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スタートアップの起業、やっておくべき準備と最適なタイミングは?【先輩起業家が「全部」明かします】

2023-11-01
大林尚朝(Another works代表取締役)
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大林尚朝(Another works代表取締役)

スタートアップ企業を立ち上げたいけれど、「本当に重要な情報」が本やネットではなかなか手に入らない。

金銭だけでなくキャリア面・スキル面などでも報酬を得られる「複業」のマッチングプラットフォームを運営するAnother works大林尚朝(なおとも)・CEOは2019年に起業した時、そのことを痛感したそうです。

起業すべきタイミングはいつなのか、VC(ベンチャーキャピタル)との交渉はどう進めるべきか、組織崩壊しそうだけど誰にどう相談したら良いのか…。起業家の悩みは「リアルすぎる」が故に表に出てこない。

大林さんは先輩起業家と繋がることで情報を得て、創業初期を乗り切りました。では、人脈のない起業家は一体どうするのか。資本政策や組織開発など後戻りのできない決断を誤り、「自己責任」で片付けられてしまうのか。

そんな課題意識から、大林さんは自身が経験した起業の実情を明かすことに。等身大の経験値が多くの起業家や起業家候補生に届き、悩みを解きほぐすことを願っています。

聞き手・編集=高橋史弥・STARTUPS JOURNAL編集長

不可逆性の高い情報ほどオープンに

人脈のある人間が、起業時点で一歩リードしている。裏を返せば人脈がない起業家は情報面で弱い状態にある。これは本当に大きな課題です。

起業に関して言えば、重要な情報は人に聞かないと出てこないのです。僕は起業する時、関係する本を何冊か調べて読みましたが、あまり参考にならなかった。資本政策のリアルな部分など、本当に大切なところが書かれていない。こうした課題意識もあり、noteで起業に関する情報発信をしています。

僕のSNSには、起業家たちから相当数のメッセージが来ます。彼らの課題は共通しています。株のこと。共同創業者との人間関係。組織崩壊。VC(ベンチャーキャピタル)との関係性。

何か一つでも、僕の持っている知見や体験を共有したい。

資本政策や人材採用など、不可逆性の高いものほどオープンにすべきだと思います。そうすることで救われる起業家は絶対に出てきます。利害関係のない、ポジショントークではない人間である僕がやることにも価値はあるはず。完全にGiveの精神で情報発信したいと思います。

起業のために読むべき本は?答えは「なし」

起業のために本を読む必要はないと思います。会社を作ること自体は「freee会社設立」(編注:法人設立のためのウェブサービス)の手順に従うだけで簡単に出来てしまいます。

会計知識も基本的に学ばなくて良いです。ある程度P/L(損益計算書)が読めれば良いし、むしろ読めなくても僕は大丈夫だと思います。

実際にビジネスを1年間やってみれば売上や支出が発生します。それを税理士に頼めば書類上の仕分けをしてくれます。1年後、P/Lが出来上がるわけです。売上はどこに入り、サーバー代はどこに該当するのか。あの時Amazonで買ったやつはこうやって計算されるのか...などがその時に分かればそれが知識になる。

本にお金と時間を使うくらいだったら、freeeをいじって、あとは仲間集めに走るべきだと思います。

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唯一読むべきは、磯崎哲也さんの「起業のファイナンス」(日本実業出版社)です。起業したDay1からイグジットまでずっと使える知識があのオレンジの本に全部詰まっている。あれがないと、投資家から受けた話も理解できないため戦えません。

僕はこれまでに3回資金調達をしていますが、調達のたびに読み返しています。復習にもなるし、次の調達に向けた予習にもなる。ストックオプションを発行する時にも読み直す。知識を入れてから、会計士や弁護士と話す。ファイナンスの専門家になるわけではないので、それくらいで良いと思います。

おすすめの起業タイミングは「1ヶ月後の大安」

「この領域ならば絶対に負けない」という経営者の自信は、起業する時にマストの要件だと思っています。起業家を勝ち馬としてBETしてくれる人を最大化するためにも欠かせません。

ただ(ナンバーワンの)証明は難しい。僕自身は、業務委託やHR領域ならば圧倒的に誰よりも詳しいという自負がありますし、地方創生に魂を燃やしているため、地方に人材やノウハウを流入させるんだという使命感に滾って起業しました。自信と覚悟があれば、どんどん踏み出して良いと思います。

起業のタイミングはいつがベストか。一人でもお客様がついたらさっさと起業すべきだと思います。起業に準備が必要なのは間違いありませんが、理論武装しすぎてもダメなんです。理論という武器を磨き続けるよりも、早く戦場に出たほうが良い。早く起業してたくさんお客様と会うべきなのです。

登記の準備などは1ヶ月くらいあれば出来ます。だからすぐにカレンダーを見て1ヶ月後の大安に起業しましょう。起業してから覚悟は磨かれるものです。起業のタイミングが覚悟のピークだったら、ダメですよ。

起業時にPMF(プロダクト・マーケット・フィット/用語解説)に至っている必要は全くありません。いきなりPMFを考えなくていいと思います。お客様がどれくらい付くか、本当に世の中に求められるサービスを作れるか、それを作るための仲間を集められるか。これが一番最初の関門です。ここを超えたら「僕らのPMFってこういう定義だよね」と経営者やチームが決めればいいと思います。

僕らは、SaaSモデルを対企業で売っていたため「MRR(月次経常収益)1,000万円」をPMFと決めていました。でも、もし仮に月額単価が100万円のエンタープライズ(大企業)向けサービスならば10社集めた時点でPMF達成になってしまう。僕だったら「10社集めて、次の契約更新タイミングで8社残ったらPMFにしよう」と提案すると思います。このように、PMFは個社性が強いんですよね。

裸一貫で始める前に、副業起業をしてみるのも本当にオススメです。いわゆる「草ベンチャー」というやつです。

僕も正社員で働いていた時、土日は自分のビジネスを作り込んでいました。当時一番大事だったのは、仲間集めとお客様の声。複業領域でイベントを開いて人を集め、色々な声を聞いていました。「こういうサービス作りたいんだけど、手伝ってくれる?」と仲間集めにも役立てました。

「利害関係のない存在」のススメ

起業して最初の1年間はメンター(指導役)をつけることをお勧めします。出資してもらっているVCはありがたい存在ですが、利害関係のない相手であることが大切です。僕は年齢の近い先輩起業家と、かつてインターンしていたベンチャー企業の代表の2人にメンターになってもらいました。

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先輩起業家は、そのまた先輩に色々と教わってきています。だから後輩にも優しくしてくれる方が多い。僕はメンターにお金を払うことができなくて。申し訳ない思いもあり、毎回ラーメンを奢らせてもらっていました。

メンターが必要な理由は2つあります。

まず、利害関係のある人には聞けない悩みが多くなります。創業メンバーにこういう性格の人がいるんですが、2年後(組織が大きくなったら)どんな問題が起きますか、とか。自分が株式100%持っているけど創業メンバーに何%渡すべきですか、とか。VCからバリュエーション(評価額)いくらで株式何%放出の出資オファーが来たんですけどどうですか、とか(参考:ダイリューション)。

こういう悩みに必要な情報は、リアルすぎるあまりネットには出ていませんし、利害関係のある人には聞けません。フェアな意見を聞ける相手がいた方がいい。

もう一つはメンタルです。起業の辛さは起業したことがある人間にしか分かりません。僕自身、テンションの起伏が激しくなって、特にずっと「ハイ」の状態が続いていました。心のメンターが必要だと思います。

次回は大林さんに、実際に起業してから「最初の1年間」の過ごし方を語って頂きます。

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