コラム

キオクシアホールディングスのIPOを分析。NAND型フラッシュメモリを開発

2020-09-11
STARTUPS JOURNAL編集部
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STARTUPS JOURNAL編集部

メモリ・SSD等関連製品の開発や製造、販売事業などを展開するグループ会社の経営戦略策定や管理を行うキオクシアホールディングス株式会社(以下、キオクシアホールディングス)が東京証券取引所市場第一部にて上場承認された。承認部は2020年8月27日で、上場は同年10月6日に予定されている。本記事では、新規上場申請のための有価証券報告書Ⅰの部の情報をもとに、同社のこれまでの成長と今後の展望を紐解いていく。[toc]

売上収益は533億円増加し、営業利益も黒字化

上の図はグループ連結での2019年と2020年の第1四半期の経営指標を比較したものである。売上高に関しては、2019年第1四半期は約2,141億円、2020年第1四半期では約2,674億円となっており、前年同期よりも533億円増加していることがわかる。出荷量の増加にともなって、販売単価も増加していることが要因としてあげられている。また、営業利益は、前年同期比で約1,136億円増加し、約147億円と黒字に転じていることがわかる。

世界標準のフラッシュメモリを製造

同社は東芝メモリ株式会社からの単独株式移転により、2019年3月1日に設立。2019年10月1日、東芝メモリホールディングス株式会社からキオクシアホールディングスに社名変更をしている。同社グループは、国内5社と海外15社の連結子会社、国内4社と海外2社の関連会社で構成される。メモリおよび関連製品の研究開発、製造、販売、その他サービスを行う、世界最大級のフラッシュメモリ専業プレイヤーである。子会社である、キオクシアではAI技術と人間で手塚治虫に挑む「TEZUKA2020」として、新作漫画の制作などにも取り組んでいることが話題となっている。展開する事業は、メモリ事業の単一セグメントである。製造・販売しているフラッシュメモリは、同社グループが1987年に世界で初めて開発した、電源を切っても記憶が消えない不揮発性半導体メモリである。大容量のデータ保存を可能にする記憶用デバイスの世界標準として、スマートフォンの写真や動画の保存や電子機器、データセンターなどにおいて使用されている。

メモリ事業を構成する3つの製品カテゴリー

同社グループは、メモリ事業の単一セグメントであるが、売上は、製品別に「SSD&ストレージ」、「スマートデバイス」、「その他」の3つのカテゴリーに区分されている。同社グループは、製品ラインナップの強化とサポート体制の強化をすることで、市場でのプレゼンス向上を目指す方針だ。

①SSD&ストレージ
SSD&ストレージ主要製品である「SSD(Solid State Drive)」はフラッシュメモリを記憶素子とするストレージプロダクツ。HDDに比べ、読み出し性能や衝撃・振動等の耐環境性、静寂性に優れており、待機時の消費電力が低いことが特徴。クラウドサービスが普及したことによる、データセンター向けの需要の高まりや、エンタープライズ向けのストレージ機器に組み込む容量の増加などによって、今後も市場全体での成長が見込まれている。

②スマートデバイス
スマートフォンやタブレット、ウェアラブルデバイス、テレビ、車載、産業機器など、幅広いアプリケーションで使用される制御機能付きの組み込み式メモリ製品を扱っている。スマートフォン向けのメモリ製品市場は依然として規模が大きいため、現在成長しているアプリケーションであり、同社グループにとって重要なマーケットとなっている。このため、2020年3月期ではスマートデバイス分野の売上高が44%と最も大きくなっている。

③その他
SDメモリカードやUSBメモリなどのリテール向けの商品売上と、製造合弁契約を締結しているWestern Digitalグループ向けの売上収益等が含まれている。

