コラム

日本最大級のナレッジシェアプラットフォーム運営「ビザスク」のIPO分析

2020-03-10
STARTUPS JOURNAL編集部
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STARTUPS JOURNAL編集部
ビザスクIPOサマリー

近年、驚異的なスピードでテクノロジーが進化し、将来の予測が難しく変化の激しい社会環境下において、よりスピーディーな問題解決やイノベーション創出こそ、企業が競争を勝ち抜く肝になる。大企業から中小企業、スタートアップなど多様な企業で、既に文字化されたインターネット上にある情報だけではなく、個々人の経験に基づく活きたビジネス知見へのニーズが高まっている。このニーズに答えるべく、株式会社ビザスク(以下、ビザスク)は、各業界・業務の実務経験と専門知識を有するアドバイザーを、顧客にマッチングするナレッジシェアの知見プラットフォーム「ビザスク」を2013年10月、正式にローンチ。2012年3月に設立された同社は、2020年2月3日に東京証券取引所マザーズ市場への新規上場が承認され、2020年3月10日に上場を果たす。本記事では、有価証券報告書を元に同社のこれまでの成長を紐解いていく。

知見プラットフォーム事業として展開する2つの主力サービス

同社は「世界中の知見をつなぐ」をビジョンに掲げ、「組織、世代、地域を超えて、知見を集めつなぐことで、 世界のイノベーションに貢献する」ことをミッションとして知見プラットフォーム事業を展開している。「知見プラットフォーム事業」として提供している主要サービスには、マッチングの形式によって「ビザスクinterview」と、「ビザスクlite」がある。

フルサポート形式⚫︎「ビザスクinterview」顧客のニーズに応じて、ビジネス知見を有するアドバイザーと顧客をマッチングし、1時間単位の電話や対面でのインタビューを設営するサービス

セルフマッチング形式⚫︎「ビザスクlite」ビザスクのwebプラットフォーム上で、個人や主に中小規模の法人顧客がアドバイザー選定などのマッチングを自ら行い、スポットコンサルを実施するサービス

そのほかにも、「ビザスクexpert survey」、「ビザスク業務委託」、「ビザスクproject」、「ビザスクweb展示会」など、多様なサービスを展開している。

フルサポートのスポットコンサル「ビザスクinterview」のビジネスモデル

本記事では2019年2月期のビザスクの全社取扱高10億円の81%を占める主力事業である「ビザスクinterview」のビジネスモデルを紹介する。

ビザスクのビジネスモデル

フルサポート形式のスポットコンサル設営サービス「ビザスクinterview」が同社のメインサービスで、顧客が、業界有識者から直接話を聞いて、信頼性の高い業界情報を手に入れることができるサポートビジネスだ。インターネット検索や文献調査では得られない、リアルで鮮度の高い情報にリーチでき、従来調査に要していた時間やコストを削減できる。新規事業、研究開発、営業などの情報収集に活用されており、経験者の実名登録による信頼性の高い情報により顧客のビジネスに対する意思決定を促進させている。2019年12月末時点で累計4.4万件を超える知見のマッチング実績がある。これまでの実績により蓄積されたデータやノウハウを活用することで、精度の高い、より顧客満足度の高いサービスの提供を推進している。2019年2月期時点の全体売上比率の約2割をボストン・コンサルティング・グループが占めており、今後も関係強化を進めていく方針だ。ほか主要取引先には、ベイン・アンド・カンパニーや野村総合研究所などがあり、コンサルティングファームが基盤となっている。また、アドバイザーである登録者の増加に伴い、同社データベースに保持されている知見のデータも増加し、顧客からのピンポイントなニーズにもより応えやすくなる。一方で、少しでも多くのアドバイザーが活動するために、顧客基盤を拡大し、多くのニーズを取り込んでいくことが必要だ。同社は、登録者数の拡大とともに、日本を中心として法人の顧客基盤を広げ続けており、2020年2月期の第3四半期末時点には、コンサルティングファームや金融機関、大手事業法人などを中心とした法人クライアント口座数は423口座となっている。これまでの法人クライアント口座数の推移は下図の通りだ。

法人クライアント口座数

BtoB情報プラットフォームの市場規模におけるビザスクのシェア率

ビザスクの主戦場であるBtoB情報プラットフォーム市場の売上高規模は、2019年1月~10月の合計で約2,500億円となり、前年同比より2.2%増加していることから、市場は着実に成長していることがうかがえる(経済産業省「特定サービス産業動態統計 調査(2019年12月公表)」)。 この成長率を鑑みると、2019年を通しての売上高規模は約3000億円と推測できる。これに対して、2020年2月期の第3四半期末時点には、ビザスクの知見プラットフォーム全体の売上高は11.2億円であり、市場シェアはおよそ0.3%程となる。したがって、市場規模に対するビザスクのシェア率はまだまだ序章であり、上昇余地は十分にあるといえる。

