分かりやすい用語解説

ダウンラウンドとは?具体例を交えて解説。ダウンラウンドIPOもわかりやすく紹介【ゼロから分かる用語解説】

2023-06-13
高橋史弥 / STARTUP DBアナリスト・編集者
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高橋史弥 / STARTUP DBアナリスト・編集者

「ゼロから分かる スタートアップ用語解説」は、これからスタートアップについて詳しく知りたい人たちを対象に、基礎的な内容を分かりやすくお伝えします。今回は、2022年から話題になっている「ダウンラウンド」について解説していきます。

この記事で分かること:
・ダウンラウンドとは 具体例で見る
・評価額 上がりづらい状況に
・ダウンラウンドIPOとは どれくらいの企業が経験?

ダウンラウンドとは 具体例で見る

ダウンラウンドとは、前回よりも低い評価額(バリュエーション)を元に資金調達することを指します。

分かりやすく例を挙げてみましょう。

Aさんが自己資金100万円でスタートアップを設立したとします。

この時、会社は事業を始めておらず、資産といえばAさんが拠出した100万円だけですから、企業の評価額も100万円ということになります。

Aさんのスタートアップはその後軌道に乗り始め、投資家Bからの資金調達を実施することになりました。

この時に大事なのが評価額の算定です。未上場のスタートアップは、類似企業の時価総額や将来得られるキャッシュフローの予測などを元に評価額が決められます。Aさんの会社の場合、1億円の評価額がつけられたとしましょう。

この会社の発行株式を1,000株、調達予定金額を3,000万円とそれぞれ仮定します。この場合Aさんは、投資家Bを引受先として新たに300株を発行することで必要金額を調達できます(1株10万円×300株=3,000万円)。

スタートアップは一般的に、1~2年ごとに資金調達を繰り返し(「ラウンド」と言います)、上場などのイグジットを目指します。このラウンドごとに、階段を登るように評価額を上昇させていくのが理想です。評価額が高ければ高いほど、資金調達の際に放出する株式の割合を下げられるからです。創業者など経営メンバーの持分比率が低下しすぎてしまうと、自由な経営ができなくなるリスクも生じてしまいます。

ですが、評価額は必ずしも右肩上がりとは限りません。景気の悪化や強力なライバル企業の出現などで予想通りの成長ができなかった、もしくはこれまでの評価が逆に高すぎた場合、前回よりも低い評価額で資金調達を実施することにもなりかねません。これがダウンラウンドです。

Aさんのスタートアップが投資家Cから調達する際に、前回1億円だったにも関わらず5,000万円で評価されたとしましょう。この価格で前回と同じように3,000万円を調達しようとする場合、Aさんや投資家Bの持株比率はより大きく薄まることになってしまいます。

一株あたり10万円の条件で出資した投資家Bからすれば、後から出てきた投資家Cに割安で株式を取得されたとあっては不満を抱くかもしれません。そのため、ダウンラウンドに備え「希薄化防止条項」をあらかじめ決めているケースもあります。スキームごとに割合は異なりますが、低下した株価を元に投資家Bの持分が増え、創業者Aは逆に減るというものです。

評価額上がりづらい状況に

ダウンラウンドか否かを決めるのは、スタートアップの評価額であることは既に書きました。記事執筆時点では、国内もこの評価額が高くなりづらい状況にあると言えます。

大きな原因はアメリカを中心とする世界の中央銀行の利上げにあります。利上げが実行されると、一般に市場へ流れ込む投資マネーは減少します。株価は需給で決まりますから、まずアメリカでテック株を中心に株価が下がりました。

アメリカの動きは日本にも波及します。日本でもテック株を中心に株価の引き下げが起きました。すると今度は未上場のスタートアップに影響が出ます。評価額を決める指標として上場済みの類似企業の株価がありますから、評価額計算に用いられる基準倍率が下がるような形になりました。

この倍率を「マルチプル」と呼びますが、例えばSaaS(クラウド上で提供されるソフトウェアサービス)の場合「今まで10倍〜15倍だったのが、5倍前後にまで下がった」と投資家は証言しています。

このため、新株を発行しない「デットファイナンス」(用語解説)を組み合わせるなどして、希薄化を抑えようという動きが広まっています。

ここまで見ると、ダウンラウンドに対して良くない印象を抱いてしまうかもしれません。もちろん、既存投資家の利益や従業員のモチベーションのためにも避けたいところではあります。ただし、Facebook(現:Meta Platforms)のように、ダウンラウンドを経てもその後の急成長を実現した例があるのもまた事実です。

ダウンラウンドIPOとは どれくらいの企業が経験?

国内のスタートアップ関連の動きとしては「ダウンラウンドIPO」も押さえておきたいところです。IPOとは新規株式公開のこと。上場前の最後の資金調達時の評価額に対し、株価を下げて上場することを指します。

市況が冷え込んだ2022年は、ダウンラウンドIPOが相次ぎました。

STARTUP DBの調査では、22年に IPOしたスタートアップ61社のうち、少なくとも3割以上にあたる21社がダウンラウンドIPOを実行していたことが明らかになっています。上場前の評価額に対し、公開時の株の値段(公開価格)が9割近く落ち込んだ例もあります。厳しい市況は2023年も続いていて、上場を目指すスタートアップの経営陣は難しい判断を迫られています。

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