コラム

「伸びる企業の定石」とは?ドリームインキュベータ・宮宗孝光氏

2019-11-07
STARTUPS JOURNAL編集部
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STARTUPS JOURNAL編集部
幾多の経営者と交流するドリームインキュベータ執行役員が見つけた“伸びる企業の定石”

経営は水物だ。変数が多く、状況も次から次へと変わるため予想がつかない。だからこそ、「勝ちを作れる定石がないのか」と捜し求める人は多い。ならばその道のプロに話を聞いてみよう。今回のインタビューは、大手からスタートアップまで数多くの企業のコンサルティング・ビジネスプロデュースを行う株式会社ドリームインキュベータの執行役員、宮宗孝光氏(以下、宮宗氏)。業務の中で数多くの企業の経営者と接し、メンバー17名中10名が上場する起業家勉強会を主催する宮宗氏は、伸びる企業・伸びない企業のケーススタディを積み重ねている。そこから見える“伸びる企業の定石”を伺った。

宮宗孝光(みやそう たかみつ) 株式会社ドリームインキュベータ 執行役員/DIMENSION株式会社 代表取締役 東京工業大学・大学院を卒業後(飛び級)、シャープ株式会社を経て2002年ドリームインキュベータ入社。大企業とスタートアップの戦略策定、幹部採用、M&A、提携などを推進。ベンチャー支援の実績として、3社の上場、3社の東証一部上場企業へのMBOに貢献。直近の投資・支援先は五常・アンド・カンパニー株式会社、AnyMind Groupなど。2006年から起業家との勉強会を主催。メンバー17名中、10名が上場。現在、国内ベンチャー投資・上場支援事業を統括。国内ベンチャー投資ファンドDIMENSIONの代表取締役を兼務。。日本スタートアップ支援協会 顧問を兼任。
宮宗孝光(みやそう たかみつ)株式会社ドリームインキュベータ 執行役員/DIMENSION株式会社 代表取締役東京工業大学・大学院を卒業後(飛び級)、シャープ株式会社を経て2002年ドリームインキュベータ入社。大企業とスタートアップの戦略策定、幹部採用、M&A、提携などを推進。ベンチャー支援の実績として、3社の上場、3社の東証一部上場企業へのMBOに貢献。直近の投資・支援先は五常・アンド・カンパニー株式会社AnyMind Groupなど。2006年から起業家との勉強会を主催。メンバー17名中、10名が上場。現在、国内ベンチャー投資・上場支援事業を統括。国内ベンチャー投資ファンドDIMENSIONの代表取締役を兼務。日本スタートアップ支援協会 顧問を兼任。

リーダーが「独自の価値観」を持っているかが重要

リーダーが「独自の価値観」を持っているかが重要

宮宗 我々は業界の枠を超えて、過去18年にわたってコンサルティングを行っています。マーケットの動向は過去から最新事例まで見ていますし、スタートアップから大企業まで規模問わず成長事例を見ています。今回はその中で見えてきた定石をお話しできればと考えています。

――「成長する企業」という視点で考えた時に、宮宗さんの場合はどのような共通項があると考えているのでしょうか?

宮宗 時流や環境、業界によって行動は変えるべきものなので、簡単には語りづらいです。これからお話することは全てに再現性があるわけではなく、「定石という基礎だけが共通していて、上に乗るものは業界や環境に変わってくる」そんなイメージで聞いてもらえれば嬉しいです。そのうえで経営者の価値観に共通項があると認識しています。 私のケースでいうと、売り上げゼロから1千億円の事業を作り上げた方に過去4人ほどお会いしています。インタビューもさせてもらい、上場して時価総額1千億円を超えた企業のトップと、まだそこに至っていない方にもお話を聞いて、分析したこともあります。 まず、時価総額1千億円とか、業界1位になりグローバルで伸びている企業のトップは、皆さん「独自のビジョン」や「価値観」を持っている方ばかりなんです。

――なぜ独自の価値観が重要なのでしょうか?

