コラム

Shippio・佐藤孝徳代表が語る組織論と経営論

2020-03-18
STARTUPS JOURNAL編集部
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STARTUPS JOURNAL編集部
国際物流を革新するShippio、目指すのは“誰もが気軽に輸出入できる世界”

物流は経済の血流に例えられるが、ECの普及による需要拡大や人手不足を前に、大きな変革を迫られている。なかでも国際物流は大きな産業でありながら、複雑なレギュレーションが絡み合い、課題が放置されたまま、さまざまな非効率を生み出している。株式会社Shippioは国際物流にかかる業務を一貫してサポートすることで、物流業界に変革を起こそうとしているスタートアップで、2019年11月には10億6000万円もの資金調達を成功させ、注目と期待を集めている。

今回はShippio代表の佐藤孝徳氏に、起業の経緯や、物流業界に眠る大きな可能性について伺った。貿易産業は輸出入合わせて164兆円を超える巨大市場(*)だが、参入障壁は高い。そこに切り込むための同社の戦略とは。

*出典:財務省「最近の関税政策と税関行政を巡る状況」

■佐藤孝德(さとう・たかのり) 株式会社Shippio CEO 新卒で三井物産に入社。石油部での原油トレーディング業務、企業投資部にてPE投資・スタートアップ投資業務などを経て、中国総代表室(在北京)にて三井物産の中国戦略全般の企画・推進を行う。2016年6月、北京で同じく駐在していた土屋氏とともに、国際物流スタートアップ「サークルイン株式会社」(現・株式会社Shippio)を創業。
佐藤孝德(さとう・たかのり)株式会社Shippio CEO新卒で三井物産に入社。石油部での原油トレーディング業務、企業投資部にてPE投資・スタートアップ投資業務などを経て、中国総代表室(在北京)にて三井物産の中国戦略全般の企画・推進を行う。2016年6月、北京で同じく駐在していた土屋氏とともに、国際物流スタートアップ「サークルイン株式会社」(現・株式会社Shippio)を創業。

「誰もが簡単に輸出入できる社会を作りたい」、実現のために高い障壁を乗り越えた

「誰もが簡単に輸出入できる社会を作りたい」、実現のために高い障壁を乗り越えた

貿易産業は輸出入合わせて164兆円を超える巨大市場だ。この貿易物流の一部は「フォワーダー(荷主から貨物を預かり、業者の運送手段を利用して国際運送を引き受ける企業)」と呼ばれる事業者が担っている。半導体や原動機の好調をうけ、貿易需要がさらに増えていくことが予想される一方で、人口減に伴う労働人口の減少は避けられない。仕事は増えていくのに働く人は減っていく現状に、貿易業界の中小企業は大きな危機感を持っている。

また、業界内のデジタル化が進んでいないため、作業効率が上がらないことも課題とされている。解決策として注目されているのが、物流に関わる業務をクラウドベースで構築し、アナログ主体だった業務を効率化する「デジタルフォワーダー」だ。世界に目を向けると、各エリアを代表する物流スタートアップが誕生し、成長を果たしている。代表的な企業は北米に拠点を置くFlexport社で、2019年2月に10億ドル(約1100億円)の資金調達を果たして話題になった。同業界において、日本初のデジタルフォワーダーとして注目を浴びているのがShippioだ。

代表の佐藤氏は、国内の物流業界の課題が放置されてきた理由を、フォワーダーの参入障壁の高さにあると話す。

代表の佐藤氏は、国内の物流業界の課題が放置されてきた理由を、フォワーダーの参入障壁の高さにあると話す。

佐藤「デジタルフォワーダーを行うには、さまざまな国の貿易レギュレーションを熟知しなければなりません。貿易の手続きは見積もりだけで1週間以上かかることもあるほど複雑で、それを何カ国分も理解しなければいけないのです。テクノロジーと業界知識、どちらにも精通しなければならず、ネットで完結するビジネスとは一線を画します。社内にはエンジニアはもちろん、通関や金融などさまざまなスペシャリストが集結しています。デジタルフォワーダーはビジネスを立ち上げる際に幅広い知識や多額の資金が必要なため、よっぽどの熱量と課題意識がなければ参入できない業界だと思います」

