コラム

起業にリスクはない。GMO VPが語る起業の成功に必要な3要素

2019-05-14
STARTUPS JOURNAL編集部
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STARTUPS JOURNAL編集部
起業にリスクはない。15年間ベンチャーに投資してきたGMO VPだから語れる、起業の成功に必要な3つの要素

起業してみたい。少しでもそう思ったとき、実体験を持つ先輩起業家の知識や経験を得たいと考える方は多いだろう。一方で、起業にはさまざまな形があり、先輩起業家から必ずしも自分が求める話が聞けるとは限らない。そんなとき、数多くの起業家やスタートアップを見極め、投資をしてきたVCの知見を得るのは、とても有効な手段だ。

投資をしてからまだ数年という、新しいVCが多い中、ファンド組成から投資回収までの10年サイクルを経験し、起業の失敗も成功もつぶさに見てきたVCがある。2005年に設立された、GMO ベンチャーパートナーズ(以下、GMO VP)だ。GMO VPは長きにわたり投資の成功案件を見てきたからこそ、起業してから上場するまでのパターン認識を培い、投資する上での価値として提供している。

こうした経験豊富なVCだからこそ語れる、起業で成功するために必要なことや、失敗しないためのアドバイス、そして仮に失敗してもリスクがないというその理由を、GMO VP パートナーである宮坂友大氏(以下、宮坂氏)に聞いた。

■宮坂友大GMO VP パートナーネット総合金融グループの金融持株会社SBIホールディングスを経て、2006年に住友信託銀行とSBIグループの出資による現住信SBIネット銀行の立ち上げに参画。2008年より当ファンドに参画し、2013年よりパートナー就任、現職。慶應義塾大学経済学部卒。
宮坂友大(みやさか・ともひろ)GMO ベンチャーパートナーズ パートナーネット総合金融グループの金融持株会社SBIホールディングスを経て、2006年に住友信託銀行とSBIグループの出資による現住信SBIネット銀行の立ち上げに参画。2008年より当ファンドに参画し、2013年よりパートナー就任、現職。慶應義塾大学経済学部卒。

この10年で起業のハードルはぐっと下がった

GMO VPは、当初は他のCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)と同じく、親会社であるGMO インターネット株式会社の資金を、CVCとしての戦略に則って投資を行なっていた。だが5年、10年が経ち、起業家や投資家をとりまく環境が変わる中で、GMO VPもその姿を変えていった。

GMO VPは、当初は他のCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)と同じく、親会社であるGMO インターネット株式会社の資金を、CVCとしての戦略に則って投資を行なっていた。だが5年、10年が経ち、起業家や投資家をとりまく環境が変わる中で、GMO VPもその姿を変えていった。

宮坂 「当初はCVCらしく、自社ではなかなか得られなかった情報を得たり、スタートアップと提携・買収の機会をつくったりするためのレーダー役として投資をしていました。なので必ずしもリターンとして投資資金の5倍、10倍を目指す必要はなかったのです。 ところが投資環境が変わる中で、外部の投資家の資金を受け入れ運用するようになり、他の投資家の興味分野を反映したり、適切なリターンを求めるようになりました。ファンドも増え、2005年の設立時は3人で23億程度の運用をしていましたが、今では常勤は8名程度で160〜170億程度を運用しています。どのファンドもパフォーマンスはかなり良い状態となり、投資家のみなさんが期待するものを提供できるようになっています」

日本ではこの10年、以前に比べて格段に起業がしやすくなったのだ。

宮坂GMO VP設立時からの一番大きな変化は、起業家も投資家も増えたこと。ただ増えるだけでなく、伝統的な会社にいた方が満を期して独立したり、かと思えば高校生が起業したりするなど、より多様な顔ぶれになりました。投資家もリーマンショック後は痛い思いをしたため撤退や投資活動の停止に動きましたが、景気が回復し、日本もイノベーションによる諸問題の解決を必要とする中で、一気に資金額や人数が増えました。 この背景のひとつには、起業のハードルが下がったことが挙げられます。クラウドサービスが当たり前になり、起業するにあたってゼロからつくらなくてはいけないものが減りました。また、会社をつくるときの手法、いわゆる『HOW』の部分の指標が確立され広がっていることも大きいと思います。 たとえばSaaSをつくろうとしたとき、どのタイミングでどれくらいの数字を目指せばいいかというのは、昔はわからなかったけれど今ではネットにデータが出ていますからね。 こうした状況が、起業のハードルを下げています」