新しい生活様式に対応するサービスの拡大による影響

IDCが実施した“Worldwide Global DataSphere Forecast, 2020–2024“によると、今後、クラウドや次世代通信規格「5G」、IoTやAI、自動運転などの普及によって、グローバル規模でのデータ発生量は2010年から2024年までの間に年平均成長率29%で成長し続けると予想されている。フラッシュメモリ業界において、新型コロナウイルス感染症の蔓延による緊急措置の影響による消費活動の落ち込みからスマートフォン向けの需要が低迷し、製造やサプライチェーンへの影響が見受けられた。しかし、新しい生活様式に対応する在宅勤務やオンライン学習、ビデオストリーミングサービスなどの拡大により、データセンター向けの需要が増加している。次世代通信規格「5G」の普及など、進化し続けるデジタル社会における長期的なメモリ需要の拡大が見込める。

生産体制の拡充と人材の強化による一層の成長を目指す

同社は、“『記憶』の技術をコアとして、一人ひとりの新たな未来を実現できる製品やサービス、仕組みを提供する。”というビジョンを掲げ、“メモリ技術”で時代を塗り替え、世界を進化させ続けることを目指している。また、対処すべき経営課題として以下の3つをあげている。

①メモリ需要増大に対する生産体制の拡充
②多様化する事業環境に適した人材の確保及び育成
③技術開発・製造技術強化による競争力向上

主力製品であるフラッシュメモリとSSDの需要増大に対処するため、生産体制の拡充を図り、既存の製造拠点である四日市工場に加えて岩手県北上市に北上工場を立ち上げ、生産を開始した。また、人材基盤強化を図るために、新卒学生をターゲットとしたテレビCMの放映やセミナーの開催、専門知識や経験が豊富な中途採用市場の活用など、積極的に人材採用施策に取り組んでいく方針だ。

日本政策投資銀行から3,000億円の調達を実施、ほか銀行3行から9,115億円の融資を受ける

同社は、2019年6月に日本政策投資銀行から議決権を持たない優先株式である非転換社債型優先株式による3,000億円の資金調達を行っている。また、同時にみずほフィナンシャルグループ三菱UFJフィナンシャル・グループ三井住友フィナンシャルグループの3行からおよそ9,115億円の融資を受けたほか、1,100億円のコミットメントラインを策定した。この金額は2019年10月24日に締結された、当該契約の修正契約にて借入枠を増額後の金額である。本件出資は、優先株式による出資を通じて、キオクシアホールディングスの財務基盤を改善し、世界トップクラスの技術力を維持・強化すべく行う設備投資を促進するものであり、企業価値向上に資する取り組みだとしていた。

想定時価総額と上場時主要株主

上場日は2020年10月6日を予定しており、仮条件の決定日は9月17日。上場する市場は東証一部としている。今回の想定価格は、3,960円である。調達金額(吸収金額)は3,782億円(想定発行価格:3,960円×OA含む公募・売出し株式数:95,518,300株)、想定時価総額2兆1,346億円(想定発行価格:3,960円×上場時発行済株式総数:539,062,500株)となっている。また2020年では最大規模の、時価総額が2兆円を超える新規株式公開(IPO)になる見込みだ。

筆頭株主は米系投資ファンドのベインキャピタルであり、合わせて54.79%を保有する。次いで、関連会社である東芝が39.59%、HOYAが3.05%を保有。同社の取締役であるステイシー・スミス氏が0.49%、副会長執行役員のロレンツォ・フロレス氏が0.15%、代表取締役である早坂伸夫氏と副会長執行役員の渡辺友治氏が共に0.06%と同社関係者が多く株主となっている点も特徴的である。東芝は今回のIPOに際して、保有株式のおよそ2割を売却するとしている。また、筆頭株主のベインキャピタルも一部を売却する。東芝は売却資金を株主還元などに充当する方針だ。

※本記事のグラフ、表は新規上場申請のための有価証券報告書Ⅰの部を参考

※訂正1:20/9/14、タイトル「世界初NAND型フラッシュメモリ〜」を「NAND型フラッシュメモリ」に訂正。上場時の調達金額(吸収金額)の値を2兆2,200億円→3,782億円に訂正

※訂正2:20/09/28、米中対立の影響で、大口顧客である中国通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)向けの製品供給が停止。事業環境の先行きが不透明になったと判断したことにより、10月6日に予定されていた株式上場を中止。上場方針自体は維持するとのこと。(キオクシア、上場延期発表 米中対立で先行き不透明を参照)

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