スタートアップインサイト

「頑張ってね。社会の端っこで」。“儲からない”社会課題解決型スタートアップの孤独と尊さを、私は肯定したい【taliki・中村多伽】

2023-10-04
中村多伽(taliki 代表取締役CEO)
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中村多伽(taliki 代表取締役CEO)

ビジネスパーソンである以上、「数値目標」から逃れられることはありません。

状況は人それぞれでしょうが、多くの方は売上など「儲け」につながる数字を追いながら日々、働いているはずです。

「儲けが大事」ならば、「儲からないことは大事じゃない」。

そんなロジックに晒されてきたのが、社会課題解決を目的に生まれたスタートアップです。

こうした企業は、「売上の最大化」が「企業としての存在理由」とバッティングすることもある。儲けだけを追求できるわけではないから、資本主義社会の「端っこ」扱いをされてしまう。社会課題解決型スタートアップを支援してきたtalikiの中村多伽・代表取締役CEOは、そんな経験を明かします。

中村さんたちは2018年から、社会課題解決型スタートアップに携わる起業家や投資家、それに学生やメディア関係者らが集まるイベント「BEYOND」を開催しています。その背景には、時としてビジネスの周縁部と見做されてしまう彼らの切実なリアルがありました。

(聞き手・編集=高橋史弥 STARTUPS JOURNAL編集長 / 写真=田代悠)
※STARTUPS JOURNALはBEYOND2023のメディアパートナーです。

「だからそのまま頑張ってね。横で」

恨んでいるわけではないけれど、ずっと根に持っている話をします。

2018年ごろのこと。「若手起業家やスタートアップと関わりたい」という方は当時から多く、とある金融機関の担当者もその一人でした。

私はその方に、社会課題解決型スタートアップを支援していることを伝えて、起業家が登壇するイベントをご案内しました。

その時に返ってきた言葉を今も覚えてます。「良いことをやっているから応援はするけどね。儲からないからウチでは扱えないんだよね」。

分かってないな、と言いたい気持ちはあったけれど、やっぱり悔しかった。

社会課題の解決を目的としているスタートアップは、売上の最大化と企業の存在理由がバッティングすることもある。だからこそ資本市場における「端っこ」であって、本流として扱われない。金融機関の担当者の言葉からも「頑張っていて偉いね、だからそのまま頑張ってね。横で」というニュアンスを感じました。

儲からないものを応援するという力学が、当時はあまり無かったのだと思います。

例えば、今でこそ気候変動は地球に住む全員の問題になっていて喫緊の課題として扱われますが、10年前は違ったわけです。ツバルの人たちは海面上昇の影響で住む場所を失いそうだけれど、日本人にとって重要なトピックとは見なされていませんでした。

その人々にとって重要度が異なるなかで、私自身も「社会課題解決よりも優先すべきことがある」という発想はありませんでしたし、社会課題解決が一番重要とされる自分自身の世界がある一方で、素敵なことをしている起業家たちが「違う」物差しで測られて、大したことがないモノと見られることに悔しさがありました。

逆に言えば、「儲かる・儲からない」という評価軸しかない世界は、私にとっては行ったことのない遠い海外のようなもの。自分のためだけではなく世界に開いて、誰かのために事業をやっている起業家たちの孤独と尊さが理解されないことに強い拒否反応がありました。

あなたたちは儲けのためにやっているかもしれないけれど、社会起業家たちはそんなあなたたちの未来さえもどうにかしようとしている。ビジネスとして強かろうが強くなかろうが素敵なものは素敵で、それを尊ぶことがなぜできないんだろうか。

「社会課題解決」が理想の形で社会の中心にくる保証はない

あれから5年以上が経ち、状況はかなり変わりました。SDGs・ESGの流れは大きく、多くの企業が「我関せず」ではいられません。

例えばグローバルなサプライチェーンを持っている企業などは、ダイレクトに事業へ影響しかねない。気候変動への影響はもちろん、人権デューデリジェンスが十分でなければ機関投資家から資金を引き揚げられる可能性もあるわけです。

