コラム

「死ぬまでずっと貧困のまま」連続起業家は立ち上がった Global Mobility Service・中島徳至

2019-02-07
STARTUPS JOURNAL編集部
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「我々が提供しているのは、人々に幸せを生み出すためのFintechサービスです」そう語るのは、ASEANなど新興国を中心に、IoT/Fintechサービスをベースにした事業を展開する、Global Mobility Service株式会社(以下、GMS)CEO中島徳至氏(以下、中島氏)だ。中島氏は、1994年、電気自動車(EV)の製造開発などを手掛け、当時国内No.1のEVベンチャーであったゼロスポーツを起業。その後、フィリピンにて電気自動車の普及に奔走する中で貧困層が抱える社会課題に直面し、GMSの立ち上げに至った。日本国内においてベンチャーがまだ黎明期であった90年代から、事業を立ち上げ続けてきた中島氏に、話を聞いた。

■中島徳至(なかしま・とくし) これまで3社を起業したシリアルアントレプレナー。フィリピン赴任中、多くの人々が与信審査に通過できず車の購入や利用ができないという現実を目の当たりにし、誰もが車を利活用できる社会を創造すべく、Global Mobility Service株式会社を設立。モビリティを通じて真面目に働く貧困層に対して与信審査に通過する仕組みを構築し、FinTechサービスを提供している。
中島徳至(なかしま・とくし)ーこれまで3社を起業したシリアルアントレプレナー。フィリピン赴任中、多くの人々が与信審査に通過できず車の購入や利用ができないという現実を目の当たりにし、誰もが車を利活用できる社会を創造すべく、Global Mobility Service株式会社を設立。モビリティを通じて真面目に働く貧困層に対して与信審査に通過する仕組みを構築し、FinTechサービスを提供している。

20年、30年後の未来を見据え、電気自動車の普及に注力

1994年に創業したゼロスポーツは、自動車のアフターパーツ(単品販売の自動車パーツ)の企画開発から事業をスタートし、1998年から電気自動車の開発に着手した。電気自動車の開発を始めたのは、自動車業界で当たり前とされてきた従来型のエンジン「レシプロエンジン」に対して、疑問を抱くようになっていったからだ。

中島「自動車のエンジン=レシプロエンジンというのは当たり前のことで、僕自身もそれが正しいと思っていました。自動車は、産業界において大きな功績をもたらしましたが、同時に多くの功罪ももたらしてきました。その中で、『本当にレシプロエンジンが最善なんだろうか』という問いを持つようになっていったんです」

20年、30年後の未来を見据え、電気自動車の普及に注力

電気自動車の開発をスタートし、2年後の2000年には、富士スピードウェイで時速276.6kmという、国内の電気自動車の最高速度を記録。その後2003年には国内17番目の自動車メーカーとして国土交通省より型式認定を取得。それを機にゼロスポーツは、独立系メーカーとしては異例の、数々の金字塔を打ち立てていく。技術力は米国の電気自動車メーカーとも同格と言われ、高く評価されていた。2010年には、2年間に及ぶ全国10都市での実証検証で信頼を獲得し、大手国内メーカーのトップを差し置いて、郵便事業会社からの大量受注をしたことで世界中から注目を集めた。しかし、2011年3月に事業譲渡という苦渋の決断をすることとなる。

中島「環境への影響や化石燃料の枯渇などの多くの問題を前に、遅かれ早かれ必ず直面する現実に、目を向けようとしてくれない現実を受け入れるのは辛かった。20年、30年後を見据えた私たちの取り組みが評価される時代になると信じていましたから」

その後、事業譲渡先である渦潮電機で電気自動車開発の活動を継続し、現地法人BEET Philippine inc.を設立。初代CEO兼代表取締役社長に就任し、フィリピンで電気自動車の普及に努める日々を過ごすこととなる。

中島「その間は、0→1を立ち上げるために壮絶な毎日でしたね。寝る間も惜しんで、とにかく仕事に全身全霊を捧げました。」

車さえあれば仕事につけるのに、ローンが通らない。新興国で感じた課題感をもとにGMSを創業

渦潮電機時代に、日本の電気自動車のコンソーシアムのリーダーとして、フィリピンを訪れた。その際、フィリピンを始めとする新興国には、就業のための車を買いたくても買えない人がたくさんいる、という現実を目の当たりにする。

渦潮電機時代に、日本の電気自動車のコンソーシアムのリーダーとして、フィリピンを訪れた。その際、フィリピンを始めとする新興国には、就業のための車を買いたくても買えない人がたくさんいる、という現実を目の当たりにする。

