コラム

人は全員「超優秀」。活躍できるかは環境で決まる READYFOR・米良はるか

2019-01-24
STARTUPS JOURNAL編集部
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2011年3月に、日本で初めてのクラウドファンディングとして誕生したサービスがある。名前を「Readyfor」という。個人から個人・事業会社・プロジェクトへの支援を可能にする仕組みとして、現在はあらゆる場面で利用されている。

2011年3月に、日本で初めてのクラウドファンディングとして誕生したサービスがある。名前を「Readyfor」という。個人から個人・事業会社・プロジェクトへの支援を可能にする仕組みとして、現在はあらゆる場面で利用されている。そんな「Readyfor」生みの親は、READYFOR株式会社(以下、READYFOR)米良はるか氏(以下、米良氏)。サービスの立ち上げからもうすぐ8年、組織としても、ひとりの起業家としてもあらゆる苦難を乗り越えている。そこで今回は、米良氏が組織を成長させるために意識したチームビルディングと、READYFORとして目指す未来の話を伺った。

人は全員、超優秀。優秀でいられる環境を見つけていないだけ

サービスの立ち上げからもうすぐ8年、創業から4年半。サービスとしてあらゆるフェーズを経験、経営者としての苦労は絶えなかったという米良氏。常に意思決定を迫られる立場として、迷うことも多かった。ただ、そんなときには必ず「人」を軸に判断してきたという。
米良はるか(めら・はるか)ー1987年生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。2011年に日本初・国内最大のクラウドファンディングサービス「Readyfor」の立ち上げを行い、2014年より株式会社化、代表取締役CEOに就任。

サービスの立ち上げからもうすぐ8年、創業から4年半。サービスとしてあらゆるフェーズを経験、経営者としての苦労は絶えなかったという米良氏。常に意思決定を迫られる立場として、迷うことも多かった。ただ、そんなときには必ず「人」を軸に判断してきたという。

米良 「企業は、人と人が集まることで、今までなかったものを実現する場所。そのため、ビジョンに共感してくれる仲間を集めることがなによりも重要です。資金調達でも採用でも、それは変わりません」

とくに、自社の採用、チームビルディングを行う上では米良氏はオリジナリティ溢れる考えを持っている。その考えとは、「人間はそもそも、みんなが優秀である」というものだ。

米良 「優秀か否かなんて判断軸はないと、わたしは考えています。あくまでも人間はみんなどこかの環境で大活躍できるものだと。採用面接は、目の前の人がREADYFORで真価を発揮できるかどうか、すり合わせるための時間でしかありません」

スタートアップで活躍できるのは優秀な人材であるという世の中の考え方をも、米良氏は一蹴する。

米良 「スタートアップも、働く場所の選択肢のひとつにしか過ぎません。たとえスタートアップでは成果を出せなくても、必ず活躍できるフィールドが一人ひとりにあるはずなんです。とくにスタートアップは自らゼロからイチを生み出さなければいけない場所。合わない人がいるのも当然ですよね」

「成長できそうだから」と、安易にスタートアップを選ぶのではなく、本当にマッチングするのかどうか。米良氏自身、やみくもに人材を採用するのではなく、マッチングを意識しながら採用活動を行なってきた。だからこそ、現在のような結束力の強い組織が生まれているのだろう。

経営から離れたからこそ見えたこと

人はみんな優秀。そんなふうに考えるようになった背景には、米良氏が経営の第一線から一旦身を引いた経験が大きく関係している。2017年の秋に患った病気をきっかけに、米良氏は治療に専念する時期を過ごしていた。

人はみんな優秀。そんなふうに考えるようになった背景には、米良氏が経営の第一線から一旦身を引いた経験が大きく関係している。2017年の秋に患った病気をきっかけに、米良氏は治療に専念する時期を過ごしていた。

米良 「起業家にとって、会社やサービスはまるで我が子のような存在です。本当は自分の目が届く範囲で経営を進めたかった。でも、強制的に休む時間を与えられたからこそ見えたことがありました」

自分の目の届く範囲のみで経営を行おうとすると、サービスはどうしてもスケールしない。それならと、自分の仕事を手放して、仲間に託した。

米良 「サービスへの愛情と、社会的なインパクトを天秤にかけたとき、後者の方がなによりも大切なことだと感じました。病床でも自分の目の届く範囲で業務に当たる選択肢もありましたが、それだと、サービスの成長の速度が鈍化する恐れがある。それは違うなと。 というのも、病気が見つかったタイミングで、『Readyfor』で資金の調達に成功した成育医療研究センターの小児ガンの子どもたちのために無菌室を増築するというプロジェクトのことを思い出して。社会的なイシューとなっている歪みを解決できるのは、私たちのビジネスだし、成長を鈍化させるわけにはいかないと思ったんです」

代表が不在の状態でも、組織として機能したのは、READYFORの組織風土に根付いている「信頼性」があったから。米良氏はそう語る。

米良 「メンバー同士のコミュニケーションの量を増やしたり、それぞれのメンバーが関わるプロジェクトをしっかりと明確化したり。日頃からメンバーを信頼できる関係を作っていたおかげで、強い組織力が生まれていましたね」