起業する上で最も大切なのは人柄だ

起業する上で最も大切なのは人柄だ

起業しやすくなったと言っても、その会社が成功することとはまた別の話だ。

起業で成功するには何が必要なのか。「自己認識・人柄・向き合うこと」の3つを宮坂氏は挙げる。

宮坂「起業するにあたって最初の壁となるのが、自己認識です。『あなたがやっているビジネスの本質は?』という問いに対し、明確に答えられるかどうかということです。 たとえば、人材業界の人が何をしているか、どんな価値を提供しているのかと尋ねられたとき、今日本にいる転職したい人と採用したい企業のマッチングビジネスと端的に答えることもできますが、見方を変えると、今後10年で変革が起こる低付加価値・成熟産業から高付加価値・成長産業への人の移動を意図的に促すビジネス、ということもできます。 この時間的、空間的な捉え方の違いは、戦うフィールドや攻め方、必要な資金量や組織の違いにつながるので、実はとても大切なのではないかなと思っています。 また、もし一口にマッチングと言っても、一回の転職に焦点を合わせるとよくあるスポット型のビジネスモデルに思えますが、日本でも転職回数が増える中で今後6年間で2回その人が転職する、転職検討をしない期間はメディアの読者になってリーチしそこでも個人課金し、企業側から広告収益を上げるビジネスと捉えると、トランズアクション+ストック型のビジネスモデルに近くなり、LTVも高まるのでひとり当たりの獲得単価はもっと上げられるなど、リターンの出し方はけっこう変わってくるかもしれません。 こうした自己認識や、自己定義していくのが実はすごく難しい。にもかかわらず、起業する多くの方は、最初はあまり考えず、目の前のことだけに集中してしまい自分たちの立ち位置を見失ってしまいます。ですので、起業するにあたって『自己認識』は必要不可欠なプロセスだと言えます」

2点目は起業家の人柄だ。人柄というと漠然としているが、ビジネスを育てていく中でどれほど他者の意見・アドバイスに耳を傾けられるか、そうした意見を受け止めて自身を変化させられるかという、柔軟性や素直さを指す。

宮坂「自分が投資する企業を見極める上で一番重視しているのが、経営陣の人柄です。というのも、それによって企業がどれくらい成長するかが変わってくるからです。 たとえば私は、起業家に最初に会ったときと、その後1ヶ月を見たときに、どのくらい情報を集め、変化しているかを見ます。成長できる会社の経営陣は必ず、受けた指摘を解釈し、振り返った上で丁寧に相談をしてくれる。 それは言ったことを受け入れろということではなく、理解し、チームで相談し考え、シナリオを作って対話することなんです。そして、知らない間によくわからないけど関係ない人も巻き込んで応援団になっている。伸びる会社にはこれが大切だと感じます。一方、自分のビジネスを話すときに『僕たちはこうなります!』と断言して畳み掛けてくる起業家もいます。自分が考えたモデルのみ信じ『もしこうなった場合はどうする』と尋ねても想定されていません。このような方の会社はなかなか成長しません。 その方がどんなに優秀でもひとりでできることは限界があります。ひとりが死に物狂いでアウトプットを10から20に上げても、10人が平均アウトプット10で計100の方が多様で、強く、スケールするのです。なのでまわりを巻き込んで成長プロセスに乗ることが大切です。 もちろん、起業家として決めたことを貫く信念の強さは大切です。一方で、ほかの人の意見を聞く姿勢も欠かせない。自分を信じつつも疑う、このバランス感覚はとても大事ですね」

