コラム

「Kaizen Platform」須藤氏に聞く、事業改善のポイント

2019-07-18
STARTUPS JOURNAL編集部
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STARTUPS JOURNAL編集部
企業の事業改善を成功へ導く「Kaizen Platform」が自社で大切にしてきた改善の本質とは

WebサービスのUI改善を実現する「Kaizen Platform」に加え、動画広告改善の「Kaizen Ad」を開発・提供するなど、IT分野における改善に広く携わってきた会社。それが「Kaizen Platform(カイゼンプラットフォーム)」だ。世界でデジタルトランスフォーメーションが加速する現代。そうした変化に相応しいかたちで、組織構造をいかに迅速にアップデートさせられるかが、企業が乗り越えるべき大きな課題のひとつとなっている。「Kaizen Platform」は、そのような課題に対し、1万人以上のグロースハッカーネットワークを駆使した専門チームを提供。これにより、ツールの提供だけでは難しかった、体制まで含めた、より強力なデジタル化が可能となった。現在では、さまざまな業種のトップ企業を中心に、累計400社を超える企業に導⼊されている。A/Bテストツールの提供からスタートした同社だが、現在に至るまで「UI/UXの課題と仮説設計」「グロースハッカーによるプラットフォーム上での改善提案」「成果の出る案をベースとした改善活動の繰り返し」など、事業成長に欠かせない改善活動をトータルサポートできるマーケティングプラットフォームへと成長してきた。「改善」を軸に事業を行う彼らの成長の裏には、きっと「改善」のコツが凝縮されているはず。今回は「Kaizen Platform」代表取締役を務める須藤憲司氏に、自社の成長において大切にしているポイントを伺った。

スタートアップ成長における2つのキーワード「ポジショニング」と「価値」

須藤憲司(すどう・けんじ)早稲田大学商学部卒業後、2003年、株式会社リクルートに入社。マーケティング部門、新規事業開発部門を経て、アドオプティマイゼーション推進室を立ち上げ。史上最年少で株式会社リクルートマーケティングパートナーズ執行役員に就任。2013年、KAIZEN platform Inc.を創業。

「改善」のプロである彼らは、自社の成長においてどのような「改善」を行ってきたのだろうか。その本質を探っていくと、あるふたつのキーワードが浮かび上がってきた。

須藤「自社の『改善』をする上で大切にしてきたのは『ポジショニング』と『価値』を考えることですね。 スタートアップって、最初はたぶん仮説を立てて、自らの社会における『ポジショニング』を決めて進んでいくものですよね。僕らは最初、あまり苦労せずに成長することができたのですが、それは『A/Bテスト』を選択することができたからだと考えています。当時は、その領域で事業をしている会社が少なかったので、いいポジショニングができたんです。 また、現在まで成長を続けてこられているのは、そのポジショニングを、社会のニーズや状況の変化によって、ちょっとずつズラしたり、拡張させてきたからだと思っています。 もうひとつは、自社の『価値』を見極めること。スタートアップが抱える大きな課題に、資金調達や人材採用、営業があると思います。これらを成功させるコツは、相手にとっての自社の『価値』は何かを、徹底的に考えることだと思います」

「ポジショニング」は社会のニーズを、「価値」は相手のニーズを、見極めること。それぞれの視点で、自社のベストな立ち位置を模索していくことが改善のカギだと須藤氏は話す。では、社会と会社、それぞれのニーズを見極める具体的な方法には、一体どのようなものがあるのだろうか。

須藤「PDCAの話をすると、みんな『数字を見ろ』って言うじゃないですか。もちろん数字は大事です。でも、それと同じくらい大事なのに意外と見逃されているのが、数字の裏にいる人を想像することです。 具体的には、相手の言動をよく観察して、その人が持っている悩みや葛藤、欲望などを想像します。小さい頃『相手の立場に立って物事を考えなさい』と教わったじゃないですか。そうやって『この人はきっとこういうことを気にしているはずだ』と仮説を立てて、そこに合わせて自分の見せ方や語り口を変えるんです。 それがたとえばA/Bテストの営業シーンで、相手がこれまでものすごく集客にお金をかけているとわかったら『どれだけコストをかけて集客しても、コンバージョンは増えませんよね。それなら、マーケティングの仕組みを改善したほうがコンバージョンも増えて、あなたのビジネスはもっと伸びるんじゃないですか』と言い方を変えます。相手がなんの物差しで自分を見ているのかを理解して、その物差しに合わせた話をすればいいんです。 ポジショニングも、理論としては同じです。『A/Bテスト』に力を入れていた創業当時、営業のときに比較対象として出していたのは、競合サービスではなくて、別のマーケティング手法でした。当時、競合サービスはアメリカのスタートアップが提供しているものしかなく、ほとんどの人には馴染みがありませんでした。 だから、別のマーケティング手法を比較に出して『これ以上集客にお金を使うなら、こっちのほうがメリットがありますよ』などの語り口で営業をしていました。すでにやっていてありふれていて、比較したときに『たしかにそうだな』と思ってもらえる対象を探してくる感じですね。 そうすることで、自社の立ち位置が『マーケティングの会社』という見え方から『コストを削減できる会社や売上を増加させる会社』へと見え方が変わって、自分が今いる市場領域が変化するんです」

揺れ動く市場で求められるのは、状況を観察する力

須藤氏は「市場とは、相対的に揺れ動くもの」だと言う。市場は予め固定されたものと考えるのが一般的だが、須藤氏が市場を「変化するもの」と考えている理由には一体どんなものがあるのだろうか。

