新しく会社やサービスを作るとき、サービス名や企業名の付け方で悩むことがある人は多いのではないだろうか。ブランド名は、広く愛されわかりやすく、浸透するブランド名にしなくてはならない。それだけでなく、他社のブランド名と被っていないか、グローバルでの進出を見込んでドメインを獲得することができるかなどといった問題も名称選択の大きなファクターとなる。難しいブランド名の決定であるが、次々と新しいサービスを世に送り込むスタートアップはどのようにブランド名を決定しているのであろうか。
そもそもブランド名の決定は、なぜ重要なのであろうか。PRを事業分野として展開するベクトルによれば、ブランド名はPRの観点からもとても重要なものであるという。特に上場を目指す企業にとって企業名は、その後の株価を左右する重要なファクターになる。社名は、多くの場合創業者などの想いが詰まったものであるが、社名からサービスや事業内容が連想できないものだとPRでは不利になる。実際にベクトルの投資先であるラクサス・テクノロジーズや、2017年8月に上場したシェアリングテクノロジーは、PRのために社名変更を実施している。またサービスや商品名の例では、老舗靴下メーカー岡本が『三陰交をあたためるソックス』の商品名を『まるでこたつソックス』に変えただけで、売上が約17倍になったという例もある。さらに、現在では絶大な知名度を誇る『お〜いお茶』は、発売当時は「缶入り煎茶」であった。煎茶というワードへの親みのなさなどを理由に、『お〜いお茶』に名を変えると、その年の売上高は前年の約6倍になったという。このようにブランド名は、時として企業の価値やサービスの売上などを決定する大きな要因になりうることが分かった。企業の命運を左右する名前だからこそ、ブランド名の決定は重要なのである。
本記事では、次々と新しいサービスを世に送り出しているスタートアップから独自に100社を選択し、企業名の付け方、サービス名の付け方を調査した。その中から、企業名・サービス名の付け方が不明であった企業を除いた結果をランキング形式で紹介する。スタートアップの企業名の付けたは、大きく6つのパターンに分けることができた。それらをランキング形式で紹介する。
スタートアップの企業名の決め方でもっとも多かったのは、企業が提供するサービスの提供価値を企業名にすると言うものであった。例を挙げると、知識·スキル·経験を気軽に売り買いできるオンラインフリーマーケット「coconala」を提供するココナラは、ここならできる、ここなら聞けるという価値を提供することを目指し、名付けられている。また、クラウド型人事・労務SaaSなどを提供するfreeeは、中小企業、そして中堅企業をバックオフィスから自由にするというサービスの提供価値を名前に込めている。このように多くのスタートアップは、自身サービスの提供価値を企業名に込め成長を目指している。
企業にとって企業名からサービスを連想してもらうことは、PRの観点から言っても重要だ。そんな中、提供する主サービスの名前をそのまま企業名にするスタートアップも多く存在した。スマートニュースやココナラ、トレタ、ビズリーチなどと言った企業は、自社の持つ主力サービスの名前を企業名としても採用することで、企業としてのPRに貢献していると言えるだろう。労務手続き・労務管理行うクラウドサービス「SmartHR」を提供するSmartHRは、サービス名をそのまま企業名にしたスタートアップの一つであるが、同社は以前KUFUと言う企業名であった。しかし、「SmartHR」というサービス名がKUFUという社名の認知を上回ったこと、それに伴いイベントや展示会での企業名の説明コストが増えこと、またPR効果を考え、社名変更に至っている。
続いて多くの企業が行なっていた決め方は、単語と単語を組み合わせることで企業名を作る決め方である。代表例には、富や財産、豊かさ等を意味するWealthと操縦士や案内人を意味するNavigatorを組み合わせた造語であるウェルスナビなどがある。またラテン語でオープン、音楽用語では明るいを意味するaperto(アペルト)という言葉に、職人ギルドを意味する日本語の「座」を加えた造語、アペルザや、キャンプとスマートを掛け合わせたスマートキャンプなどもその一例である。造語という形で表現することで、語感の良さや、想いを詰め込んだ企業名を作り上げている。
