本記事はSTARTUP DBが保有するデータに基づく国内スタートアップの資金調達市場の動向と経済産業省が策定した「スタートアップの成長に向けたファイナンスに関するガイダンス」の序論をまとめている。
国内スタートアップの年間合計資金調達金額は2017年以降、継続的な増加傾向にあることがわかる。中でも2021年は約1兆2,385億円と突出しており、この金額は2017年度比で約68%増、前年の2020年度比で約37%増である。
また、2019年以降、資金調達実施企業数は1,650社前後で推移しており、2021年度の資金調達実施企業数は1,687社で前年の1,636社から微増した。
1社あたりの年間平均資金調達金額は2021年に約7億3,400万円だった。これは2017年の3億2,800万円から2倍以上の増加となった。これは資金調達社数にあまり変化がない中で、合計の資金調達金額が増加しているためであると考えられる。
2022年と2021年の1月から5月までの合計IPO実施社数(STARTUP DB掲載企業が対象)は2021年20社から2022年16社と4社減少した。また、同期間の対象企業における初値時価総額平均は2021年の約464億円から2022年の約70億円へと大幅に低下した。2021年の2月に上場したAppier Groupは初値時価総額で2,000億円を超え、同期間において最大となったが、2022年では149億円で上場したトリプルアイズが最大となっている。国内スタートアップのIPO実施社数の減少、初値時価総額の低下から株式市場の冷え込みが伺える。
一方、M&Aは2022年と2021年の1月から5月までの期間で比較すると、月間M&A実施社数は4月を除き、2021年よりも2022年の方が多い結果となっている。また、1月から5月までの合計M&A実施社数は2021年の38社から2022年の57社へと19社増加している。特に、2022年にはGMOインターネットがイエラエセキュリティ、DMM.comがZIZAI、パーソルイノベーションがみーつけあなどを買収し、注目を集めた。
このように2021年に最高潮を迎えた国内スタートアップの資金調達市場は2022年に入り、冷え込んできている。スタートアップのIPO、資金調達市場の冷え込みの背景には、米国における政策金利の引き上げやウクライナ情勢への懸念などが起因として挙げられている。(参考1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC17CXU0X10C22A5000000/、参考2:https://www.ey.com/ja_jp/ipo/ipo-insights/qa/ipo-insights-qa-02-002)
スタートアップの成長に必要な要素として、経営リソースの確保・管理と、事業戦略の立案・実行のふたつがあげられる。その内、ファイナンスの実行は経営リソースの確保・管理に含まれている。
また、ファイナンスは負債として資金調達を行うデットファイナンスと、株主資本として資金調達を行うエクイティファイナンスのふたつに分類される。
デットファイナンスは借入などによって調達を行うため、原則的に返済期間が存在する。主に銀行などの資金の貸し手が、債権者として貸し付けの返済と利子で融資枠を回す仕組みとなっている。一方エクイティファイナンスは、株式発行による調達であるため、投資家は議決権を保持し基本的にキャピタルゲイン(ソーシャルインパクトを含む)を指向する。
このように、適切なファイナンス戦略はスタートアップの成長を加速させる一方で、複雑性や多様性という難解な側面をもつ。スタートアップ経営者やCFOは、ファイナンスの全体像を把握した上でリスクの想定や、デットファイナンスとエクイティファイナンスそれぞれの想定される課題や検討ポイントを押さえることが重要である。
ファイナンスは資本構成が固まると後の変更が難しくなり、後戻りができない。したがって予め全体像を把握し、シード・ミドル・レイター・IPO後などの各フェーズで想定される課題を踏まえて最適な戦略を検討していく必要がある。
そこで重要となってくるのが、スタートアップの経営者やCFOが幅広い情報収集と分析、投資家などのステークホルダーとの対話である。例えば、有識者・専門家・経営者仲間とは公開情報の調査やヒアリング、メンタリング等を通じて徹底した事例収集と分析を行うことでベストプラクティスを獲得できるようになる。
投資家には自社の魅力を伝え、徹底的に自社の企業価値や成長戦略について対話する。証券会社・銀行とは資金調達の多様化やIPOに向けた道筋など、選択肢について対話する。これらがあるべきファイナンスへの向き合い方である。
スタートアップはそれぞれの成長局面により、多様な課題が存在し、それぞれに対して適切な対応が求められる。具体的な課題は上図のように、エクイティストーリーの構築、適正価値での調達、初期の株主層の形成、経営層/従業員のインセンティブ設計、企業価値向上を実現する体制の整備、未上場時の幅広い資金調達手段の活用、成長に資する投資家の確保、効果的なIPOプロセスの実行、流動性の確保、IPO後の成長に資する資金調達の実行、IPO後の非連続な成長手段の確保、と11項目に分類している。同ガイダンスの構成は、課題が生じ始めるステージとその課題ごとにまとめられている。
スタートアップにとって厳しいファイナンス情勢にある今だからこそ、「スタートアップの成長に向けたファイナンスに関するガイダンス」は、スタートアップエコシステムビルダーの皆さまにとって役立つ有益な資料となるのではないだろうか。
■「スタートアップの成長に向けたファイナンスに関するガイダンス」ダウンロードリンク
https://www.meti.go.jp/policy/newbusiness/financeguidance.html