宮宗 世間の言うことは比較的アバウトだからです。「次はこの業界が成長する」と言われていても、そうならないことは多い。だから自分の中に軸が無いと流されてしまいます。直近の例だと10数年前に言われていたクリーンテックがあります。 「次はこれが来る」と話題になりましたが、当時事業を行なっていた企業はアメリカでも日本でもほぼ全滅してしまいました。私も新卒でシャープに入社しましたが、2001年にAQUOS(アクオス)が登場した成長期に退社しています。「家電業界はテレビのシェアを取った企業が王者になる」と言われていました。 また、当時はシャープが液晶テレビを発売してシェアを広げている最中でした。だから誰に相談しても「なぜ企業が伸びていくこのタイミングで辞めるのか?」と引き止められました。シャープが買収された今では「君は先見性があるね」と言われることもあります。退職した理由は「関わりたいと思っていた太陽光発電の開発に携われない」と思ったためです。 世間は正しいことを言っていることももちろんありますし、全くもって虚ろで、噂が噂を重ねていることもあります。だからこそ「流されない軸」、つまり独自の価値観が必要だと思っています。

大企業でもスタートアップにも共通して言えることですが、経験上、同じ施策でも誰が率いてやるかで到達点は全く異なります。経営者の価値観とは、それだけ影響力が強いものです。

――それは事業や組織にどのような影響を与えるのでしょうか?

宮宗 大企業でもスタートアップにも共通して言えることですが、経験上、同じ施策でも誰が率いてやるかで到達点は全く異なります。経営者の価値観とは、それだけ影響力が強いものです。 先日、株式会社アカツキの創業者・塩田CEOと「リーダーって見えないものが見えることが大事ですよね」と話をして盛り上がりました。彼は学生時代に、あるレストランチェーンのオーナーと不採算店舗を視察したそうです。その場でオーナーが椅子の高さやテーブルの間隔を直すよう指示を出し調整した所、その店は繁盛店になったそうです。そのように、経験に基づいて「人が気づかないところ」に意識を向けられることが重要だと思っています。見えていると独自の言葉が出てくるんです。社長の言葉やトーンから人は、「この人は本気でやっているんだ」と気づきます。 また、経営者としての魅力も重要だと思っています。魅力とは何かと言うと「また、〇〇したい」と思われる力。「また会いたい」とか「また仕事がしたい」など。これはリーダーとしての必要条件で、そうでないと長く事業を継続できないと考えています。 その魅力はどこから生まれるのかというと、多くが自信とギャップだと思っています。ズバッと言うところは言うけれど、優しくフォローする。カチッとしているところもあるけれど、どこか抜けてるという点も魅力になると思っています。 お会いしたことはないのですが、ソニーの盛田昭夫さんはすごかったと聞いています。元ソニーの新卒入社の方が言うには、武道館で入社式を行なった際に盛田さんが登場しただけで熱狂が生まれたそうです。そうした形で、一定の規模やポジションにいる方は、特有の魅力が備わっていると思っています。 独自の価値観がある人は魅力的ですし、「この人と一緒にやろう」となる。ソフトバンクさんは「夢と志は違う」と定義されています。「自分だけに閉じるのが夢、周りに向かうのが志。周りに向かうことで人を惹きつける“錦の御旗”になる」とおっしゃっています。 起業家のピッチを聞いて「どこかで聞いたことあるぞ」と感じることがありますが、それでは勝負してはいけないと考えています。MBA的な要素は押さえつつ、それを超えるものを掲げている方は伸びている。これは大企業でもスタートアップでも変わらないと思っています。

これは、環境と体験から内省して生み出すものだと思っています。

――「独自の価値観」ですが、どのように身につければ良いのでしょうか? 再現性はありますか?