中島「フィリピンには、車が欲しいがローンが通らなくて買えない、という人が沢山いました。加えて、多くの新興国では、貧困層と富裕層は、互いの交流はまったくと言っていいほどありません。貧困層には救いの手が差し伸べられることはなく、生まれてから死ぬまでずっと、貧困を抱えたまま一生を終えるんです」

真面目に働く意欲も、働く能力もある。車があれば、タクシードライバーなど、就業の機会は開かれる。だが、ローンが通らないから、車が買えない。その現実を知った時、中島氏の心にある感情が浮かんだ。

中島「不遇の立場にある人たちを目の前にして、身につまされるような、放っておけないという感情が湧き上がりました。そして、なんとかこの問題を解決したいと思ったんです。」

当初からの約束であった電気自動車事業の道筋を作ることでしたから、その役目を終えたタイミングで役員の皆さんと相談して退任を決意。そして、モビリティサービスの提供によって自動車が売れる環境を作りたい、という想いから、2013年にGMSを創業する。GMSでは、自動車の遠隔起動制御を可能にするIoTデバイス「MCCS」と、クラウド上に蓄積するビッグデータの分析、利活用を可能にするプラットフォーム「MSPF」を開発している。「MCCS」を搭載した車は、遠隔からでも位置情報や走行場所を把握でき、万が一ローンの支払いが滞った場合には、車のエンジン起動を停止させることも可能だ。そのため、従来は審査に通らなかった人でも、「MCCS」を搭載した車であればローンを組むことが可能になる。もちろん、完済すれば自動車は購入者のものになる。

中島「世界には、働く意欲や能力があるのにローン審査が通らず車が買えない人が、約20億人います。MCCSとMSPFを使っていただくことで、走行距離などのデータから、利用者が真面目に働いているかどうかがわかります。つまり、“信用”をデータとして可視化することができるんです」

今後も、新興国や日本を中心にFintechサービスをベースとしたサービスを展開していく予定だという。

中島「我々は車屋さんではないので、車を入り口として、“幸せの実感をしてもらうためのデータサービス”を展開していきたいと考えています。たとえば、弊社のテクノロジーを活用したローンサービスを利用した人が、子どもを大学に行かせたいと言うなら、金融機関と連携して学資ローンを提供することもできる。それでモチベーション高く仕事ができるなら我々にとっても嬉しいことなので、徹底的にサポートをしていけたらと思っています」

中島氏が目指すのは、貧困層がより上の層へ、レイヤーの移動が可能な世界を実現することだ。

中島「グラミン銀行が提唱した『マイクロファイナンス』は、貧困層がその層の中で生活できる仕組みを提供する、という考えです。僕たちは、貧困層から中間層へとレイヤーの移動ができる仕組みを作り出したいんです。信用経済の創造によって、真面目に働く人が正しく評価される仕組みづくりを目指していきたいと考えています」

今ではなく、未来を見据えたビジネスモデルを

今ではなく、未来を見据えたビジネスモデルを

中島氏に、これから事業を立ち上げたい人に向けてのアドバイスをいただいた。

中島「やりたいことの裏側に市場があるかどうかは重要ですね。今なかったとしても、5年後、10年後にその市場が開かれるかどうかを読んで、ビジネスを考えていく必要があります。 また、『自分がやろうとしているものはどう社会の役に立っていくのか』『何十年後に、このビジネスモデルが必然性をもたらすのかどうか』といった、ビジネスモデルの概念設計をしていくことも重要です。持続する、というのは当然の目標であって、『あって当たり前』というレベルまで持っていける事業なのかどうか。そこを見極める必要があります」

そのためには、自分の狭い視野の中で事業を決定するのではなく、”市場との対話”が必要になってくるという。

中島「いきなり自分の会社だけ、課題がぱっと見えてくることはありません。日常的に色々なことに課題感をもって、日々考える癖をつけることですね。食事をしても街を歩いていても、あらゆるものに対して対話をしていくような意識で生活をしていくことで、徐々に見えてくるようになります」

最後に、起業家にとって一番大切なものは何かと聞くと「真面目さを欠かないこと」と答えてくれた。

中島「経営をしていく中で、苦しいこと、うまくいかないことなんて日常茶飯事です。逃げるのは楽ですが、起業家にはたじろがないで立ち向かっていくための胆力が必要です。しかし、これは一朝一夕で身に付くものではありません。苦しい時こそ人間性が出ます。調子がいいときも悪いときも、日々真面目さを欠かずに事業に向き合っていくことが、一番大切なことだと思います」

真面目に働く人がきちんと評価される世界を、テクノロジーの力で創造する。中島氏、そしてGMSが思い描く未来は、実現へと一歩ずつ着実な歩みを進めている。

執筆:中村英里取材・編集:BrightLogg,inc.撮影:戸谷信博

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