独自分析

「デットファイナンス」など倍増で2,539億円に。新株発行に頼らず調達、増えた理由は?【2022年投資動向】

2023-02-24
高橋史弥 / STARTUP DBアナリスト・編集者
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高橋史弥 / STARTUP DBアナリスト・編集者

2022年に日本のスタートアップが実施した資金調達を、新株を発行する「エクイティファイナンス」と「その他」で分類して集計したところ、エクイティに頼らない調達がより盛んになっていたことが分かった。

マクロ経済の影響を受け資金調達環境に逆風が吹いたことや、スタートアップ向けの融資などが盛んになってきたことが背景にありそうだ。

STARTUP DBの集計によると、2022年の年間を通じての資金調達件数は3,717件で、合計金額は約1兆1,386億4,800万円。これはいずれも2021年を下回る数字だった。

この数字を、エクイティファイナンスと「その他」で分解した。「その他」には融資などを指す「デットファイナンス」やクラウドファンディング、それに公的機関などの助成金などが含まれる。

2022年のエクイティによる調達は3,288件で約8,847億5,800万円となった。21年は3,740件で約1兆2,181億2,400万円だったため、前年から大きく落ち込んでいる。ただし、21年は親会社から子会社への大型出資、およそ3,000億円を含んでいるため、それらを差し引けば大きな差はない。

違いが鮮明に現れたのは「その他」の数字だ。21年が約1,137億6,400万円だったのに対し、22年は約2,538億9,000万円だった。件数はほぼ同じだったが、金額では1,400億円ほど増えた。増加した金額の大半はデットファイナンスによるものとみられる。

なぜ2022年は「エクイティ」以外の資金調達が活発になったのか。

背景には、資金調達環境に逆風が吹いたことがありそうだ。ウクライナ侵攻や世界の中央銀行の相次ぐ利上げなどマクロ経済の影響で、日本の株式市場も冷え込んだ。

上場を見据えるレイター・プレIPOステージのスタートアップが特に大きな影響を受けた。IPO市場が小粒化したことで、上場そのものを延期したり取りやめたりする事例も発生した。

こうした状況下で、運転資金を確保するために有力な手段の一つとしてデットファイナンスに注目が集まったとみられる。

デットファイナンスは返済義務を伴うが、原則として創業者ら既存株主の持株比率を薄めずに済むというメリットもある。投資家からは、「レイターステージで、24ヶ月分のランウェイ(残存資金が尽きるまでの時間)を確保しようというデットファイナンスが活発だった」といった声も聞かれた。

金融機関側の関心も高まっている。三菱UFJ銀行三井住友銀行みずほ銀行のメガバンク3行がスタートアップ向け融資の体制を強化しているほか、あおぞら銀行は子会社を通じて転換社債などを引き受ける「ベンチャーデット」ファンドを新たに組成した。

2022年のデットファイナンスによる大型調達としては、法人向けカードを手掛けるUPSIDERが代表例だ。法人用カード「UPSIDER」が主力事業で、最大1億円を超える利用限度額や、決済情報が一元化され経理業務の負担軽減につながる点などをアピールする。22年10月には、融資枠の追加で金融機関4社から467億円を調達したと発表した。引受先は非公開だった。

スキマバイトサービス「タイミー」のタイミーも22年11月に全額デットファイナンスで183億円を調達した。借入先は、みずほ銀行、三菱UFJ銀行、りそな銀行など大手金融機関。同社の発表によると、財務実績や将来性などの信用力が評価され、無担保・無保証の借り入れとなったという。

STARTUP DBの「2022年 年間国内スタートアップ投資動向レポート」は、今回取り上げたデットファイナンスなどの盛り上がりのほか、企業別の大型調達、積極的な投資を続けた投資家、それに22年を象徴する現象とも言えるダウンラウンドIPOなど、様々な視点からスタートアップ・エコシステムに起きた「変化」を分析しています。

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