日本でデジタルフォワーダー業を行うことに、佐藤氏は大きな意義を感じているという。人口減少が避けられない日本だが、日本人が築き上げてきた「ジャパンブランド」は必ず残る。日本で作ったものが海外でも簡単に売れるようになれば、内需に頼らない強い経済を作れるのだ。

佐藤「現状では、売上げが100億円以上ある会社でなければ、大手商社が取引をしてくれないことがあります。世界を狙える商品を作っても、国内の市場でしか販売できず大きな機会損失になるでしょう。私達が国際貿易の課題を解決することで、誰もが簡単に輸出入できる社会を作るのが目標です。私達はこれまで30カ国以上と取引実績がありますが、今後さらに取引の幅を増やし、将来的には海外進出も考えています」

「日本の起業文化はまだ未成熟」、海外スタートアップ市場で感じた課題

「日本の起業文化はまだ未成熟」、海外スタートアップ市場で感じた課題

佐藤氏が起業を志したきっかけは、前職の三井物産で行っていた中国スタートアップへの投資業務だ。中国の起業家がリスクをとってチャレンジする姿に感化された佐藤氏は、日本に帰って起業することを決意する。起業を考えた理由について、日本と中国の起業文化の違いを挙げた。

佐藤「中国にはシリコンバレーのように、優秀な人間が起業する文化がありました。スタンフォード大を卒業するような高学歴な学生が、有名企業のオファーを蹴って起業する文化が中国にも根付いていたのです。一方で、日本の起業文化はまだまだ未成熟だと感じていました。少し昔であれば、起業は就職できない人の“最後の選択肢”と捉えられる時代もありました。最近では優秀な方が起業するケースも増えてきたと思いますが、まだ中国やアメリカとは大きな差があります。私はその状況をチャンスに感じたのと同時に、私自身が起業することで日本の起業文化の醸成に貢献できればと思ったのです」

物流業界での起業を考えたきっかけは、三井物産を辞めてビジネスアイディアを考えていた時のことだ。いくつものアイディアを出したものの納得できなかった佐藤氏は、アメリカで活発に資金調達をしている業界を調べ始めた。アメリカで物流業界のスタートアップが大型の資金調達を成功させていることを知った佐藤氏は、商社での経験を活かせば十分に勝機があると感じたようだ。物流業界はマーケットが大きい割にドメイン知識に精通している人材は少なく、競合が少ないことにチャンスを感じたと話す。

佐藤「当時は参加していたCode Republic (コードリパブリック)の運営陣をメンターに、起業のアイディアを相談させていただきました。デジタルフォワーダーのアイディアを相談すると、『日本に中小含めて何百ものフォワーダーがあるなら十分ビジネスになるのではないか』といわれたのが自信になりました。それまでは納得できるアイディアを持っていなかったのですが、メンター陣の一言で腹落ちできたのです。その後、2017年には独立系VCのB Dash Campが主催するピッチイベントで優勝しましたが、実際にサービスをリリースするまで1年半を要しました。先ほどお話ししたようにフォワーダーは各種許可が必要な堅いビジネスだからです。レギュレーションの解決や、免許の取得は大変でしたが、それでも諦めなかったのはこの事業領域を信じていた仲間や株主がいたからです」

チームビルディングの秘訣は、“SNSの活用”と“グローバル基準のマネジメント”

チームビルディングの秘訣は、“SNSの活用”と“グローバル基準のマネジメント”

創業から着実に成果を残している同社。その強さの秘密はチームにある。人材が集まりにくい物流業界でありながら、さまざまな職種のスペシャリストが集まっているのだ。優秀な人材を採用できる要因のひとつは、佐藤氏のSNSだ。事業開始と同時に始めたTwitterアカウント「物流太郎(@LOGITARO1)」では、日々物流業界に関する情報を発信している。今では10,000人以上のフォロワーがいる人気のアカウントだ。