複数領域のスペシャリストを巻き込みながら成長する「ビザスク」

ビザスクがスポットコンサルの設営を中心とした知見プラットフォーム事業のサービス提供を開始して以来、同社サービスの登録者数は順調に増加している。2020年1月末時点では、国内登録者数は約8.6万人、更に海外登録者数約1.1万人(世界109か国)を加えると登録者数はおよそ10万人だ。登録者は、約500の業種を網羅しており、産業の壁を問わず、幅広い業界・職域をカバーしている。国内登録者数は、法人クライアント口座数の増加を上回るペースで成長している。(国内登録者数は、2016年2月末から2019年2月末までの3期間において、年平均成長率81.7% で増加。法人クライアント口座数は2016年2月末から2019年2月末までの3期間で、年平均成長率63.7%で増加)これまでの国内登録者数の推移は下図の通りだ。

国内登録者数

取扱高は2016年2月期から2019年2月期にかけて、年平均成長率195.8%で増加しており、その要因は下記の3つとなっている。・登録者、及び法人クライアント基盤双方の順調な拡大・継続的な自社開発システムの改善、及びオペレーションの効率化・データベースの情報深化によりマッチングの効率改善これまでの取扱高の推移は下図の通りだ。

取扱高

安定的な成長を続ける売上高と当期純利益

同社の売上高と当期純利益の過去6年間の推移が次の図である。

売上高と当期純利益

売上高に関しては、2015年2月期から比較すると、2019年11月期で約160倍成長している。また、当期純利益に関しては2018年2月期に黒字化を達成。この成長の背景には、「ビザスクinterview」の、プロフェッショナルファームや事業法人などの既存クライアントを中心とした平均的な取扱高の増加や、法人クライアント口座数の増加が挙げられる。直近では、オンラインのアンケート形式でアドバイザーの知見を収集するサービス「ビザスクexpert survey」や、事業法人向けの新規事業創出を支援するサービス「ビザスクproject」などの成長も利益増加の要因とみられる。

安全性・成長性が高い財務的特徴

B/Sと主要経営指標から作成した、財務状況を示した図が以下になる。

財務指標の概観

B/Sでまずみてもらいたいのは、ROEだ。一般的に10%〜20%を超えていると優良企業と言われているが、ビザスクは50%を超えている。つまり、自己資本を効率的に運用して利益を生み出せている。また、売上の成長が継続しているため、収益性と成長性も高いといえる。

少ない資金調達で上場へ 際立つ、巧みな資本政策

登記簿の情報によると、同社は過去に総額約3.29億円を調達しており、うち2.6億円を以下の投資家が運営する投資ファンドによって2015年7月に行われた。以下5社の資金調達情報図表は下図の通りだ。

投資家情報

この資金調達により、「ビザスク」のサービス拡大と利便性の向上、海外への進出が促進する手立てになった。2015年7月に行なわれた大型の資金調達を境に、堅実に利益を生み出し、比較的少ない調達額で上場に到達した。

想定時価総額と主要株主

今回の公募価格は仮条件の上限となる1,500円である。調達金額(吸収金額)は30.81億円(公募価格:1,500円 × OA含む公募・売出し株式数:2,054,000株)、想定時価総額は122.77億円(公募価格:1,500円 × 上場時発行済み株式総数:8,185,000株)となっている。

所有株式数

上位株主は上図の通りである。代表取締役の端羽英子氏が筆頭株主であり、全体の51%以上の株式を保有する。次いでDCMベンチャーズ運営のA-Fund Ⅱ, L.Pとベンチャーユナイテッド運営のDACベンチャーユナイテッド・ファンド1号投資事業有限責任組合が名を連ねた。第二位株主であるDCMベンチャーズは、直近でSansanフリーなど、IPOに到達したスタートアップへの投資実績がある。そのほかにも、Magic MomentHERPatama plusなど、IT事業への投資に特化した特徴を持つ。BtoB情報プラットフォーム市場は拡大をし続け、専門家の知見に対するニーズは今後も上昇していくであろう。それと同時に、次々と登録者を増やしながらサービスを展開するビザスクによって、専門家の情報収集・分析力は普遍的になり、コンサルティング業界を揺るがす日もそう遠くはない。同社が上場後にどのように成長していくかに期待したい。

※本記事のグラフ、表は新規上場申請のための有価証券報告書Ⅰの部を参考

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