ミレニアル世代の起業家特集、30歳以下が経営するスタートアップ特集。スタートアップやそれを経営する起業家にフォーカスを当てた記事や書籍を目にする機会がある。若手の起業家はここ数年で随分増えた。しかし30代、40代のミドル層はどうか、と少しの疑問を抱いた。ミドル層の創業初期の起業家にスポットライトの当たる場面はというと、そう多くない。ミドル層といえば、たいていは大物起業家やシリアルアントレプレナーを想像するからだ。そんな現状を鑑みて、ミドル層の起業家を支援するためのVCが立ち上がった。XTech Venturesだ。共同創業者兼ジェネラルパートナーの西條氏は、伊藤忠商事から創業初期のサイバーエージェント、レイターのスタートアップを支援するWiLの共同創業者など、経営者・投資家としてあらゆる経歴を持つ。彼が今、ミドル層に着目して支援を行う理由とはなんだろうか。話を聞いてきた。
西條氏は大学卒業後、伊藤忠商事からサイバーエージェント、その後WiLの共同創業を経てXTech Venturesの起業といった異色の経歴を持つ。始めに、自身の経歴について話してもらった。(以下、西條氏)過去の話にはなってしまいますが、僕は新卒で入社した伊藤忠商事を辞めてサイバーエージェントに移っています。理由はとてもシンプルなもので、起業家の近くで起業の勉強をしたいと思ったから。幼い頃からプログラミングが好きだったので、いつかゲームソフトなんかを作りたいとぼんやり考えていたんです。さまざまな経験ができるだろうという期待をもって、伊藤忠商事に入社を決めたわけですが、まず僕の第一希望とは異なる部署へ配属されました。経営やITを学べる情報産業部門を希望したのですが、配属先は財務部門だったんです。4年間勤めて、そのときの財務の知識は今すごく役に立っています。ただ、当時は自分が進みたい方向とはあまりにも分野がかけ離れていると考えていたので、サイバーエージェントに転職しました。社長との距離が近いスタートアップで、かつインターネットに関わるものと考えて選んだ道です。面接でもいつか起業するつもりと伝えて、起業家のそばで学びたい意思を示していましたね。僕が入社した当時のサイバーエージェントは、まだ社員数が40人。学ぶにはもってこいの環境でした。
サイバーエージェントでは、新規事業の立上げや子会社の社長を経験し、実際に経営を学ぶことができた体感がありました。サイバーエージェントで子会社の社長を任せてもらったときには、藤田さんが挑戦しないであろう領域にチャレンジすることを意識していました。本体が代理店やメディア事業に取り組むなら、僕は金融やゲームといった具合で。そのほかにも、みんなが嫌がるような問題案件を率先して引き受けたり、赤字子会社の再建を行なったり。あくまでも起業体験を積みたい、その一心だったので、どんなことでも取り組んでみようという気概を持っていました。僕は、すごく楽観的なんです。どんな出来事でも「自分ならなんとかできるだろう」と思っています。実際は大変なことだらけですが、難しいことを解決することに対しての好奇心が強いタイプなんですよね。そのおかげで、いろいろなチャレンジができていたように思います。
その後、実は独立を考えていたんです。起業体験もできたし、次は事業を作ろうと。そんなタイミングでWiLを共同創業者として立ち上げる話をもらいました。WiLのビジョンに共感したことと、大企業のオープンイノベーションの手伝い、レイターステージの大きな投資案件に携われることが参画の決め手でした。サイバーエージェントを退職するときに僕はCOOでしたし、コイニーの社外役員として資金調達をサポートしたこともありますから。頼まれたら手伝いたいと思うタイプなので、最初は手伝ってみようかという思いでした。実際のところは相当な規模のファンドの立上げだったので、責任を果たすまである程度の期間コミットすることにはなるだろうと予感もしていました。WiLの共同創業者である伊佐山さんは、シリコンバレーと日本とのエコシステムの格差を危惧していました。また、国内の大企業とスタートアップとの差にも。ファンドを設立することで、大企業とスタートアップのオープンイノベーションを促進する準備を進めました。ファンド規模は400億円超。壮大なチャレンジでしたが、伊佐山さんのビジョンに共感し、ソニーとジョイントベンチャーを作るなど、投資だけでなく実際に経営にも携わっていましたね。結局WiLには4年間いました。投資組み入れが一通り終わって、気がついてみたらソラコム、ラクスル、メルカリなどの名だたるスタートアップのEXITを見据えたタイミングで、僕自身のチャレンジのためにWiLを離れました。
3社を経験後、XTechとXTech Venturesの創業に至りました。VCを設立したのは、純粋に投資が好きだと感じたから。ライフワークのような感覚で長く続けていきたいなと感じていたんです。ただ、WiLと同じコンセプトのファンドを作る必要はないと考えました。なんなら協業できるくらいが良いじゃないですか。そう思って、レイターステージの企業を支援するWiLとは対称的に僕らはシードやアーリーステージを中心に、さらにミドル層の起業家を支援するコンセプトにしました。上場直前の企業への支援は、目利きはさほど難しくないとされています。これまで、ある程度の結果が出ているからこそ上場を視野に入れているわけですから。一方で、シードのスタートアップは目利きが非常に難しい。ですが、そこに感性やセンスを要求されることに面白みを感じます。シードのタイミングでは、事業の成長スピードも将来性も計りきることができません。だから、とにかく経営者の人柄を見て投資するか否か判断してます。具体的には、執着はするけれど固執はしない人。自分が思ったことや考えたことをしぶとく実行できることと、状況が変わったときに変化に対応してすぐに考えを変えられることの二軸を重視しています。人間性の話なので一言では言えないですが、ざっくりまとめるなら、リーダーシップがある経営者か、危なっかしくて助けてあげたくなる経営者。このあたりが、人を惹きつける経営者だとも思っています。
日本ではミドル層の起業はリスクが高いとされているように思います。ただ、僕としてはミドル層こそ、スタートアップを盛り上げていくべきなのではと思うのです。業界経験があることってなによりも強いですし、シリコンバレーだって、実は起業家のボリュームゾーンは30代半ばから40代です。日本のIT業界を引っ張っているメガベンチャーの経営者といえば、サイバーエージェントの藤田さん、ヤフーの川邊さん、グリーの田中さんなど皆40代が中心。そう考えると40代の起業家って、ありなんじゃないかと。実務経験が豊富で実は成功確度が高いのではないか、とも思います。僕らはミドル層の挑戦者たちを支えるために、VCを立ち上げました。今の時代、どの事業領域が当たるかなんてわからないから逆にチャンスがある。業界の垣根もなくなっていくでしょうし。僕らとしても、VCとして投資にとどまることなく、VCの存在意義を考え直したり、自らも事業にチャレンジしていくなど、さまざまなことにチャレンジしていかなければいけないと感じているタイミングなんです。そして、これからの起業家に対して届けたいのは、本当に一生かけて取り組みたいテーマが見つかったのなら絶対に挑戦するべき、ということ。成功確度が見えないとしても、もしも興味があるのなら、チャレンジしてみてください。反対に、とりあえず起業したいくらいのモチベーションなのであれば、無理して起業することはないと思います。もしくは、堅実なテーマや領域を設定するべき。たとえば、すでに競合他社のいるビジネスなら、地図があるからKPIは見つけやすいですよね。誰もいない領域は地図のないジャングルみたいなもので、切り拓くことが大変ですから。
執筆:鈴木しの取材・編集:BrightLogg,inc.撮影:三浦一喜