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「九州に宇宙産業を根付かせる」QPS研究所を徹底分析。夜間・悪天候でも地球を観測...民間ニーズ掴めるか【上場スタートアップ分析】

2023-12-15
高橋史弥 / STARTUP DBアナリスト・編集者
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高橋史弥 / STARTUP DBアナリスト・編集者

「九州に宇宙産業を根付かせる」。2005年、そんな志とともに産声を上げた宇宙スタートアップが上場という大きなステップを踏み出した。

12月6日に東証グロース市場に上場したQPS研究所は、九州大学で培われた技術をもとに、夜間や悪天候時でも地表を観測できる「小型SAR衛星」を開発する。

安全保障分野で活用できることから官公庁との契約実績を重ねるが、民間需要の掘り起こしが急務。ニーズ開拓と衛星機数の増加を両輪で進めていく。

ハードウェアを扱う国内宇宙スタートアップの上場はispace詳細記事)に次ぐ2例目。ビジネスモデルや成長可能性を詳報する。

小型SAR衛星とは 夜間・悪天候でも地表を観測

QPS研究所は2005年設立の宇宙スタートアップ。社名の「QPS」は「Q-shu Pioneers of Space」の略で、九州宇宙産業の開拓者になるとの願いが込められている。

同社が手がけるのは「SAR(Synthetic Aperture Radar/合成開口レーダー)」を搭載した人工衛星の開発だ。

同社の資料によると、現在、地球観測には主に光学衛星が用いられている。これは地球に反射する太陽光を利用する手法で、雲のような遮蔽物がある悪天候時や夜間には観測性能が制限されてしまう。

これに対しSARは、自らが照射するマイクロ波の強弱で地表を観測する。時刻・天候に左右されずに地表のデータを取得できるのが最大の特徴で、災害時の被災状況把握や安全保障分野での活用が期待されている。

小型SAR衛星による地球観測のイメージ QPS研究所 提供

QPS研究所は2019年12月に実証試験機の小型SAR衛星1号機「イザナギ」の打ち上げに成功。21年1月には2号機「イザナミ」を打ち上げ、地球観測画像の販売を始めている。

その後、打ち上げ失敗で3号機・4号機は使用不能となったが、23年6月には6号機・
「アマテル-III」を打ち上げている。今後も製造と打ち上げを続け、複数の衛星が協調動作する「コンステレーション」の構築を進める。

民間需要開拓が課題 「まずは8機体制」

QPS研究所は12月6日に東証グロース市場に上場。公開価格390円に対し初値は860円とおよそ2.2倍だった。上場に伴い調達した資金は衛星の製造に充て、足元では2機の稼働機数を2027年度には24機まで拡大させる方針だ。

「SAR衛星は(地表を)いつでも見られる衛星だ。その威力を発揮させるためには、機数をいかに増加させるかが肝になる」。上場会見に臨んだ大西俊輔・代表取締役社長CEOは衛星を増やす意義についてこう解説する。機数が増えればより高頻度で同じ地点を観測できるようになるほか、コスト圧縮などによる利益増も期待できるという。

上場会見に臨む大西俊輔・代表取締役社長CEO(中央)。右は市來敏光・代表取締役副社長COO。

同社の決算を見ると、直近の2023年5月期の売上は3億7,200万円。これに対し経常利益は3億2,300万円の赤字となっている。24年5月期は内閣府との画像販売契約により売上14億4,700万円と増収を見込む。

売上の大部分を官公庁が占めている。「夜間・悪天候でも観測を続けられる」というSAR衛星の特徴から主に安全保障分野でのニーズが強く、2023年5月期は官公庁向けの売上が全体の94.1%を占めているほか、宇宙航空研究開発機構(JAXA)への販売も5.3%となっている。

この現状について同社は「外部環境の変化に対応する力が十分であるとは言えない」(開示資料)と言及していて、民間需要の掘り起こしを喫緊の課題とする。

活路の一つがインフラ監視だ。マイクロ波を活用して観測するSAR衛星は、建物などを支える地盤の変化をミリ単位で把握できる。電力・通信会社や建設会社などを想定顧客に据える。

夜間・悪天候に強いという特徴を活かし、船舶向けの情報提供なども検討する。効率的・安全な航路を提案できるほか、海賊対策にも役立つ可能性がある。こちらは海運会社・商社や損害保険会社のニーズに合致しそうだ。

これらはまだ実証研究段階だが、市來(いちき)敏光・代表取締役副社長COOは「インフラ系・保険系では具体的に『やりたい』という声も頂いている。一つソリューションができればある程度の横展開も想定できる」と自信を見せる。

一方で、民間ニーズの事業化には衛星機数増加が欠かせない。市來COOは「機数が増えなければ頻繁に画像を取得できない」としたうえで、「一つの目標として8機体制を作る。体制が整う2025年度以降が民間(向け事業)の本当のスタートだ」と語った。

同社は2027年度までに24機体制を構築する方針だが、需要が見込める場合には36機体制まで拡大する。36機になれば特定の地域をおよそ10分間隔で観測でき、災害発生状況の把握やインフラ監視などでより大きな効力を発揮する。

「一つ一つ実績を作りながら、評価いただける会社になっていく。長く支援いただきたい」と大西CEO。上場については「長い間やってきたからこそ迎えられている経験だ。一過性のものではなくずっと続いていくことが大事で、続くからこそ知の継承ができ、より発展していく」と長期的な展望を示した。

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