さらに、スタートアップの採用で難しいとされがちなミッシングピースを埋めることも、決して忘れなかった。

米良 「わたし自身が、ひとりでなんでもできる性格だったら、うまくはいかなかったんでしょうね。もともと何かのプロフェッショナルだったわけではないので、できないことばかりだったんです。だからこそ、人に頼ることが創業初期から意識できていたように思いますね」

「やりたいことがない」ことがコンプレックスだった

振り返ってみると、23歳で「Readyfor」を立ち上げ、法人化に至った米良氏。企業に所属することなく起業家として歩む人生だが、幼い頃から起業家を目指したわけではない。むしろ、自分自身にはコンプレックスを抱いていたほどだ。

振り返ってみると、23歳で「Readyfor」を立ち上げ、法人化に至った米良氏。企業に所属することなく起業家として歩む人生だが、幼い頃から起業家を目指したわけではない。むしろ、自分自身にはコンプレックスを抱いていたほどだ。

米良 「祖父が発明家で、父はクリエイター。なにかを生み出すことを仕事にした人が周りにいた環境ではありました。ただ、わたしの目に映る彼らは好きなことに打ち込む大人で。一方のわたしは、これといって好きなものがあるわけではなかった。やりたいことがないことへのコンプレックスを抱いていました」

そんな米良氏の劣等感を変化させたのが、インターネットの存在だった。大学在学中のゼミの一環で出会ったセマンティックウェブの存在に衝撃を受けたという。

米良 「ゼミの授業でセマンティックウェブの技術を用いて、人物検索サービスの『スパイシー』を立ち上げたんです。当時はまだ、Wikipediaにも日本人が50人ほどしか登録されていないタイミング。データから人の情報を収集して個人のページを持つ人が増えたら、時代の変化とともに、個人がフィーチャーされるようになるはずだと考えました」

その頃から、個人と個人のつながりを意識。人物検索サービスに続いて、「Readyfor」の前身とも言える、投げ銭サイトを開設した。実際、米良氏の予想は的中し、次々と個人を支援する投げ銭が集まっていたという。個人にスポットが当たる未来を確信した米良氏の中に、企業に所属する選択肢は消えていた。

米良 「続くかどうかなんてわからない。だけど、自分が就職した未来に良いイメージが湧かなかった。それなら、今おもしろいと感じたものを選んでみようと考えたんですよね」

その後、縁あって渡ったシリコンバレーではスタートアップの起業家に感化され、同時期に登場したクラウドファンディングプラットフォーム「Kickstarter」「Indiegogo」の存在で、これから「個の時代」が訪れることを確信。「挑戦したい」と考える世の中の人たちを救うためのプラットフォームを作りたいという米良氏の想いは、やがて確固たるものになっていた。

米良 「経営者になりたかったわけではありません。ただ、『誰もがやりたいことを実現できる世の中をつくる』という願いを形にした結果、起業することが一番だと思いました」

社会にインパクトを残すためにREADYFORができることを

クラウドファンディングの認知度は、随分と広がった。多くのプラットフォームが登場し、私たちは日々さまざまなプロジェクトを目にしている。だが、米良氏の願いはまだまだ続く。「Readyfor」で実現したいのは、社会へのインパクトがより大きな取り組みだ。

クラウドファンディングの認知度は、随分と広がった。多くのプラットフォームが登場し、私たちは日々さまざまなプロジェクトを目にしている。だが、米良氏の願いはまだまだ続く。「Readyfor」で実現したいのは、社会へのインパクトがより大きな取り組みだ。

米良 「現在、会社として挑戦したいことが大きく分けてふたつあります。ひとつは、マッチングのあり方を変えること。テクノロジーの発達によって、マッチングの仕組み自体がアップデートできないだろうかと考えています。仮想通貨やブロックチェーンなどの技術をどう活かせるのか。これから楽しみなところですね」

もうひとつは、従来のファイナンスの仕組みではお金が届かなかった環境に向けて、必要なお金をしっかり届け、流動させることだ。

米良 「これまで、国の助成金で成り立っていたような領域でも、助成金の縮小に伴って満足にお金が流動しないのが今の世の中の現状です。けれど、NPO、地方自治体、研究機関、医療機関など、お金を必要としている人たちはまだまだたくさんいる。そんな人たちに向けて、しっかりとお金を届ける仕組みづくりを行なっていきます」

壮大なプロジェクトでなかったとしても、一人ひとりの小さな興味を後押しできる場所を作ること。それが、READYFORの目指す姿だ。機械の能力がさらに発達するこれからの未来。人間の仕事の一部は機械が取って代わってしまうと、人間は余ってしまうかもしれない。そんなとき「こんなことができたら」と思える、考えられる人間たちの場所を作ることも、READYFORの使命なのかもしれない。規模は大きくても小さくても良い。人の思いを形にするためのプラットフォームとして、「Readyfor」はこれからも幾多の夢を叶え続ける。そんな未来は、きっと豊かだろう。

執筆:鈴木しの取材・編集:BrightLogg,inc.撮影:戸谷信博

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