今回調査を実施したスタートアップのうち約14%の企業が日本語をそのままの意味で企業名にするという方式で企業名を採用している。カケハシなどがその例である。カケハシは、医療業界における課題をITで解決するスタートアップ。同社は医療と患者をつなぐカケハシ、また医療と明るい未来をつなぐカケハシになるという想いを込め、カケハシという企業名を採用している。この決め方を行なっている企業には、他にもツクルバや、ココナラなどが存在する。
4位の日本語をそのまま企業名にする決め方に次いで決め方として多かった方法は、外国語をそのまま企業名にする決め方である。フリーランス支援プラットフォームなどを提供するランサーズは、フリーランスを支援するという想いを込めランサーズと命名。またLiquidなども、外国語をそのまま企業名とした例。
SaaSの比較サイトである「BOXIL」を運営するスマートキャンプは、目指す組織のあり方を企業名としている。キャンプと言う言葉には、背景は違えど志を共にする者同士が集い、互いを高め合える組織にという意味を込め、そんな人達がスマートに事業を創るという想いを加えてスマートキャンプと名付けている。ロボット開発を行うGROOVE Xは、全てのこと(変数X)に対してグルーヴ感を常に持って仕事をしていく組織になる、という願いを社名に込めている。
その他の方法で企業名を決定している企業を紹介しよう。料理動画メディア「kurashiru」を提供するdelyの社名は、堀江CEOによれば適当につけられたものだという。 本来であればdeliveryの頭文字をとってdeliにしようとしたらしいが、ドメインなどの関係でdelyと名付けた。個人が自由に配信できるコンテンツ配信プラットフォーム、「note」を提供するピースオブケイクの社名の由来は、” itʼs a piece of cake!”英語の慣用句からで、”楽勝だよ”という意味となっている。
前章ではスタートアップの企業名の付け方を調査した。次にスタートアップのサービスの名前の決め方を調査する。独自に選出したスタートアップのサービスのうち、主力サービスの名前について調査した。スタートアップのサービス名の決め方も、企業名の決め方同様で6パターンに大きく分けられた。
スタートアップのサービス名の決め方でもっとも多くの企業が行なっていたサービス名の決め方が、単語をくっつけることでサービス名にする決め方である。43.7%のスタートアップの主力サービスについてこの傾向が見られた。GROOVE Xの提供する「LOVOT」は、LOVEとROBOTの単語を組み合わせて命名されたもの。そこには同社のロボットが、心の充足や明日への活力といった人の心に潤いを与える存在を目指すという想いが込められている。さらにSmartとNewsを組み合わせた「SmartNews」や、DelishとKitchenを組み合わせた「DELISH KITCHEN」なども同様の例である。
単語をくっつけた造語を企業名にする方法に次いで多くの企業が行なっていた名前の付け方は、サービス自体の提供機能を名前に込める方法である。スマートキャンプの提供するSaaSの検索サービス「BOXIL」は、”僕を知る”に名前が由来している。つまりBoxil は僕、すなわち自分のSaaS商品を知ってもらうためのサービスであるということが言える。このように、サービス名からサービスの機能を連想できるような名前をつけるスタートアップは多かった。
今回の調査では、外国語をそのままサービス名として用いる決め方が3番目に多い決め方であった。例としてはLiquidの提供するクラウド型の本人認証・決算サービス「PASS」などがある。英単語のpassをそのままサービス名として採用している。他にも、BASEが提供するネットショップ作成サービス「BASE」などがある。
例:ココナラの提供する「coconala」や、トレタの提供する予約台帳システム「トレタ」など
例:freeeの提供する「人事労務freee」は、人事労務作業からフリーにするという意味。
例:ユニファの運営する「るくみー」は、look meをもじった造語
今回の調査を振り返るとやはり適当にブランド名を決定しているスタートアップは少なく、よく吟味されていることがわかった。傾向としては、ブランドの名前から事業内容や、サービス内容が連想できるような名前をつけているスタートアップが多かった。ブランド名は、創意工夫を凝らしてわかりやすくすることで、広く愛されるサービス名にすることが求められる。