コラム

ストックオプション、税制改正でどう変わる?「3つのポイント」に分けて解説。未上場でも発行しやすく、付与対象者も拡大へ【令和6年度税制改正】

2024-01-24
高橋史弥 / STARTUP DBアナリスト・編集者
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高橋史弥 / STARTUP DBアナリスト・編集者

多くのスタートアップが活用する役員・従業員向けの金銭インセンティブ「ストックオプション(新株予約権)」について、権利行使をより円滑にする内容が令和6年度(2024年度)の税制改正大綱に盛り込まれた。

ストックオプションは、優秀な人材の獲得やモチベーション向上に効果を発揮する。政府としては、利便性を引き上げることでスタートアップの人材獲得・維持に寄与したい考えだ。

ストックオプションをめぐる税制はどう変わるのか。公表された資料や経済産業省への取材を通じ、3つのポイントに分けて解説する。

ストックオプションとは 採用や意欲向上に効果を発揮

ストックオプション(新株予約権)とは、あらかじめ決められた価格で株式を購入できる権利のことだ。スタートアップでは役員・従業員向けの金銭インセンティブとして一般的に導入されている。英語の頭文字から「SO(エスオー)」と略されることもある。

多くの場合、従業員らは非上場の段階でストックオプションを付与される。この時に「一株いくらで購入できる」という金額が定められる。これを「権利行使価額」と呼ぶ。スタートアップが上場し株価が上昇した後に権利を行使、つまり決められた金額で株式を購入し、売却すれば差額分の利益を手に入れることができる。

スタートアップの給与水準は上がっているとの報道もある(日本経済新聞/2023年12月13日)。一方で、大企業並みの待遇を用意できない発展途上のスタートアップにとっては、ストックオプションは人材獲得やモチベーション向上に欠かせない。

年収の高い即戦力人材を呼び込むためにストックオプションを発行することで将来的な金銭リターンを示せるほか、従業員らにとっても上場を目指す理由になる。

ストックオプションには「税制適格」と「税制非適格」の二種類がある。このうち税制適格は課税タイミングが株式譲渡(売却)時に設定されているほか、税率も20%と低く抑えられているなどの優遇措置が準備されている。

一方で非適格の場合では、権利行使(株式購入)時に課税されるため、納税の経済的な負担がある。税率も最高で55%となる。このためスタートアップとしては税制適格として付与しようとするのが一般的だが、権利行使期間や価額など多岐にわたる要件を満たす必要がある。

ポイント① 保管委託要件の変更

令和6年度の税制改正では、ストックオプションについて大きく分けて3つのポイントで制度改正が実施される見込みだ。

1つ目が「株式保管委託要件」の変更だ。

非上場段階でストックオプションを行使(=決められた金額で株式を購入)した場合、これまでは税制適格となるためには証券会社などと契約したうえで、従業員用の口座などを開設し保管してもらうよう委託する必要があった。

改正後は、新たな株式管理スキームを創設する。証券会社に保管を委託する必要がなくなり、発行会社(スタートアップ)が株式を管理すれば良い(譲渡制限株式に限る)。

経済産業省によると、従来の保管委託要件をめぐっては、手続き上の煩雑さや金銭コストの負担などを訴える声が上がっていた。

非上場段階での権利行使は事実上困難とされ、M&A(合併・買収)によるイグジットを検討する際に、ストックオプションを持つ従業員が権利行使できないことで、金銭リターンを得られない懸念があった。

こうした事情がスタートアップのM&Aイグジットを阻害しているとの指摘もあり、改正によりボトルネックの解消が期待されている。

そのほか、事業の立ち上げ期には活躍したものの、組織が拡大するにつれて力が発揮しにくくなった従業員などが上場まで在籍し続ける必要もなくなる(行使条件による)。株式を取得して退職し、活躍の場を他に求めるケースも生まれるかもしれない。

ポイント②権利行使価額の引き上げ

2つ目のポイントは年間の権利行使価額だ。

ストップオプションが税制適格として扱われるためには、「年間の合計額が1,200万円を超えない」という要件があった。この金額を超えてしまうと税制非適格として扱われ、株式購入時点で課税されてしまううえ、税優遇も受けられなくなる。

また別の要件として、税制適格であるために「時価以上」の価格で付与される必要もある。

企業価値が上がる以前の「シード」や「アーリー」ステージで付与された場合には株式の購入価額も安くなり、その分、売却時のリターンも大きくなる。一方で、企業価値が上昇した「レイター」ステージで入社した人材は、ストックオプションの権利行使価額も高くなる。付与されたストックオプションを全て行使するためには上場後、数年に渡って在籍し続ける必要も出かねない。

この限度額が緩和される。設立5年未満の会社が付与したストックオプションは年間2,400万円までに引き上げられる。また、設立5年以上20年未満で、非上場か上場5年未満の会社は年間3,600万円までとなる。

レイターステージなどのスタートアップでは一般的に、上場後の継続的な成長を見据えて経験豊富な即戦力人材を獲得するニーズが強まる。行使価額の引き上げは、企業価値が一定規模に達したスタートアップの採用を後押しする狙いがあると言える。

ポイント③社外人材への付与要件緩和

3つ目は社外人材への付与要件緩和だ。

税制適格ストックオプションは原則的に自社・子会社の役員や従業員を対象としているが、一定の要件を満たす社外の「高度人材」にも付与できる。今回の税制改正ではこの要件を緩和・拡充し、より多くの社外人材がスタートアップの事業に携われるようにする。スタートアップにとっては現金報酬以外の選択肢も生まれる。

具体的には、弁護士・会計士などの国家資格保持者や博士の学位保持者に求めていた「3年以上の実務経験」という要件を撤廃する。また、社外の教授・准教授を新たに付与対象者に加える。

また、企業の役員経験者はこれまで「上場企業で3年以上」としていたが、勤務先企業に「一定の非上場企業」も加え、期間も「1年以上」に短縮する。非上場企業の「一定」にあたる基準は今後、公開される見込みだ。

役員以外にも重要な使用人(執行役員など)も加わる。そのほか、エンジニア・営業担当者・資金調達従事者らを対象とした要件も一部追加される。

社外人材へのストックオプション付与にあたっては、事業計画を経産省に提出し、認定を受ける必要がある。この手続きについても2024年4月をめどに簡素化が図られる見込みだ。

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