世界のデジタル化が著しい中、未来を想像する上でGAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)の動向を無視するわけにはいかない。上記の4社は世の中にテクノロジーの進化をもたらすことに積極的に取り組みM&Aを通じて、最先端技術、知財や人材を吸収も続けている。中でもGoogleの積極性には目を見張る。詳しい数字は本記事でまとめるが、Googleの買収歴代件数は4社中最も多く、他3社の2〜3倍である。Googleが過去M&Aした有名な企業は、スマートフォンに搭載されているOSを開発するAndroid、動画メディアのYouTubeだろう。そんなGoogleが、日本企業を2社M&Aしていることをご存知だろうか。Googleが魅力に感じたその日本企業とは、一体どんな企業なのだろうか。GoogleのM&Aに関して簡単に触れながら、M&Aされた2社について紐解いていこう。
GoogleがM&Aをどのくらい積極的に行なってきたかを、GAFAの4社と比較して説明しよう。日経BP総研、テクノアソシエーツの調査によると、創業から2018年3月までの買収数は、Googleが224社、Appleが104社、Facebookが74社、Amazonが97社とGoogleが群を抜いている。2001年2月から2018年3月までで224社、つまり約月に1度のペースで買収を行うGoogleに、買収戦略はあるのか。米メディア「TIME」ではこう語られている。
■ 専門分野をもつ優れた人材の獲得■ Googleの中核事業である検索に直接関係のある事業■ 未来のテクノロジーに対する戦略的な投資
この3点の条件は強く反映されており、買収した企業224社中207社がIoT、ロボット、AIといったテック企業である。
Googleはこれだけ多くの企業を買収しているものの、もちろん成功した案件ばかりではない。話題にもなったYouTubeやAndroidの買収はあるものの「2003年から10年間で120件の買収を行なっているが、1/3は失敗だった」とGoogleの企業開発担当VP David LaweeがDisrupt NYCのステージで語っている。
GoogleがM&Aした日本企業2社について見ていく。
PHYZIOSは、東京大学で研究・開発された粒子法などの物理シミュレーション技術をエンターテイメント分野に応用し、スマートフォンやタブレット端末向けのアプリケーションを提供する企業として2009年に設立。そして2013年2月にGoogleによって買収された。Googleとの接点はいつできたのか。おそらくシリコンバレーでも有数のインキュベーション施設であるPlug and Play Tech Centerで開催された、世界のベンチャー企業を対象としたビジネスコンテスト「iEXPO 2010」に出場したことだろう。そこで世界中の数百社から選抜された3社に送られる最優秀賞「Innovation Winner Award」を受賞している。Plug and Play Tech Centerは米国シリコンバレーのテクノロジー系ベンチャー企業に対し、戦略パートナーとして、VC、エンジェル投資家、パートナーの紹介、法務の支援など、さまざまなサービスの提供を行うインキュベーション施設だ。GoogleやPaypalへの投資、事業支援なども行った実績があり、シリコンバレーの生態系を支えている。このコンテストで最優秀賞を受賞したことで、シリコンバレーにPHYZIOSの名が広まり、Googleの目に止まったのだろう。このような経緯で2013年2月にGoogleに買収されるが、買収後の情報はほとんど無く、かつてリリースされていたアプリも全て配信が停止されている。残念ながら、事業自体終了している可能性が高い。
SCHAFTは、2012年に東京大学の研究者らが設立した。危険な場所や被災地、建設現場や製造現場で活用できる二足歩行ロボットの開発を行なっている。2013年11月に、Boston Dynamicsと共にGoogleに買収された。この買収の実現には、ある日本人が関わっている。それはACCESSを創業し、現在TomyK代表を務める鎌田富久氏だ。鎌田氏はアンドロイドOSの開発者であり、当時Googleのロボット部門の責任者だったアンディ・ルービン氏に直接買収の話を持ちかけたそうだ。アンディ・ルービン氏がSCHAFTを視察するため来日した際、Googleの投資グループも同行している。それをきっかけに買収の話がまとまった。しかし、その1年後、Googleの技術部門担当副社長として活躍し、SCHAFTへの出資を決めたアンディ・ルービン氏が退社した。そのことがきっかけでSCHAFTとBoston Dynamicsをソフトバンクへ売却する方針を立てる。2017年時点では、SCHAFTとBoston Dynamics両方を買収すると発表していたソフトバンクだったが、実際に買収されたのは「Boston Dynamics」の1社のみだった。そのためGoogleは、SCHAFTの事業を2018年末に事業を終了させた。
紹介した2社に共通することはふたつある。ひとつ目は残念ながら事業が終了してしまっていること。ふたつ目は2013年にM&Aされているということだ。この2013年にM&Aされている点にはGoogleのM&A戦略があるだろう。Newspicksの「Google 買収戦略 20の事実」では、ふたつの戦略が記されていた。ひとつ目は「2013年はロボット関連企業の買収に注力」したこと。2013年に17社の買収を行い、そのうちSCHAFT含む7社が 人型や作業用のロボットを開発する企業だったという。ふたつ目は「2013年以降、新カテゴリーの買収が目立つ」こと。この背景にはGoogle Xの始動が関係している。Google Xの例として挙げられているのは以下の4つだ。
■眼鏡型ウェアラブルデバイスの開発■自動走行車の開発■気球を使った無線ネットワークの開発■血糖値をモニタできるコンタクトレンズの開発
これらの新カテゴリー強化により、物理シミュレーションを得意とするPHYZIOSが買収されたと考えられる。世界各国に情報網をもつGoogleに注目され、買収に至るのは光栄なことが、残念ながら事業は終了してしまっている。そんな中、2018年12月4日、AI/ディープラーニング事業を手がけるABEJAがGoogleからの出資を受け、協業を開始した。買収ではないものの、GoogleのCVCからの出資ではなく、Googleが直接出資する珍しいニュースが舞い込んできた。Googleは未来を先読みし、投資や買収を行い、最新技術を次々に生み出している。そんな中、紹介した2社やGoogleから直接出資を受けたABEJAのように、日本企業の技術力の高さは世界から認められつつあると言えるだろう。2013年に買収された日本企業2社の特徴や、今後Googleが日本企業への出資や買収の動きを参考に、これからの技術トレンドをキャッチアップしてほしい。