これまではCSR活動として予算を確保し、経済的リターンを一切見込まず「贖罪」のような形で環境保全などの社会貢献事業に取り組む事例もありました。これに対し、利益を生んでいる本事業でも社会貢献につなげる動きが出てきました。サプライチェーンの変革などがそうです。

社会性が高まることはもちろん素晴らしいことです。ただし、それが「利益の出ない社会貢献活動は別にいい」という整理に繋がってしまう可能性が危惧されています。「社会的かつ儲かる事業があるのに、儲からないものをやる必要があるのか」ということです。寄付でしか解決できない領域に取り組んでいる非営利団体が資金を集められなくなるかもしれない。

「端っこ」だった社会課題解決というトピックがだんだんと大きくなり、社会の真ん中に来つつある。ただし、真ん中に来たときに、私たちが理想としていた形になっている保証はまだないのです。だから、社会課題解決のあり方や、金融アセットのアロケーション(割り当てや配分)はどうあるべきか、話し合う必要があります。10月7日に京都で「BEYOND2023」というイベントを開きます。

儲からないビジネスを「端っこ」と捉える方も来てほしい

社会課題解決において「いなくても大丈夫」というプレーヤーは存在しません。

この領域では、サービス提供者と受益者の「一対一」で関係が完結することは少ないのです。サービスの受益者とお金の出し手が違うとか、受益者が誰かによって困らされているとか、ステークホルダーが複数いる状況が当然なのです。

だから、イベントを開いて人を集めるときはクロスセクターであるほうがいい。「こっちはどうにかするから、あっちはなんとかして」という役割分担が必要なのです。

人材とリソースの流入も望めます。「応援はしているけれど関わり方が分からない」という企業が実際に社会起業家と出会うことで取引に発展するかもしれないし、学生がインターン先を見つけたり、ビジネスパーソンが転職活動に活用したり、ということも過去のイベントでは起きています。

もう一つ大きな意味があります。それは起業家たちが「孤独じゃない」ということを知ることです。

彼らは事業を作っている間はもちろん孤独ですし、自分がやっていることに意味があるのかと葛藤することもある。それに、遠回しに「儲からないよね」と自分たちが大事にしていることを尊重しないコミュニケーションを取られることもある。取り組む領域によっては、SNSなどで誹謗中傷を受けることだってあります。

孤独な起業家たちが、仲間の存在を認識してまた元の場所に戻っていく。そういうコミュニティを作っていきたいし、拡張している実感はあります。「こんな大変なこと2度とやるか!」と実は毎年思っているのですが(笑)、絶対にやめられませんね。

社会課題解決を「資本主義社会の端っこで頑張っていてね」と扱っていた人にも来て欲しい。人の心を変えようだなんておこがましいことは思っていませんが、社会起業家に触れることで感化されてしまうと思うんです。

私はずっと社会課題領域がスタンダードになると信じていました。まだ社会の本流にまではなっていないかもしれませんが、「やっぱり来たぞ」という感覚はあります。「端っこ」と捉えていた方も、「社会起業家のイベントに行ったんですけどなんかすごい素敵で…全然知らなかったけれど自分たちも関わっていくべきです」となってくれたら、それはそれで、凄く良いことですよね。

イベント概要

日時:2023年10月7日(土)11:00~19:00(開場 10:15)
会場:京都リサーチパーク 4号館 地下1階 バズホール /バンケットホール
詳細:https://beyondtaliki.info/  
参加費:学生 3,000円/一般 6,000円/京都企業に所属の方 3,000円/アーカイブ付き応援チケット 3,000円

・ソーシャル最前線の豪華ゲストによる計6つのトークセッション
・有力VCのキャピタリストに壁打ち相談ができる「VCスクランブル」
・U30の若手社会起業家による事業プランピッチ「COM-PJ 社会起業家ピッチ」
・さまざまなソーシャルビジネスに出会える、出展ブース
・登壇者や参加者と交流できるネットワーキングスペース
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