宮宗 これは、環境と体験から内省して生み出すものだと思っています。 ソフトバンクさんも小さい頃から「お金では買えないプライドがある」と父から教えられてきたと、おっしゃっていました。そうした土台があって、事業を進めるうちにステージが上がり、大胆なチャレンジを繰り返しながら変化していかれた方だと思っています。 私も20代の頃は責任感だけで仕事をしていて、独自の価値観は持っていませんでした。「人として、大人として一定以上のものを返そう」という思いで働いていましたが、それだけだと続かない。「なぜこれをしているんだろう」と考え始めました。 私の場合は、今は「正しい起業家と事業の創出」を掲げていて、「正しい」というのは「不義理を働かない」という意味で使っています。不義理を働かない起業家やサービスが世の中にどんどん出て欲しいと強く思っています。ですが、こうした考えは最初から持っていたわけではありません。仕事をしながら「なぜ私はこの仕事に時間を使っているんだろう。人生で何をやりたいんだろう」と考え、考え続けているうちに、ねじり出されてきました。 そうした自身の経験から、独自の価値観を培う定石は「環境と体験の中でどこまで内観できるか」だと思っています。

――独自の価値観の他には、リーダーにどのような共通項がありましたか?

宮宗 伸びる企業の経営者は、多くの方が「人の意識」にフォーカスしていると感じています。京セラの稲盛さんも「人生・仕事の結果=考え方×熱意×能力」と定義してますし、日本電産の永守さんも「能力は2倍・3倍の差だが、意識は100倍の差になる」とおっしゃっています。 このように大きな実績を出される方は、人の意識と向き合っている方が多い印象です。

二股ソケットを売ってもパナソニックにはなれない、巨大市場の黎明期を狙え

二股ソケットを売ってもパナソニックにはなれない、巨大市場の黎明期を狙え

――ここまではリーダーの資質にフォーカスしてきました。ここからは「経営者の価値観」以外で事業を左右するものについてお聞きしたいのですが。

宮宗 まずタイミング。企業の成長を考えた時に「巨大市場の黎明期に関わっているどうか」は大きなポイントです。「本当にこのビジネスが確立されたものになるのか?」「新しい価値観や新習慣を定着させて伸びていけるか?」などいくつかの要素が無いとポジションは作れません。これも虚像に惑わされず、独自の価値観をもとに考え抜かなければ見出せないものだと思っています。

――組織づくりには定石はありますか?

宮宗 チームで言うと、「いや、こう進めるのも1つだと思います」と経営幹部やメンバーが提案できる組織は強いですね。企業は上司が伝えたことをそのまま実行するのが通常ですが、上司も完全解がわからないまま指示を出していることがあります。そうしたことを踏まえながら、建設的な提案が経営幹部やメンバーでなされる組織は、実行力も高いケースが多いです。ある上場ベンチャーは、CFOがきちんと意見する方で、業績も確実に伸ばしています。異なる価値観が交互に重なり合っている印象です。 また、論理的な経営システムを押さえつつ、理念を持つ企業は強いと思います。京セラなど典型例だと思いますが、定量的で論理的な経営システムを構築しながら、その上にストーリーや理念を乗せている。これも、独自の価値観やビジョンがなければできないことです。

――何をするか、つまり事業の内容はどうでしょうか?

宮宗 社内では、「論点設定」と言っていますが、どこで戦うかは重要なファクターです。 例えば、現代で二股ソケットを売っても、その企業はパナソニックにならないですよね(二股ソケットはパナソニック創業当時のヒット製品。松下電器製作所時代に販売され、同社の成長の礎を築いた)。 どのような領域にも絶対に競合はいて、競合を意識したうえで、どのような魅力を出していくか、ファンを増やすかを考えなければいけません。特にスタートアップが切り込んでいく新しいマーケットは、まだ市場が存在すらしていないことがあります。戦う場所を自ら設定できるからこそ、独自の価値観をもとに、タイミングに応じて「戦う場所」を設定する事が大事です。 応用にはなりますが、勝負所で「大胆な施策」を打ち出せるかどうかも勝敗を分けると思っています。既存施策の延長だと飛躍が起きません。「小が大をうっちゃる」。ベンチャーやスタートアップは基本そういうものだと思っています。 ネット上でも公開されてるエピソードですが、JINS田中社長は、上場された時は業界で5〜6番目。赤字だったそうです。悩みを抱えながらファーストリテイリングの柳井さんに相談したら「あなたのビジョンは何なのか?」とかなり厳しく叱咤されたそうです。田中さんは改めて何をしたいかを熟考し、「世界的なブランドを作りたい」と考え、大きな投資を行い、ブルーライトカットのメガネの製造・販売など「大胆な施策」を実行に移し「視力が良い人がメガネをかける」という新習慣を世の中に浸透させました。 まとめると、市場の選び方や、経営者の資質、そこに関わる経営チームが揃うと、求心力が伴って、人が集まる。「社長は少し弱みがあるかもしれないけれど、この人のビジョンを具現化しよう」となると強い。ホンダの本田宗一郎さんや、ソニーの盛田昭夫さんなど。どの領域を選ぶかという違いはありますが、定石や本質は共通していると思っています。これまで、色々な「実績者」にお会いさせて頂いた中での経験則です。 ちなみに、失敗の定石もあると思っています。例えば、時価総額を伸ばすことに苦戦されてる上場経営者の方にインタビューをすると ・トップだけの経営推進に、限界を感じている ・競合を見ていない などの共通項があると感じています。

