スタートアップにとって必須といっても過言ではない資金調達。また、成長したスタートアップが経験するEXIT。スタートアップにとって成長のための役割を背負うのがCFOである。本記事では、2018年マザーズ上場63社のCFOの経歴分析を行い、スタートアップのCFOに適する経歴の特徴を調べた。
まずは、CFOの役割について解説しよう。CFOは、「Chief Financial Officer」の頭文字をとった言葉で、正式には「最高財務責任者」のことを意味する役職だ。企業の財務戦略の構築から執行までを担う責任者のことを指す。一般的には企業ではCEOに次いでCOO(最高執行責任者)と同列の役職と認識されている。いまだ日本においてはCFOの役職を設けない企業も多いのが現実だ。しかし、企業財務のトップであるCFOは欧米では、地位が確立しており、CEOの片腕となる企業は多い。近年のグローバル化に伴い、日本企業も世界基準に則った透明性の高い財務会計が求められている。これからは財務戦略と経営戦略の整合性が、今後の企業の成長につながるのだ。このような状況から今後はより財務分野の責任者、CFOの役割が各企業において大きくなっていくであろう。今回のリサーチでは、スタートアップ企業のCFO分析に絞るため、株式市場としてはマザーズに限定した調査を行なった。2018年マザーズ上場企業63社のCFOまたはそれに類する役職のリサーチをした(CFOポジションのない企業では管理部長・経営管理部長などの相応する役職の人物をリサーチした)。
まずは、63人のCFOが新卒で入社した企業についての調査結果だ。一般的にCFOは、金融機関出身者が多いイメージであるが、今回の調査では次のような結果であった。
上記グラフからは、金融機関・監査法人などに就職した人は一定数いるが、60%程度はその他の事業会社に就職していたことが分かった。また、今回の調査対象であるCFOの中には、新卒で外資金融に就職した人は0名であった。新卒の就職先がCFOになれるか決定づけることはないといえるかもしれない。各CFOが経験した社数(現職は含めない)の平均は3.3社。最も多い人で8社という結果であった。1社のみが13人、2〜3社が28人、4社以上が22人という結果だ。
次に、経験社数別のグラフでボリュームゾーンとなった、2~3社の企業を渡り歩き、2社目以降で外資金融・投資ファンドの経験をもつ3名のCFOを取りあげる。それぞれの経歴に着目しながら見ていこう。
長澤啓氏 メルカリ執行役員CFO慶応義塾大学総合政策学部卒業後、三菱商事において金属資源分野の投資及び、エネルギー・リテール領域におけるM&Aを担当。その後、シカゴ大学経営大学院に進学し、MBAを取得。卒業後は、ゴールドマンサックス証券に入社し、東京・サンフランシスコにおいてテクノロジー領域におけるM&AとIPOを含む資金調達業務を経験。2015年6月にCFOとしてメルカリに参画。
永見世央氏 ラクスル取締役CFO慶応義塾大学総合政策学部卒業後、みずほ証券にてM&Aアドバイザリー業務に従事。その後米カーライル・グループに所属し、バイアウト投資と経営及び事業運営に関与。ペンシルバニア大学ウォートンスクールにてMBAを取得。DeNAを経て2014年4月にラスクルにCFOとして参画。
浅原大輔氏 HEROZ取締役CFO京都大学卒業・大学院修了後、マーサージャパンに入社。その後ゴールドマンサックス証券に参画し、投資銀行部門資本市場本部に在籍。ペンシルバニア大学ウォートンスクールでMBAを取得後、2013年6月にHEROZ執行役員に就任。その後同年7月にCFOに就任。
次は、CFO就任までの経歴による調査を行なった。事業会社・金融機関・監査法人での勤務経験の有無を調査したところ、事業会社に勤務経験のあるCFOは全体の71%、金融機関での経験のあるCFOは26%、監査法人での勤務経験は20%だった。金融や監査の経験よりも事業会社での経験がある人の割合が高いことが分かった。また、業種を問わず他社で役員を務めた経験のある人の割合は、全体の43%と高い数字であった。そこで、「金融機関や監査法人にいた経験のある人」「他社で役員の経験がある人」「金融監査/役員ともに経験のある人」「どちらの経験もない人」の4つの分類を行い、割合を調べた結果が、以下の図だ。
上の図からは、金融/監査経験がある、もしくは、役員の経験のあるCFOが全体の70%程度に及ぶことがわかる。このふたつのうち、ひとつの経歴を持っていればCFOになれる可能性は高まってくるといえそうだ。ただし、どちらの経験のないCFOが存在することから、どちらかの経歴が必ずしも必要であるとはいえないだろう。
最後に年齢別の調査結果である。63社のうち最も年齢が低かったのは31歳で、最高齢は73歳であった。平均年齢としては49.3歳という結果である。
年代別でみると、40代が25人でボリュームゾーンだった。30代も11人と一定数いることにも注目したい。一般的には大手企業の役員が50代以上であることを考慮すると全体的に年齢が低いといえる。次に年代別の経歴に関する分析結果である。
上記は役員の経験に関する年代別のグラフだ。他社での役員経験に関しては予想通り、年代が上がるにつれて割合が高くなっていることがわかるが、注目したいのは30代と40代の差である。30代で役員経験のある人は17%であるのに対して、40代では一気に42%に上がっている。同じ若手CFOであるにも関わらず役員経験の有無は30代と40代で変わってくることがわかる。
次に、金融機関や監査法人で経験のある年代別の割合のグラフが上記である。30代40代が金融・監査合わせて50%以上に及ぶ一方50代60代では、約20%にとどまっている。年齢別の調査では、各年齢によって求められる経歴が大きく変わってくるといえそうだ。30代・40代では金融監査の経験が、50代60代では他社での役員の経験が重視される傾向にあるようだ。今回行った2018年マザーズ上場のCFO分析の結果は以上だ。年代別に経歴の傾向などは読み取ることが出来たが、CFOの経歴や年齢は多岐にわたるものであった。外資系の投資銀行や金融・監査の経験がある人が多いわけでもなく、どの分野の企業であれ、財務分野に精通した経験のある人か役員の経験がある人がスタートアップCFOになれる可能性が高い結果であった。今後企業において存在感を増していくであろうCFOであるが、どんな企業の出身でも財務の経験や役員の経験があればスタートアップのCFOに参画できるかもしれない。キャリア形成の参考になれば幸いだ。