コラム

【2023年上半期】反響の大きかったスタートアップ関連ニュースを振り返る

2023-08-08
高橋史弥 / STARTUP DBアナリスト・編集者
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高橋史弥 / STARTUP DBアナリスト・編集者

2023年上半期(1~6月)に掲載したスタートアップ関連のニュースのなかから、特に反響が大きかったものなどを抜粋した。

ispace上場、民間初の月面着陸に挑む

宇宙スタートアップ・ispaceが2023年4月12日、東証グロース市場に上場した。民間企業では世界初となる月面着陸に挑戦する真っ只中であり、しかも宇宙飛行士ユーリ・ガガーリンの搭乗するソ連(当時)のボストーク1号が打ち上げられた4月12日(1961年)と同日の上場だったことなども重なり、東京証券取引所で開かれた記者会見には多くの報道陣が詰めかけた。

上場初日は公開価格254円に対し初値がつかず、翌日に1,000円がつけられた。

ispaceは月に豊富に存在しているとされる水資源の存在に着目している。酸素と水素に分解することでロケットの燃料源として使用できることから、将来的には月が宇宙開発に欠かせない基地となると考える。

会見では、水資源の活用を中心に月面でのインフラ構築が進み、2040年代までに「1,000人が月面に居住し年間10,000人が月を訪れる世界が来る」などと構想を語った。

同社は4月26日未明、月面着陸に挑んだが、予定時刻を過ぎても着陸を示すデータの確認に至らず、「完了が困難と判断した」と発表した。5月には、ソフトウェアが期待通りに動作しなかったことが原因として考えられると発表。袴田武史・CEOは「問題の特定や改善策も極めて明確。今後のミッションの成熟度を向上させる上で重要な要素であり、提供サービスに競合優位性をもたらすものと考えている」と前向きなコメントを残した。

信託型ストックオプション「給与所得課税」 国税庁が見解

スタートアップ企業を中心に活用が広がっていた「信託型ストックオプション」について国税庁の担当者が、「従来から給与所得課税と考えている」との見解を示した。

信託型ストックオプションは、経営者らが資金を拠出したうえで信託会社などの「受託者」が新株予約権を取得し、後に従業員らに交付する仕組み。

一般的なストックオプションと比べて、社員の業績や貢献度などに応じて付与できるなどのメリットがあり導入が進んでいた。このスキームをめぐっては、有償で発行されることなどもあり、権利行使時点(=株式を購入するタイミング)ではなく、株式を売却して利益を得る時点で課税されるという見方が存在していた。しかし2月の衆議院予算委分科会で国税庁が「給与所得に該当する」と異なる見解を示し、スタートアップ関係者の間で話題となっていた。

5月に開かれた説明会で国税庁の担当者は「従来から給与所得課税と考えている」との見解を改めて示した。信託会社などの受託者を経由した場合であっても、ストックオプションは役職員への報酬と見做されることなどを根拠とした。すでに行使した人の救済措置について問われると「法律の関係がもう終結しているため、対応できるのは分割納付の相談しかない」と回答した。

一方、国税庁の担当者は同じ場で「スタートアップ支援は重要な施策だ」とし、税制適格ストックオプション付与時の株価算定に関する新しいルール案も示した。これは、取引相場のない株式については、純資産を発行株式数で割って求めた価格を下回らなければ税制適格と認めるものだ。

生成系AI サービス導入するスタートアップ相次ぐ

アメリカのOpenAI社が2022年11月に「チャットGPT」を公開し、応答の質の高さや応用可能性から国内でも大きな話題を呼んだ。

2023年には、意思決定の速さなどを武器にサービスに導入するスタートアップ企業が相次いで出現した。

AIによる商談解析などを手がけるブリングアウトは、GPT-4を活用して商談をスコアリングするサービスを発表。顧客の課題や予算など「営業担当者が聞くべき」とされる内容を質問できているかなどを検証するほか、次回の商談で聞く項目までリストアップしてくれるという。

英会話学習の特化型メタバースを展開するfondiは、会話パートナーとしての可能性を見出した。fondiのメタバースでは、WhisperとGPT-3.5-turboを活用したAI「キャサリン」と英語で会話できる。人間相手に英語で話しかけることに躊躇しがちなユーザーに対し、心理的なハードルを下げる狙いがある。

「キャラクター召喚装置」のGateboxはAIキャラクター「逢妻(あづま)ヒカリ」にチャットGPTを組み込むプロジェクトを発表。これまでは手作業で応答内容を作成・入力していたが、生成系AIの導入により会話パターンがほぼ無限に広がることが期待される。

MITと連携 目黒・渋谷エリアに「グローバル・スタートアップ・キャンパス構想」

スタートアップ育成5か年計画に盛り込まれた「グローバル・スタートアップ・キャンパス構想」として、政府はアメリカのマサチューセッツ工科大学(MIT)と連携して都内の目黒・渋谷エリアにディープテック分野の研究イノベーション拠点を設置する。

5月18日の日米首脳会談でこの構想を進めていくことが改めて確認されたほか、6月に発表された政府のいわゆる「骨太の方針」にも記載された。5か年計画ではこの構想を「国内大学の研究開発を活性化し、変革を促す」ものと位置付ける。同時に、「真にグローバルなキャンパスを形成する」として外国人材の生活基盤整備なども進めていくとしている。

上半期のスタートアップ動向を網羅 レポートを無料公開

2023年上半期に起きた国内スタートアップ・エコシステムの変化と進化に、データ分析や取材から迫った「投資動向レポート」を公開しています。

資金調達金額や調達実施社数、それに積極的な投資姿勢を見せる投資家リストなど、多角的な視点から浮き彫りにしていきます。

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最前線で活躍するVCが解説 投資動向セミナー8月24日開催

また、ベンチャーキャピタリストとしてエコシステムの最前線で活躍する専門家を招き、2023年上半期の投資動向について解説を聞くセミナーを、8月24日(木曜日)にオンラインで開催します。市況の冷え込みが続くなか、国内スタートアップの資金調達はどのような変遷をたどったのか。独自調査による最新レポートをグラフィックで視覚化しながら、スタートアップの今と下半期の展望を読み解いていきます。

解説セミナーは、以下からお申し込みいただけます。
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▼開催概要開催日時:2023年8月24日(木)12:00~13:30
参加料:無料
参加方法:オンライン
視聴主催:フォースタートアップス株式会社(STARTUP DB)
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