頭では理解していても、ひとりで相反するふたつのことを同時にやるのは難しい。そういうときは、チームで「信じることと疑うこと」が実現できているかで判断する。

頭では理解していても、ひとりで相反するふたつのことを同時にやるのは難しい。そういうときは、チームで「信じることと疑うこと」が実現できているかで判断する。

宮坂「ブレーンとしてのナンバーツーがいるか、そうした人物が、社長が間違った選択をしそうになったらちゃんと止められるか。こうしたことを見極めるのが投資をする上で大切です。 かくいう私も、投資を始めた当初は経営陣の人柄を見抜けなくて失敗したことがあります。彼らの経歴が軒並みピカピカだったので、大丈夫だと思い投資しましたが、半年後仲間割れして終わったこともありました。 こうした失敗を経たからこそ、起業で成功するためには人柄が大事だということを身にしみて感じています」

起業して成功する上で大切になる3点目は、向き合うことだ。

宮坂「事業をやっているとあまり人に言えない問題や苦しみなどがいくらでもあります。これらは創造する、 あるいは成長するプロセスを経ている以上あって当然です。こういう場面で現実を直視せずに過ごしてしまうのはいけません。人間ですから辛い場面も多いのですが、向き合わなかった分、あとからしっぺ返しがきます。ちゃんと向き合っている人を周りは見てくれていて仲間になってくれたり、助けてくれるものです。今やっていることはすぐに結果がでるものではなく、その結果や価値が分かるのは数年先なのですが、やりきって、あとは運に任せるというのが大切です」

起業は大変だ、けれどリスクはない

起業は大変だ、けれどリスクはない

宮坂氏は起業の成功条件と合わせて、ベンチャーが陥りやすい失敗についても2点挙げる。

宮坂「ひとつはさまざまな事業領域に手を出してしまい、人員も起業家の脳内リソースも分散してしまうことです。その結果、色がないサービスがいくつかできるだけ。突き抜けたサービスではないので、どれもお客さんに愛されず失敗に終わってしまう。 これと決めた事業に対しては、150パーセントのエネルギーをかける。脇目を振ると勝てないし、突き抜ければ意外と競合もついてきませんから。 もうひとつは組織体制です。急速に成長する企業は人も増えるため、組織の構築を急ピッチで進めがちですが、一人ひとりの適性やスキルを見極めた配置にしなければいけません。 そうしないと、たとえばとりあえずあの人を取締役にしたけれど、会社が求める成果は発揮できなかった、でもいったん上げたポジションを下げるのは難しいといったことが起こります。焦らず、その方や会社に合った組織をつくっていくことが起業家には求められます」

起業家として成功するには、失敗を避けるには。起業する上で重要なポイントを宮坂氏はシェアしてくれた。とはいえ、最後に強調するのは、成功・失敗に関わらず、起業してみたいと思った方にはチャレンジしてほしいということだ。

宮坂「起業家というのは数ある仕事や職業の中で、社会における役割のひとつにしかすぎません。誰しもができるわけでもないし、する必要もないと思っています。自分で事業をやるというのはとても大変で、困難を乗り越えるにはそれでもやり続けるという信念や原体験が欠かせませんから。一方で、想いを持っている方には、どんどんチャレンジしてもらいたいと思っています。起業にリスクはありません。 というのも、起業してダメだった場合にはまた誰かの会社で働けばいいからです。日本は今人材不足なので、たとえ失敗に終わったとしても自分の手で事業をつくり、どんなフェーズでどんな困難を乗り越えてきたかという経験は、多くの企業が欲しがっています。 いったん起業した後、以前働いていた会社に戻ることも徐々に浸透しています。会社にしてみれば、自社のノウハウや文化を知りつつも、他で経験を積んだ人というのは貴重ですから。 少しでも起業したいと思っているなら、お金やキャリア、今後の仕事のことを心配しすぎずに、ぜひ飛び込んでみてください」

執筆:菅原沙妃取材・編集:BrightLogg,inc.撮影:戸谷信博

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