戸谷信博

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