世界的に猛威を振るう新型コロナウイルス感染症(COVID-19)。政府による緊急事態宣言発令から2週間以上経過したが、収束の兆しはみえず、国内の感染者が1万人を超えた。また、新型コロナウイルスによる経済への影響も懸念されており、三菱総合研究所の調査によると、日本国内の経済損失は10〜16兆円まで拡大すると予測されている。このような状況で日本のスタートアップ企業への投資状況などにはどういった変化が起こっているのか、STARTUP DBのデータからわかる実態をみていく。
まずは、昨年の同時期と比較した際の資金調達に関連したデータをみていく。1月〜4月20日を対象期間として、資金調達を実施した企業数と総資金調達額を比較した。2019年と2020年の1月〜4月20日までに資金調達を実施した企業数は以下である。
2020年に入ってからは、前年に比べて資金調達を実施する企業が全体的に減少している。新型コロナウイルスの影響が拡大する以前である1月、2月でも前年に比べて企業数は少ない傾向にあることがわかった。次に、資金調達金額をみていく。企業数と同様に資金調達金額に関して比較した図が以下になる。
資金調達金額としては、前年に比べて3月に大幅に下がっていることがわかった。また、2019年1月〜4月20日の総調達額1,662億円に比べて2020年1月〜4月20日では総調達額1,430億円で、総調達額が232億円減少していることがわかる。この減少は、2019年にJOLEDがINCJなどからの大型調達、LINE証券、Paypay、メルペイなどの親会社からの大型調達が含まれたことによって生まれた差によるものと考えられる。上記を加味すると、新型コロナウイルスの影響はあるものの、現時点(2020年4月20日時点)ではスタートアップにおける資金調達金額に大きな増減はなく、実態はまだあまり累が及んでいないものと考えられる。
投資件数において上位にある投資家の内訳は、2019年通年と比べて、大きな変動はなかった。 また、みずほキャピタル、SMBCベンチャーキャピタル、三菱UFJキャピタルなどの金融系VCが上位を占めている。このような状況下でも 積極的な投資家たちはスタートアップへの投資を継続していることがわかる。次に新型コロナウイルスに対しての取り組みを行っているファンドや企業の動向をみていく。
新型コロナウイルスの感染拡大を受け、VCの業界団体である日本ベンチャーキャピタル協会は、スタートアップの支援を求める要望を政府に提出した。スタートアップに特化した資金繰り対策や、新型コロナウイルスの治療や終息後の社会に貢献する企業への支援を求めるなど、経済や企業への打撃を考慮し、支援に動き出そうとしている。日本経済新聞が計30社のVCやCVCに対して実施したアンケートによると、現時点では新型コロナウイルス拡大の影響を考慮しつつも、積極的な投資方針を採ると答えたVCが8割を占める結果となった。理由として、ファンドの資金集めをすでに終えていることや、株価を下げて資金調達する企業が増えると予想されるので、投資に割安感があることが挙げられた。各VCが直近で新たに設立したファンドをまとめた。
・Coral Capital新型コロナウイルスの影響が広がる中、機関投資家を中心に資金を調達し、既存投資先へのフォローオン投資に特化したグロースファンドを組成。4月までに27億円の調達に成功。また、1社あたりの投資額の上限を数億円から15億円まで拡大する方針だ。・エムスリー医療分野のスタートアップに投資するコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)ファンドの運用を本格的に開始。出資総額は100億円に及ぶ。・みずほ銀行 × みずほキャピタル総額50億円規模の、ライフサイエンス分野の投資に特化したベンチャー投資ファンド「みずほライフサイエンス1号ファンド」を設立。・グローバル・ブレインエプソングループと共同で「EP-GB投資事業有限責任組合」を、ヤマトホールディングスと共同で「KURONEKO Innovation Fund」を設立。それぞれ50億円規模のファンドで、有望なスタートアップ企業を支援していく方針だ。・グロービス・キャピタル・パートナーズ5号ファンド(2016年設立、160億円)の既存投資先に対して、コロナ危機を乗り越え、さらに事業拡大を進められるための追加投資を行う5号Sファンドを設立。今年5月に募集上限の40億円で最終募集を完了する予定である。・iSGSインベストメントワークス新型コロナウイルスの拡大に伴う、医療・社会へのネガティブな影響に対抗し、改善可能性のあるサービスを提供するスタートアップを対象とした投資プログラムを4月1日より開始。迅速な投資意決定と投資実行、さらにサービスの開始と成長に向けた様々な経営支援を行う方針だ。先行きが不透明になり、経済成長が鈍化している中でも、各VCや事業投資会社は、新たにファンドを設立し、既存・新規投資先に対して支援拡大を行っている。
新規のファンド設立以外にも、資金調達に関する斬新な取り組みを行い、スタートアップをはじめとする企業への資金支援をサポートしている会社が確認できた。①ANRIオンライン完結型の投資を開始。同社では、今年3月に開始した即決投資プログラム「ソクダン」を通じて既に投資実行に至ったケースもあり、オンラインでしか接点がない起業家にも積極的に投資を進めていく方針だ。②商工組合中央金庫コロナ危機を受け、商工中金の全国約100支店において、中小・小規模事業者に対する実質無利子貸付の相談を受付。③マネーフォワードシンカベンチャーキャピタルとスタートアップ企業のオンライン資金調達相談のマッチングを開始。2020年3月4日時点で、参画するベンチャーキャピタルは20社を超えた。オンライン完結型の出資を実施したり、ビデオミーティングを活用した資金調達相談を開催するなど、今後の新たな資金調達の形を模索し、変革をもたらす可能性を秘めている取り組みも多く行われている。
近年は、スタートアップが出資元を選べる時代になったともいわれていた。スタートアップがコロナ危機を乗り越えられるための支援が加速しているとはいえ、社会状況を鑑みて、依然として、投資に慎重になっているVCも多いだろう。世界に目を向けてみる。日本経済新聞によると、2020年1~3月の期間において、世界のCVC投資額は前四半期比で13%減の340億ドルに留まった。投資件数は1337件で、前四半期比19%減、前年同期比24%減となった。しかし、国際的に経済成長と投資が鈍化する中、希望を感じられるデータもある。現在のFortune 500に選出されている企業のうち、半数以上が不況や弱気市場で生まれたというのだ。また、2007〜2009年の不況期に、50社以上のユニコーン企業が創業されたという事実も驚きである。革新的なサービスや製品を提供し、人々の暮らしを飛躍的に向上させる可能性を秘めている企業こそが、スタートアップだ。今後の不況が予想される今だからこそ、スタートアップに対する支援を拡大しているVCと企業が多いといえるだろう。今後もSTARTUP DB編集部では、公開情報を元にスタートアップエコシステムの実態に迫っていきたい。