須藤氏は「市場とは、相対的に揺れ動くもの」だと言う。市場は予め固定されたものと考えるのが一般的だが、須藤氏が市場を「変化するもの」と考えている理由には一体どんなものがあるのだろうか。

須藤「よく『マーケット選択が大事』って言うじゃないですか。プロダクトのマーケットとか。あれ、嘘だと思うんです。なぜかというと、マーケットって、どんなふうに切るか次第で変わるものだから。 たとえば、ワンピース買うときって『服を買おう』という気持ちで買う人だけじゃないですよね。人ってそんなに合理的な考え方をしていないはずなんです。『来週デートに行くから、相手が良いと思ってくれる自分になりたい』とか『女子会に行くから、せっかくだから新しい自分を見せたい』とか、そういうさまざまな思考の結果、ワンピースを買う選択がされているだけだったりする。 そうだとすれば、その価値を満たせるのは、髪を切ることかもしれないし、エステに行くことかもしれない。つまり、アパレルじゃなくてヘアメイクのマーケットかもしれないし、美容のマーケットかもしれない。買う動機によって、ちょっとずつ違う市場が見えてくるんです」

さらに須藤氏は「マーケットフィット」という言葉にも疑問を呈する。

須藤「プロダクトマーケットフィットしたからあとはグロースさせればいいってよく言いますが、僕は嘘だと思っています。だって、そのマーケットの上限(アッパー)があったら、その会社はプロダクトを変えないといけなくなりますよね。 要するに、成長しているときというのは、ちょっとずつ戦っている市場が変わっていて、そこに合わせるようにプロダクトをちょっとアジャストしているんだと思うんですよ。 僕らのプロダクトは、最初A/BテストのSaaSから始まって、そこからクラウドソーシングが加わる……という変遷を遂げてきました。変化するマーケットの形にアジャストし続けるために大切にしてきたのは、マーケットをとことん観察すること。数字を見て、その裏に隠れている人の行動の意味を考えて、仮説を立てて、その通りに動いてみる、ということを、しつこいくらいに繰り返し行ってきました」

事業も人生も常に移ろいゆくもの。なら、楽しんだほうがいい

事業も人生も常に移ろいゆくもの。なら、楽しんだほうがいい

常に変化する市場で自らも変化し、改善を続けてきた「Kaizen Platform」。今後の展望について、須藤氏は、どのように考えているのだろうか。

須藤「今って、デジタルが世の中を大きく変えていく、歴史的に見て大変革の時代の真っ只中だと思うんです。 たとえば、中国ではフードデリバリーがすごく伸びていて、その煽りでコンビニが苦戦してるんですよね。そこから読み取れるのは、これまで出前に代わるものとして捉えられていたフードデリバリーが『オフィスの席まで持ってきてくれるなら、コンビニに行くより便利』という新しい価値を見出されたということ。こんな風に、これからも世界中でどんどんいろんなものやサービスの価値が書き換えられていくと思っています。 この変化を、デジタルマーケティングという最前線の現場で目撃できることに、僕自身がすごくワクワクしているんです。続きが早く知りたい、次はどうなるんだろう、って。小説とか漫画を読んでるような気持ちですね。少しでも早く続きを知りたい!ページをめくりたい!そういう感じ。 そのために必要なお金があるなら資金を調達するし、人が必要なら採用したいと思っています」

最後に、これからスタートアップの経営に足を踏み入れようとしている人に伝えたいことを、尋ねてみた。すると、「変化」を楽しむ須藤氏らしい答えが返ってきた。

須藤「『自分が信じているものは、本当に絶対的なものなのか?』と考えることが大事だと思っています。つまり、事業も人生も同じで、常に状況は揺れ動き、移り変わるものだということ。 経営をしていると、絶望的な状況に陥ることがザラにあります。でも、それだって、揺れ動き続けるプロセスの一部分でしかないんですよ。今は『失敗した』と言われてもしょうがないかもしれないけど、明日は違うかもしれないですよね。そういう風に、すべてが移ろっていくものだと捉えれば、失敗なんて単なる通過点でしかなくなります。 『失敗だ』とか『終わったな』と笑われることもあるかもしれないけど、その評価はその人の価値観を現しているだけです。だって、考えてもみてください。10年前のスタートアップなんて、怪しさの境地ですよ。でも、今はスタートアップの地位も確立されてきてて『怪しい』なんてほとんど言われなくなりましたよね。人の価値観なんて、それくらい曖昧なものなんです。 つまり、今の状況や、周りからの評価に対して、もっとしなやかに受け止められるようにすると、すごく楽になると思います。失敗するときはするし、でもその状態だって『変わる』んだから、どうせなら楽しんでやったほうがいいと思います」

目まぐるしいスピードで変化する市場への順応は、そう簡単なものではない。そうした変化自体を悲観的に捉えてしまう人もあるだろう。しかし、須藤氏率いる「Kaizen Platform」の辿ってきた軌跡は、変化をポジティブに乗りこなす方法を背中で教えてくれる。社会や相手への徹底した観察眼があれば、変化への順応もそうハードルの高いものではなくなる。「市場も人の価値観も変化ありきのもの」とする割り切った姿勢があれば、失敗すらも恐れなくなる。Kaizen Platformが実践してきたふたつの要素をもってすれば、どんなスタートアップであっても激動の時代をサバイブできるのではないだろうか。

執筆:坂口ナオ編集:BrightLogg,inc.撮影:戸谷信博

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