視点は高く、顔は広く、スタートアップが成長するために

視点は高く、顔は広く、スタートアップが成長するために

――ここからは宮宗さんが考える、日本のスタートアップの課題を聞かせてください。

宮宗 これは先ほどお話しした「論点設定」の話に繋がりますが、日本のスタートアップを見ていると「産業全体の中の一部がアナログだからネットに切り替えよう」のような傾向が強いと感じています。そうした発想は、「巨大産業の黎明期」ではない。「やりやすい」とか「今持っている資源でシェアが取れる」とかの発想です。気持ちは非常に理解できるのですが、市場規模が小さい場所で戦ってしまいがちな企業が増えていると感じています。 将来は予測しづらいものですが、大きな事業になりにくいものは、最初である程度決まってしまうと思っています。

――他にはどのような課題が見えていますか?

宮宗 これは良くも悪くもですが、近年のスタートアップの経営者の方を見ていると、ジェネレーションというか、同質な人達で固まってしまう傾向が強いと感じています。 同領域や同世代で固まると、課題やバックグラウンドも共通しているので話が早い。そうした気持ちも分かります。しかし、過去も含めて優れた実績を残している起業家や経営者は年上のステークホルダーを口説いてる事が多いと感じています。 ソフトバンクさんも、シャープのCTOや上新電機の経営層に可愛がられていたと聞いています。過去に巨大な産業を作った人達は、ノウハウもアセットも保有しています。スタートアップなので経営資源がない中、大変だとは思いますが、その辺りを変えるだけでも過去に巨大産業を作った人々の意識に近づけるのではないかと思っています。私がこの仕事をしているのも、業界や年代、国をまたいだエコシステムをつくることができるのではと考えているからです。 大企業の意思決定者と、スタートアップの経営者の間を取り持つことには意義があると思っています。正直言うと、我々もまだまだ道半ばで、巨大産業を作った人が押さえている「定石」をドリームインキュベータが押さえているかというと、穴だらけだと思っています。ただ、両者をつなげられる立ち位置で付加価値を提供している会社は少ない。私自身、時間をかける意義がある仕事だと思っています。

組織を動かす独自の価値観は、小さな「好き」から生まれる

組織を動かす独自の価値観は、小さな「好き」から生まれる

――ここまで色々なお話をありがとうございました。最後に、読者の方に向けてメッセージを聞かせてください。

宮宗 周りがこうした方がいいと言っているからではなく、「これは、楽しそうだな」、「取り組む価値がありそうだ」と思ったら、注力して取り組む事をお勧めします。 やりたいことは、ビジネスでも芸術でもいいと思っています。起業も2タイプあると思っていて、社会に大きくインパクトを残す起業もあるし、八百屋さん的な生活インフラを支える起業もあると思っています。長く職人的にやられている方も素晴らしいですよね。先ほど、クリーンテックの事例を話しましたが、世間はある意味、風見鳥的な面があると思っています。自分の中で軸がないと流されてしまいがちです。自分なりの軸を持って前進する事が大事で、その軸も、柔軟性とこだわりのバランスが取れていればベターだと思っています。 好きなことに取り組んでいると、独自の価値観が培われていく。それがビジネスにもきっと良い影響を与えてくれると考えています。

執筆:鈴木雅矩編集:Brightlogg,inc.撮影:高澤啓資

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