スタートアップインサイト

容姿や年収のスペック勝負「じゃない」恋愛を。「マッチングアプリ疲れ」の起業家が生み出す恋愛メタバース Flamers・佐藤航智CEO

2023-09-13
高橋史弥 / STARTUP DBアナリスト・編集者
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高橋史弥 / STARTUP DBアナリスト・編集者

マッチングアプリで恋愛・結婚の相手を探す動きが広がっている。

国立社会保障・人口問題研究所の調査(2021年)によると、SNSやアプリ経由で知り合った夫婦は最近の結婚の13.6%を占める。アプリ運営のタップルは市場規模が近く800億円を越えると予想している。

こうしたアプリは通常、気になった人に「いいね」をつけ、相手も返すとマッチングが成立する。

筆者の友人も利用者だったが、画面を見せてもらうとそこには年収4ケタ万円を超える眉目秀麗な男女が並んでいる。誰もが知るような有名企業の所属だったり、プロ顔負け(に見える)彩り豊かな料理の写真をアップしていたり。「いいね」が少ないほど出会いのチャンスも減ってしまうため、プロフィールを魅力的に彩ることがコツだという。

こうしたなか、「外見やスペックじゃない内面からの恋愛」を打ち出すスタートアップがある。Flamers(東京港区)の「Memoria」は、顔も年収も分からない仮想空間「メタバース」で男女をマッチングする。

「年収や容姿を重視する人が使えるアプリはあるが、『そうではない』人が出会えるプラットフォームがあってもいい」。佐藤航智・CEOはそう話す。既存のアプリがターゲットにしきれなかった層への浸透を図る考えだ。

「アプリ疲れ」のCEO メタバースで出会い入籍

「Memoria」は恋愛特化型のメタバース。男女ともにあらかじめ用意された「アバター」となって宇宙やキャンプ場などを模した仮想空間に入り、音声通話をしながらデートを楽しむ。自分の見た目は表示されないため、服装や髪型などを整える手間はかからない。見ず知らずの人といきなり会うことによる身体的なリスクもない。

「メタバースの最大の価値はデートができること。音声通話だけでは恋愛まで発展しづらい面もありますが、メタバースは『隣にいる感覚』を味わえますし、間違い探しなどの共同作業を通じて仲を深められます」と佐藤CEOは解説する。ベータ版のリリースから、Flamersが把握するだけでも既に2組のカップルが婚約に至っているという。

Flamersの佐藤航智・CEO

佐藤CEO自身も、別のメタバースで知り合った女性と入籍している。元々は既存のマッチングアプリを利用していたが、「お互いすぐに『切られる』可能性がある関係で、あまり中身のない会話をするのが苦痛だった」。容姿をより良く見せるために、アプリ用の写真は美容院に行ってから撮った。自分では再現できない髪型の写真を載せ、魅力を「盛る」ことへの違和感もあった。

「マッチングアプリ疲れ」状態だった佐藤CEOがメタバース空間で偶然出会ったのが、長崎県在住の女性だった。顔も知らない相手に惹かれる経験は新鮮だった。Flamersの新規事業を模索するなかで、試しにVR空間でのお見合いイベントを開いたところ、200名近い応募があった。「既存のアプリが苦手だからイベントに来た、という人もいて、こういう人たちに刺さるプロダクトに価値はあるんじゃないかと思った」と振り返る。

メタバース上でデートする二人。佐藤CEOは右側の赤いドラゴン

内面からの恋愛 外見・年収・収入開示せず

Memoriaでは、マッチングしたユーザーに対し、相手の年齢と居住地だけを表示する。年収や職業などをどこまで開示するかはユーザーに任せる。ここに佐藤CEOのこだわりがある。

「これまでのマッチングアプリは、(男性なら)イケメン・高身長・高収入といった正解があり、そこに近い方に人気が集まるゲームのような面がありました。ややアンチテーゼのようですが、判断軸を一つだけにしたくないと思っています。もちろん年収や容姿を重視する方もいると思いますが、『そうではない』方の居場所があってもいいはずです」

Memoriaは「内面からの恋愛」を謳う。そこには「外見というフィルターで出会いを逃すのはもったいない」という思いもある。

「いきなり現実世界で会ったら恋愛対象にならないかもしれない相手でも、メタバースの会話を経てまず先に内面の魅力を感じることで、外見や年収、身長などの(理想の条件を)超えられることもあるはずです。その点、内面を知ることのできるメタバースは恋愛に適しています」

自身の結婚式もマーケ施策 「まずは認知を」

既存のマッチングアプリの市場規模は今後も広がっていくとみられている。「既存のアプリを積極的に使う層とMemoriaはターゲットが異なる」と佐藤CEOが話すように、従来とは違う価値判断で出会いを模索する層の拡大と取り込みがFlamersの課題となっていきそうだ。

「これまでのアプリは、顔写真を載せてマッチして、異性といきなりリアルで会うことに抵抗のない人たちがコアユーザーだったと思います。それがどんどんマス向けに拡大していくなかで、従来のUX(ユーザー体験)が合わない人も出てくるはずです。マスに広がる時にはマスが使えるアプリが必要。Memoriaはそこを獲りにいきます」

一方で、Memoriaがサービスを展開するメタバースの浸透はまだ道半ば。佐藤CEOも「メタバースを体験したことがない人も多いなか、いきなり恋愛と言われてもよく分からない」と認めるように、独自のユーザー体験をいかに広めるかが鍵だ。

そのための施策の一つとして、佐藤CEO自身の結婚式をメタバースで開き、一般の人にも見てもらうことにしている。「マーケティングチームの資料を見たら『航智結婚式』って書いてあって。めちゃくちゃあてにされているなと」と佐藤CEOは笑うが、「メタバースの恋愛が良いか悪いかよりも、まずは認知してほしい。全然ポジティブです」とモデルケースにするつもりだ。

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