佐藤「SNSで情報発信を行う理由は、採用を見越してのことです。ファウンダーがどのような考えの持ち主なのかは、転職する際のひとつの判断要素だと思います。自分のキャラクターが分かってもらえるのは大きなメリットだと思っています。もうひとつの狙いは物流業界のことを知ってもらうことです。複雑な物流業界のことは、他業界の人には分かりにくいですし、問題があることすら知らない方も多い。物流業界の現状や課題、面白さを知ってもらうことで、ひとりでも多く興味を持ってくれる方が増えれば嬉しいです」

創業から3年経った現在では、初めてビジョン・ミッションも作成したようだ。創業時にビジョンを策定するスタートアップは多いが、Shippioはビジネスの成長を優先させた結果、これまで手をかける余裕がなかったという。シリーズAを成功させ、よりチームの連携を作るためにみんなの共通言語を作る必要性があったと佐藤氏は語る。

佐藤Shippioには、日本だけでなくフランスやアメリカ、カナダ出身のメンバーも在籍しています。国籍も違えばバックグラウンドも異なるメンバーには、これまで共通言語がありせんでした。コミュニケーションは阿吽の呼吸で伝わることはなく、発言の際には説明責任が生じます。そのような多様性のある組織で求められるマネジメントは、旧来の日本企業のそれとは異なると思うのです。これからグローバルな環境で活躍していくには、語学はもちろん、環境に準じたマネジメントを学んでいく必要があると思います。日本は世界から見ればとても安全で、外食や家賃もリーズナブルで住みやすい。実は日本で働きたいと考えるハイスペックな外国人は増えているのです。今後はグローバルな人材環境に合わせて、成功しているスタートアップがどのようなマネジメントを行っているのか、常に勉強していく必要があると思います」

ここで、チームにおいて特に重要な要素を聞くと、佐藤氏は共同創業者だと答えた。Shippio共同創業者の土屋隆司氏は三井物産時代に口説いた人材だ。

佐藤「スタートアップの経営は、飛行機をずっと操縦しているようなものです。フライトの途中では辛いこともあれば挫折もあって、メンタルがダウンしそうになることが何度もあります。正直、私はメンタルが弱い方ではないと思いますが、それでも辛い時はあるので起業家は避けては通れない経験でしょう。長くフライトを続けるには、時に操縦桿を任せられる人間が必要です。だからこそ、任せる人間とフェアでイーブンな関係を保つことが重要だと思います。世界中の成功しているスタートアップを見ても、共同創業者と複数人で起業している会社も多いのではないでしょうか。土屋はもちろん、メンバーともフェアな組織を作っていきたいと思っています」

“イケイケ”よりも“堅実”を選ぶ、質実剛健な経営で物流革新を起こしたい

“イケイケ”よりも“堅実”を選ぶ、質実剛健な経営で物流革新を起こしたい

最後に起業を目指す人へのアドバイスを求めると、「お金を貯めておくこと」という答えが返ってきた。

佐藤「私と土屋は前職で10年働いて、ある程度の貯金がありました。身も蓋もない話になりますし、お金がなければ起業できないわけではありませんが、資金があればそれだけリスクをとれます。もちろん自分への投資や、経験を買うことも大事ですが、特別お金を使いたいことがない方は、いつでもチャレンジできるように貯金をおすすめします」

Shippioの経営はいたって堅実だ。10億円以上の調達を果たした現在も社員は20名にとどめ、オフィスは築年数が経った手頃な賃料のビルに入居している。まさに質実剛健。事業の成長にコミットして無駄を省く姿勢に好感を持つ人も多いだろう。佐藤氏は「国際貿易の課題を解決することで、誰もが簡単に輸出入できる仕組みを構築し、内需に頼らない強い経済を作りたい」と話していた。日本のデジタルフォワーディングをリードする同社は、どのような物流革新を起こすのか。

編集デスク:BrightLogg,inc. 執筆:鈴木光平 取材・編集:鈴木雅矩 撮影:戸谷信博

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